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第四十話 究極の持久戦

後編です。

「なっ、何!?」

「やだって…どうして!?」

いつもアザトースが憑依する度に助けてくれていたナイアルラトホテップ。しかし、今回彼女は助けないと言った。困惑する狩谷と空子。

「アザトースが暴れたら地球が壊れる!!地球が壊れたら困るって言ってたじゃねぇか!!」

「そうだよ。すごく困る」

「だったら何で…!!」

狩谷と空子は再度質問する。

「だからこそさ。」

ナイアルラトホテップは答えた。

「いろいろ考えたんだけどさ、正直言って君達でいうところのメタルデビルズは邪魔なんだ。このビャクオウはそれほどでもないけど、アデルはアザトースが憑依する度にボクが助けに行かなくちゃいけないだろう?今まではエリックと一緒に行動してたからいいけど、そうじゃない時はどうするのさ?ボク以外にアザトースを止められるやつなんかいないんだよ?」

「そ、それは…」

空子は言い淀む。確かに、ナイアルラトホテップの言う通りだ。今まではたまたま運が良かっただけ。もしエリックが、ナイアルラトホテップが憑依できる媒体がゲイルの近くにいなければ、アザトースは止められなかっただろう。

「アデルの存在は、ボクにとってアザトースから与えられた使命を果たす行動の妨げとなる。だから、ボクはアデルを破壊したいんだ。」

「何だと!?」

皇魔は驚いた。ナイアルラトホテップの言い分はもっともだが、まさかこんなタイミングでそんなことを言われるとは思っていなかった。

「ついでに君達の始末もしたい。どうも、邪魔になりそうなんでね。アザトースもよろしいですか?」

アザトースにも確認を取るナイアルラトホテップ。というか、主人の目の前でそんなことを言っていいんだろうか。光輝とさだめは思っていた。

「…~」

アザトースは少し考えるような素振りを見せた後、ナイアルラトホテップに何か言った。ナイアルラトホテップはそれを通訳して伝える。

「新しいオモチャが手に入ったからいいってさ。どうせだからアデルは今使い潰すまで遊ぶって」

なんとOK。アザトースはナイアルラトホテップに、アデルの破壊を許可した。

「新しいオモチャって…まさかアンジェのこと!?」

「他に誰がいるんだい?」

空子はアザトースが言っていたことが気になり訊いてみたが、予想通りだった。この場で新しいオモチャと言える存在は、たった今アザトースに支配されたアンジェ以外にいない。

「さて、それじゃあ始めようか。これ以上ボクのご主人様をお待たせするのも酷だしね」

「ギュルルルアアアアアアアアア!!!」

アザトースはナイアルラトホテップの言葉を聞いて、ようやくお預けが終わったと歓喜する。それに呼応するようにして、今まで敬意のポーズを取っていたアンジェも立ち上がった。「副首領、どうしますか?」

「アレが出てきた場合は最優先で即時撤退せよとの首領のご命令ですが…」

話が終わったと見るや、ウォントとメイカーがイズマに尋ねた。イズマはダークスと見合ったまま身じろぎもしなかったが、二人の質問に答える。

「…首領の命令を無視するわけにはいくまい。撤退する」

イズマにとってこの場合は、ルーラーから最優先と言われている命令が優先される。ゆえに、ダークスとの戦闘を中止し、撤退することとなった。

「木林影斗、こちらへ来い。帰還するぞ」

撤退するためにベルセルクを呼ぶが、

「断る。」

ベルセルクは拒否した。

「それはあんたらの組織、デザイアのトップの命令だろ?オレはそうじゃない。撤退するかどうかは、オレの意思だ。」

確かにそうだ。そもそも今回、ベルセルクはダークスを倒すために呼ばれた。ヴァルハラのミレイヌからも、その手伝いをするよう命じられている。しかし、今はダークスの撃破ではなくただの撤退で、命令系統も違う。ベルセルクはアデルと極力接触しないよう命令されているが、接触した場合は全力で排除するようにも命令されているのだ。

「つーわけだから、帰りたいならあんたらだけで勝手に帰んな。オレはアデルを…アザトースを倒してからゆっくり帰る」

「てめぇ…」

ウォントは怒るが、イズマは片手でそれを制する。

「…汝の言うことには筋が通っている。好きにするがいい」

仕方ない。実験に使いはしたが、ベルセルクはデザイアの兵士ではないのだ。イズマはベルセルクの説得を諦めて、ダークスを見る。

「命拾いしたな。もっとも汝はアザトースに消されるやもしれんが」

「…」

ダークスは何も言わない。

「…帰還する。」

イズマはそれを見ても何か感じた様子はなく、賢者の杖で地面を突き、光の柱を出現させて、幹部二人とともに撤退していった。

「あっちはかなり減ってくれたけど、正直な話、あんまり状況は好転してないわ。あいつらの方が遥かに厄介だもの!」

レスティーはアザトースとナイアルラトホテップを見た。一方ナイアルラトホテップは、

「ん?」

何かを感じていた。しかし、その理由はすぐ突き止められる。

「エリック…ボクに本当に抵抗できると思っているのかい?」

(当然です)

エリックだ。エリックがナイアルラトホテップを追い出し、肉体のコントロールを取り戻そうとしていたのだ。

「悪いけど、今回のボクはいつも以上にマジなんだ。ちょっと眠っててもらうよ」

(ぐっ…うっ…!)

だが、今回のナイアルラトホテップは初めて彼女が憑依した時以上に本気だった。人間でありながら人間を遥かに超越した精神力を持つエリックだが、本気を出したナイアルラトホテップには敵わず、意識を沈められてしまう。

「大丈夫。次に目が覚めた時には、君が望んでいた彼の死体を見せてあげるよ。それから、この身体も君の精神も、ボクが有効利用させてもらう。君はアザトースのではなく、ボクのオモチャだよ。んふふ」

薄れていくエリックの意識に、ナイアルラトホテップは邪悪に微笑んだ。

「どうやら、とんでもないことに巻き込まれてるみたいですね。」

ダークスは状況を何も理解していない。事情を知る者でなければ理解できるはずのないことなので、当然だ。

「ですが、あなた方に協力しなければならないということはわかりました!」

ダークスは狩谷達に協力することにした。

「こいつは助かる。今は一人でも手助けが欲しいんだ!」

狩谷は戦力が増えたことを喜ぶ。

「けどどうするの!?アザトース達をあの二人から追い出すには、アンジェさんの力が必要らしいけど…」

「肝心のアンジェはアザトースに操られてるし…!」

光輝とさだめは、改めて状況を見直した。ナイアルラトホテップはどうすればいいかわからないが、アザトースの精神を追い返すにはアンジェの力が必要だ。が、そのアンジェは現在アザトースに操られている状態。まずアンジェを元に戻すことから始めなければならないが、どうすればいいかわからない。

「とにかく戦うぞ!!戦って抗わなければ三人を元に戻すどころか、俺達が生きておることさえできん!!」

「そうするしかなさそうね。」

皇魔とレスティーは三人を救うために、まず戦うべきだと言った。戦って自分の身を守らねば、三人を救うことはできない。

「でもただ戦うってわけじゃないわ。空子ちゃん、理事長先生に連絡して、このことを伝えて。」

しかし、無策に戦えば全滅は必至だ。レスティーはこの状況を打開する策を、ちゃんと用意していた。エドガーに連絡して、指示を仰ぐことだ。エドガーなら、何かいい方法を知っているかもしれない。

「わかったわ!」

空子は早速エドガーに連絡し、状況を詳しく伝える。

「俺達の役目は、理事長先生が打開策を見つけるまでの時間稼ぎってわけだな。」

狩谷は自分達の役割を決めた。

「でも、大丈夫かな…もし理事長先生でも無理だったら…」

さだめは不安になる。レスティーが考案した打開策は、打開策を見つけるための打開策。何も方法が見つからなければ、バッドエンド直行だ。

「大丈夫だよ。絶対にゲイル達は助けられる!助けなくちゃ、いけないんだ!!」

光輝はさだめを勇気付ける。

「さて、作戦タイムは終わったかな?」

ナイアルラトホテップは尋ねた。

「意外だな。まだ待ってくれていたなんてよ」

狩谷は今まで攻撃せずに待ってくれていたナイアルラトホテップ達に、少し驚いている。

「さっきは始めようかと思ったけど、最期の悪あがきをさせてあげてもいいかなって思ったんだ。アザトースにもわざわざ言って、待ってもらってたんだよ。」

「…お優しいことで。」

ナイアルラトホテップの答えを聞いた狩谷は、皮肉まじりに言った。

「ボク達は神だからね。神様はと~っても、慈悲深いのさ。」

「ほざくな邪神が!!」

皇魔が先陣を切り、訓練生達とダークスはナイアルラトホテップ達に挑む。

「オレを無視すんな!!」

ベルセルクも突撃する。

「フッ…」

ナイアルラトホテップは軽く笑って迎え討ち、アザトースは片手を動かした。それに従って、アンジェも無言のまま攻撃を開始する。



こうして絶望的な、究極の持久戦が始まった。











ヘブンズエデン。

「お呼びですか、理事長。」

メイリンは理事長室に呼び出されていた。エドガーは先ほど入ってきた連絡の内容を簡単に説明する。

「事は一刻を争う。早速だが、君を家まで飛ばすよ。」

「はい。それと一つ」

「何だい?」

「室岡先生も一緒に連れて行ってもいいですか?」

「許可しよう。手続きは私がしておくから安心したまえ」

「ありがとうございます。」

メイリンは転移室へ急ぐ。その途中で、室岡に会った。

「メイリン先生!」

「室岡先生!」

「どうされました?かなり急いでおられるようですが…何かお力になれることは?」

「一緒に来て下さい。」

メイリンは室岡を連れ、転移室までの道中で事情を説明する。

「ゲイル達が…クソッ…!」

室岡は舌打ちした。

「それで、何とかなりそうですか?」

「…わかりません。正直言って、かなり絶望的な状態なんです。それに、私一人では手が足りません。」

「それで俺を誘ったんですね?」

「…巻き込んでしまって申し訳ありません。しかし私が考案した策を実行するには、あなたの存在が不可欠なんです。」

本当はメイリン一人でやるべきなのだが、ナイアルラトホテップ達の動きを鈍らせることができるはずの室岡のアーミースキルは、どうしても外せないのだ。

「構いませんよ。教師であるなら生徒を救うのは当然のことですし、それに他ならぬあなたの頼みですから。」

「室岡先生…」

メイリンは少し顔を赤くする。

「で、どうすればいいんですか?」

ゲイル達を救う方法を聞き出そうとする室岡。その顔付きは、完全に仕事モードだった。

「まず私の家に行きます。私の家には、アザトースに対抗できるかもしれない魔術アイテムがあるんです。」

「魔術アイテム…先生の家にそんなものがあったんですね」

「詳しいことは、家に着いてから説明します。」

「わかりました。」

そうこうしている間に転移室に着いた二人は、まずメイリンの家へと向かう。











「おおおおおおおおおおおお!!!」

皇魔は全力の岩山破砕を、ナイアルラトホテップに向けて放つ。しかし、ナイアルラトホテップはそれを小指一本で止めてしまった。

「むっ!!」

「それだけ大きな図体のくせに、力はそれほどでもないんだね。」

余裕の台詞である。だが、

「忍法・絶影の術!!」

皇魔の背後からレスティーが飛び出し、ナイアルラトホテップの背後に回り込んで延髄に蹴りを喰らわせた。

「ふん。」

しかしナイアルラトホテップはダメージを全く受けていない。どころかナイアルラトホテップの背中から大量の武器が伸びてきて、レスティーを襲った。

「くうっ!!」

レスティーは全速力で後退し、ナイアルラトホテップの攻撃をかわす。攻撃が不発に終わったと見るやナイアルラトホテップは皇魔の拳を止めていた手を手刀に変え、数度皇魔を打つ。

「ぐっ!!」

皇魔は全てを防御するが、ナイアルラトホテップの手刀には絶大な剛力が秘められておりダメージを受けて下がる。

「そらそら!」

距離が開いたので、ナイアルラトホテップはホワイトスイーパーで攻撃してきた。

「ぐおおお…!!」

皇魔は持ち前の防御力と覇気をフルに活用して防ぐが、防いでもなおその余波はダメージとなって皇魔の全身に蓄積される。いつものビャクオウが撃つものなら、ここまでダメージを受けはしない。しかし、相手はイビルゴッドモードで、ナイアルラトホテップが操っているのだ。全てが強化されている。

「はああああああ!!!」

見るに見かねたレスティーが、皇魔を助けるために最大速度の連撃をナイアルラトホテップに繰り出す。だが、ナイアルラトホテップはレスティーの超スピード攻撃を全て片手でさばき、レスティーの左肩を掴んだ。とたんに、さっきナイアルラトホテップから伸びた武器の柄が触手状となり、方向転換して向かってくるではないか。

「ぬおおおおお!!!!」

皇魔はやらせてなるものかと駆け出し、拳でナイアルラトホテップの足元を殴った。ここでポイントとなるのはナイアルラトホテップの足ではなく、足元を殴ったということ。すなわち、皇魔が殴った場所は地面。皇魔ほどのパワーの持ち主が地面を殴ったらどうなるか?答えは簡単だ。

「お?」

地割れが起こる。ナイアルラトホテップは間抜けな声を出して、バランスを崩した。同時に、レスティーを捕らえている腕の力も緩む。

「っ!!はっ!!」

レスティーはそれを見逃さず、ナイアルラトホテップの胸板に両足蹴りを叩き込んだ。さらにバランスを崩したナイアルラトホテップは手を放し、触手による攻撃を外して、重力に従って地割れの中に落ちていった。レスティーは宙返りして着地し、事なきを得る。

「大丈夫か?」

「ええ。助かったわ」

しかし、互いの無事を確かめている間に、空中を浮いてナイアルラトホテップが出てきた。触手は消えている。

「ちょっとびっくりしたよ。見掛けによらず頭は回るんだね」

皇魔がナイアルラトホテップの足ではなく足元を殴ったのは、殴っても無駄だと判断したからだ。パワーが違いすぎる。それなら意表を突いてバランスを崩させ、自分からレスティーを放すよう仕向ける。

「当然だ!!俺を舐めるな!!」

「それじゃあ、少しだけ本気になろうか?」

ナイアルラトホテップはホワイトスイーパーを向け、さらに周囲に無数の魔力弾を出現させた。



「はぁっ!!」

「やっ!!」

互いの武器を同時に振り下ろす光輝とさだめ。

「カッカッカ」

アザトースはそれをノーガード。両肩で受け止め、肩の力だけで二人を弾き飛ばす。

「うおおおお!!!」

狩谷が入れ違うような形で斬り掛かった。アザトースはこれをプライドソウルで止める。

(エルダーキングを使えばもしかして…!!)

クトゥルフ神話にゆかりのある黄の印。それが変化したエルダーキング。魔術を使うことができるこれを使えば、あるいは…

「うおおおおお!!!元に戻ってくれゲイルゥゥゥゥゥ!!!!」

狩谷の意思に呼応するかのように、エルダーキングが発光する。だが、

「ケカッ!!」

アザトースはエルダーキングを弾き、

「アッアーッ!!」

「ごはっ!!」

狩谷を蹴り飛ばした。

「シャドーコンビネーション!!!」

ダークスは分身して戦う。

「ゲゲゲッ!!」

しかし、アザトースは二体のダークスが繰り出す攻撃をことごとく受け流し、

「無視すんなっつってんだろ!!!」

背後からのベルセルクの攻撃をノーガードで受け、

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

咆哮とともに爆発を起こして吹き飛ばした。



「…」

「くっ!!」

アンジェは無言のままに拳を繰り出し、空子はそれを受け流す。次に放たれた蹴りは、ギガトラッシュとライフイーターを使って受け止めた。

「アンジェ!!目を覚まして!!」

自分の声が届くと信じて懸命に呼び掛ける空子。しかし、アンジェがそれに応えることはない。

「あなたが今身を寄せている相手はゲイルじゃないのよ!?ゲイルの姿をしたアザトースなの!!あんなやつに屈しちゃ駄目よ!!」

それでも命懸けで呼び掛け続ける。

「…」

だがアンジェはやはり応えず、空子の腹に掌底を当てた。

「うあっ…!!」

少し下がる空子。今のアンジェはアザトースに操られているだけではなく、アザトースの力で強化されている。メシアジャケットを着ていなければ、胴が破裂して真っ二つになっていただろう。しかし、今のアンジェの姿はアザトースの力に負けた姿でもある。邪神に支配された姿をさらす愛しい人とライバルを見るのが、空子はたまらなくつらかった。

「…」

何も言わず、黒いシャイニングフェザーストームを放つアンジェ。

「アンジェ…!!」

空子は吹き飛ばされた。



「ストライクカッティング!!!」

アザトースに向けて必殺技を喰らわせるベルセルク。直撃したアザトースの身体越しにも地殻変動を引き起こせるほど強力になった一撃だが、それでもアザトースからすれば防ぐ必要すらない。顔面で受け止め、隙ができたベルセルクの脇腹へと手刀を突き刺す。

「ぐはっ…!!!」

脇腹から吹き出る大量の血液。

「ガハァァァァァァァァァ!!!!」

アザトースは腕を引き抜きながら口から光線を吐き出して、ベルセルクを吹き飛ばした。

「ぐっ!!」

ベルセルクはアームズベルセルクを杖代わりに立ち上がる。

「何なんだよ!!何なんだよお前は!!!」

以前とは比べものにならないほど強くなったベルセルク。だが、まだまだアザトースには遊び相手にされている。それが認められず、思わず憤りの言葉をぶつけた。





「…何ニ見エル?」





アザトースから放たれた、はっきりとした人語。ゲイルのものではない、女性の声。それが響いた瞬間に全員の動きが止まり、静寂が流れる。ナイアルラトホテップすら、驚いて見ていた。

「アナタニハ、私ガドウ見エル?」

やはり聞き間違いではない。アザトースは本当に人語を介している。

「…ドウ見エテモ、ソレハ私ニトッテ問題ジャナイ。アナタガ思ッタモノガ、私ダカラ。」

「…どういう意味だ…?」

アザトースが言っていることの意味がわからず、ダークスは混乱する。

「…そのままの意味さ。」

それにはナイアルラトホテップが答えた。

「アザトースは混沌。混沌は全てを内包している存在だ。真実も、偽りも、矛盾も、現実も、虚構も。だから、決まった姿がない。君達が神だと思えば神だし、化け物だと思えば化け物だし、それ以外の何かだと思えばそれ以外の何かなんだ。君達には理解できないかもしれないけどね」

全くだ。わけがわからない。わかったのは、この邪神どもが人知の想像を絶する相手だということ。

「ネェナイア。」

と、アザトースは唐突にナイアルラトホテップの名を呼んだ。

「は。いかがなされましたか?」

「…私、モウ飽キチャッタ。飽キチャッタカラ、全部壊スネ?ココニイル人間達モ、コノ器モ。新シイオモチャガアルカラ、モウイインダ。」

「お言葉ですが、この星は残して頂かないと困ります。」

「ワカッテル。ココニイルヤツラダケ、全部壊ス。ナイアモ手伝ッテ?」

「仰せの通りに。」

ナイアルラトホテップは深く礼をしてから、皇魔達に向き直る。

「そういうわけだから、君達には死んでもらうよ。ボクの主人からも許可が出たんでね」

「そう言われて、素直に従うと思うのか!!」

皇魔はあくまでも抵抗すると、ボロボロにされた身体を奮い立たせ、ナイアルラトホテップと戦う。他の者達も同じだ。



その時、



「みんな、お待たせ!」



メイリンと室岡が到着した。

「メイリン先生!!」

「室岡先生!!」

光輝とさだめは二人の登場に喜ぶ。

「増援か。今さら誰が来たところで…」

鼻を鳴らしたナイアルラトホテップ。しかし、彼女はメイリンが持っている物に目を奪われる。黒い絹布にくるまれた、長い何かだった。メイリンは絹布を解き、それを見せる。絹布の中にあったのは、黒檀の柄が付いた、青銅の偃月刀だ。魔術に精通しているナイアルラトホテップは、その偃月刀が何であるかを一目で見抜く。


「バルザイの偃月刀!!」













バルザイの偃月刀とは、ヨグ=ソトースの召喚をはじめとする、様々な儀式の助けとなる魔術アイテムだ。

「今の時代にバルザイの偃月刀は一本も残っていないはず…まさか君が持っていたとはね…」

ナイアルラトホテップの話の通り、バルザイの偃月刀は作るために必要な材料が手に入りにくいので、もう今の時代には一本もない。ヘインズがヨグ=ソトースの召喚にバルザイの偃月刀を使わなかったのも、それが原因である。使わなかったのではなく、作れなかったのだ。また、ナイアルラトホテップも作ろうとはしなかった。その理由は、製法に問題があるため。バルザイの偃月刀を作るには材料を揃える以外に、炎の精霊の力を借りる必要がある。クトゥルフ神話の神々にも属性というものが存在し、ナイアルラトホテップは地属性。地属性は火属性に弱い。つまり、炎の精霊はナイアルラトホテップが苦手とする存在なのである。ナイアルラトホテップは炎の魔術を使えるが、それと属性とは別問題で、炎の精霊にはできる限り近付きたくない。だから、バルザイの偃月刀は作らなかった。また、バルザイの偃月刀は製作者以外の者が手を触れると力を失ってしまうため、仮にナイアルラトホテップが作ったとしてもヘインズに譲渡することはできなかったわけだ。

「な、何でメイリン先生がそんなすげぇモン持ってんだ!?」

狩谷の質問に、メイリンが答える。

「私の先祖は、炎の神クトゥグアを信仰していた。このバルザイの偃月刀は、私の先祖がクトゥグアの力を借りて作ったものなの。」

「クトゥグアの力を借りて?…ああ、なるほど、思い出したよ。」

ナイアルラトホテップはメイリンの口から語られた衝撃の事実を聞き、ほくそ笑む。


「炎の精霊達の長であるクトゥグアの力を借りてバルザイの偃月刀を作った唯一の家系。クトゥグアと交配してその力を宿した混血児を遺した、ノルン家の人間か!」


そう。メイリンの先祖はクトゥグアを信仰するのみには飽き足らず、クトゥグアが持つ強大な力を己のものにしようと企んだ。結果思いついたのが、クトゥグアとの交配である。その方法についての記録は遺されていないが、とにかく先祖の企みは成功した。以降一族の子孫は、強力な炎を操れるようになったのだ。しかし、クトゥグアとの交配が成功したのはもう千年以上も前である。世代交代を繰り返すうちにクトゥグアの血は薄まり(血があるかどうかは不明だが)、比例して力も弱まっていった。

「私の世代ではもうこんな申し訳程度の炎しか出せないけど」

メイリンは一度手から炎を出し、消してみせる。彼女の炎はアーミースキルではなく、先祖から代々受け継いだ特性だった。彼女の世代まで交代が進んでしまっては、先祖がやったような、数キロ以内の全てを灰になるまで焼き尽くすなどということはできないが、

「でもあなた達は嫌でしょ?」

ナイアルラトホテップは何よりもクトゥグアを嫌う。弱まったとはいえクトゥグアの力で出す炎は、ナイアルラトホテップにとって弱点なのだ。加えて、実はアザトースも地属性である。クトゥルフ神話の最強神ではあるが、属性上はアザトースの弱点も火属性なのだ。しかし、いくら火属性が弱点でも、力が足りなければアザトースは追い返せない。アザトースは別にクトゥグアを恐れているわけではない。力の差がありすぎるから。バルザイの偃月刀の力だけでは、アザトースを追い返すには全く足りないのだ。そこで重要になるのが、アンジェの存在。あらかじめナイアルラトホテップが弱らせていたとはいえ、アザトースを追い返すことができたアンジェと、バルザイの偃月刀を組み合わせれば、弱らせなくてもアザトースを追い返せるのだ。今アンジェは操られている状態だが、アンジェを操っているのはアザトースという地属性の神。地属性の力は、火属性で破れる。バルザイの偃月刀で、アンジェを元に戻せるのだ。

「通常バルザイの偃月刀は儀式用の偃月刀だから、戦闘には向かない。でも私の先祖が作ったバルザイの偃月刀は、戦闘で使えるように鍛えられている。しかも他人が触っても力が失われないように、特殊な術式が組み込まれているわ。代々に渡って受け継がなきゃいけないからね」

メイリンの先祖はクトゥグアを信仰すると同時に、ナイアルラトホテップと敵対していた。このバルザイの偃月刀は対ナイアルラトホテップ戦の切り札となるよう戦闘用に鍛えられ、製作者以外の身内や部外者が触っても力が消えないように特殊な術式が組み込まれているのだ

「…まったく、胸クソの悪い話だよ。ボクを倒すために存在してるような一族の人間が、まだ生き残っていたなんてね。」

明らかに怒気を含んだ口調で話すナイアルラトホテップ。最終的にノルン家は彼女が滅ぼしたはずだが、まだ一人だけ生き残り、ひっそりと生きていた。ノルンなんて名前の家はたくさんあるし、その頃にはもうナイアルラトホテップの鋭敏な感覚をもってしても捜し出せないほど、力が弱まっていたのだ。だから初めてメイリンを見た時も、ノルン家の人間だとは気付けなかった。滅すべき相手が未だに残っていたことに、ナイアルラトホテップは憤りを感じていたのだ。

(奴の態度から余裕が消えた!!これならいけるかもしれん!!)

皇魔はナイアルラトホテップの態度の変化を悟り、勝機が訪れたと希望を見る。

「…だが本当にボク達に勝てると思うのかい?君達がボク達に勝つには、ボク達の攻撃をしのぎながら彼女を元に戻し、さらに彼女の力を借りなければならない。いくらバルザイの偃月刀を用意したといっても、それを成し遂げるのは不可能だと思うけどなぁ?」

ナイアルラトホテップの言う通り、条件はかなり厳しい。下手を打てばアンジェを元に戻す前に、全滅する可能性もあるのだ。しかし、

「そのために俺がここにいる。」

室岡が進み出て、片手を前に向けた。

「グラビティプレス、出力最大!!!」

瞬間、ナイアルラトホテップとアザトース、アンジェの全身に凄まじいまでの重力がかかり、三人は地面に叩きつけられる。室岡はベルセルクに敗北してからアーミースキルの研鑽を重ね、重力を700倍にまで増幅できるようになった。これほどの高重力を突然浴びれば、さすがの外なる神も行動不能になる。

「重力操作か、油断したよ。でもこれくらい…!!」

しかし、突然浴びせたから倒れただけであって、ナイアルラトホテップとアザトースはすぐに復帰する。だが少し動きが鈍い。

「もらったぁぁぁぁぁ!!!」

その隙を突いたベルセルクが、二体の神に攻撃を仕掛ける。皇魔、レスティー、光輝、さだめ、ダークスの五人も向かう。その間に、メイリンと狩谷、空子はアンジェのそばに駆け寄った。アンジェにはそこまで強力な重力をかけていない。ぺちゃんこになってしまう。

「私の全ての力を使って、アンジェを!!」

「手伝うぜメイリン先生!!」

バルザイの偃月刀の力を本格的に起動するには、使い手が持つ力が必要になる。相手がアザトースともなれば、彼女の力全てを使っても足りない。しかし、クトゥグアとハスターは同盟を結んでいる。メイリンとバルザイの偃月刀が持つ炎の力を、狩谷とエルダーキングが持つ風の力で強めれば、あるいは…

「あたしはここから二人を守ります!!」

空子はアザトースとナイアルラトホテップが向かってこないよう、二人の盾になりながら攻撃する。

「よし…行くわよ!!」

「おう!!」

バルザイの偃月刀とエルダーキングが発光し、炎と風が発生する。炎と風は渦巻きながら混ざり合い、アンジェを包み込んだ。

「…かっ…ぐ、あ…!!」

苦しむアンジェ。この炎はアンジェではなく、アザトースの力を焼くためのもの。風はそれを強めるためのものだ。アンジェの身体にダメージを与えることはない。それでも苦しんでいるのは、アザトースの力がアンジェの中に深く浸透していたせいだ。

「私ノオモチャ…!!」

「ぐあっ!!」

ベルセルクを裏拳で殴り飛ばし、アザトースは片手をアンジェに向ける。するとアンジェは苦しむのをやめ、室岡の正面に瞬間移動して超重力から脱出。蹴りを放つ。

「くっ…!!」

衝撃は完璧に受け流したが、室岡の集中が途切れたことにより、アザトースとナイアルラトホテップにかかっていた重力が消える。

「これまでだ!!」

ナイアルラトホテップは皇魔に向かって拳を放った。

「皇魔さん!!がぁっ!!」

「光輝!!」

「光輝くん!!」

途中で光輝が割り込んで防いだ。皇魔は守り切れたが光輝は強烈な拳を受けたことに吹き飛び、その惨状を見たさだめとレスティーが叫ぶ。

「白宮!!貴様ァァッ!!!」

「よくも光輝を!!許さない!!!」

激怒した皇魔とさだめは全力でナイアルラトホテップを攻撃する。


「シャドーロック!!!」

ダークスは分身として生み出していたもう一人の自分の背中を殴る。その瞬間に分身ダークスは無数の黒いリング状の枷となり、アザトースを拘束した。

「ガアアアアアアアアアアアアア…!!!!」

しかし、アザトースが力を加えるに従って枷にヒビが入っていく。

「長くはもちそうにないな…!!」

アザトースがシャドーロックを破って飛び掛かってくるのに備え、ダークスは身構える。

「くっ…」

室岡は次々繰り出されるアンジェの攻撃を受け流していく。一撃でも喰らえば肉片にされてしまうような威力なので、室岡も命懸けだ。

「グラビティプレス!!」

今度はアンジェだけを狙ってグラビティプレスを仕掛ける室岡だが、アンジェは重力をかけられる度に瞬間移動して逃げてしまう。これではメイリン達もアンジェを狙えない。

「くそっ!!せめてあの瞬間移動だけでも何とかできれば…!!」

狩谷は歯噛みする。


その時だった。


室岡に無表情のまま攻撃を繰り返すアンジェの背中を、何者かがポン、と叩いた。振り向いたアンジェが目にした相手は、




ミレイヌだった。




「ミレイヌ!!」

「あれが…ミレイヌ…?」

驚く空子と、ミレイヌを初めて見たメイリン。ミレイヌはそれらを全く意に介さず、軽くアンジェに掌底を当てて吹き飛ばし、もう片方の手をアンジェに向けた。するとアンジェの動きが止まる。アンジェは動こうとするような素振りを見せているが、動けないようだ。

「次元の操作に精通している私なら、彼女を封じ込めるくらい造作もないことです。」

ミレイヌはアンジェがいる場所の空間を歪め、通常の脱出や瞬間移動ができない状態を作ったのだ。ここから脱出するには、ミレイヌ以上の力が必要となる。

「やるべきことがあるのでしょう?さっさとやったらどうですか?」

ミレイヌの登場に驚愕していた狩谷とメイリンは、ミレイヌの言葉で我に返る。

「!!今よ!!」

「おう!!」

今度こそ力をアンジェに向けるメイリンと狩谷。

「うあ…あ…!!」

苦しんで逃げようとするが、ミレイヌがずっと拘束しているため逃げられない。そして、

「あっ…」

アンジェの身体からアザトースの力が完全に消滅し、翼は元の純白に。目の光も消えた。ミレイヌは空間の歪みを解除する。

「アンジェ!!」

空子は倒れ込んだアンジェに駆け寄り、抱き起こした。

「アンジェ!!しっかりしなさいよ!!アンジェ!!」

必死に呼び掛ける空子。

「…聞こえてるよ、空子。」

アンジェはすぐ目を覚ました。

「アンジェちゃん!!」

「アンジェ!!」

狩谷とメイリンも駆け寄る。

「あとはあなた達の仕事です。」

ミレイヌは瞬間移動でアザトースとナイアルラトホテップの間に出現し、

「ガッ!!」

「うあっ!!」

両手から衝撃波を飛ばして吹き飛ばす。

「帰りますよ、木林影斗。」

歩み寄った相手は、仰向けに倒れているベルセルク。

「…はい」

ミレイヌが相手では逆らえず、ベルセルクはミレイヌとともにクルセイドキャッスルに帰った。

「何しに来たんだ?助けてくれたのか?」

「わかんないわよ。それより…」

狩谷と空子はアンジェに視線を移す。メイリンはアンジェにバルザイの偃月刀を渡した。

「アンジェ、これを使ってあの二人を元に戻して。私はもう全部の力を使い果たしちゃったから…使い方は…」

メイリンでは狩谷の助力ありでも、アンジェをアザトースの力から救うのが限界だった。全ての力を使いきってしまった今、アンジェに頼むしかないのだ。

「使い方ならわかります。今までずっと見てましたから」

「…もしかして、意識があったのか?」

室岡は尋ねる。アンジェはフィアーズイクリプスで操られている間、ずっと意識があった。しかしアザトースの力に逆らうことはできず、自分の意思では動くことも喋ることもできなかったのだ。

「だから聞こえてたよ、空子の言ってたことも。あんなやつに屈したりなんかしちゃ、駄目だよね。」

「アンジェ…」

アンジェはバルザイの偃月刀を杖代わりにして立ち上がる。

「みんな、離れて!!」

今からアザトース達を攻撃するので離れて欲しい。アンジェはそう言った。

「よし、離れるわよ!!」

「うむ!!貴様も来い!!」

「はい!!」

早急に離脱するレスティー、皇魔、ダークス。

「光輝、大丈夫!?」

「うん。早く離れよう!」

さだめは光輝に手を貸しながら、離脱する。仲間達が離れたのを確認すると、アンジェはバルザイの偃月刀を両手で持ち正面で回転させた。と、光る円が浮かび上がって、その中に紋章が出現し、アンジェはそれを飛ばす。

「エルダーサインブースト!!!」

紋章はアンジェとアザトースの間に出現する。ここで、全員が紋章の全容を見ることができた。五芒星の紋章だ。しかし、線が直線ではなく、まるで燃え盛る炎をイメージしているかのように見える。燃える五芒星。

「あ、あれは、旧き印!!」

ナイアルラトホテップはあの紋章がどんなものであるかを、嫌というほど知っている。邪神を払う力を秘めた、旧神を象徴する紋章だ。そしてこのエルダーサインブーストは、通り抜けた攻撃の威力を三倍にすることができる。アンジェはバルザイの偃月刀を空に放り投げると、弓に変化させたアークスを旧き印に向けた。アザトースは逃げようとするが、

「グッ!?」

動きが止まる。

「アンジェ!!今だ!!俺を撃て!!」

それから、ゲイルの声が聞こえてきた。

「…うん!!」

ゲイルがアザトースを止めている間に、勝負を決める。

「プラチナアロー…」

決意したアンジェはアークスに自分の全力を込めた光の矢をつがえ、

「シューティング!!!!」

放った。光の矢は旧き印を通過すると巨大化し、アザトースにぶち当たった。

「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」

けたたましい絶叫を上げるアザトース。間もなくしてアデルはゲイルに戻り、ゲイルは倒れた。以前は何発も撃たなければアザトースを退散させられなかったが、狩谷達の活躍でアザトースが少し弱っていたこと、ゲイルが自分の意識を取り戻したこと、アンジェにほとんど疲労がなかったことなど理由が重なったおかげで、エルダーサインブースト+プラチナアローシューティング一発でゲイルを元に戻せた。

「ちっ!!ならあいつだけでも!!」

ナイアルラトホテップはギャラクティックエンドブレイカーでゲイルを殺そうとする。しかし、

「うっ!?」

ナイアルラトホテップの動きも止まった。

「…これ以上好きにさせるかよ…」

聞こえてきたのは、エリックの声。

「ば、馬鹿な!!今度こそ完全に意識を封印したはずなのに!!」

あまりにも常軌を逸しているエリックの精神力に、ナイアルラトホテップは驚くしかない。そうこうしているうちに、アンジェが落ちてきたバルザイの偃月刀をキャッチした。

「…ここは退くしかなさそうだね。」

例えあのバルザイの偃月刀による一撃を受けたところで、ナイアルラトホテップは死なない。だが、大嫌いなクトゥグアの力が宿った偃月刀の攻撃など、絶対に喰らいたくなかった。だから負けを認めた。

「でもこれで終わったとは思わないことだ!!メタルデビルズは残っているということを忘れるな!!」

捨て台詞を吐いてナイアルラトホテップは憑依を解除。ビャクオウはエリックに戻る。

「ゲイル!!!」

アンジェはゲイルに駆け寄り、助け起こした。

「アンジェ…お前の矢、確かに届いたぞ。」

「うん…うん…!!」


アンジェはゲイルが戻ってきたことを、涙を流して喜んだ。











メイリンはバルザイの偃月刀を布でくるみ、再びアンジェに渡した。

「本当にいいんですか?これを頂いても。」

「ええ。第一、私の戦闘スタイルに合わないしね。」

メイリンが今までバルザイの偃月刀を持って来なかった理由は、かさばるからと自分の戦闘スタイルに合わないからだ。そしてこれからも、それは変わらない。だから自分が持っているよりは、信用できるアンジェに渡して使ってもらった方がいいと、そう結論付けたのだ。

「それに私には室岡先生がいるわ。」

「ちょっ!?」

メイリンは室岡の右腕に抱きつき、室岡は顔が真っ赤になる。

「今日の先生、かっこよかったですよ。これからも守ってくれますよね?」

「は、ははははは、はひ!!」

室岡は噛みまくりながら答えた。と、アンジェが持つバルザイの偃月刀が発光し、小さな光の玉になってアンジェの中に吸い込まれていった。

「これは…今までこんなことなかったのに…」

メイリンはかなり驚いている。

「バルザイの偃月刀はお前を選んだようだな。」

ゲイルは無理矢理そう決めた。

「それにしてもすごいなぁ二人とも。」

「最後は精神力でアザトースとナイアルラトホテップを抑え込んじゃうんだもんね。」

光輝とさだめはゲイルとエリックの精神力の強さに感服している。

「お前達の力があったから、元に戻れたんだ。感謝している」

「…ふん。」

ゲイルは礼を言い、エリックは鼻を鳴らした。

「あの…」

アーサーは遠慮がちに話し掛けた。

「どうしました?」

空子が応対する。

「…俺はデザイアの元幹部です。今までは中立の立場にいましたが、今日完全に敵対してしまいました。そこで、ヘブンズエデンに匿って頂けると助かるのですが…」

もう今まで通りに逃げ隠れすることはできない。なら、迎え討つための戦力が必要だ。そのためにも、ヘブンズエデンに匿ってもらいたい。アーサーはこう頼み込んだ。

「いいだろ別に。この人がいなきゃ、きっと全滅してたろうし。お前らもいいな?」

狩谷は皇魔とレスティーに確認する。

「…確かに助かった。デザイアと完全に敵対しておるのなら問題あるまい」

「まぁこの人のおかげで助かったし、多目に見てあげてもいいんじゃない?」

「ありがとうございます!!」

皇魔とレスティーから許可をもらい、アーサーは深く頭を下げる。



こうして、新しい仲間が加わった。











アザトースの宮殿。

「私ノ…新シイオモチャ…」

アザトースはアンジェを手に入れられなかったのが相当悔しいらしく、ぶつぶつと呟いている。

「…」

ナイアルラトホテップはそれを少し離れた場所から見ていた。

(しかし、まさかアザトースが人語を習得されるとは…)

今までこんなことはなかった。本能で学習したとしても、少し学習しすぎだ。

(あいつらのおかげか?)

ナイアルラトホテップは少し、思案に入るのだった。周囲で狂った音色を奏でる、外なる神々の従者達の演奏を聞きながら。











「申し訳ありません。アーサーの始末に失敗しました」

イズマはルーラーの前に、膝をついて詫びている。と、

「幸運だったな。」

ルーラーはイズマに言った。

「は?」

「もしアザトースが現れなければ、お前は確実にアーサーを殺していただろう。だがアザトースが現れたことで、お前は自分の息子を殺さずに済んだ。だから幸運だったなと言っているのだ」

「…」

イズマは答えない。ルーラーは勝手に一人で話し始めた。

「アーサーがヘブンズエデンに引き取られたのはほぼ確実。だが、その程度のことでデザイアは落ちはしない。鬼宝院家も霊宮寺家も、このフォビドゥーンの位置は知っている。」

ルーラーがデザイアを結成してから千年以上経っているのだ。その間にアジトがバレないはずはない。だが、今まで落とされることは一度もなかった。

「敗れはせんさ。この私がいる限りはな」

一人笑うルーラーを、イズマは黙って見ていた。




はい、というわけで魔術アイテム、バルザイの偃月刀でアンジェが強化されました。さんざん悩んだんですけど、やっぱり強化することにしましたよ。仲間外れは寂しいですからね。バルザイの偃月刀についてはかなり独自解釈が強いですが、炎の精霊といったらクトゥグアしか思い付かなかったんで強引に結び付けました。そして、アーサーが仲間に加わりました。このアーサーは、ライオットさんがアイディアを送って下さったキャラクターです。ライオットさん、本当にありがとうございました。これからもどんどん活躍させますので、ご期待下さい!


今回は何とかなりましたが、まだ敵が滅んだわけではありません。いやはや、敵は多くて強いです。まぁ全滅させるんですけどね。


次回もお楽しみに!



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