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第二十七話 インスマスの最期

合宿編、最終局面。

「まさか…あの技を…」

メイカーは驚いていた。レスティーが発動した闇影武装。この忍術が使える者は、彼が知る中で二人しかいない。レスティーの父満夫と、母照姫である。裏社会で語り継がれているこの二人は、闇影武装を体得することによって、生きながら伝説の忍者と呼ばれるようになった。そんな奥義を、こんな土壇場で体得してみせたレスティー。

「どうやら少し、あなたの過去を刺激しすぎてしまったようですね。」

彼は知っている。この秘伝を体得するための条件を。それは、自分自身だけの使命を自覚すること。何が引き金となってそうなるかは人によって異なるが、レスティーは今回、メイカーに自身の過去をえぐられたことにより、自覚した。そうでなければ、使えるはずがない。

「今さら気付いたって遅いわ。」

そう、遅い。後悔するには、遅すぎる。

「謝っても許さない!あんたを殺すまで!!」

強い怒りをぶつけるレスティー。しかし、

「謝る?あなたに?この私が?殺す?あなたが?この私を?あり得ませんよ。そんなこと」

この状況になってもメイカーは余裕を崩さない。

「いくら古い付き合いとはいえ…」

それどころか、


「舐めるのも大概にしなさい。」


再度兵器をガトリングに変化させ、撃ってきた。

「…」

レスティーは、飛んでくる鉛弾の雨を、黙って見据える。



闇影武装は、気を身に纏って鎧に変化させる忍術。鎧と言ってもごてごてしたものではなく、あくまでも忍装束だ。これ自体にも優れた防御力があるのだが、それだけに終わっては秘伝でも何でもない。この装束は、二つの性質を備えている。一つは、あらゆる攻撃を防ぐ防具としての性質。二つ目は、術者の肉体を活性化させ、身体能力を高める性質だ。そして闇影武装を発動している間、術者は活性のアーミースキルを使い、さらに身体の内側から自分の能力を活性化させねばならない。内と外、二重の活性によって術者の身体能力は十倍以上にまで高められ、高いパワーとスピードを得る。闇影武装体得前のレスティーが出せる限界速度は、マッハ9。これの十倍以上となれば、あとはわかるだろう。現在のレスティーは銃弾よりも遥かに速いスピードで動ける。ガトリングなら普通の拳銃よりは速いだろうが、今のレスティーには関係ない。鉛弾全てをかわして、メイカーの懐に飛び込む。

「むっ!?」

驚くメイカー。レスティーは構わず小太刀を抜いてガトリングを破壊し、その勢いでメイカーの身体を斬りつけた。

「があっ!!」

パワーも上がっているため、剣圧を受けたメイカーは下がる。レスティーはそれに追いすがり、メイカーのみぞおちに三発、右足蹴りを叩き込んだ。

「ぐうっ!!」

メイカーは軽く吹っ飛ぶが、レスティーはそれにすら追いつき、今度は六発左足蹴りを。

「ぐおおっ!!」

さらに浮き上がるメイカーの胸と胴に、右足で十二発、左足で十二発、また右足で二十四発、また左足で二十四発。四十八発、四十八発。倍々で増えていく蹴りの数。最後に一発、

「はあぁっ!!!」

渾身の力で放たれる蹴りによって、

「ぐわあああああっ!!!」

メイカーは大きく吹き飛んだ。最初の蹴りから最後の蹴りを決めるまで、およそ3秒。

「まだまだ行けそうね。」

しかし、今のは3秒間にいくら決められるかの試し『蹴り』だった。結果は、まだ速度を上げられるというもの。闇影武装は、申し分ない威力を備えた忍術だ。

「…なるほど、やはり厄介な術だ。」

今のでかなりダメージを受けたが、メイカーはまだ戦闘不能になってはいない。

「しかし、距離を離したのが命取りです!!」

立ち上がったメイカーはフルウェポン状態となり、

「アッシュ・トゥ・アッシュ!!!」

一斉射撃を行った。休むことなき攻撃の雨。使えば耐えられるはずのない必殺技。しかし、よく考えればわかる。当たりさえしなければ、耐える必要などない。

「はっ!?」

メイカーが気付いた時、レスティーは既にメイカーの背後に回り込んでいた。

「くぅっ!!」

小太刀二刀流をバリアで防ぐ。

(まさか…全てかわしたと!?あり得ない…私のアッシュ・トゥ・アッシュをこうも容易くかわすなど…)

信じられなかった。これが通じなかった相手は、ルーラーとイズマのみ。この二人よりも遥かに劣るはずのレスティーが破ってみせるなど、本当にあり得ない事態だ。

「例えアッシュ・トゥ・アッシュを破れたとしても、このバリアは破れませんよ!!」

バリアでレスティーの攻撃を防ぎながら、再度アッシュ・トゥ・アッシュを使うメイカー。その瞬間、レスティーの姿が消えた。

「忘れたの?」

次に声が聞こえたのは、メイカーの頭上から。

「なっ!?」

レスティーはメイカーの頭上のバリアの上に、小太刀を納刀し、腕組みした状態で立っていた。

「霊宮寺家の忍術は、攻撃だけが能じゃないわ!!」

そして、レスティーはある術を使う。

「忍法・壁抜けの術!!」

壁抜けの術とは、あらゆる物質に気を送り込み、一時的に物質の構成を分解して、すり抜ける術だ。かなり緻密な気の制御が必要になるため、戦闘中の使用には向かないが、闇影武装を体得できた今のレスティーなら戦闘中でも十分使える。バリアの表面が水か何かかのように揺らぎ、レスティーはバリアの中へと落下。目の前には、呆気に取られて動きを止めているメイカー。

「忍法…」

着地するまでの間に気を拳に宿していたレスティーは、気を雷に性質変化させ、

「雷神拳!!!」

メイカーを殴り飛ばした。

「ごおあああっ!!!」

バリアは解除され、吹き飛ぶメイカー。

「お、おのれ…!!」

想像以上の手強さを見せるレスティーに、荒い息継ぎをしながら、メイカーは睨み付けた。闇影武装を発動した相手と戦ったのは初めてではないし、レスティーがそれらの相手に劣っていることもわかっている。しかし、厄介な相手であることに変わりはない。

「やっぱり一撃じゃ無理か…」

その証拠にレスティーは、スピードがあってもパワーが弱い。具体的に表現すれば、皇魔の四分の一くらいだ。いくら強化されても、基のパワーが不足しているため、メイカーを仕留め切れなかった。メイカーは幹部クラスのエボリュータント。戦闘力もそうだが、耐久力も一般兵卒クラスのエボリュータントとは次元が違う。しかもメイカーの場合、雷神拳を喰らう寸前で胸部の装甲をさらに増設生成し、ダメージを軽減していた。空子から受けたギガトラッシュの一撃、そして先ほどレスティーから受けた連続蹴りから学んだのだろう。

(だったら数を叩き込む!!)

となれば、戦法を変えるしかない。一撃で倒せないなら二撃。それで倒せなければ三撃、四撃、五撃、十撃、百撃。それで無理なら千撃でも万撃でも、とにかく倒せるまで叩き込む。

(できる!!今の私なら!!)

現在のレスティーなら、反撃も許さずメイカーを完封できる。そう思ったレスティーは、早速駆け出した。

「ぬん!!」

再度バリアを展開するメイカー。

「無駄よ!!」

今度は真上に行かず、そのまま壁抜けの術を使い、バリアの内部に侵入するレスティー。


だが次の瞬間、メイカーはフルウェポン状態を解除し、レスティーの両腕を掴んだ。


「なっ!?」

間もなくしてメイカーの腰に二本のマニピュレーターが生成され、レスティーの両足を掴む。パワーならメイカーの方が上。レスティーは動きを完全に封じられてしまった。

「かかりましたね…!!」

レスティーが防御も回避もできない状態に陥ったと知るやいなや、メイカーは右腕に何かを生成する。それは、機械でできたブレスレット。そのブレスレットが、カシャンと音を立てて上下に開く。中に隠されていたクリスタルが発光し、その直後、


「うあああああああああああああ!!!!」


レスティーが苦痛に絶叫した。


メイカーが造ったのは、超電磁パルスフィールド発生装置。自分の周辺に強力な電磁パルスを発生させ、敵を焼き殺す兵器だ。しかもこの電磁パルス、メイカーには一切影響が出ないよう造られており、敵と密着した状態で使った場合は、敵だけが死ぬ。メイカーはどんな兵器でも、自分が思った通りの性能で造ることができるため、こんなあり得ない兵器だって造れるのだ。

「普通に撃っても避けられるなら、避けられない状況を作るのみ。簡単なことです」

加えて電磁パルスは装甲などの遮蔽物を無視するため、銃やミサイルを使うよりも確実に敵を殺せる。メイカーは自身の勝利を確信していた。


「…ぅぅぅ…」


しかし、同時に忘れてもいた。闇影武装という術が、どういう術なのかを。


「ぅぅぅうう…!!」


闇影武装の発動に必要となる正確な条件は、術者にとって最も精神力が強くなる精神状態になることだ。気の制御に必要となるのは、強い精神力。闇影武装は光輝とさだめのブルーライジングや、ゴールドライジングと似ている技だが、あれは肉体は強化せず能力だけを強化するため、副作用が大きい。上位技のライジング・MAXを使った結果が、そのいい証拠だ。一方闇影武装は能力のみならず肉体も強化するので、肉体が強化後の能力に耐えられる。ゆえに、副作用もない。しかしそれには緻密で複雑な気の制御が必要なので、その分使う精神力も生半可なものではなく、もし精神力が弱い状態で使えば、肉体の活性化が暴走し、ダメージを再生しすぎたり、強化した身体の扱いに失敗したりなどで自滅してしまう。


「うううう!!!」


そして、闇影武装を制御できるほど精神力が強くなる状態が、己の使命を自覚した時だ。


「うううううううう!!!!」


レスティーが自覚した自分の使命。それは、皇魔を二度と悲しませないこと。十年前、自分のせいで皇魔を危険な目に遭わせてしまった。もう少しで、死なせてしまうところだった。あの時見た皇魔の悲しげな顔を、レスティーは二度と見ない、させないと誓ったのだ。


(負けない!!こいつにだけは!!)


それを思い出した。


「ううううううあああああああああ!!!!!」


強い想いでさらに精神力を高めたレスティーは、活性を強化してダメージを回復しつつ、脚力を強化して右足のマニピュレーターを破壊し、メイカーの顔面を蹴り飛ばした。

「がっ!!」

レスティーを離すメイカー。自由になったレスティーは小太刀を抜刀して、超電磁パルスフィールド発生装置を破壊し、フィールドを解除する。

「はああああああああああ!!!」

自分を縛る物がなくなったレスティーは、メイカーを連続で斬りつけ、連続で蹴り、連続で殴った。

(装甲の修理を…!!)

メイカーは体内で修理用のナノマシンを生成し、内側から装甲を直していく。しかし、

(間に合わない!?)

レスティーが装甲を傷付ける速度は装甲が直るより速く、また一点を集中して攻撃しているためなおのこと速い。

「忍法…!!」

とうとうあと一撃という所まで装甲を破壊され、

「瞬獄殺!!!」

「ぐあああああああああああ!!!!」

全身を斬り刻まれて、倒れた。細切れにされた装甲が宙を舞い、メイカーは変身を解除される。

「こ…こんな…馬鹿な…あり得ない…!!」

血まみれになりながらも立ち上がろうとするメイカーだが、もはや兵器を生成するどころか、変身し直す体力さえ残ってはいない。

「終わりよ、メイカー。私達の因縁は、今、ここで終わる!!」

レスティーは小太刀を構えて駆け抜け、メイカーの首を斬り落とそうとする。


しかしその寸前に、メイカーの前に巨大な雷が落ちた。


雷の中から現れたのは、先端に円盤状の装飾がされた錫杖を持った、神官の姿をした怪物だった。額には赤いオーブが埋まっているため、エボリュータントだということがわかる。

「ふ、副首領…!!」

メイカーはエボリュータントを呼んだ。この神官姿のエボリュータントこそ、デザイアの副首領、イズマの怪人形態である。

「あんたがイズマ…!!」

レスティーは写真でのみイズマの姿を知っており、実際に会ったことはない。だが、何にしても衝撃的だった。デザイアの副首領がこんなにあっさりと現れるとは、思っていなかったからである。

「…見事、と言うべきか。」

「!?」

イズマの一声を聞き、身構えるレスティー。

「何を警戒している?我は見事だと言っただけだ。霊宮寺の秘伝を体得し、我らが誇る幹部の一人を破ってみせたその実力。見事と呼ばずして何と呼ぶ?」

イズマはただ、レスティーを褒めていた。憎い相手の子孫とはいえここまでやってみせたことは、本当に賞賛に値したからだ。

「だが、これ以上はやらせぬ。この場は退かせてもらうぞ」

「…!!逃げる気!?」

「今汝らと、事を構えるつもりはない。汝も今この場で我と戦うということがどれほど愚かな行いかは、よくわかるはずだ。」

レスティーは冷静になって考えた。ここでイズマを倒せれば、デザイアにかなりの大打撃を与えられる。しかし、副首領クラスともなれば、メイカーよりもさらに数段上の力を持つはず。戦うことになれば、勝てるかどうかはわからない。彼女もかなり疲弊している。なので、

「…行きなさい。」

小太刀を納刀し、戦いを避けることにした。

「賢明な判断だ。」

イズマが錫杖の石突で地を突くと、光の柱が上がる。光の柱が消えた時、イズマとメイカーも消えていた。

「…見逃された、か…」

精神力が限界を迎えたレスティーは闇影武装を解除し、その場に倒れ込んだ。













「テケリ・リ!!」

「ちっ!」

槍のように伸びてくるショゴスの触手をかわして、狩谷はその触手を斬り落とす。だが、こんなものはショゴスにとってダメージにすらならない。すぐに新たな触手が伸ばされ、狩谷を攻撃する。狩谷がそれに気に取られているうちに、斬られた触手は本体に吸収されていった。そして、相手は一体だけではない。七体ものショゴスが、一斉に触手を伸ばしてくるのだ。かわす側の狩谷も、一苦労である。しかも仲間がやられたことで学習したのか、なかなか先ほどのように一塊になったり融合したりしない。

「狩谷!!まだなの!?」

空子は襲い掛かってくる深きものどもをギガトラッシュで迎撃しながら急かす。

「うっせぇ!!今考えてんだよ!!」

狩谷は怒鳴り返した。その直後にまた触手が襲ってくるが、狩谷はかわさずに触手を斬り落とし、距離を取る。

「こうなったらこれしかねぇ…!!」

向こうが集まってくれないなら、こっちが強引に集めるしかない。狩谷はダークハンターに風を纏わせて振りかぶり、一気に振り抜いた。

「ロックンロールハリケーン!!」

「テケリッ!!」

飛んできた嵐に、たまらず吹き飛ぶショゴス。

「まだまだ!!」

狩谷は速やかに移動し、再度ロックンロールハリケーンを発動。今度は二体まとめて吹き飛ばし、先に吹き飛ばした一体にぶつけた。ぶつかった三体のショゴスは、その衝撃で融合する。狩谷はこれを繰り返し、七体のショゴスを一つに融合させた。

「今だ!!やれ空子!!」

分裂されないうちにショゴスを倒すよう、空子に指示する狩谷。

「了解!!」

空子は焼夷手榴弾のピンを抜いて、勢いよく投げつけた。空子の狙撃のアーミースキルによって、焼夷手榴弾は狂うことなくショゴスに命中し、爆発する。まぁ、七体も融合したショゴスはかなりの大きさなので、正直言ってアーミースキルを使う必要もなかったが。

「デッ…ゲリリッ…デゲッ…リ…!!」

燃え上がる炎に焼かれるショゴス。生き物が焼ける匂いが充満し、狩谷と空子に不快感を与える。が、先ほども言ったように、今のショゴスはとてつもなく巨大だ。一発の焼夷手榴弾では燃やし切れず、まだ炎が広がっていない箇所もある。

「くっ!!」

それを見た空子は、即座にもう一発焼夷手榴弾を投げた。狙い通り、まだ炎がついていない箇所へと着弾、爆発し、新たな炎が燃える。しかし、ショゴスの全てを焼き尽くすにはまだ足りない。

「もうっ!!」

しつこく抵抗しようとするショゴスを見た空子は、残り二つの焼夷手榴弾も使用し、今度こそその全身を余す所なく炎で包む。

「デゲッ…デゲッ…」

にも関わらず、ショゴスはまだ生きていた。

「どうなってんのよ!!これでも死なないの!?」

理由はただ一つ。ショゴスが大きすぎるからだ。いくら焼夷手榴弾を四つ使っても、中までローストとまではいかなかったのである。

「だが、まだ炎は消えてねぇ!!」

狩谷が言う通り、炎はまだゴウゴウと音を立てて燃え盛っている。なら、やることは一つだ。

「ロックンロールハリケーン!!!」

フルパワーでロックンロールハリケーンを飛ばす。狩谷が巻き起こした嵐はより炎を大きく燃え上がらせ、温度を高める。

「デゲッリ…リィィィィィ!!!!」

一際大きく断末魔が響き、ショゴスは完全に燃え尽きた。燃えるものがなくなったため、炎も消える。

「や、やった…!!」

遂にショゴスを倒したと喜ぶ空子。しかし次の瞬間、

「危ねぇ!!」

狩谷が空子を抱き締めた。直後に数回爆発が起き、空子を放して倒れる。

「狩谷!?狩谷!!」

何事かと倒れた狩谷を揺さぶる空子。ほどなくして彼女は、自分達の周辺に金属の破片が散らばっていることに気付く。金属の破片と、先ほどの爆発。

「破片手榴弾…?」

空子がそう呟いた時、深きものどもの一人が言った。

「こっちがその手の武器を持ってないと思ったか?ショゴスに気を取られて油断したな!」

さらに気付けば、空子達は複数の深きものどもに包囲されていた。連中はショゴスに陽動させながら、空子達に隙が生まれる瞬間を伺っていたのである。結果、狩谷は破片によって対象を殺傷するそのものズバリな手榴弾、破片手榴弾による攻撃を喰らってしまった。幸いどこにも破片は刺さっていないが、強い衝撃を連続で受け、狩谷は自力で立てないほどのダメージを受けている。

「まさかショゴスが倒されるとはな。だが、これで終わりだ!!」

ショゴスが撃破されるのは予想外だったが、気を引いて攻撃するという目的は果たされた。狩谷が戦闘不能になってしまっては、この包囲網の突破はほぼ不可能だ。

「くっ!!」

それでも諦めない空子は、悠長に話しているリーダー格の深きものどもにギガトラッシュを向け、引き金を引く。だが、



カチッ!



弾は飛び出さず、代わりに軽い音が飛び出た。弾切れだ。

(うそっ!?こんな時に!?)

一気に絶望感が襲ってくる。どう考えても弾薬を補給させてもらえる空気ではないし、それに敵の方が早い。

「撃て!!」

「ッ!!」

リーダーの号令とともにギガトラッシュを放し、両腕で頭を守る空子。間もなくして、銃弾の雨が降ってきた。

「オラァァァァ!!」「死ねこのメスブタがぁぁぁぁ!!」「男もまとめてやっちまえーっ!!」「殺せ殺せ!!殺せぇぇぇ!!」「終わりだクソガキどもぉぉ!!」

口々に叫びながら、手にした銃器を発砲する狂信者達。

「ぐっ…ああああああああ!!!」

防砲服のおかげで弾が肌に刺さることはないが、弾の衝撃が全身を叩き、空子は苦しむ。狩谷もどうにか頭を抱えているが、互いに長くは持たないだろう。


その時、


「シャイニングフェザーストーム!!!」


天空から光る羽が大量に降り注ぎ、狂信者達を攻撃した。突然の攻撃に包囲は総崩れとなり、攻撃源も確認できないまま、狂信者達は全滅する。

「な、何だ!?」

「おいあそこ!!」

いや、少しだけ残っていた。狂信者達は、自分に攻撃を加えた者、空から弓でこちらを狙っているアンジェの姿を確認する。

「プラチナアロースプレッド!!」

光の矢を放つアンジェ。しかし、放たれた矢は空中で複数に分裂し、今度こそ狂信者達を全滅させる。プラチナアロースプレッド。光の矢を拡散させて広範囲の敵を倒す、プラチナアローシューティングの派生技だ。一発一発の威力はプラチナアローシューティングに及ばないしホーミングもできないが、威力と速度は発動までの準備時間を除けばシャイニングフェザーストームより上である。

「二人とも大丈夫!?」

敵を一掃したアンジェは、狩谷と空子の側に降りてきた。

「アンジェ!来てくれたのね!」

「本当はもう少し休みたかったけど、苦戦してるだろうと思って。」

「ああ、助かったぜ…」

実は今のアンジェ。立っているのもやっとなのだが、それを悟られないよう普通に振る舞っている。心配させたくないからだ。

「それより、早く他のみんなに加勢しなきゃ!」

「その必要はないと思うわよ?だって…」

空子は未だ終わっていない戦いを指差す。

「あれに加勢できる?」













跡形もなく消し飛んだビャクオウ。

「「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」」

ダゴンとヒュドラは歓喜の咆哮を上げている。しかし、


「やかましいですよ。何を勝ったつもりになっているんですか」


ある一声を聞き、それは止まった。今聞こえたのは、消し飛ばしたはずのビャクオウの声。続いてダゴンとヒュドラは、信じられない光景を目にする。何もない空間から、次々とビャクオウが現れたのだ。その数、およそ百。

「私のイリュージョンナイトメアは、神にも通用するようですね。」

ビャクオウの一人が言った。彼はイリュージョンナイトメアを使って自分が倒れたという幻を見せながら、この布陣を展開していたのである。

「ウオ…!!」

再び光線を吐こうとするダゴンとヒュドラ。

「遅い!!」

だが、ビャクオウの方が早い。

「エンドオブファンタズマ!!!」

ダゴンとヒュドラを包囲する全てのビャクオウが、同時に斬りかかる。普通に斬っても効かないが、今はエンドオブファンタズマを使っているので、ダゴンとヒュドラの頑丈な鱗も簡単に斬れる。二体の神は瞬く間に全身をズタズタにされ、攻撃を中断した。

「終わりです。」

全てのビャクオウは距離を取り、

「ギャラクティックエンドブレイカー!!!」

ギャラクティックエンドブレイカーを一斉掃射する。

「ガァァァァァァァァァァ!!!」

「グゥオォォォォォォォ!!!」

絶叫しながら、ダゴンとヒュドラは細胞一つ残らず完全に消滅した。

「こんな簡単な作戦に引っ掛かるとは、神といっても大したことはありませんねぇ。」

ビャクオウは一人に戻る。

「さて…」

それから、この異空間での最後の戦いを見届けるべく、そちらに目を移した。











互いの手の内を尽くして戦うアデルとハワード。アデルの攻撃をハワードが防御魔術で防ぎ、ハワードの魔術をアデルがクトゥグアドライブとハスタードライブを駆使してやり過ごす。それを何度も繰り返している。

「ウォーミングアップはもういい。」

だが、この戦いにも終わりが来た。ハワードが遂に、全力を出すことに決めたのだ。

「これで終わりだ!!」

何かの呪文を唱え始めるハワード。すると、アデルがある変化に気付いた。初めてこの異空間に来た時から、アデルのレーダーが奇妙なエネルギー反応を感知している。それはハワードと戦い始めてからも感知されており、ハワードが魔術を使う度に強まっている。恐らく、これが魔力なのだろう。その魔力がさらに上がっているのだ。

(本気で決めるつもりらしいな)

「イグニスドライブ!!」

アデルはイグニスドライブを発動し、ハワードの魔術に備える。

「追い詰めてまずい相手なら、追い詰めることなく一撃で終わらせればいい。簡単なことだ。私の全魔力を込めたこの魔術で、肉片も残さず消し去ってやる!!」

追い詰めればアザトースが現れるが、追い詰めずに終わらせればどうということはない。

「やってみろ。だが、簡単に行くとは思うな!」

アデルはプライドソウルをブラスターモードに切り替え、エネルギーを集中する。

「大いなるクトゥルフよ!!私にその力を!!」

ハワードがそう言った瞬間、彼の目の前に魔法陣が現れ、そこから何か出てきた。タコのような頭と触腕、頭に持つコウモリのような羽。この怪物こそ、邪神クトゥルフである。といっても、頭だけだ。これはハワードが自分にとって最強の魔術を使うために作った、クトゥルフの似姿なのである。

「コールオブクトゥルフ!!!」

ハワードが叫んだのと同時に、クトゥルフの似姿は口を開け、巨大な光線を撃つ。

「ワールドエンドブレイカー!!!」

アデルも光線を放ち、互いの力は拮抗する。だが、

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

少しずつ、アデルが圧していた。

「ま、まだだ!!まだ…!!」

さらに魔力を強めるハワードだったが、なぜか威力は上がらず、むしろ下がっている。

(まさか、儀式の影響で!?)

大魔術、コールオブクトゥルフの威力が落ちてきている理由は、ルルイエ浮上の儀式やアザトース退散の儀式など、大量の魔力を使用する儀式を続けざまに行ったからだった。要するに、魔力切れだ。ルルイエ異本も強力な魔導書ではあるが、あくまでも魔術の使用や強化などの補助的な役目しかなく、魔力切れはどうにもならない。

「はあああああああああああ!!!」

そうこうしているうちにワールドエンドブレイカーはコールオブクトゥルフを打ち破り、クトゥルフの似姿を破壊する。間髪入れずに飛び込んでくるアデル。

「くっ!!」

急いで防御魔術を使い、長剣を構えるが、


「エンドオブソウル!!!」


魔力切れを起こしたハワードの防御魔術には、エンドオブソウルを受けきれるだけの強度はなく、一撃で魔術障壁を、長剣を、そして、ルルイエ異本を叩き斬られてしまった。

「る、ルルイエ異本がっ…!!」

驚くハワード。もはや彼に勝ち目はない。

「あああああああああああ!!!」

二撃目のエンドオブソウルで横一文字に斬られてしまい、敗北した。彼にできるのは、足場となる魔法陣を維持することだけだ。

「…この私が敗れるとは…」

信じられなかった。儀式を失敗させられただけでなく、完全に負けたのだ。深きものどももショゴスも全滅し、もうこのアメリカにダゴン秘密教団のメンバーは一人もいない。

「…だが、私を倒しても無駄だ。ダゴン秘密教団の支部は、世界中に存在する。必ず私の同志達が、クトゥルフ様を蘇らせてくれる。教団とクトゥルフ様、そしてルルイエ異本のオリジナルさえ無事なら…」

「…」

アデルは何も言わない。死にかけのハワードの言葉を、黙って聞いている。

「それに、お前はいずれ完全にアザトースに支配され、破滅する。わかっているんだろう?もう自分に未来などないことくらい…!!」

「…ああ。」

アザトースの力はあまりにも強く、いつまた憑依してくるかわからない。遠からず、この地球を破壊してしまうかもしれない。自分が生きている限り。

「…それでも抗う。俺には、成し遂げなければならないことがあるから。」

確かに絶望的だ。だが、諦めたくはなかった。自分が本当に破滅を迎える、最後の瞬間まで。

「…往生際の悪いやつだ。その諦めの悪さに免じて、教えてやろう。ルルイエ異本のオリジナルのありか…もう気付いているだろうがな」

「…ルルイエか。」

ルルイエ異本を保管する場所で絶対に安全な場所と言えば、基本的にそこしかない。

「そうだ。ルルイエは常に、クトゥルフ様の加護によって守られている。何者であろうと、絶対に手出しできない!ダゴン秘密教団の者以外にはな!」

アデルの予想は当たっていた。ルルイエ異本のオリジナルはルルイエに安置され、そこでクトゥルフ本人の力で守られている。

「…せいぜい…抗え!!」

先の見えない未来に向かって抵抗を続けるアデルを嘲笑いながら、ハワードは自爆魔術を発動し、爆発四散した。と、空にガラスのようなひびが入り、どんどん広がっていっている。この異空間はハワード自身の魔力とルルイエ異本の存在によって維持されており、ハワードとルルイエ異本が消えたことで、異空間を維持する要素がなくなったのだ。維持要素がなくなった空間は、崩壊する。異空間はガラスが割れるように消えてなくなり、アデル達は通常空間に復帰した。アデルは砂浜にたどり着き、変身を解除する。

「ゲイル!!」

駆け寄るアンジェ。と、

「きゃっ!!」

「っ!」

疲労がたまっていたせいで足がもつれ、倒れ込んでしまった。ゲイルが受け止めたので、転倒は避けられる。

「大丈夫か?ゆっくり休んでから来いと言ったろう。」

「あはは…ちょっと寝たから大丈夫だと思ったんだけど…それより、ゲイルをわざと暴走させるようなことして、ごめん。」

「もういい。結果的に助かったんだからな」

「ありがと。ゲイルは優しいね」

ラブコメめいたやり取りを繰り広げるゲイルとアンジェ。

「オイオイお前ら。気持ちはわかるけど、あんまりのろけたりとかすんなよな。」

そこへ、空子に担がれた狩谷が来た。ちなみに、レスティーも空子に担がれている。こちらは気絶しているが。

「大丈夫か?その様子だと相当苦戦したらしいな。」

「苦戦なんてもんじゃないわ。危うく死にかけたもの」

「雑魚の殲滅に時間をかけているようでは、まだまだですね。」

ビャクオウも来て、変身を解く。

「お前においては何も心配していない。だが、無事でよかった。」

「当然です。あの程度の相手に、私が負けるわけがない。」

「…お前らしいや。」

ゲイルと狩谷はピンピンして戻ってきたエリックを見て、やっぱりといった感じに言った。

「これで任務完了だね。」

「ああ。」

アンジェはゲイルを見て言う。行方不明者は全て帰還し、事件の元凶たるダゴン秘密教団アメリカ支部も壊滅した。当分は教団も、なりを潜めるだろう。




その後、残った合宿期間は参加者全員がかりでの事後処理に当てられ、その際に残された大量の深きものどもの遺体の処理や(狩谷が「生臭ぇ~!」と言っていた)、インスマスそのものの爆破などを行った。政府からの決定で、あまりこの件を公にしたくないらしい。過去にインスマスがゴーストタウンと化した理由を考えれば、仕方ないだろう。被害者達も口止めされ、全てが闇に葬られたことで、この事件の幕は閉じた。




…話を聞いたエドガーがすごく残念がっていたのは余談である。













「も、申し訳ありません…全て…私の責任です…」

フォビドゥーンで、メイカーはルーラーとイズマに謝っていた。

「構わん。それより、確認は取れたのだな?」

「…はい。ミレイヌ殿の予想に、間違いはありませんでした。」

「…そうか。ならば下がれ」

「は…」

メイカーはルーラーの命を受けて下がった。

「いかがなされますか?」

ルーラーに尋ねるイズマ。

「何も問題はない。倒し方ならいくらでもある。最も危険視すべきは、レスティー・エンプレスが闇影武装を修得したということ…」

ルーラーは自分の席を離れ、進化の宝珠を見る。

「…忌々しい一族め…」

彼にとって、霊宮寺家が力を増したのは何よりも由々しい事態だ。

「しかしご安心を。我々が必ず、仕留めてご覧に入れます。」

そんな彼を落ち着かせるため、副首領イズマが進言する。

「…頼んだぞ。」

ルーラーは一言、それだけ言った。





はい!というわけで、合宿編終了です!っていうかせっかくの合宿なのに最後が事後処理とか、我ながらひどいなぁ…。


次回は番外編を挟んで、皇魔の修行を書こうと思います。お楽しみに!

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