第三十四話 特ダネ!?傭兵と魔鏡
最初に言っておきますが、タイトル詐欺です。
以前にも記述したが、ヘブンズエデンは普通の生徒が通う普通課と、訓練生が通う傭兵課に教室棟が分けられている。だがそれとは別にもう一つ、部活を行うための部室棟が存在しており、普通課傭兵課を問わず、部活に参加している者がそこを使用している。
「あ~もう、どうしよう…」
その一室、新聞部の部室で、一人の女子生徒が机に顔面を突っ伏していた。彼女の名は、鈴村亜紀音。この新聞部の部長である。
「失礼します。あ、部長。」
「どうしたんですか?ずいぶん調子悪そうですけど。」
そこへ、男子生徒と女子生徒が入ってきた。男子生徒は仁村陸堂。女子生徒は島方翔子。ともに、新聞部の部員である。
「部長が落ち込んでいる理由なら一つしかないだろう。」
その後から、また男子生徒が来た。セイン・ジーニアス。新聞部の副部長だ。
「…ひょっとして、ネタの話ですか?」
セインの言葉を聞いた陸堂はピンときて、それから改めて亜紀音に訊く。
「そうなのよ~学園祭で掲示する校内新聞のネタが見つからないの~。もう時間はないってのに…」
学園祭では、それぞれの部が何らかの発表を行う。だが新聞部では学園祭で発表するもの、校内新聞の内容が、まだ決まっていないのだ。
「せっかく学園祭っていうでっかい行事で発表するんだから、当然でっかいこと書いて発表したいのよ。」
「でもこのヘブンズエデンの中で大きな事件とか、そういうのはめったに起きませんよ?」
「ぐ…」
翔子の言う通りだ。一般人の日常から見れば異常なことしか起きないヘブンズエデンだが、ここではそれが日常茶飯事なのである。だから異常だと思えることを記事にしても、大抵が、ああそう、で終わることがほとんどだ。本当に異常なことなど、めったにない。こういう時、ヘブンズエデンがこんな学園だということが恨めしくなる。
「すいません、遅くなりました。」
と、そこにまた一人女子生徒が入ってきた。彼女の名は、メルア・リンディス。亜紀音に言われて、めぼしい場所に取材に行っていたのだ。
「どうだった?」
「はい。こちらが取材した内容です」
メルアは亜紀音に、自分が取材した内容を記したメモ帳を渡す。数十秒後。
「だぁぁもうダメダメダメ!!全っ然ダメ!!」
「ちょっ、早いですよ部長!!もっとちゃんと読んで下さい!!」
「ちゃんと読んだうえでダメだって言ってんのよ。どれもこれもありきたりなネタばっかり!」
早急にダメ出しされたメルアはすかさず抗議するが、メモ帳に書いてあった内容は亜紀音にとって見飽きたようなネタばかりで、とても学園祭で出せるものではなかった。
「はぁ…どっかにいいネタ、転がってないかしら…」
「転がってはいないと思いますけど…」
「でも確かに時間ないですし…」
陸堂と翔子も、ネタについて考える。そこでセインがメモ帳を手に取り、内容を確認してから言った。
「二年C組はどうだ?最近はあそこで面白いことが起きていると聞いているが。」
「「「!!」」」
反応したのは、陸堂、翔子、メルアの三人。
「え~あそこぉ~?確かになんか面白そうではあるけど…今エリックが帰ってきてるじゃない。」
亜紀音は三年生。学年的にはエリックよりも上なのだが、彼女は普通課の生徒。それに傭兵課の三年生でも、ほとんどがエリックの存在を恐れている。入学初日を境に、上級生の喧嘩に乱入して全員半殺しにする、模擬戦で相手の教師を殺しかけるなど、エリックは強烈なインパクトを与えるような行為を何度もしているのだ。彼の気質ゆえ普通課に顔を出すことはまずないが、それでも生きている、存在しているというだけで、普通課の生徒にとっては脅威だった。
「大丈夫ですよ!あのクラスには、ゲイルさんがいます!」
目を輝かせながら言う陸堂。彼と翔子、メルアの三人は、かつて取材帰りに傭兵課の上級生達に絡まれていたところを、ゲイルに救われたことがあるのだ。その上級生達はゲイルよりも上の学年だったが、ゲイルは構うことなく挑み、完勝。その時のゲイルの強さに惚れ込み、以来ずっと慕っている。
「でもゲイルって、エリックに目を付けられてるんでしょ?どこが大丈夫なのよ?」
「ゲイルさんはエリックさんとの戦いに、何度も勝っているそうです。」
「だったら余計にじゃない?結構執念深いらしいし…」
「でも…」
三人はよほどゲイルに会いたいらしい。亜紀音は新聞部の部長としても、部員が命の危機にさらされることはできる限り避けたいのだが…
「…わかったわ。そんなに行きたいなら行きなさい」
とうとう三人の頼みに折れ、取材を許した。
「「「ありがとうございます!!!」」」
こうして、三人は取材に行くことに。
*
二年C組、教室を訪れた三人。
「すいません。」
翔子が入り口から、生徒を呼んだ。
「はーい!」
反応して来たのは、アンジェ。
「どうしたの?」
「私達新聞部の者で、ゲイルさんに取材をしたいんですけど…」
メルアが自己紹介し、ゲイルを連れてきてくれるよう頼んだ。
「ゲイルは今理事長先生のところに行ってるよ。もう少ししたら戻ってくるんじゃないかな?」
「わかりました。ではお待ちします」
礼儀正しいメルア。新聞部の主な取材の担当は彼女で、相手を不快な気持ちにさせないため、礼節をわきまえているのだ。少しすると、
「あ、ゲイルさん!」
陸堂が戻ってくるゲイルの姿を見つけた。
「お前達はあの時の…」
「知り合い?」
「少し前からな。」
どうやらゲイルは三人のことを覚えていたらしい。
「それでどうした?」
「はい。本日は学園祭で掲示する校内新聞のため、ゲイルさんに取材に来たんです。」
「新聞の取材か…わかった。俺は何を話せばいい?」
「あっ…え、えっ…と…」
ゲイルは特に気にすることもなく引き受け、どんなことを話せばいいかを尋ねる。しかし、メルアは言いよどんでいた。
「どうしましょう!私取材内容忘れました!」
すぐ小声で二人に相談する。どうやらゲイルに会えたことで緊張してしまい、何を聞くか忘れてしまったらしい。
「えっ!?僕何も考えてないよ!!」
「わ、私も!!どうしよう!!」
今回の取材担当はメルアなので、当然陸堂と翔子は何も考えていない。たちまちパニックになる三人。
「…大丈夫か?」
「は、はい!も、もう少しお待ち下さい!」
ゲイルに気遣われ、メルアは取材内容を忘れたことを必死に隠そうとする。
「何だ何だ?」
「どうしたの?この人達は?」
と、狩谷と空子が来た。ゲイルとアンジェが教室の入り口で誰かと話し込んでいるので、少し気になったのだ。
「新聞部の人。学園祭の校内新聞に載せるから、ゲイルに取材に来たんだって。」
「どうも取材内容を忘れたらしい。」
「い!?」
気付かれていた。
「なるほど、じゃあ任務してるところとか載せてもらえばいいんじゃねぇか?ウチの学園の新聞にはうってつけだと思うが…」
狩谷の提案を聞き、メルアは少し落ち着く。確かに、傭兵育成機関を備えた学園なら、訓練生の一人が任務に励んでいる姿をピックアップするというのも、悪くない。
「…そうですね。では今回はそれで!」
これで取材については決まった。あとは、取材に使う任務だ。
「そういえば、ゲイルは何で理事長先生に呼ばれてたの?もしかして任務?」
「…ああ。」
空子の質問に、数秒ほど間を空けてから答えるゲイル。
「じゃあそれに同行させてもらえば…!」
任務も決まり、喜ぶ陸堂。
しかし、
「駄目だ。」
ゲイルは三人の同行を拒否した。
「どうして?」
今度はアンジェが質問する。
「そいつらは普通課の生徒だ。」
「でも、理事長先生に言えば許可はもらえるよ?」
「それでもだ。今回の任務は危険すぎて、俺一人で行こうと思っていたくらいなんだぞ。」
「そんなに危険な任務なのか?」
「一体理事長先生に何を言われたの?」
次々質問する狩谷と空子。ゲイルはそれに答える。
「エジプトで発掘されたニトクリスの鏡が、何者かに盗まれたらしい。」
その答えに、その場にいた者全員が凍りつく。
「ニ、ニトクリスの鏡…!?」
「それって確か…!!」
狩谷と空子は驚いた。
ニトクリスの鏡とは、クトゥルフ神話に登場する魔術アイテムの一つのことだ。古代の神官によって作られ、エジプトの女王ニトクリスの手に渡ったことから、この名で呼ばれている。ニトクリスの鏡は、様々な怪物がひしめく暗黒の世界を覗き見ることができる鏡で、この世界と暗黒の世界を繋ぐ次元の門でもある。女王は対立国の虜囚をこの鏡と一緒に牢屋に閉じ込め、鏡から出現する怪物に虜囚を始末させていたという。
「その鏡が一週間ほど前に発掘されたが、持ち出す前に強奪されたそうだ。」
エドガーから聞いたのだが、発掘に立ち合った者達の話だと、相手は不思議な力を操る男だったそうだ。聞く限り、ボーグソルジャーでもエボリュータントでもない。どちらかと言えば、インスマスで戦ったハワードのような、魔術師と言える存在だ。
「もし相手が力のある魔術師だとしたら、相当危険なことになる。」
エドガー曰く、熟練の魔術師なら鏡を操り、暗黒の世界から無限に怪物を呼び出し、使役することも可能とのことである。
「鏡の所在はもうわかっている。俺に下されたのは男を捕縛し、鏡を破壊すること。捕縛が難しければ、殺害もやむなしだ。」
「でも、あれってただのお伽噺話ですよね?実在するなんて…」
陸堂達はクトゥルフ神話が実話だということを知らない。だからゲイル達は、それを話すことにした。
「そんな…」
「わかったか?だからお前達を連れて行くには、危険すぎると言ったんだ。」
「じゃあ私達も一緒に行くよ。そうすれば…」
「それでも駄目だ。もし本当に相手が、ニトクリスの鏡を完全に操れるだけの魔術師だったらどうする?」
ゲイルがアンジェ達をすら誘わずに行こうとしていた理由は、決して彼女達の実力を信用していないからではない。敵の力を懸念してのことだ。もしニトクリスの鏡が神話通りの品で、なおかつ相手がそれを使いこなせるだけの魔術師だったら、守り切れる保障がない。秘策を用意しているゲイル以外は、下手を打てば全滅する可能性すらある。
しかし、
「オイオイ、前にも言ったはずだぜ?お前に心配してもらわなくても、自分の身は守れるってな。」
狩谷は引き下がらなかった。
「それにあたし達、前よりずっと強くなったのよ?」
「足手纏いになんてならないし、負ける要素なんて1%もない。」
空子とアンジェも言う。言われてみれば、確かにそうだ。三人とも、昔に比べてかなり強くなった。これならニトクリスの鏡が相手でも、勝てるかもしれない。
「…わかった。じゃあ、お前達も来てくれ。」
「よし来た!」
「そうこなくちゃ!」
任務の同行を許可されて喜ぶ狩谷と空子。
「あの…僕達も行っていいんでしょうか…?」
置いてきぼり状態になっていた三人を代表し、陸堂が尋ねる。
「いいよ。ニトクリスの鏡が実在してるって記事なら、かなり大きなネタになるだろうし、ちょうどいいでしょ?」
「時間もあまりないだろう。お前達は俺達が責任を持って必ず守るから、安心してくれ。」
アンジェとゲイルが言う通り、クトゥルフ神話が実話なのだとわかれば、非常に大きな特ダネになる。また、学園祭までそんなに日がない。ここらで取材を終えて記事を書き上げないと、間に合わないのだ。
「「「ありがとうございます!!」」」
何よりもゲイルに守ってもらえることが嬉しい三人は、元気良く一礼した。
*
ニトクリスの鏡は、エジプトのニトクリス女王のピラミッドにあった。そのピラミッドから少し離れた所に、小さな町がある。その町外れにある廃墟と化した教会に、奇妙な服装の男が出入りしているそうだ。
「ここから先には何があるかわからない。気を引き締めておけ」
教会の前で、ゲイルは全員に注意するよう呼び掛けた。アンジェは剣に変えたアークスを持ち、狩谷は黄の印をエルダーキングに変化させ、空子はメシアジャケットとアイアンクエイクを装備している。戦闘準備は万端だ。
「まず俺が行く。タイミングを見計らって来てくれ」
ゲイルはそう通達し、全員が頷いたのを確認してから、扉に張り付く。誰かいるかを確認するために聞き耳を立ててみるが、物音一つしない。
「…ッ!!」
意を決して扉を突き破り、中に飛び込むゲイル。プライドソウルを周囲に向けるが、敵の姿はなく、荒れ果てた光景が広がるのみだ。
「…」
ゲイルはよく安全を確認してから、アンジェ達を呼ぶ。それにしても、本当に荒れ放題な教会だ。使われなくなってから相当な年数が経っていることが伺える。
「どこを調べるの?」
「見たところ、ニトクリスの鏡はどこにもないみたいだけど…」
アンジェと空子は辺りを見回してみるが、ニトクリスの鏡はおろか、鏡らしい物すら見つからない。
「俺に任せてくれ。こういう所は…」
進み出た狩谷。彼は迷うことなく、教壇に向かって歩いていく。たどり着いた狩谷は教壇を横にずらす。と、教壇の下に何か金属の板のような物で蓋をしてあるのが見えた。狩谷がそれをどけると、地下に続く階段が…。
「な?」
「なるほど、地下室か。」
ゲイルは納得する。いくら廃墟とはいえ、盗んだ場所からこんなに近い場所に、盗んだ品を無造作に置いておくはずはない。隠すにしても、ここには隠せるような所はない。となれば、隠し部屋か何かがあるのは間違いない。
「い、いよいよですね…!!」
緊張する翔子。彼女達新聞部は、今までも訓練生の任務に何度か同行させてもらった。いわゆる、戦場カメラマンと似たような立ち位置だ。だが、こんな任務は経験したことがない。
「俺達のそばから、決して離れるな。」
再び注意を促してからゲイルは自分が先頭に立ち、狩谷をしんがりに置いて階段を降りる。
階段の下には、広大な空間が広がっていた。
「あの教会の下に、こんな広い空間があったんですね…」
「地下室なんてもんじゃねぇな。まるで神殿だ」
「地下に広い空間って、すごく嫌な思い出があるんだけど…」
メルア、狩谷、空子はそれぞれ感想を言う。いつ何者が襲ってくるとも知れぬ空間を進みながら、ゲイル達は神殿とも見紛う空間を進んでいった。
そして、七人は空間の最奥部と思われる場所に出る。そこには長い石段があり、最上部に何かが飾ってあった。
「あれ、鏡だわ!!」
視力がいい空子が、いち早く飾ってある物の正体を突き止める。石段の最上部に台座があり、その上に邪悪な装飾がされた鏡が飾ってあったのだ。
「あれがニトクリスの鏡か!!」
狩谷は鏡がニトクリスの鏡であると確信する。こんな場所に飾ってある鏡といえば、もうそれしかない。
「その通り。思ったより早かったな、この場所を嗅ぎ付けられるのは。」
声が響き、ゲイル達には見えない最上部の奥の方から、白いローブに身を包んだ男が現れる。
「あなたが鏡を盗んだ犯人だね!?」
「それも正解だ。しかし、盗んだと言われるのは心外だな。この鏡は持つべき者の手に戻ったんだよ」
アンジェの問いに、男はやれやれといった感じに答えた。今度はゲイルが質問する。
「持つべき者?お前のことか?」
「ああ。お前達は、このニトクリスの鏡を取り戻しに来たんだろう?しかも、この鏡がどんなものであるか知っていると見える。ならわかるはずだろう?この鏡は選ばれた者が持つべきだ。そう、私のような魔術師がな。」
やはり、男の正体は魔術師だった。
「この鏡の力で、私は世界を変える。選ばれた者だけが、魔術師だけが全てを支配する、理想郷へと!」
しかもとんでもない野望を秘めている。実質ニトクリスの鏡にはそれを可能とする力があるのだから、全く笑えない。
「そんなもの、理想郷なんかじゃない!!」
しかし、それをある人物が否定した。それはなんと、陸堂である。
「選ばれた人しか生きられない世界なんて、そんなの地獄でしかないわ!!」
「支配するとか、悪い方向に世界を変えてどうするんですか!!」
翔子とメルアも、次々反論する。
「…全部言われちゃったわね。」
「普通課だろうと、ウチの生徒だってことさ。」
空子はその光景を見て少し驚き、狩谷はさして驚きもせず納得している。対照的に、魔術師の表情はとても不快という感じだった。理由は言わずもがな、自分の考えを否定されたからである。正しかろうが間違っていようが、自分の考えを否定されるというのは不快なものだ。
「…無知な子供に私の崇高な理想を理解するのは無理か。だが、このまま帰すわけにもいかない。少し早いが、計画を実行に移すとしよう!」
魔術師はニトクリスの鏡の隣に立ち、その縁に触れる。
「実はまだこれを使ったことはなくてな…お前達には生け贄兼実験台になってもらうぞ!」
そう言ってから、呪文を唱える魔術師。一言一言告げる度に、鏡に変化が現れる。徐々に大きくなっているのだ。
「おい!なんか知らねぇけど、ヤバそうだぜ!」
警告する狩谷。その目の前で、やがてニトクリスの鏡は全長6mほどの大きさとなり、鏡面が真っ黒に染まった。
「さぁ、今こそ闇の世界への扉を開け!!忌まわしき者どもを呼び寄せ、全てを蹂躙するのだ!!」
魔術師が最後の言葉を言い終えると同時に、鏡にさらなる変化が現れる。真っ黒に染まった鏡面から、異形の怪物が何体も溢れ出てきたのだ。犬と人間が合わさったような怪物、食屍鬼。全身真っ黒な悪魔のような怪物、ナイトゴーント。以前戦った深きものどもや、ショゴスまでいる。それ以外にも様々な怪物が、どんどん出てきているのだ。
「応戦するぞ!!空子、弾幕を頼む!!陸堂達を守ってくれ!!」
「了解よ!!ライフイーター!!」
ゲイルに援護を任された空子は、一度アイアンクエイクを頭上高く放り投げ、ライフイーターを出してからキャッチ。
「一匹だって通さないわ!!」
襲い来る軍勢に向かって、射撃を開始する。
「アデル、起動!!」
アデルに変身し、先陣を切るゲイル。
「行くよ!!」
「戦いは俺らに任せて、お前らはしっかり記録しな!!」
「「「はい!!」」」
覚醒したアンジェと狩谷も続き、陸堂達三人は近くの物陰に隠れながら、写真を撮影したりメモを取ったり、この戦いを記録に納めようとする。
*
「ふん!!はぁっ!!」
アデルはプライドソウルを振りかざし、ナイトゴーントと食屍鬼を斬った。
「やああああっ!!」
アンジェはアークスで深きものどもを斬り捨て、たまにエネルギー弾も放って遠くの怪物も攻撃する。
「テケリ・リ!!テケリ・リ!!」
「ショゴスか!!あの時は苦戦したが…エクストリームエクスタシー!!!」
狩谷は向かってくるショゴスの群れを、巨大な魔力の斬撃で他の怪物もろとも消滅させた。以前の狩谷なら苦戦した相手だが、今回はショゴスを消滅させる手段を用意している。前ほど苦労はしない。
「正直言ってたった六千発じゃ心もとないんだけど…言ってる場合じゃないわよね!!」
空子はライフイーターとアイアンクエイクを乱射する。狙いは当然怪物の急所で、狙撃と速射の二つのアーミースキルを同時に発動させた空子の射撃は、押し寄せる怪物達の頭や心臓を的確に撃ち抜いて破壊し、ショゴスのような再生能力を持つ者以外を次々と絶命させていく。
「すごい…これがゲイルさん達の戦い…!!」
陸堂はアデル達の凄まじい戦いを見て圧倒されている。
「何だかすごく戦い慣れてる感じですけど、もしかしたらゲイルさん達はいつもこんなのと戦っているんでしょうか…」
メルアの予想は、間違ってはいない。さすがにしょっちゅう神話生物と戦っているわけではないが、それに似た連中となら戦っている。
「でも…!!」
が、楽観視できる状況ではないことを、翔子は知る。確かにアデル達は怪物達相手に、鬼神のごとき活躍をしているのだが、いくら倒しても、怪物達はニトクリスの鏡から出てくるのだ。
「このままじゃキリがねぇぜ!!どうする!?」
「俺が鏡を破壊する!!イグニスドライブ!!」
アデルはイグニスドライブを発動し、怪物達を無理矢理押し退けて進む。
「おおおおおおおおおおおおお…!!!」
進みながらプライドソウルにエネルギーを込めたアデルは、
「エンドオブソウル!!!」
必殺の一撃を、ニトクリスの鏡に向けて振り下ろした。だが、まるで空気を斬るかのように刃が通り抜け、鏡面には傷一つ付かない。すかさず今度は縁から斬ろうとするが、イグニスドライブで強化されているにも関わらず、エンドオブソウルは弾かれてしまう。
「はあっ!!」
動きが止まった隙を狙って、魔術師は手から光線を連射し、アデルを攻撃した。アデルは魔術師の攻撃をかわして下がる。
「馬鹿め!!古代の神官達が多くの技術を結集して生み出した鏡だぞ!!そんな攻撃で破壊できるはずがない!!」
「くっ…!!」
「だったら!!」
今度はアンジェがアークスをクローに変化させ、高速移動と瞬間移動を併用しながら鏡に接近する。
「ビーストクラッシュ!!」
繰り出したのは、空間ごと相手を破壊する必殺技。これを喰らえば、どれだけ頑丈だろうと関係ない。アンジェのビーストクラッシュはニトクリスの鏡を粉々に破壊する。しかし、バラバラになった破片は瞬時に集合し、元の形を取り戻す。
「さ、再生した!?」
とりあえず引き上げるアンジェ。
「ニトクリスの鏡には破壊された時に備えて、自己修復の術式が組み込まれている!!例え粉々にしようが吹き飛ばそうが、一欠片でも破片が残っていれば再生するぞ!!」
魔術師は勝ち誇りながら説明する。これではニトクリスの鏡を破壊するのは相当キツそうだ。その時、ナイトゴーントが一匹、空子の弾幕を抜けた。敵の数が多すぎて仕留めきれなかったのだ。
「しまった!!」
舌打ちする空子。だが今ナイトゴーントを狙えば、その隙に他の怪物達が雪崩れ込んでくる。ナイトゴーントは陸堂達に向かって飛び掛かっていった。
「ちぃっ!!」
アデルは全速力で飛び出し、ナイトゴーントを一撃で倒す。
「大丈夫か!?」
「は、はい!!」
「大丈夫です!!」
「ありがとうございます!!」
なんとか守れたアデルは、怪物達を一歩も寄せ付けまいとプライドソウルを向ける。そばにアンジェが下がってきた。
「どうするの?あれを壊すのはかなり難しそうだよ?」
ニトクリスの鏡の縁は凄まじい強度を持ち、鏡面は門と化しているため、物理攻撃は通じない。破壊できたとしても、再生されてしまう。となれば消滅させるしかないのだが、相手は鏡なので、光線技のワールドエンドブレイカーやプラチナアローシューティング、エクストリームエクスタシーは跳ね返されてしまうかもしれない。「…いや、まだ手はある。」
「えっ?」
「もう一度ニトクリスの鏡に触ることができれば…」
アデルには、まだあれを破壊する手段が残されている。それを行使するためには、あれに触らなければならない。だが、怪物が出現する速度は上がり続けており、もうかなりの数の怪物が鏡の前を埋めつくしている。対して、こちらはかなり不利だ。一番重要なのは、空子の弾薬。もしライフイーターの弾が尽きれば、ギガトラッシュに持ち替えたとしても弾幕が薄くなってしまう。そうなれば、陸堂達が危ない。それにアデルは大丈夫だが、アンジェや狩谷の体力も限界が近いはずだ。
「…わかった。じゃあ、私が一気に突破口を開く!」
「できそうか?」
「全然平気!!」
アンジェは飛翔し、アークスを弓に変化させ、
「プラチナアロースプレッド!!」
無数の矢を放つ。
「シャイニングフェザーストーム!!」
さらにシャイニングフェザーストームも併用し、それからまたプラチナアロースプレッドを撃つ。この連続攻撃によって、怪物はほとんど消滅した。
「今だよ!!」
「ああ!!」
アデルはイタカウイングの出力を最大にし、一気に鏡に迫ろうとする。
「ええい何をしている!!もっと怪物どもを出せ!!」
魔術師は鏡に命じながらアデルを魔術で攻撃し、それに応えるかのようにして鏡も怪物達を吐き出す。
「手下の数なら負けねぇぞ!!」
それを見ていた狩谷は十数体のバイアクヘーを呼び出し、
「モンストルオペラ!!!」
ハスターの歌で援護する。
「ギガトラッシュ!!」
空子もギガトラッシュを出し、怪物達を撃ち抜いていく。
「くっ!!だがどうしようというのだ!?お前達に鏡の破壊は不可能だ!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
アデルは魔術師の言葉を無視し、とうとうニトクリスの鏡に触れた。
「フィアーズイクリプス!!!」
次の瞬間、鏡が粉々に砕け散る。
「ははは!!何をしたのかわからないが、すぐに再生して…!!」
しかし、鏡は再生しない。
「ば、馬鹿な!!なぜ再生しない!?」
困惑する魔術師に、アデルが説明する。
「フィアーズイクリプス。触れた物を俺の支配下に置く能力だ。そいつで鏡に掛けられた術式を解除し、自壊させた。」
「な、何だと!?」
これがアデルの策だ。外から破壊できないなら、内から破壊すればいい。フィアーズイクリプスなら、それが可能だ。
「ぐぅぅぅ…よくも私の計画を!!こうなったら、お前達だけでも道連れにしてやる!!!」
怒り狂う魔術師はナイフを取り出し、それで自分の心臓を刺して命を断った。それと同時に、空間全体が揺れ始める。恐らく、魔術師が死ぬと空間が崩落を起こす魔術でも使っていたのだろう。
「アンジェ!!みんなを連れて瞬間移動で逃げろ!!」
「ゲイルは!?」
「俺はフィアーズイクリプスを使って崩落を止める。このままここが崩れたら、上にある町が危ない。」
これだけ大きな空間なのだ。崩落すれば、間違いなく町にも影響が出る。
「わかった。みんな、行くよ!!」
アンジェは瞬間移動を使い、狩谷達と脱出する。
教会の外。崩落が近いらしく、大きな地震が起きているそこへ、アンジェ達は瞬間移動してきた。
「あ、あれ!?ゲイルさんは!?」
陸堂達は距離があったためかアデルとアンジェの会話が聞こえておらず、アデルがいないので困惑している。アンジェはアデルがやろうとしていることを教えた。
「そんな!!危険すぎます!!」
「アンジェさん!!今すぐゲイルさんを連れて来て下さい!!」
「落ち着けお前ら。あいつなら大丈夫だ」
パニックになる翔子とメルアを、狩谷が一緒に移動してきたバイアクヘーを帰しながら落ち着かせる。
「ゲイルはこんな修羅場をいくつもくぐり抜けてるの。だから絶対崩落を止めて戻ってくるわ」
「…信頼してるんですね、ゲイルさんのこと。」
陸堂は空子達の落ち着きようを見て、彼女らが相当ゲイルを信頼しているのだと知る。
「まあね。」
一言だけ答える空子。
しばらくすると揺れが収まり、教会の中からゲイルが出てきた。フィアーズイクリプスで、地下空間全体に施された崩落の術式を解除することに成功したのだ。
「心配を掛けさせたな。悪い」
「いいってことよ。お前なら絶対戻ってくるってわかってたから、そんなに心配してなかったし。」
「それにしても、ゲイルさんはよくこんなことをする気になりましたよね?普通逃げると思いますけど」
陸堂はゲイルに訊く。すると、こんな答えが返ってきた。
「できることがあるのにしないのが嫌だった。それだけだ」
この言葉を聞いた瞬間、陸堂達三人の脳裏に、過去の出来事が思い起こされた。
彼らが以前ゲイルに助けられた時、こう質問したのだ。相手は自分より上の学年の生徒だったのに、怖くなかったのか、と。それに対するゲイルの答えが、今言ったものと全く同じだったのだ。できることがあるのにしないのが嫌だった。ゲイルは陸堂達を助けられる力があったから、助けたのだ。相手がどれだけ強大かは関係ない。できることがあるならする。ゲイルはそういう人物なのだと、三人は再認識した。
「さぁて、お前ら、いい記事は書けそうか?」
狩谷が尋ねる。
「はい!!」
「できた新聞は校内新聞コーナーに掲示しておきますので、絶対見に来て下さいね!!」
「今日はありがとうございました!!」
三人はゲイル達に礼を言い、
「ああ。ぜひ見せてもらう」
とゲイルは言った。
*
男子寮。
(まったく、今日はいろいろと疲れた)
新聞部から取材を受けたり、魔術師と戦うことになったり、町を救ったり。本当にいろいろあった。
(だが悪くなかった)
そう、決して悪いものではなかった。また、守るべきものができたのだ。
自分の部屋に入り、電灯をつけるゲイル。と、彼はベッドの上におかしなものがあることに気付いた。手紙だ。封筒に入った手紙が置いてある。鍵はちゃんと掛けてあったし、誰かが入った形跡もなかった。ゲイルは警戒しながら封筒を開け、手紙を取り出して内容を確認する。
手紙にはこう書いてあった。
『ゲイル・プライド殿へ
ヘブンズエデンの学園祭にて開催されるアーミートーナメントに出場し、必ず優勝されたし。さもなくば、学園に仕掛けた爆弾を爆破する。なお、この手紙の内容を口外したり、爆弾を解除しようとしても爆破する。私はいつでも貴殿を監視していることを忘れるな。では、賢明な行動を期待する』
ヘブンズエデン学園祭、及びアーミートーナメント開催まで、あと三日。
どうですか?僕のタイトル詐欺は。
今回は普通課にもスポットを当ててみました。普通課にも、ゲイルを慕っている生徒はいるんです。
ニトクリスの鏡を使った戦法は個人解釈ですがいかがでしたでしょうか?
そしてまたトラブルに巻き込まれるゲイル。いよいよ次回から学園祭編です!お楽しみに!




