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第三十二話 二学期、波乱のスタート

今回から二学期の始まりです!

夏休みが終わった。あまりにも多くの騒動が起きた夏休みが、とうとう終わった。しかし、あれだけの戦いを勝ち抜いたにも関わらず、ヴァルハラのことも、デザイアのことも、邪神のことも、何も解決していない。何も終わっていないのだ。もし解決していたとしても、ヘブンズエデンの訓練生である限り、戦いが終わることはない。さらなる困難が立ちはだかることだろう。だが訓練生達は直面した困難の数だけ、成長もした。前とは比べものにならないくらい、強くなった。これならどんなに大きな問題が起きようと、乗り越えていけるだろう。


今回はそういうお話だ。











ヘブンズエデンの体育館。実はこの学園の体育館は二つある。一つは普通課の生徒が使うためのもので、二つ目は訓練生が使うためのものだ。普通課用はまぁ普通の学校にある体育館とほぼ同じ広さだが、訓練生用の体育館はある目的のためにも使用するので、東京ドーム並みの広さがある。


ゲイル達は今、普通課用の体育館にいた。理由は、始業式を行うため。授業をするなら訓練生用を使うが、始業式しかしないなら普通課用で十分だ。

「というわけだ。二学期も心して、勉学に励んでくれたまえ。」

壇上で話すエドガー。彼の話は要点だけを押さえ、さっぱりしつつも中身があるため、大体開始から数分程度で終了する。エドガー曰く、どんなに偉くてもだらだらと長く話をする人間は、三流以下の人物らしい。自分はクトゥルフ神話の話になるとずいぶん長く語るのだが。ともあれエドガーの話が終わり、校歌も歌い終え、全校生徒が退場していく。

「なんつーか、これでやっと二学期が始まったって感じだよな。」

ゲイルの後ろから、狩谷が小声で話し掛ける。

「ああ。だが、それは同時に新たな戦いが始まることも意味している。今までの戦いも、肝心なものは決着していない。」

「そりゃ簡単に片付くわけねぇって。相手が相手だしよ」

ヴァルハラもデザイアも巨大な犯罪組織であり、邪神に至っては一歩間違えればこの星そのものを破壊しかねない。特に、アザトースは気まぐれだ。今はまだ大丈夫なようだが、それもいつまで持つかわからない。どうにか対処法を考えなくては。そう思っていると、ゲイル達二年C組が退場する番になった。

「行くぞ。」

「おう。」

続きは教室でしようと話を切り上げ、二人は他の生徒に続いて退場していった。











クルセイドキャッスル。

「お呼びですか?ミレイヌ様。」

玉座の間。盟主ミレイヌの御前に、一人のボーグソルジャーの男が呼び出された。ミレイヌはそのボーグソルジャーの名を呼び、命令を下す。

「ワース。あなたにはこれより、イギリスの基地を制圧しに行ってもらいます。」

「イギリス基地…あそこには確か…では、あの作戦を実行するということですね?」

「そうです。」

「かしこまりました。では、吉報をお待ち下さい。」

ミレイヌの指示だけで何をすべきか察したワースは、部屋から出ていく。

「もうワースを使うのですか?少し早すぎる気がしますが…」

フィスがミレイヌに訊いた。

「構いません。いつかはやろうと思っていたことですから」

ミレイヌは声色を変えることなく、ただフィスを撫でている。

「うまくいけば、ヘブンズエデンは今日で終わりです。」











「それにしても今日から新学期かぁ~」

アンジェは机に頬杖を付きながら言った。

「正直、そんな実感湧かないのよね。」

空子は自分の気持ちを言う。この夏休みの間、四人はいろいろな相手と戦った。ボーグソルジャーやエボリュータント、ダゴン秘密教団。だが戦いづくしのゲイル達にとっては、相手こそ特殊ではあったものの、はっきり言っていつもと変わらなかった。つまり一学期がずっと続いているような気がして、いざ二学期になっても二学期になったという感覚がないのだ。

「わかるわかる。俺も始業式やるまでそんな感じだった」

狩谷も同意する。

「ある意味では一学期はまだ続いていると言える。何も終わっていないんだからな」

ゲイルの言う通り、片付かなかった問題はいくつも存在しているし、そういった意味では確かに一学期はまだ続いていると言えた。

「一学期で片付かなかったなら、二学期で片付けるしかないよ。とにかく、気持ちを新しくしなきゃ。」

いつまでも引きずっていても仕方ないと、アンジェが締める。

「そういえば、もうすぐ学園祭だよな。ってことはアレもあるわけだ」

二学期最初のイベントは、学園祭。その学園祭のメインイベントのことを、狩谷が思い出す。


アーミートーナメント。その年におけるヘブンズエデン最強の訓練生を決める大会だ。訓練生用の体育館はこのために利用するのである。ちなみに去年の優勝者は、三年生の如月進一郎という男だが、卒業したのでもういない。

「俺さ、今回は出ようと思うんだ。こいつの力もあるし、結構行けそうな気がするんだよ。」

黄の印を見せながら言う狩谷。

「俺も出る。」

ゲイルも出るそうだ。しかし、

「あたしは遠慮しとくわ。」

「私もやめとこうかな。」

空子とアンジェは出場しないらしい。

「何でだよ?」

狩谷は尋ねる。空子が答えた。

「だって勝てる気がしないもの。こういう大会なら、絶対あいつが出るわよ。」

空子が見た先には、一人静かに席に着き、前を見ているエリックが。

「…やっぱやめるわ。」

狩谷は出場を辞退した。アーミートーナメントはその名の通りトーナメント制なので当たるかどうかはわからないが、エリックと絶対に戦いたくなかったからだ。アンジェの力ならエリックには対抗できるが、それでもアンジェはエリックと戦いたくなかった。なんとなく嫌だったからだ。

「その代わりに、ゲイルの番が来たら応援してあげるね。もちろんチアコスチュームで!」

「チ、チア!?」

これには空子も驚いた。彼女も応援側に回ろうとは思っていたのだが、まさかアンジェがそんなに気合いの入った応援をするとは思わなかったからだ。

「お、いいなぁそれ。空子も着てみねぇか?チアコスチューム。」

「はぁ!?き、着るわけないし!!何でそこまでしなきゃいけないのよ!?」

狩谷から言われて、赤面しながら嫌がる空子。

「え~?空子ってそういうの似合いそうなのに、残念だなぁ~…ゲイルも喜んでくれるかもしれないのに…」

「えっ!?」

アンジェの最後の一言に、空子は反応する。

(ゲイルも…?)

そして、なにやら悩んでいる。

「空子?無理はしなくていいんだぞ?それに、応援なんて必要」

「するわ!!やってやろうじゃない!!チアコスチュームでも、バニーコスチュームでも、何だって着てあげる!!」

ゲイルが気遣おうとした時、空子はゲイルに顔を近付けながら、さらに真っ赤になって言った。

「バニーは言ってないけど…」

「そりゃさすがに…」

「そこ!!うっさい!!」

アンジェと狩谷に引かれ、空子は頭から湯気を出す。

「…まぁ、何事もなく学園祭を迎えられればいいが…」

ゲイルが呟いたその時、


『緊急連絡を致します。ゲイル・プライド、アンジェ・ティーリ、狩谷信介、夏原空子。以上のメンバーは、速やかに理事長室へ向かって下さい。繰り返します』


緊急の呼び出しだ。

「…言ったそばからこれだ。」

「何だろう?とにかく行ってみようよ!」

四人は理事長室へ向かう。



ゲイル達が行ったのを見ていた光輝は、さだめに話し掛ける。

「一体どうしたんだろう?もうすぐメイリン先生来るよ?」

「…理事長先生からの呼び出しみたいだし、それにあのメンバー…ヴァルハラ絡みか、それ以外の大きな何かだと思う。」

「…大変だねゲイル達も。」

「仕方ないよ。もしヴァルハラ絡みならゲイル達の方が適任だし、そうでなくてもあの四人なら、大体のことには対処できる。」

さだめの言う通り、ゲイル達ならヴァルハラ相手に適任ではある。なぜならヴァルハラは強く、それと長く戦っているゲイル達は、もはや専門家と言えたからだ。

「悔しいなぁ…僕もあれくらい強くなれたら…」

光輝も交戦経験こそ少ないが、ヴァルハラがどれだけ厄介な相手かは理解している。あれに対抗するにはふさわしい力を得るしかなく、また自分の力は十分ではないことも理解していた。とにかく、今は力を付けることが重要だ。そのためにも、強い相手との戦いを重ねる必要がある。

「そういえば、もうすぐ学園祭だよね。アーミートーナメントには出るの?」

アーミートーナメントはそれにうってつけだった。光輝は出るつもりだ。

「光輝は出るの?」

「うん。」

「…私はどうしようかな?光輝が出るなら出ようかな。」

「それがいいよ。僕もさだめさんと戦いたいし…あ、でも勝ちは譲らないからね?手加減なしの真剣勝負!」

「わ、私だって!当たるかわからないけど…」

結局さだめも出ることに。すると、

「お前達も出場するのか。」

話を聞いていた皇魔が話し掛けてきた。

「皇魔さんも出るんですか?」

「無論だ。」

「私も出るわよ。」

レスティーも参加するらしい。

「ちょうど良い。お前がどこまで強くなったか、アーミートーナメントで見てやるとしよう。」

「よろしくお願いします!」

頭を下げる光輝。

「本当は久々に本気で皇魔と戦いたかったんだけど、さだめちゃんが参加するならせっかくだし、相手してあげる。当然、手加減抜きでね。」

「よ、よろしく…」

さだめは苦笑いした。だが正直、彼女も自分の力を試したかった。さだめもまた、力を欲していたからだ。いずれ必ず来る、光輝とウォントの決戦。その時少しでも光輝を助けられるように。











教室でそんな話が続いている間、理事長室ではゲイル達がエドガーから指令を受けていた。

「先ほどイギリスの基地から、正体不明の一団から襲撃を受けているという緊急要請を受けた。これが、敵の映像だ。」

エドガーが見せたのは、ヘルポーンにしか見えない兵士の軍団と、それを操る黒い怪物の映像だ。怪物は間違いなく、ボーグソルジャーだろう。

「直ちに基地へ飛び、敵を撃破してくれたまえ。」

「了解した。」

「「「はい!」」」

四人は返事をして、転移室からイギリス基地へ向かう。




「探せ!どこかに例の端末があるはずだ!」

ボーグソルジャー・ワースはヘルポーンに命じて、ある特別な端末を探していた。そこへ、

「見つけたぞ、ボーグソルジャー!!」

ゲイル達が到着する。

「アデル、起動!!」

「んっ!!」

「っしゃあ行くぜぇ!!」

「メシアジャケット!!ギガトラッシュ!!」

ゲイルはアデルに変身し、アンジェは覚醒。狩谷は黄の印をエルダーキングに変化させ、空子はメシアジャケットとギガトラッシュを装備する。

「くそっ!!少し遅かったか!!」

ワースは悪態をつき、胸のキャノン砲でアデル達を攻撃した。アデル達は散開してかわす。

「ボーグソルジャーは俺が倒す!!お前達はヘルポーンを!!」

「おう!」

「オッケー!」

「わかったわ!」

役割を分担し、アデルはワースと一対一で戦う。

「死ねッ!!死にやがれッ!!」

アデルに向けて砲撃を連発するワース。アデルはプライドソウルで砲弾を斬り払い、ワースの胴体を斬る。

「ぐわあっ!!くそぉ!!」

ワースは再び砲撃するが、アデルには当たらない。

(思ったより早く片付きそうだな)

ワースの戦闘力は、今まで倒してきたボーグソルジャーの中でもかなり低い部類に入るので、アデルはそう思いながらワースを追い詰めていった。


「おらおらおらぁっ!!」

風を使わず、エルダーキングだけでヘルポーンを圧倒する狩谷。

「ふっ!!たぁっ!!」

アンジェはアークスを双剣に変化させて戦い、

「アイアンクエイク!!」

空子は小回りを利かせるためにギガトラッシュをしまって、代わりにアイアンクエイクを使う。ボーグソルジャーに決定打を与えるには不足の武器だが、ヘルポーンには十分だ。敵の数はみるみるうちに減っていき、殲滅の完了も間近である。


「うおおっ!!」

アデルに首を掴まれて投げ飛ばされるワース。

「これまでだな。」

「くっ…!!」

ワースはアデルにプライドソウルを突きつけられ、満身創痍ながらも逃亡する。と、

「ワース様、コチラデス。」

一体のヘルポーンが逃亡中のワースを発見し、誘導してきた。

「やっと見つけたか!!」

ワースはヘルポーンについていき、一つの部屋を発見する。その部屋には何もなく、真ん中に一台だけパソコンがあった。ワースは一目でこのパソコンがスーパーコンピューターであることを見抜き、そしてこの部屋が探し求めていた部屋であると知る。そこへ、アデル達が追いついてきた。ヘルポーンが立ちはだかるが、アデルに一撃で倒される。

「残ったのはお前だけだ。観念しろ」

プライドソウルを突きつけて、降伏勧告をするアデル。しかし、ワースは笑っていた。

「俺一人残ってりゃあ十分さ。これでチェックメイトだ」

言いながらパソコンに手をかざすワース。すると、電源が入っていなかったパソコンがひとりでに起動し、ワースの身体が光り始めた。足元から光そのものに分解され、なんとパソコンの中に入っていく。

「あばよ。」

「待て!!」

事態の異常性に気付き、慌てて駆け出すアデル。だがアデルが一撃喰らわせる前にワースの身体は完全に分解され、パソコンの中に入ってしまった。

「お、おい!!どうなってんだ!?あのボーグソルジャー、パソコンの中に入っちまったぜ!?」

驚く狩谷。しかしそれもつかの間、パソコンの画面に何かが映される。


それはタイマーだった。二十分から始まり、徐々に減っていっている。


「これ、何のタイマーだろう?」

「理事長に連絡してみましょう!」

空子がエドガーに連絡し、状況を伝える。

「…なるほど、やられたね。噂には聞いていたが…」

どうやらエドガーには、そのタイマーが何を意味しているかわかったらしい。

「それは制限時間だよ。核ミサイル発射までのね」











核兵器。今でこそこの大量破壊兵器を使う国はないが、これそのものがなくなったわけではない。世界中が戦争のための抑止力と称して、いくつも所持しているのだ。しかし、互いに兵器を持って見合ったままでは、相討ちとなるのがいいところ。その相討ちを避けるため、イギリスでは極秘裏に世界中の核ミサイル発射装置の制御を奪うためのシステム、コアハックが開発されていたのだ。

「そしてワースは、パソコンなどの端末から自身をデータ化して、インターネットに侵入する能力を持っている。もちろん、ネットワークを自在に操作する能力も。」

ミレイヌはこのシステムを手に入れるため、ワースを出撃させたのだ。今までどの端末を使っても、コアハックを見つけることはできなかった。だが、コアハックがインストールされている機械を見つけることができれば、コアハックを操ることができるのである。

「攻撃目標はヘブンズエデン。インターネットの中にいるワースを倒し、システムを停止させることができなければ、ヘブンズエデンは確実に壊滅します。」

マヴァルは結論を述べた。

「さすが、我が組織一の智将ですね。」

ミレイヌはマヴァルを褒める。この作戦は、元々マヴァルが考えたものなのだ。前回のヴァルハラ宣伝作戦も、マヴァルが考案した。

「とはいえ、あのヘブンズエデンがこの程度のことで落とせるとは思っていませんが。」

しかし、マヴァルはまだこれでヘブンズエデンをこの世から抹消できるとは思っていない。何せあのエドガーが理事長なのだ。まだ何か手を用意しているのは間違いない。

「構いませんよ。今回この作戦を実行したのは私なりに考えがあってですし、もしこれで全てに片が付いたら、くらいにしか思ってはいませんから。」

そう、ミレイヌには独自の考えがある。成功しようが失敗しようが、本当に成功で本当に失敗かを決める権限は彼女にあるのだ。

(見せてもらいますよ)











「イギリス大統領を揺さぶるいいネタになると思って放置してたんだが、完全に裏目に出てしまったね。」

「んなことどうだっていいんだよ!何か方法はねぇのか!?」

狩谷はエドガーから、この状況を打ち破る方法を聞き出そうとする。

「今調べてみたんだが、どうやらそのボーグソルジャーはインターネットに侵入し、あらゆるネットワークを操る能力を持つようだ。これではいくらこちらから働きかけたところで、コアハックは止められないね。」

先ほどからエドガーはコアハックに干渉しようと試みているが、ネットを内側から操れる今のワースが相手では太刀打ちできるはずもなく、アクセスすることすら不可能だった。

「システムを止めるには、直接あのボーグソルジャーを倒すしかないってことですか?」

「そうなるね。元凶を断たないことには、システム停止は不可能だ。」

空子が尋ね、エドガーが答える。

「倒すってどうやってだ!?相手は今ネットの中にいるんだぜ!?当然こっちもネットの中に行かなきゃ、触れることすらできねぇ!!けどそんなこと無理だろ!?」

「私の力でも、ネットの中に入るなんてできないし…」

狩谷は慌て、アンジェも苦い顔をした。

「打つ手なしか…」

アデルもいろいろ考えたが、ネットの中に行く方法など考えつかない。せめてこちらにも、ネットワークを操る能力があるなら話は別だが。

(…待て。ネットワークを…操る…?)

そこで、アデルの脳裏に閃きが走る。そして思い付いた。ワースを倒す方法を。

「…下がっていろ。やってみたいことがある」

「ゲイル?」

アデルは心配そうなアンジェを下がらせ、パソコンの一部に触れると、

「フィアーズイクリプス!!」

腕からコードを伸ばしてキーボード、果てはパソコンの本体に潜り込ませた。まもなくして、パソコンの画面に変化が現れる。なんと、画面にもう一人、アデルが現れたのだ。

「どうやらうまくいったようだ。」

パソコンの中のアデルが喋る。

「ゲ、ゲイル!?お前一体何したんだ!?」

驚く狩谷。アデルはフィアーズイクリプスを使ってパソコンを操り、新たなプログラムを作り上げた。アデルと全く同じ姿、同じ力を持つもう一人のアデル。すなわち、アバターだ。アデルは自分のアバターを作ることによって、ワースと戦うという方法を考案したのである。そして、この方法なら自分の意識をアバターに宿すことができるので、普通と全く変わらず戦える。ネットの中に入ったのと、同じ状況なのだ。

「アバターか!!これなら!!」

狩谷もその手があったかと納得する。もっとも、フィアーズイクリプスという能力を持つアデルでなければ、こんな芸当はできないのだが。

「時間が惜しい。すぐに行ってくるぞ!お前達は俺の身体を守っていてくれ!」

「わかった!」

「気を付けてね!」

「頑張れよ!」

三人にひとまずの別れを告げ、ネットの海の中へと旅立っていくアデル。残った三人は、意識がない脱け殻状態となったアデルの本体を守らねばならない。というより、他にできることがない。今はアデルの勝利を信じて待つしかないのだ。

「さて、私もそろそろ手を打つとしようか。」

エドガーはある人物に連絡する。



タイムリミットは、既に十五分をきっていた。








広い。あまりにも広大な、あちこちにモニターやらなにやらが浮いている空間。ここが、ネットの中。電脳空間だ。

「チッ!まさかまだコアハックが未完成だったとはな…」

その中で、ワースは一人舌打ちしていた。今彼が言った通りコアハックは未完成で、世界の核ミサイル発射装置を支配してから発射するまでの時間が、少しばかり掛かっている。本来ならそれら全ての作業が五分で終わるのだが、二十分だ。四倍も掛かっていた。それだけでなく、未完成だったことが今までコアハックを特定できなかった理由でもある。

「まぁいい。こんなこと奴らが知ってるはずねぇし、わかったとしても二十分で避難が終わるわけないしなぁ。」

世界中の核ミサイルを全て一ヵ所に叩き込むのだ。正直な話、被害はヘブンズエデンだけに留まらない。というより世界が終わる。

「ゆっくりやりますか。奴らに何かできるってわけでも…」

さっきもシステムを止めようとしたエドガーに何度も干渉されたが、閉め出してやった。天才エドガーでさえ攻略できないのに、訓練生に何かできるはずもない。ワースは、そうたかをくくっていた。その直後、


「残念だが、俺にはできる。」


アデルが現れて、斬り掛かってきた。

「なっ!?」

間一髪で避けるワース。

「馬鹿な!!どうしてお前がここにいる!?まさかお前もネットの中に入れたのか!?」

ここに来るためには、自身をデータに変えなければならない。普通に異世界に来るのとは、わけが違うのだ。ミレイヌから聞いた話では、エンゼリオンでも電脳空間に来るのは不可能とのこと。

「アバターを作ったんだ。これでお前とも対等に戦える」

「アバターだと!?そんな方法で…!!」

確かに、アバターを使えばワースと戦うことはできる。しかしこんな短時間でアバターを作り、ここまで到着できるとは思っていなかった。

「少し舐めすぎたか…だがな、この電脳空間に来たくらいで俺と対等になったとは思うじゃねぇ!!」

ワースが手を振ると、周囲に多数の剣が出現し、アデルに向かって飛んできた。アデルはそれらをさばく。

「俺はネットワークを操ることができる!!迎撃プログラムを作ったりなんてこともできるんだ!!この世界はいわば、俺のホームグラウンドなんだよ!!」

「さっきのようにはいかないか…だが、コアハックは止めさせてもらうぞ!!」

新しく出現した無数の銃口、そしてワースの胸部キャノン砲からの一斉射撃を回避しながら、アデルはワースの撃破に全力を注ぐ。


タイムリミットは、あと八分。











「いやぁすまないねぇ。正直君までは必要ないかと思ったんだが」

エドガーは呼び出した男、エリックに詫びる。

「いや、君の実力を信用していないわけじゃないんだよ?過剰戦力というものが」

「私は何も言っていませんが。」

「とにかく、今は君の力が必要だ。何とかできそうかね?」

「当然です。いや、するしかないでしょう。それより、避難はしないのですか?」

「ああ、世界中に存在する全ての核ミサイルを使われたら、世界そのものが消える。どこに逃げても同じさ」

下手に逃げ回るよりは敵の作戦を確実に阻止する。それが、エドガーが考えた最善の策だった。知らせて余計な混乱を与えるより、知られないまま問題を片付けた方が、遥かに有益だ。

「わかりました。では、早速始めましょう。ビャクオウ、始動。」

了承したエリックはビャクオウに変身し、さらに、ある物に変身する。











電脳空間での激戦は続いていた。

「ルルイエセメタリー!!」

ダゴンとヒュドラを装備してワースを攻撃するアデル。

「おっとぉっ!!」

ワースは防御プログラムを構築し、バリアを張って防ぐ。

「ならばっ!!」

チャウグナルファングを装備して斬り掛かる。が、ワースは瞬間移動プログラムを構築して回避。

(まずいな…)

アデルは危機を感じ始めていた。先ほどからずっと続いているこの攻防。ネットワークを操作する能力をもってしても、ワースは根本的な火力がアデルに劣っているため、アデルを仕留めきれない。なので、戦法を防御と回避に専念するものへと切り替えたのだ。

「考えてみりゃあ簡単なことだ!!タイムリミットがゼロになるまで逃げ切れば、俺の勝ちなんだからな!!」

言いながらワースは、巨大なモニターを出す。そこには、タイマーが表示されていた。

「ほうら、あと一分三十秒だ。こいつがゼロになる前に俺を倒して、システムを停止させなきゃなぁ?ええ?焦るだろ?」

「くっ…!!」

アデルは確かに焦っていた。システムの停止自体は、フィアーズイクリプスを使えば一瞬で終わる。だがいくらシステムを停止させても、ワースを倒さない限り何度でも再起動されてしまうのだ。

「言われるまでもない!!ハスタードライブ!!」

ハスタードライブでスピードを上げ、ワースに再び斬り掛かる。だが、またかわされた。

「ほらほら、あと一分だ。」

ワースはかわしながらも挑発し、さらにアデルを焦らせる。

「黙れ!!」

その挑発に乗らないよう、必死に心を落ち着かせようとするアデルだが、状況は全く好転しないので、焦るばかりだ。

「あと十秒!!九…八…」

いつの間にかそこまで時間が減ってしまっていた。さらにアデルを焦らせるため、秒読みを開始するワース。アデルは攻撃するが、全てかわされてしまう。

「三…二…」

そして、

「一!!俺の勝ちだ!!」

あと一秒。もう間に合わない。

「ゼロ!!」

ワースが叫んだ。



だが…



「…あ?」

タイマーは、一秒の所で止まったままだ。いつまで経ってもゼロにならない。

「ああ!?」

驚くワース。

「イグニスドライブ!!」

アデルはその隙にイグニスドライブを発動し、

「しまっ!!」

「はぁっ!!」

ワースを斬った。

「ぐあああああああ!!!ど、どうして…!!」

プログラムの構築と発動が間に合わず、直撃をもらってしまったワース。だがそれより、コアハックが停止してしまったことの方が問題だった。

「コアハックは私が停止させました。」

電脳空間に、アデルがよく知っている声が響く。

「エリック!?お前なのか!?」

「はい。」

そう、エリックだ。エリックがコアハックのシステムを停止させたのだ。

「馬鹿な!!どうやってコアハックを停止させた!?俺のプロテクトをどうやって破りやがった!?」

ワースはエドガーからのアクセスを閉め出した後、また干渉されないよういくつものプロテクトを掛けていた。どれか一つでも破られれば、瞬時に気付ける。なのにワースは全く気付けず、システムは停止させられてしまった。自分に気付かれないようにプロテクトを全て破り、またコアハックを停止させることなど不可能だ。しかも見たところ、エリックは姿を見せていない。電脳空間に来てさえいないのだ。こんなことはあり得なかった。と、エリックが種明かしをする。

「イリュージョンナイトメア。生物か否かを問わず、あらゆる存在に幻覚を見せる私の能力です。この能力を使い、プロテクトに『破られていない』という嘘の情報を刷り込ませて破り、同じようにコアハックに緊急停止の情報を吹き込んで停止させました。」

「な、何だと!?」

「そういうことだ。これで心置きなく貴様を倒せる!!」

アデルは武器をプライドソウルに切り替えてエネルギーを込め、斬り掛かった。ワースはすぐに迎撃プログラムと防御プログラム、回避プログラムを構築しようとするが、先ほど受けたダメージが予想以上に大きく、処理速度が落ちてプログラムの構築が間に合わない。

「エンドオブソウル!!!」

「ぐああああああああああああああ!!!!」

結局何の抵抗もできず、ワースは爆発して消滅した。

「助かったぞエリック。」

「…ふん。」

戦いに勝ったアデルはエリックに礼を言うが、鼻を鳴らすような声だけ聞こえて、それっきり何も聞こえなくなる。

「…理事長。」

仕方ないので、モニターを出してエドガーに質問した。

「何だね?」

「…コアハックを破壊しても構わないか?」

元はといえば、コアハックがあるせいでこの戦いが起きた。こんなものがあるからヘブンズエデンは、世界は滅びかけたのだ。破壊してしまった方がいい。アデルはそう考えた。

「うーん…いいネタの証拠なんだがねぇ…まぁ仕方ない。また同じことをされても困るし、壊しちゃってもいいよ。」

こんな事実を公表すれば、大統領の失脚は間違いない。しかし、それよりも人命が第一だ。イギリスを揺さぶるネタなら、まだたくさんある。エドガーはこのネタを捨てることに決め、アデルにコアハックの破壊を許可した。

「了解した。」

モニターを消したアデルは、フィアーズイクリプスを発動した上で、新しい画面を出す。その画面には、『コアハックを消去しますか?』と書かれたメッセージがあり、その下にはYESかNOの選択肢がある。

「…デリートだ。」

当然アデルは、YESを選んだ。











エドガーのパソコンからディスクが排出された。そのディスクはビャクオウへと姿を変え、ビャクオウは変身を解除する。ビャクオウはレーダーのような機械は簡単に騙せるのだが、ネットワークそのもののような複雑なものを騙すには手順を踏まねばならない。それが、ディスクへの変身だ。ディスクに変身して端末に入らなければ、ネットワークの操作はできない。

「いやはやお見事。まるでチクタクマンだねぇ」

チクタクマンとは、ナイアルラトホテップの化身の一つのことだ。人工知能に憑依した化身で、機械の姿をしている。そういった意味ではビャクオウもまた、一種のチクタクマンと言えるだろう。

「褒められている気がしませんが。」

「まぁ褒め言葉だと思ってくれたまえ。」

エリックはむすっとしていたが、エドガーは全く意に介さない。

「ゲイル達はそろそろ帰ってくると思うが、会っていくかい?」

「結構です。」

きっぱりと拒否したエリック。

「そうかい。」

「問題は片付きました。私は失礼させてもらいます」

エリックはゲイルとの遭遇を避けるためか、足早に去っていった。

「…やれやれ、今回は本当に助けられた。だが…」

ゲイル達のおかげで、ヘブンズエデンの消滅は避けられた。しかし、それとは別に気掛かりがある。


アデルやビャクオウは、エドガーがクトゥルフ神話の邪神達をモチーフとして改造している。だがエドガーの技術力の全てを使っても、邪神達の力を完全に再現することは不可能だった。しかし、イビルゴッドモードやフィアーズイクリプスなど、ゲイル達の力は確実に邪神達のものへと近付いていっている。

「果たしてこれは良いことなのか…」

エドガーは当初、こうなることは想定していなかった。だがゲイル達は邪神そのものへと近付いているのだ。


禁断の力を使い続けた者は破滅する。もしかしたら、ゲイル達はいずれ…。


「…私はとんでもないことに彼らを巻き込んだのかもしれないな…」

エドガーは一人呟いた。




波乱のスタートをきったヘブンズエデンの二学期。そう、まだ始まりなのだ。激戦は続いていく。




訓練生達の戦いは、まだ終わらない。





始まって早々に世界が終わりかけた二学期ですが、世界が終わりかけるのは今回だけじゃありません。っていうか、今までも何回かありましたし、これからも何回かあります。地球の寿命がマッハだ!



次回は、所変わって光輝とさだめの物語です。またラブラブな二人が見られるかも?お楽しみに!



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