番外編 異形達の戦い
時系列的には、ナイアルラトホテップがハスターを復活させる直前です。
アメリカウィスコンシン州の森の中を、謎の一団が進軍していた。彼らはただの人間ではない。ヴァルハラから派遣されてきたボーグソルジャーだ。だが、今回はボーグソルジャーだけでなく、エボリュータントもいる。というのも、今回の任務はかつてないほどの危険性と重要性を秘めた任務だからだ。デザイアからも戦力を借りねばならぬほどの任務。その内容は、邪神ナイアルラトホテップの討伐である。
クトゥルフ神話において主神アザトースの従者を勤める神々のトリックスター、ナイアルラトホテップ。この神は神話の中の存在でしかないはずだったのだが、先日盟主ミレイヌの命によって行われた偵察により、実在する神であることが判明した。クトゥルフ神話を知る者は大きな衝撃を受け、知らぬ者も知る者から話を聞くことによって重大な危機を感じ取り、今ヴァルハラ内は騒然となっている。世界を改変できるだけの力を持つこの邪神に目を付けられたら、最終計画を阻止される可能性があるからだ。そうなる前に撃破する必要がある。事態を重く見たミレイヌは、部下達に命じて世界中でナイアルラトホテップの捜索を行った。デザイア側もミレイヌから事情を聞き、捜索に協力してくれた。そして、とうとう有力な情報を入手することに成功したのだ。アメリカウィスコンシン州の町にナイアと名乗る女性が現れ、買い出しを行っているらしい。何でも町中の書店で、大量の書物を買いあさっているとか。なぜナイアルラトホテップが書物を買っているのかは定かではないが、これ幸いとヴァルハラは偵察部隊を派遣。その結果件の女性を発見し、リック湖周辺に存在する森の中へと消えていくのを確認した。
ウィスコンシン州にリック湖周辺の森と聞けば、勘のいい方はもう気付かれたのではなかろうか。そう、ンガイの森である。ンガイの森とは、ナイアルラトホテップが地球で活動するために利用する架空の森のことだ。以前クトゥグアに焼き払われたはずだが、こうして木々が生い茂っているのを見る限り、それはウソだったようだ。というより、ンガイの森が実在していたこと自体驚きだが。
「しかしふざけてるよな。わざわざ追われるような痕跡を残すなんてよ」
ボーグソルジャーの一人、ノストが言った。確かに、ふざけているとしか思えない。そもそもなぜ町で名前が知れ渡っていたかといえば、ナイアルラトホテップが書店の店員に教えたからだ。店員からすればナイアルラトホテップは絶世の美女で、また店を贔屓にもしてくれているから、ぜひとも馴染みになりたかったのだろう。ナイアルラトホテップは用心深い邪神で、自分が生き残るための策を二重も三重も用意しているはずなのだが、今回はうかつすぎる。もっとも、自分が追われる身になっていることなど知らないのだろうが。
「ナイアルラトホテップは数多く存在する神の中でも、唯一人間の心を持っていると言われています。それが原因かもしれません」
女性のボーグソルジャー・サウルが敬語で言った。
「ずいぶん歩いてるはずだけど、肝心のナイアルラトホテップはいないわね。」
「もしかしたら、今は留守にしているのか…」
ボーグソルジャー・イスタルと、ボーグソルジャー・ウェスティンは森を見回す。結構広い森なので、ナイアルラトホテップの姿はなかなか見つからない。ただ、ここがンガイの森だということは確信できた。ンガイの森には奇怪な生物の石像や、巨大な足跡、爪痕などが残されている。彼らはナイアルラトホテップの代わりに、それらを見つけたのだ。ここが彼女の活動拠点というのは、まず間違いない。
「気を付けられよ。いかにこれだけの面子がいるとはいえ、相手はかの邪神ナイアルラトホテップ。」
「下手を打てば、まとめて全滅する可能性もあるよ。」
男性エボリュータントのアルファスと、女性エボリュータントのダウネが、注意を促す。
「大丈夫だ。俺達が負けることなど、あり得ない。」
「それに私達、この任務に成功したら、結婚式挙げるんだもの。」
ウェスティンとイスタルは現在交際関係にあり、式を間近に控えている。ナイアルラトホテップの退治に成功して帰還したら、式を挙げるつもりなのだ。
「ったく、犯罪組織のメンバーだってのに、人並みに幸せがあるやつらはいるもんだねぇ。めでたいが、ちと妬けるぜ。」
ノストは二人の今後を祝福しながらも、少し嫉妬している。
その時、六人の頭上から声が降ってきた。
「立~てちゃった~立てちゃった~♪死亡フラグ立てちゃった~♪」
妖しげな響きを含んだ、女性の声。六人が見上げると、木の枝の上に女性が腰掛けている。直感でわかった。この女性こそ捜していた邪神、ナイアルラトホテップなのだと。
「話は聞かせてもらったよ。君達、ボクを倒しに来たんだろ?ボクのことを知っていながらずいぶんと余裕じゃないか。」
妖艶な笑みを浮かべたナイアルラトホテップは少し笑ってから飛び降り、六人の目の前に着地した。
「ナイアルラトホテップ…!!」
「出やがったな!!」
サウルとノストは身構え、ソルジャースタイルに変身した。残りの四人も変身する。サウルのソルジャースタイルは、一言でいうならボクサー。巨大な拳を持つ、岩石でできたボクサーだ。ノストのソルジャースタイルは、銃士。黒い甲冑を着込んだ銃士といったところか。ウェスティンは赤いボディースーツの男、イスタルは青いボディースーツの女、アルファスは黄色い人狼、ダウネは緑のヒョウ人間である。
「まぁ待ちなよ。」
早速飛び掛かってこようとする六人を片手で制するナイアルラトホテップ。
「君達の相手はボクだ。ボクと本気で戦うのなら、死は避けられない。何か言い残すことがあれば聞いてあげよう」
なんと、遺言を聞くと言い始めた。しかし、
「ない。」
とウェスティンに一蹴される。
「おいおい、そんな即答しなくても…ちゃんと考えなよ?君達の命に関わるんだからさ。っていうか、本当にボクと戦うつもりかい?大人しく帰ってくれれば、君達がここに来たことは忘れてあげよう。どうだい?神の忠告はちゃんと聞くもんだよ?」
「残念ながら、ここにいる連中は全員覚悟を決めてきています。」
「あなたを始末するまでは、帰れって言われても帰れないのよね。」
サウルとイスタルが決意を述べ、改めてナイアルラトホテップの忠告を拒否した。
「…はぁ…せっかく見逃してあげるって言ってるのに、これじゃあ実力行使に移るしかないじゃないか。」
ナイアルラトホテップはため息をついてから、
「やだなぁ、暴力沙汰は嫌いなのに。」
笑みを浮かべる。その笑みを見た瞬間、六人は察した。絶対暴力沙汰が大好きだと。それくらい邪悪な笑みだったのだ。
「わかりやすい嘘を…!!」
アルファスは身震いしつつも何かを詠唱し、両手を地面に付いた。次の瞬間に、ナイアルラトホテップの足元から巨大な火柱が上がる。
「魔術か。」
しかしナイアルラトホテップは宙返りしてかわし、近くの木の枝の上に着地した。
「そうだ!!魔術を使えるのは貴様だけではない!!」
アルファスは魔術にも精通しているエボリュータント。魔術絡みの邪神であるナイアルラトホテップを倒すため、今回のメンバーに選抜されたのだ。
「じゃあ君はボクの後輩ってわけだ。それなら、先輩としていろいろ教えてあげようか?」
「ほざくな!!」
「俺達がいることも忘れるなよ!!」
アルファスは魔力弾を無数に飛ばし、ウェスティンが魔力弾とともに雪崩れ込む。ナイアルラトホテップはそれらを軽やかにかわすが、それに合わせて他の四人も攻撃してくる。だが、それでも当たらない。
(正直言って期待外れかな…)
本人すら、もう何年か忘れてしまったほどの年数を生きてきたナイアルラトホテップ。戦えばどんな相手の実力も大体わかる。そんな彼女だからこそ、このボーグソルジャーとエボリュータントの混合部隊の力は、期待外れと言えた。
「君達の相手なんかしててもつまんないから、さっさと終わらせるね。」
ナイアルラトホテップは片手を真上にかざす。すると、彼女の手に魔力弾が現れた。周囲にも同じように、魔力弾が出現する。
「こ、これは…!!」
魔術に精通しているアルファスだから理解できた。ある魔力弾は内側に灼熱の業火を内包し、またある魔力弾は絶対零度を内包している。他にもあらゆるものを打ち砕く雷や、全てを吹き飛ばす暴風など、一つの魔力弾に込められた力がそれぞれ違うのだ。これらの力を魔力で包むことによって魔力弾とし、周囲への影響をなくしている。着弾と同時に魔力と力を解放し、大規模な破壊をもたらすのだ。
「これだけの大魔術を同時に発動するとは…!!」
「だからボクの方が先輩だって言ったろう?」
強大な力を持つ邪神でありながら、魔術師としての優れた手腕も持ち合わせているナイアルラトホテップ。
「…だがまだまだ!!」
「?」
「ノスト!!」
「おう!!」
アルファスの合図とともに、ノストが右手の自動式拳銃を、魔力弾に向けて一発ずつ撃った。その銃弾を受けた魔力弾は、一発、また一発と消えていく。
「対魔術弾!」
ナイアルラトホテップはノストの銃に込められた弾が何であるか気付いた。ノストが使ったのは、魔術を打ち消す術式が組み込まれた銃弾、対魔術弾。
「こっちも喰らいな!!」
ノスト続いて左手のリボルバーで、ナイアルラトホテップを撃った。
「おっと!」
かわすナイアルラトホテップ。しかしその直後、
「あれ?」
彼女は動けなくなった。見ると、ダウネが両手をナイアルラトホテップに向けている。ダウネは超能力に精通しているエボリュータントで、念動力を使ってナイアルラトホテップを動けなくしたのだ。
「もらった!!」
すかさずリボルバーを撃ち込むノスト。ナイアルラトホテップは撃たれた箇所に激痛を覚え、また脱力を感じて、さらに無力化された。彼女も何度か撃たれたことはあるが、彼女の耐久力は地球上の何よりも高い。例え核ミサイルを数百発ぶち込まれようが、傷一つ負うことはないのだ。それが普通の拳銃でダメージを受けた。これはおかしい。だがナイアルラトホテップは、拳銃が原因ではないと気付く。なぜなら、今の彼女は脱力しているからだ。痛みで力を入れられない、というならわかるが、それほど痛いわけではない。だが、力が入らない。何か別の要因で、力が入らないのだ。
「対神弾か…」
神に拳銃でダメージを与えられ、なおかつ力を奪うと言ったら、神に効果的なダメージを与え、さらに弱体化させる術式を組み込まれた銃弾、対神弾しか思い付かない。
「これで終わりだ!!」
片手をナイアルラトホテップに向けるウェスティン。直後、
ナイアルラトホテップが大爆発を起こして砕け散った。
これが、ウェスティンの能力である。念じた場所を爆破する能力で、相手を内側から破裂させることもできる。爆破の威力も調整でき、最大で核爆発の十三倍の爆発を起こせるのだ。
「どうですか!?」
爆発の跡を確認するサウル。ナイアルラトホテップの身体は、首だけを残して塵になっていた。
「やったぜ!ナイアルラトホテップを倒した!!」
喜ぶノスト。
「作戦通りだね。」
ダウネは頷く。ナイアルラトホテップは魔術師なので、魔術を使ってくることが読めていた。そこで、サウルとイスタル、アルファスがナイアルラトホテップを撹乱し、ナイアルラトホテップが大規模な魔術を使ってきたところで、作り方さえ知っていればどんな銃弾でも生成できるノストが魔術を打ち消し、ダウネが念動力で動きを止め、再びノストに弱らせた後でウェスティンが内側から爆破してとどめを刺す。そういう作戦だった。ちなみに対魔術弾と対神弾の作り方を教えたのはアルファスだ。
「しかし、やはり神だけあって頑丈だったな…最大出力で爆破したんだが…」
本当なら爆破した後、爆発に巻き込まれる前にダウネの瞬間移動で離脱するはずだったが、ナイアルラトホテップは思いのほか頑丈で、内側から全力で爆破したというのに威力がかなり抑えられ、離脱しなければならないほどの爆発にはならなかった。しかも、首だけは残っているという。神、頑丈すぎだ。
「で、どうするの?一応ナイアルラトホテップを撃破したっていう証拠に、この首持って帰る?」
「それがいいだろう。そうすれば、ミレイヌ様も安心できる。」
「気持ち悪いからあんましそういうことしたくねぇんだけどなぁ…」
これからどうするかについて相談するイスタル、ウェスティン、ノストの三人。
その時、
「いやぁ、びっくりしたね。」
ナイアルラトホテップの声が響いた。
「何!?」
アルファスが驚いて辺りを見回すが、ナイアルラトホテップの姿はどこにもない。
「ウェスティン。貴様、本当にナイアルラトホテップを内側から爆破したのだな?」
「ああ、間違いない。」
「けど何で…」
アルファスはウェスティンに確認し、ダウネは引き続き警戒する。と、
「ここだよ。」
また声が響いた。ダウネが声のした方向を見ると、そこにあったのはナイアルラトホテップの首だった。
「…まさか…」
そんなはずはないと思いながらも、首を注視するダウネ。
「そのまさかだよ。」
やはりそうだった。先ほどの声は、この首のものだ。首だけになったナイアルラトホテップが、かなり普通に喋っている。
「な、何だと!?」
これにはウェスティンも驚愕を禁じ得ない。
「ちょっと君達を甘く見てたよ。」
ナイアルラトホテップの首は六人が見ている目の前で空中に浮かび上がり、黒い光となった。その光はぐにゃりと輪郭を歪めて一瞬で大きくなり、光が消えた時、ナイアルラトホテップは元の姿に戻っていた。
「このボクを首だけにしたのは地球上で君達が初めてだ。そのご褒美として、少しだけボクの力を見せてあげようじゃないか。」
ナイアルラトホテップがそう言った瞬間、彼女から威圧感のようなものが発生した。
「ボクは本来、パンチ一発で五百の惑星を破壊できるだけの力を持っている。そんな力をそのままにしてたら、こんな小さな星はいるだけで消えてなくなってしまう。だからボクは三百層に及ぶ能力抑制術式を自分にかけることで、人間より少し強い程度に力を抑えている。そのうち七層を解放したから、今まで通りにはいかなくなるよ。」
六人はナイアルラトホテップの計り知れない力を知り、驚いた。そこまで強大な存在だとは思わなかったからだ。
「…仕方ない。作戦Bで行くぞ!」
次の作戦を指示するウェスティン。
「了解!!はぁっ!!」
まず全力の念動力でナイアルラトホテップを押さえにかかるダウネ。
「もう一度喰らいやがれ!!」
再度対神弾を撃つノスト。しかし、
「ふっ!!」
ナイアルラトホテップは力で強引にダウネの念動力をはね除け、対神弾をかわした。
「言ったろう?今まで通りにはいかないって…!!」
まず標的を定めたのは、ダウネ。顔面を打ち砕こうと殴りかかる。ダウネはそれを瞬間移動でかわして、背後から蹴りを放つ。だが、ナイアルラトホテップもまた同じように瞬間移動でかわし、そこから瞬間移動合戦が始まる。
「はっ!!」
「ぐあっ!!」
勝ったのはナイアルラトホテップ。ダウネを地面に叩きつける。しかし、ナイアルラトホテップに隙が生まれた。
「らぁぁぁぁぁ!!!」
それを逃さずに殴りかかるサウル。ナイアルラトホテップは桁外れなまでの生命力と再生能力を持つが、実はサウルの拳には再生能力の阻害能力があり、サウルから殴られてダメージを受けたものは再生しない。このサウルの攻撃を当ててナイアルラトホテップを弱らせるのが、作戦Bだ。
が、ここで彼らはナイアルラトホテップがどんな邪神であったのかを、再認識することになる。
本来かわすか受け止めるかするサウルの拳。しかし、ナイアルラトホテップはどちらもせず、反撃した。その反撃方法が問題だった。
彼女は口を耳まで裂けるほど大きく開き、舌を正面に突き出した。
そして突き出された舌はサウルの拳をも超えるほど大きな金属のドリルに変化し、超高速回転を始めたのだ。
「ぐああああああああ!!!」
突然の反撃に拳を引くことも止めることもできず、サウルはナイアルラトホテップのドリルに拳をえぐり砕かれた。
「サウル!!」
「よくもサウルを!!」
左右から攻撃するウェスティンとイスタル。アルファスも身体強化魔術で自分を強化し、攻撃に参加する。対するナイアルラトホテップは舌と口を元に戻し、両手の指全てを鋭利な剣に変化させ、斬りつけて反撃した。
「んなろぉっ!!」
ノストが対神弾を撃つも全て回避され、
「うるさいよ。」
銃口に変化した両手の指から光線を放たれて吹き飛ばされる。まさしく変幻自在。これが、ナイアルラトホテップの本質なのだ。
「どうしたの?君達のつまらない作戦はもうタネ切れかい?」
「くっ…大丈夫かサウル?」
ウェスティンは指を戻したナイアルラトホテップから挑発されながらもそれには乗らず、まずサウルの安全を確保することから始める。
「すいません。左腕を完全に砕かれました」
「…なら、作戦Cを実行するしかない。イスタル、頼めるか?」
「もちろんよ。」
作戦Cは、イスタルにナイアルラトホテップを倒させること。一同は、イスタルなら確実にナイアルラトホテップを倒せると思っていた。
「行くわよ、ナイアルラトホテップ!!」
「来なよ。何ができるのか見せてくれ」
飛び掛かるイスタル。その直後、イスタルの両手の指が鋭利な剣に変化した。
「!?」
自分がやったのと同じことをされて、少し驚くナイアルラトホテップ。とりあえず、イスタルの攻撃をかわして距離を取る。
「まだまだ!!」
次にイスタルが使ったのは、ナイアルラトホテップが使ったものと同じ魔力弾。
「やぁっ!!」
複数の魔力弾全てを、ナイアルラトホテップへと飛ばす。
「おいおい、クトゥグアに焼き払われてからここまで森を育てるのにどれだけかかったと思ってるんだ。」
ナイアルラトホテップは両手を大きくして一発一発を丁寧に受け止め、握り潰す。相手の魔術を打ち消す消去の魔術も同時に使っているので、炸裂はしない。
「…君、ボクの力をコピーしたのかい?」
手を戻したナイアルラトホテップはイスタルの能力を見抜く。
「そうよ!私は一度見た相手の技を、そっくりそのまま再現できるの!自分の技で死になさい!!」
「ふ~ん…」
本当ならとんでもない能力なのだが、ナイアルラトホテップは興味がなさそうだ。そんな反応を無視して、再度飛び掛かるイスタル。
「これで終わりよ!!」
「…そうだね。」
ナイアルラトホテップはイスタルに片手を向け、その直後、
イスタルが破裂した。
「…何?」
「…は?」
何が起きたのかわからず、呆然となるアルファスとダウネ。そんな中、
「貴様…貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!イスタルに何をしたぁぁぁぁぁぁ!!!」
ウェスティンだけが激昂した。ナイアルラトホテップはうるさそうにしながら、何をしたのか教える。
「魔術を使ったんだ。因果律に干渉して、ボクの能力をコピーした相手を破裂させる、っていう因果を作り上げる魔術をね。」
「ば、馬鹿な!!そんな高度な魔術は存在しないはず…!!」
「ないよ。だから今術式を組み上げて作った」
驚くアルファス。イスタルもとんでもないが、ナイアルラトホテップはそれを遥かに上回るとんでもなさを持ち合わせていた。
「名付けるなら、盗人への報復といったところかな?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
我を忘れてナイアルラトホテップに挑むウェスティン。
「おい、どうすんだよ!!やべぇぜ!!」
ノストはアルファスにどうすればいいか意見を求める。
「まずい…ナイアルラトホテップは我々が勝てる相手ではなかった。かくなる上は、作戦Dだ!」
「了解!」
「おう!」
アルファスを残して突撃するダウネとノスト。
「ウェスティン!作戦Dだ!」
「!!」
熱くなっていたウェスティンだったが、ノストから作戦Dの開始を告げられ、すぐ冷静になる。この作戦は、ナイアルラトホテップに内容を知られぬよう足止めすることが肝要だ。
「全力で行くぞ!!アルファス、サポートを頼む!!」
「心得た!!」
まず、アルファスにサポートするよう言うことで、普通に戦うよう思い込ませる。
(うまくいけばいいですが…!!)
サウルは腕を再生させつつ、見守ることにした。ナイアルラトホテップは特に動きを見せることもなく、身体を武器に変化させ、魔術を使い、一手一手確実にウェスティン達を追い詰めている。
そして、
「下がれ!!」
準備は整った。
「!!」
ナイアルラトホテップを光が包む。光は鎖となって彼女を地面に縫い付け、足元から身体を少しずつ凍り尽かせていく。
「氷壁封印だ!!いかに貴様であろうと、この封印は破れぬぞ!!」
銀河系すら容易く滅ぼし、世界そのものを改変できる力を持つナイアルラトホテップ。はっきり言って彼女の力は、ミレイヌやルーラーを凌駕している。数百層ある能力抑制術式をたった七つ解放されただけで、もう手も足も出ない。そんな大邪神を倒すことなど、不可能だ。だが、倒すことは無理でも、封印することはできる。アルファスが使ったのは、相手の力を吸い出し、その力を利用して氷壁の中に封印する、氷壁封印だ。その特性ゆえ、内側からは決して破れない。
「なるほど、これが君達の奥の手か。でも、君達はボクの力を知らなすぎだ。ボクを滅ぼすことも封印することも、決してできはしないよ。」
既に胸から上まで凍ってきているのに、余裕なナイアルラトホテップ。
「戯れ言を…そこから何ができる!!」
「んふふ。すぐに…わか…るよ…」
アルファスが見守る前で、ナイアルラトホテップは不敵な笑みを浮かべたまま、完全に凍結させられた。
「…終わりましたね。」
結局再生は今終わったが、安心するサウル。
「ああ。今度こそ、俺達の勝ちだ!」
「これでいいんだよね?ナイアルラトホテップが言ってたことが少し気になるけど。」
「イスタル…仇は取ったぞ…」
各々勝利を噛みしめる戦士達。
だが、アルファスが頭を殴り砕かれた瞬間に、それは絶望へと変わる。
なぜなら、アルファスを殺したのは、ナイアルラトホテップだったからだ。
しかし、ナイアルラトホテップは今、彼らの目の前で封印されている。にも関わらず、なぜそんなことができたのか。答えは簡単である。ナイアルラトホテップは、もう一人いたのだ。
「そ、そんな…どうして!?」
ダウネの問いかけを無視して、もう一人のナイアルラトホテップは封印されているナイアルラトホテップに触れる。
「助けに来たよ、ボク。」
「来てくれてありがとう、ボク。」
封印が解除され、封印されていたナイアルラトホテップが解放される。内側からは破れない封印だが、外からは簡単に破れるのだ。
「こ、こいつはどういうこった…!?」
周りを見渡し、ノストは気付いた。いつの間にか彼らを、数十にも及ぶナイアルラトホテップが取り囲んでいたのだ。
「これがボクの奥の手。ボクは分身して活動できるんだ」
ナイアルラトホテップは、複数の化身を同時に生み出すことができる。これにより、例え多くの彼女が倒されたり封印されたりしても、誰か一人が残っていれば、そこからまた分身を生み出せる。今のように、一人の危機に数十人の分身を向かわせて救出することもできるのだ。
「言ったろう?ボクを滅ぼすことも封印することも、決してできはしないって。」
そう言いながら、ナイアルラトホテップの一人が、自分の片腕を剣に変えて振りかぶり、
「君は死亡フラグを立てていたよね?回収させてあげよう。この神罰剣で」
エネルギーを込めて、
「エルトリオ・アポレティス!!」
ウェスティンを斬った。
「イ、イスタル…」
消滅するウェスティン。本来なら大規模な破壊をもたらす技だが、因果律を操作して斬った相手だけを消滅させ、周囲には影響を与えないようにしている。
「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ヤケを起こしたノストは、ナイアルラトホテップ全てに向けて対神弾を乱射し、サウルとダウネは全力で力を振るった。この悪夢のような光景を、なんとしても打ち消すために。
*
三人を始末したナイアルラトホテップは分身達を帰らせ、ンガイの森に一人残った。
「久々に運動できて楽しかったよ。しかし…」
それはそうとて、彼女は今後のことを考える。
「アザトースは一体何を考えてるんだ?いきなり地球の書物を読みたいだなんて。」
今まで買っていた大量の書物は、全てアザトースに頼まれたからだった。急に、何でもいいから本が読みたいと言い出し、ナイアルラトホテップはそれに従っていたのだ。彼女は大抵のことはできるのだが、あの狂った主が何を考えているのかを読むことだけは、絶対にできる気がしない。
「…まぁいいや。それより、神を復活させなきゃ。」
しかし、その思考はすぐ切り替わる。本当はあまりうかつに神を復活させるわけにはいかないのだが、
「このままっていうのも面白くないし。ハスターでいいか」
現状に変化をもたらすには、危険を犯すことも必要だ。興味本位というのもあるが。
強壮なる使者、ナイアルラトホテップは、ハスターを復活させに向かった。
本編に登場すれば苦戦、いや、敗北必至な強敵達。しかし、最強神の従者にとってはさほど大したことはなかった様子。
次回は久々に設定紹介をやって、それから本編再開です。




