アインソフオウル PART3
今回は説明回です。
ヘブンズエデンに戻ったゲイル達。エドガーは早速、シュブ=ニグラスが言っていた星について調べてみた。人工衛星をハッキングして。
「時々思うけど、理事長先生って何でそんな国会レベルの犯罪犯してんのに捕まらねぇんだ?」
「子供は知らなくていいことだよ。それにシュブ=ニグラスの言っていたことが本当なら、一刻を争う緊急事態だ。人工衛星の使用許可の申請を通すには、時間がかかりすぎるからね。こっちの方が手っ取り早い」
狩谷の質問に答えながら作業を続けるエドガー。数秒後、
「…なるほどね」
作業を止めたエドガーは、片手をあごに添えて唸った。
「ど、どうしたんだ!?」
「何かわかったんですか!?」
狩谷と空子が問い詰める。エドガーはパソコンのモニターをこちらに向けて言った。
「シュブ=ニグラスが言っていた通りだったよ。とてつもなく巨大な彗星が、地球に向かってまっすぐに進んできている。大きさは恒星の数倍以上といったところか…」
「恒星の数倍以上!?」
「そんなのが地球にぶつかったら…!!」
エドガーからの宣告に、狩谷と空子は驚く。恒星の数倍以上の大きさを持つ彗星。巨大。あまりにも巨大。そんなものがぶつかれば、間違いなく地球は宇宙の塵と化す。
「何とかならないのか理事長!?」
「世界中の兵器をぶつけて、軌道を変えるとか!!」
ゲイルとアンジェはエドガーに解決法を求めた。
「無理だね。いくらなんでも、質量の桁が違いすぎる。地球の全兵装を使いきったところで、破壊どころか軌道を変えることもできはしない。」
「そんな…!!」
首を横に振るエドガーに、アンジェは絶句した。と、
「まだ打つ手がなくなったわけじゃない。」
アーサーが言った。
「本当ですかアーサーさん!?」
「どうすればいいんですか!?」
アンジェと空子の二人が詰め寄る。アーサーは教えた。
「あのウーベルという男だ。よく考えてみれば、奴が現れたのは彗星が出現したのとほぼ同じ。無関係だとは思えない。奴を見つけ出して、話を聞けばいいと思う。」
「それは…」
「うーん…考えすぎなんじゃねぇか?」
言われてみれば、確かにタイミングが良すぎる気もする。だが、あのウーベルと名乗っていた魔術師と彗星を結び付けるのは、さすがに無理があるのではないかと、ゲイルと狩谷は疑問に思う。そこへ、
「彼の考えは間違っていない。」
理事長室のドアを開けて、シュリュズベリィが入ってきた。光輝達やハスターも一緒だ。
「ハスター!?それに光輝達も!?」
「みんなどうしたの!?っていうか、その人誰!?」
次々疑問を投げ掛ける狩谷とアンジェ。
「私はラバン・シュリュズベリィ。今この星に迫っている危機を、君達に教えに来た。」
シュリュズベリィは名乗り、光輝達も自分達が遭遇した事件について語った。
*
「素晴らしい!!まさかあのシュリュズベリィ教授に会えるなんて!!加えてハスターも!!今日は本当に素晴らしい日だ!!」
「ははは。私のような人の道に外れた者を、尊敬してくれる者がいたとはな。嬉しいよ」
「…あまりはしゃぐな。目障りだ」
エドガーは光輝達の説明そっちのけで、シュリュズベリィとハスターの手を握ってブンブン振っている。
「なるほど。お前達も妙な連中を相手にしたというわけか」
ゲイルは光輝達から、自分達も奇妙な敵と戦ったという話を聞いていた。
「うん。シュリュズベリィ教授は、何か知ってるみたいなんだけど…」
さだめはシュリュズベリィとハスター、それからずっと感動して二人に語りかけているエドガーを見る。
「理事長先生。嬉しいのはわかるけど、後にしてもらえませんか?」
「貴様がそれだと話が進まん。」
「…おっと、私としたことが。」
レスティーと皇魔に言われて、エドガーは自分の席に戻った。
「それで、あいつらは一体何者なんですか?」
光輝はシュリュズベリィに質問し、シュリュズベリィは答える。
「彼らは、邪神ガタノトーアに支える神官だ。」
それを聞いた途端、全員に戦慄が走った。
「は!?ガタノトーア!?何でだ!?」
「混乱するのはわかる。だが、少し落ち着きたまえ。順を追って話そう」
混乱している狩谷を落ち着かせ、シュリュズベリィは語り始めた。
ガタノトーアはクトゥルフと同じように宇宙から飛来し、ムー大陸のヤディス=ゴーという山に住み着いた。だがムー大陸は沈没し、ガタノトーアも大陸と運命を共にする形で海底に封印されたはずである。しかし、それはあくまでも神話の中での話。シュリュズベリィが語った事実は、神話と全く違うものだった。
「ムー大陸が沈没する寸前、ガタノトーアはその強大な力を振るい、ヤディス=ゴー山と共に宇宙へ脱出したのだ。」
「じゃあ、ガタノトーアは封印なんてされてないってことですか!?」
「そうだ。そしてヤディス=ゴー山は、ガタノトーアと共に脱出した神官達を乗せて十万年以上も宇宙を漂流し、結果、あれだけ巨大な彗星となったのだ。」
シュリュズベリィはアンジェの質問にも答えながら、話を続ける。気の遠くなるような長い時間の中で、ヤディス=ゴーにはデブリや小惑星などがぶつかり続け、融合し、他の惑星がそうしていったように巨大化。恒星をも超えるほどになった。それが、今地球に迫っている彗星の正体なのだという。
「あの彗星には、ガタノトーアがいるということか?」
ゲイルはシュリュズベリィに尋ねた。
「いや、今はもうガタノトーアはいない。だがその代わりに、ガタノトーアを自身に取り込んだ神官がいる。神話にも登場する、イマシュ=モだ。」
ガタノトーアは、自分の姿を見た者を石に変えるという能力を持っている。そのとてつもなく強大な力は、ムー大陸全土を恐怖に陥れた。イマシュ=モもそのガタノトーアを恐れた男の一人で、彼は保身のために人類を裏切り、ガタノトーアの神官になるという道を選んだ。しかし、彼の悪行はそれだけにとどまらない。ムー大陸において絶大な脅威であるガタノトーアに支えるということは、また絶大な権力も得るということ。その権力の失墜を恐れたイマシュ=モは、ガタノトーア討伐を志すシュブ=ニグラスの神官トゥヨグを罠にはめて自滅させたのだ。
ここまでが、神話の中の出来事。
ガタノトーアと共にムー大陸を脱出したイマシュ=モは、ガタノトーアの力を己のものとして取り込みたいと考えた。長きに渡り作戦を練ったイマシュ=モはとうとうガタノトーアを撃破し、吸収してガタノトーアの力を自分のものにしてしまったのである。底なしの権力欲は、遂に自分の信仰する神をも滅ぼしてしまった。しかも、神の力だけを自分が思いのままにできるという最悪の形で。そしてゲイル達が戦った相手は、そのイマシュ=モの配下の神官達の、最後の生き残りなのである。
「そうか、だからトゥヨグの巻物を狙っていたのね…」
空子はようやく、ウーベルが巻物を狙っていた理由を悟る。現状イマシュ=モ達の命を脅かす要因といえば、もうトゥヨグの巻物しかない。ウーベルは巻物を破壊することで、自分達にとっての最後の危険を潰そうとしたのだ。
「あなたの言っていることが本当だとしたら、俺達はどうやってそんなやつに勝てばいいんだ!?姿を見るだけでも石にされてしまうというのに!!」
アーサーの言う通り、イマシュ=モが本当にガタノトーアの力を手に入れているというのなら、倒す方法などない。何せ、戦うこと自体できないのだ。下手をすると今までゲイル達が戦った敵の中では、一番厄介な相手かもしれない。
「心配はいらない。これを作ってきた」
シュリュズベリィは懐から、旧き印が刻んである護符を取り出した。
「石化の力から身を守るための護符だ。これがあれば、イマシュ=モとも対等に戦える。」
「そんなものがあったのか。確かに石化さえ防げれば、ガタノトーアともやり合えるな。」
皇魔は感心した。ガタノトーアの石化能力を攻略しない限り勝機はないが、攻略法があるならまだ何とかなる。
「そうだ。もったいないがこれを持っていきたまえ」
と、エドガーは何かを取り出した。狩谷は驚く。
「これトゥヨグの巻物じゃねぇか!!」
「もしもの時を考えて、少し早いがあの場で買い取っておいたんだ。」
何とも、手の早い男である。趣味が絡んでいるのもあるが。
「失礼。」
シュリュズベリィは唐突に巻物を横から取った。そのままじっと見ている。それから、エドガーに返した。
「…長い時間が経ちすぎたせいだろう。この巻物からはもう、退魔の力が消えている。役には立たない」
「!?」
これにはゲイルも驚く。だが、同時に納得した。退魔の力を秘めた品物なら、彼にも多少はわかる。だが、巻物からはそんな力を感じなかった。既に力が失われているのだから当然だ。それから、ウーベルが去り際に言っていた言葉も理解する。あの時ウーベルは、もう脅威になり得ないと言おうとしていたのだ。
「だ、大丈夫よ!石化の力さえ何とかできれば、あとはあたし達の力でイマシュ=モを倒すから!」
空子は無理に元気付けた。今までの経験上、クトゥルフ神話の邪神がどれだけ強くて厄介かはわかっているつもりだが、一番危険な力さえ封じられれば勝てる。そう思っていた。
「あ、そういえば、あのウーベルっていう神官はヤマンソを召喚したんだけど…」
アンジェが思い出したのをきっかけに、光輝、皇魔が話し出す。
「こっちもアトラック=ナチャを召喚された!」
「俺達の場合はツァトゥグァだったぞ。」
シュリュズベリィは答える。
「彼ら神官はイマシュ=モから力を与えられ、不老となった。それから長きに渡る鍛練を積み、邪神を召喚する術を身につけたのだ。距離や時空に関係なく、様々な邪神を呼べる。」
「そんな…じゃあせっかく宇宙に飛ばしたヤマンソも、また召喚されちゃうってこと?」
「そうなるだろうな。」
アンジェはヤマンソを宇宙の彼方に追放した。だが距離に関係なくヤマンソを呼び出せるというのなら、ウーベルは再び戦った時、間違いなくまたヤマンソを召喚しようとするだろう。それを思うと、ゲイルも気持ちが重くなった。いや、ヤマンソだけでなく、アトラック=ナチャやツァトゥグァも呼び出してくる。それらまで全て相手にするとなれば、ゲイル達の勝率は限りなくゼロに近付く。
「無論想定済みだ。これを作ってきてある」
シュリュズベリィが次に出したのは、旧き印が刻まれた小さな石だった。
「邪神の召喚を封じるフィールドを発生させる石だ。さっきの護符と一緒に、人数分作ってある。渡しておこう」
シュリュズベリィは護符と石を一つずつ、ゲイル達に渡していく。と、狩谷はハスターが嫌そうな顔をしていることに気付いた。
「どうしたんだ?」
「…俺は旧神どもの印が苦手なんだ。例え俺用に作られたものではなかったとしてもな」
ハスターが一番嫌いなものは旧き印。旧神達には嫌な思い出しかないし、それは強くなっても変わらない。
「よし、これで準備が整ったな。」
「あとは、彗星に乗り込んで、イマシュ=モ達を倒すだけね。」
皇魔とレスティーはやるべきことを言った。イマシュ=モは権力欲の塊のような男だし、彗星を止めるように言っても恐らく聞かない。ならば打ち倒して彗星のコントロールを奪い、彗星を地球から遠ざける。それしかないだろう。
「待て。」
だが、ゲイルはここで待ったをかけた。
「エリックも連れて行こう。こういう厄介な相手こそ、奴の力が必要だ。」
確かに、強大な敵がいれば強力な味方も必要になる。正確にはエリックもゲイルの味方になったわけではないが、地球の危機となれば手を貸さないわけにはいかないだろう。
「それもそうだね。じゃあ、エリックを呼び戻そう。」
エドガーは早速エリックに依頼した相手、NASAに掛け合う。NASAには申し訳ないが、地球の危機の方が大事だ。しばらくして、エドガーはNASAからの返答を伝える。
「…少し前から月面で大規模な爆発が観測されて、それっきりエリックと連絡が取れないそうだ。」
「月面で爆発!?」
「どういうことだ!?」
状況が飲み込めない空子と狩谷。レスティーの脳裏を、嫌な想像がよぎる。
「まさか、月に神官がいて、エリックはそれと戦ったとか…」
「シュリュズベリィ教授。あなたはずいぶんと敵について詳しいようだが、イマシュ=モに支えている神官は全部で何人かわかるか?」
ゲイルは訊き、シュリュズベリィは答えた。
「五人だ。」
光輝とさだめが戦った相手が二人。皇魔とレスティーが出くわした相手が一人。そして、ゲイル達が追い返した相手が一人。ここまでで四人だ。あと一人足りない。聞くところによると、エリックは謎のエネルギー反応を調べていたという。そのエネルギー反応を起こしていたのが神官の一人で、エリックがそれと戦ったというのなら、十分考えられる話だ。
「まさか、エリックがやられるなんて…」
空子は信じられなかった。あれだけ死ぬことと無縁そうな男が、こうもあっさり死ぬなど。
「いや、まだ決めつけるのは早い。奴は生きているはずだ。絶対に、な…」
ゲイルとしても、信じたくなかった。だから、死んでいないと強引に思い込んだ。
「とにかく、奴の手が借りられん以上俺達がやるしかあるまい。残念だがエリックの捜索は地球の危機を回避した後だ」
確かに、皇魔の言っていることは正しい。エリックは惜しい人材だが、たった一人のために時間を割いている暇はないのだ。
「そういえば、彗星はあとどれくらいで地球にぶつかるんですか?」
アーサーは根本的な問題を訊く。時間はないはずだが、彗星が激突するまでの正確な時間は知っておきたい。
「旧神達の計算では、あと二日。ちょうど、この国の年が変わるのと同じ時間だ。」
「早いな…予想以上のスピードで向かってきてる。」
アーサーは驚いている。彗星の速度はとてつもなく、光を超えているのではないかと思えるほどだ。
「っていうか、教授は本当に詳しいですね。さっき旧神達の計算って言ってましたけど、旧神から聞いたんですか?」
レスティーはシュリュズベリィに尋ねる。
「ああ。君達にイマシュ=モ達の情報を伝え、この星を守るよう言われた。だが同時に、君達には必要以上に協力しないようにも言われている。」
シュリュズベリィは語った。旧神達はゲイル達に期待しており、これはゲイル達を試すための試練だと。
「期待…一体何を?」
「君達なら、我々の悲願を叶えてくれるかもしれんとのことだ。私も詳しくは知らないが」
旧神達の目的は地球の危機を回避することと、ゲイル達が自分達の悲願の達成に足る存在かを見極めること。シュリュズベリィは旧神側から遣わされた使者である。ゆえに、ゲイル達にイマシュ=モ達の情報を教えること、石化能力や邪神召喚を封じる以上の協力はできない。例えば、ゲイル達と一緒に彗星に行き、イマシュ=モ達を倒すことはできないわけだ。
「…」
ハスターはシュリュズベリィから伝えられた旧神達の言葉を思い出す。旧神達には既に、彼が復活したことはバレている。だが旧神達は、ハスターが地球を守って戦えば、今まで犯してきた罪の数々は全て不問にすると言ったのだ。無論、断れば再び封印するとも言われたが。
「悪いが俺も同じだ。俺が許されているのは、お前達が戻ってくるまでの間地球を守ることだけ…」
「なんつーか無責任だな旧神って。試練とか悲願とかわけわかんねーよ」
「だがやるしかない。俺達にしか、倒せないだろうからな」
狩谷は無責任すぎる旧神達に文句を言ったが、ゲイルの言う通り、状況がどうあれやるしかない。と、
「ねぇ、今思ったんだけど…」
さだめが遠慮がちに手を上げた。
「…あそこまでどうやって行くの?」
そう。よく考えてみれば、行く方法がない。ヘブンズエデンの転移システムの範囲に宇宙は入っておらず、ゲイルが単身で行こうにもそれだとゲイルしか戦えない。アンジェの能力を使っても危険すぎる。何しろ敵地に飛び込むのだ。
「ふっふっふっ…」
突然エドガーが笑い始めた。
「何だ理事長。気持ち悪いぞ」
ツッコミを入れる皇魔。それに構わず、エドガーは言った。
「あるよ、彗星に行く方法なら。」
*
とりあえず校長と教頭にヘブンズエデンの付近の住民の避難誘導を任せたエドガーは、理事長室の壁の一部に触れる。
『指紋認識』
すると、音声が響いてエドガーが触れた場所の隣の壁に、暗証番号の入力装置が現れた。続いて暗証番号を入力すると、
『暗証番号認識』
その隣の壁が大きく開き、皇魔でさえ簡単に通れるほどの道が出現した。
「来たまえ。」
エドガーは全員を連れて、道を通る。やがて見えてきたのは、全員を乗せてもお釣りがくるほど大きなリフト。エドガー達はそれに乗り込み、下へと降りていく。
「広い学園だとは思っていたけど、こんなものがあったんだね。」
アーサーはゲイル達に訊いた。だが、
「いや、俺も初めて知った。」
ゲイル達も、学園にこんなリフトがあるなどとは聞いていない。
「この場所に校長と教頭以外の学園の人間を連れてきたことはないんだ。知らなくて当然だよ」
エドガーは笑いながら答える。
「さ、着いた。」
リフトは一番下にたどり着いた。というより、このリフトに理事長室と最下層以外の出入口はない。ここは地上から何千mも下に造られた、地下施設だ。
「こっちだよ。」
エドガーはゲイル達を連れていく。そして一同が目にしたのは、広大な空間と、球状の見たこともない巨大な乗り物だった。
「ようこそ、私の研究室へ。」
学園のどこかにあるというエドガーの研究室。それが、この地下施設だったのだ。
「ここが…理事長先生の研究室!?」
「まさかこのような場所を見ることになるとはな…」
レスティーと皇魔も驚いている。
「あの乗り物は?もしかして…」
アンジェは乗り物を指差して尋ねる。エドガーは得意げに説明を始めた。
「私は採取したアデルとビャクオウの戦闘データを基に、様々な武器や装備を開発していた。もっと素晴らしいものを開発するために研究を続けて、そして数週間前にようやく完成したんだ。この万能戦艦ヨグソトースが!」
水陸両用、宇宙空間まで何でもござれの万能戦艦ヨグソトース。エドガーはこの地下研究室で、これを開発していたのだ。
「最大航行速度はマッハ60。光速の500倍の速度でワープできる。ターゲットを最大で70までロックオンできるミサイルとバルカンに、超射程の光線を発射できる主砲付きだ。これなら安全に彗星ヤディス=ゴーまでたどり着けるだろう?」
「す、すごいですね…」
あまりの高性能と過剰な武装に光輝は引いている。
「ヨグソトース、ねぇ…ちょっと嫌な思い出があるんだが、まぁ理事長先生らしいっちゃ理事長先生らしい、かな…」
「でも、これなら絶対に彗星まで行けるわね。」
狩谷も少し引いているが、空子の言う通り、これならヤディス=ゴーにたどり着けそうだ。
「…すまないが、さっきも言ったように私達は同行できない。本当は私も行きたいのだが…」
シュリュズベリィは申し訳なさそうにうつむいていた。ハスターは全然そんな顔をしておらず、むしろ迷惑そうだ。
「わかっています。けど、あなたが準備を整えてくれたおかげで勝てそうです。」
さだめは礼を言う。
「おおそうだ。彼女を呼んでおかないと」
エドガーは近くにあった装置を、何やら弄り始めた。しばらくすると、またすぐ近くにあったドアが開き、椅子を乗せた板が出てくる。その上には、試験管を両手に持った南樹が座っていた。
「…何ですかエドガー博士。今研究の最中だったんですけど」
「母さん!?どうして母さんが!?」
突然の母の登場に驚くさだめ。エドガーはぬけぬけと説明する。
「彼女にはいろいろ研究を手伝ってもらうことが多くてね、いちいち上から来てもらうのも面倒だから、地下で君達の家と繋がるようにしたんだ。」
「何勝手に人の家改造してるんですか!!」
予期せぬ真実である。
「それより、ヨグソトースの起動にはまだしばらくかかる。今のうちに上に戻って、友達に挨拶してきたらどうだい?」
「えっ?あっ…」
エドガーから言われて、さだめは今さら気付く。これから行く場所は、今まで行った中で一番危険な所だ。行けば戻れる保証はない。
「出撃準備が整ったら連絡するから、ゆっくりしておいで。」
「心遣い感謝する。」
ゲイルは頭を下げ、上に戻っていく。
「あっ、ゲイル!」
「俺達も行こうぜ!」
「理事長先生、ありがとうございました!」
アンジェ、狩谷、空子も続く。皇魔とレスティーは動かない。
「君達は行かないのか?」
アーサーは二人に訊く。剛造達も来ているはずだから、行けば会えると思うのだが…。
「別れの言葉など必要ない。必ず帰る」
「私達には、まだ果たさなくちゃいけない使命がありますから。」
デザイアを滅ぼすまでは絶対に死なないという確信。だから、会いには行かない。きっと決意が揺らいでしまうし、剛造達に怒られてしまうから。
「僕もいいです。おばさんに会いに行くには、ちょっと遠いですし。」
「私も大丈夫です。っていうか、身内がここにいますから…」
光輝とさだめも断った。
「私達はもうしばらくここにいよう。」
「お前達の見送りくらいはしてやる。」
シュリュズベリィとハスターも、残ることにする。
「…そうか…」
アーサーは少し寂しそうだった。もしここにイズマがいれば、彼は間違いなく挨拶していただろう。だが、それはできない。彼はもう、完全にデザイアと敵対してしまったのだから。アーサーが見ているそばでは、南樹がヨグソトースの起動操作をしていた。エドガーはヨグソトースの中で、同じく起動操作をしている。準備は着々と進んでいた。
*
彗星ヤディス=ゴーは、最初ゲイル達が見た時よりもずっと大きくなっていた。あの時は月よりも小さかったが、今では月の三倍くらいの大きさだ。
「二時間程度しか経ってないはずなんだけどね…」
アンジェは呟いた。それだけヤディス=ゴーが地球に接近する速度が速いということなのだろう。いや、ヤディス=ゴー自体の大きさが恒星の数倍以上なのだから、まだ遅い方なのかもしれない。地球消滅まで時間がないということは確かだが。
「ゲイルさん!」
ゲイルの親はここにはいない。だが、会うべき相手はいる。陸堂達だ。ゲイルは陸堂達三人に会いに来たのである。校長達の迅速な避難誘導によって、体育館にはもうかなりの数の人が集まっていたが、陸堂達には会うことができた。
「お前達、無事だったか!」
「はい!」
「でも本当なんですか!?地球がなくなるって…」
翔子は慌てながら質問する。空子が答えた。
「…残念ながら本当よ。大晦日の深夜に、彗星は地球に激突するわ。」
「そんな…!!」
メルアは嘆いている。この話が本当なら、地球上のどこに逃げても無駄だ。地球がなくなれば、確実に死んでしまう。
「大丈夫だ。そうならないように、これから俺達が彗星を止めに行く。」
「えっ!?本当ですか!?危険すぎますよ!!」
「そうだな。だが、俺達にしかできないことなんだ。」
「俺達はあの彗星を操ってるろくでもねぇ連中をぶっ飛ばして、必ず戻ってくる。」
「だから、俺達の無事を信じて待っててくれ。」
陸堂はやめるよう言うが、ゲイルと狩谷は必ず地球を救って戻ってくると陸堂を落ち着かせる。
「…わかりました。ゲイルさん達の無事を祈ってます!」
「でも必ず戻ってきて下さいね?」
「地球が助かってもゲイルさん達が助からなかった、なんて絶対に許しませんから!」
陸堂達三人は折れ、ゲイル達を送り出す。そこへ、メイリンと室岡も来た。
「本当は私達も行かなきゃいけないんだけど、私達は住民の避難を誘導しなくちゃいけないわ。」
「理事長が選んだというのなら、俺達は止めない。しっかりやれ!」
エールを送る二人。と、ゲイルの通信回路にエドガーから連絡が入った。
「ヨグソトースの起動が完了した。もういつでも飛び立てるから、戻ってきたまえ。」
「了解した。」
ゲイルは通信を切り、アンジェ達に伝える。
「ヨグソトースの起動が完了したそうだ。」
「いよいよだね…!」
「よし、行こうぜ!」
「わかったわ。」
四人は至急、地下研究室に戻る。
*
「ありがとうね、母さん。」
「本当は私も一緒に行きたいところだけど、私は地上に残って博士に状況を報告しなきゃいけないの。」
「わかってるよ。私達のことは心配しないで、母さんは自分の仕事に集中して。」
「心配なんてしてないわ。だってあなたには白宮くんがいるものね」
南樹に言われて、さだめの顔がほんのり赤くなる。
「…必ず帰ってきなさい。それで、白宮くんとの式には必ず私を呼ぶこと。いいわね?」
「早すぎるよ母さん!でも、ありがとう。絶対戻ってくる」
南樹との別れを済ませたさだめは、ヨグソトースへと乗り込んだ。待っていた光輝が尋ねる。
「もういいの?」
「うん。みんなを待たせるわけにはいかないし」
「…本当は君を連れて行きたくない。今回ばかりは、いくらなんでも危険すぎる。」
「何もしないまま終わりたくないの。それに死ぬことになったとしても、光輝のそばで戦って死ねるなら、全然怖くない。」
「そんなこと言われたら、意地でも生きて帰さなくちゃね。一緒に頑張ろう!」
「うん!」
互いの決意を深め合う二人。そこへ、ゲイル達が戻ってきた。
「遅くなってすまない。」
「いや、こっちは全然構わないよ。」
答えたのはエドガーだった。
「…理事長先生も一緒に来るのか?」
「当然だろう?誰がヨグソトースを操縦するんだい?心配しなくても、免許なら持ってるよ。」
狩谷が訊くと、エドガーは自分がヨグソトースを操縦しなければならないから一緒に行くと答える。さて、とエドガーは続けた。
「もう思い残してきたことはないかね?」
行けば帰還できる可能性は絶望的。これが地球で過ごせる最後の時になるかもしれない。もう思い残すことはないか、エドガーは聞いた。ゲイル達は、何も言わない。
「よし、行こう!」
その沈黙を答えと取ったエドガーは、操縦席に座って外に連絡する。
「出撃準備完了だ。これよりヨグソトースは浮上する!」
「了解。これより発進ゲートを開きます。危険ですので、付近にいる方は退避して下さい」
南樹は応答し、機械を操作する。すると、ヨグソトースの上に何層も造られていたゲートが次々に開いていき、最後に地上へのゲートが開いた。そのゲートはヘブンズエデンの校庭に繋がっている。先ほどの連絡は、校庭にいる人達へのものだ。「秒読み開始。五秒前、四、三、二、一…」
さらに南樹がカウントダウンを始め、
「ヨグソトース、発進!」
エドガーが発進レバーを倒した。ヨグソトースの下のバーニアが点火し、徐々に浮上していく。そしてヨグソトースは全てのゲートを抜け、宇宙の彗星ヤディス=ゴーに向かって発進した。
「…さて、そろそろ我々も始めましょうか。」
シュリュズベリィは旅立っていった訓練生達を見送り、ハスターに言った。ヤディス=ゴーが接近すれば、激突しなくても地球には影響が出る。その影響から人々を守ることが、彼らの役目だ。
「もっとも影響が出るだけだ。ヤディス=ゴーが地球に激突することはない。旧神どもやナイアルラトホテップが黙っていないだろうからな」
ハスターの言う通り、もしゲイル達がヤディス=ゴーを止められなければ、旧神達がゲイル達もろともヤディス=ゴーを破壊する手筈になっている。
「だが、それはないでしょう。彼らは必ず、地球を救ってくれる。」
「なぜそこまで信じられるんだ?あんな年端もいかない餓鬼どもを。」
シュリュズベリィがなぜゲイル達を信用するのか、ハスターはわからなかった。シュリュズベリィは答える。
「さあ、自分でもわかりません。ただ、彼らを見ていると思い出すのですよ、昔の自分を。」
シュリュズベリィはゲイル達と過去の自分を重ねていた。
「信じてみようではありませんか。青年の力というものを」
*
月。
外なる神が召喚された場所で、新たな爆発が起きた。
「うおおおおおおおおおああああああ!!!」
爆発を起こした男は、怒りを込めて呟く。
「あのクソジジイ…必ずぶち殺してやる!!!」
彗星ヤディス=ゴーの脅威から地球を救うため、宇宙に飛び立ったゲイル達。次回からはいよいよ、邪悪な神官達との戦いが始まります。今までの戦いは、全て小手調べ。戦場は自分達の拠点でもあるので、神官達も全力を出して向かってきます。何故彼らが地球を破壊しようとするのか、ゲイル達は地球を守れるのか。乞うご期待!




