第十九話 機械と人間
今回は、エドガーの意外な過去が語られます。
とある国。
「…」
銃弾と断末魔が飛び交う戦場の真っ只中、夏原空子は土嚢を積み上げてできたバリケードにただ一人身を隠し、愛銃ギガトラッシュを構えていた。スコープの先には、同じようにバリケードに隠れ、こちらに向けてマシンガンを連射している敵兵士が何人も見える。空子はそのうちの一人に狙いを定め、当たれ、と念じる。そして、引き金を引いた。音速を超えて飛んでいく大きな弾は、バリケードを吹き飛ばして敵兵士の頭を砕く。ギガトラッシュは改造された対戦車ライフルで、空子は狙った相手に必ず弾を当てられる狙撃のアーミースキル持ちだ。土嚢など、バリケードとしての意味を成さない。
「…」
空子は無言のまま、次の標的へとギガトラッシュの照準を合わせる。そしてまた、引き金を引く。その反復を何度も繰り返し、敵を倒す。が、銃というものは僅かな例外を除き、使っていれば必ず弾切れを起こすものだ。空子のギガトラッシュは弾切れし、リロードしようとする。と、
ヒュ~~…
何かが飛んでくる音が聞こえた。音がした方向を見ると、こちらに向かってミサイルが三~四発、飛んできているのが見える。空子の圧倒的な威力の射撃に脅威を覚えた敵軍が、彼女を倒すために使ったのだ。
「くっ!!」
慌てバリケードから後退する空子。彼女がさっきまでいた場所に、次々とミサイルが着弾していく。だが、
「もらった!!」
いつの間にか敵が回り込んできており、アサルトライフルをこちらに向けていた。空子もすぐにギガトラッシュを構えるが、そこで彼女は気付いた。自分は、まだリロードを終えていない。リロードする前に逃げてきてしまったからだ。つまり弾切れのままで、反撃できない。ならばかわすしかないのだが、敵はそれより早くアサルトライフルの引き金を引いた。銃口は空子の心臓に向けられており、弾もそこに向かって飛んでいく。
しかし、
「アデル、起動!!」
アデルに変身したゲイルが素早く割り込み、空子の盾となって攻撃を防いだ。
「ゲイル!!」
思わず彼の名を呼ぶ空子。敵はアデルを倒そうとアサルトライフルを撃ち続ける。弾切れになるまで撃ったが、アデルの装甲には傷一つなく、身体を揺らすことさえできなかった。
「何だこの化け物は!!」
「!!」
敵の言葉が、アデルの心を貫く。次の瞬間、
「ぐはっ!!」
アデルが盾になってくれている間にリロードを終えた空子が、敵の土手っ腹に大きな風穴をあけた。敵はそのまま仰向けに倒れ、息絶える。
「ゲイルを化け物呼ばわりするやつは、あたしが許さない!!」
既に死亡した相手に怒りの眼差しを向け、空子は言い放った。
「…」
アデルは何も言わない。そこへ、
「ゲイル!!空子!!」
狩谷とアンジェが来た。
「二人とも大丈夫!?」
アンジェはアデルと空子の身体を気遣う。今の光景を、狩谷と二人で遠くから見ていたのだ。
「ええ。ゲイルが守ってくれたから」
「サンキューな、ゲイル!」
大切な友を守ってもらったことに礼を言う狩谷だが、
「…ああ。」
アデルは素っ気なく返すだけだった。
*
それらの様子を、小さな虫が見ている。
正確には虫ではなく、虫の形をしたロボットだ。
虫型ロボットは、ある男のもとへこの映像を送っていた。
「あれがヘブンズエデンの訓練生と、メタルデビルズ・アデルか…」
男は暗い部屋の中、巨大なモニターに映し出された映像を見ている。
「気に食わんな。」
男はそう呟いた。
*
ゲイル達はエドガーからの緊急任務で、とある国の紛争鎮圧に駆り出されていた。結果は、ゲイル達訓練生組の勝利。紛争は見事に鎮圧され、争っていた両軍は敗走していった。たった四人でも、これくらいのことはできる。そして何より、メタルデビルズが味方なのだ。負けるはずはない。
「ありがとねゲイル。さっきは本当に助かったわ」
ヘブンズエデンに帰還した一同。空子は改めてゲイルに礼を言う。
「…別に。」
また素っ気ない返事をするゲイル。
「なんかあったのか?」
狩谷はゲイルに尋ねた。ゲイルは元々人殺しを好む性格ではなく、こういった任務から帰ったあとはいつも暗い顔をしているのだが、今回はいつも以上に暗かったのだ。しかし、ゲイルは何も言わない。代わりに空子が答えた。
「ゲイルがあたしを助けてくれた時、敵の兵士がゲイルのことを、化け物って言ったの。多分、それを気にしてるんだと思う。」
「そうなの?」
今度はアンジェが尋ねる。少し、重苦しい間を置いてから、
「…ああ、そうだ。」
と答えが返ってきた。
「俺は鏡の前に立って、変身前の俺と、変身した後の俺を見比べてみたことがある。」
「それで?」
続けて尋ねるアンジェ。ゲイルはまた、間を空けながら答えた。
「…変身しても、俺の人格までが変わるわけじゃない。だから、中身はまるっきり同じだ。だが、姿は全くの別物で、面影すらなかった。」
それはそうだろう。狩谷でさえ、きっかけを得るまでは全く気付かなかったのだ。変身前と変身後では、姿があまりにも違いすぎていた。
「加えて人知を超越したあの力…これでは化け物と呼ばれても仕方ない…」
もう完全に吹っ切ったつもりではいたが、やはり正面きってそれを言われると、キツい。
「何言ってるのよ。」
しかし、空子は言った。
「本当に化け物なら、あたしを助けたりなんかせずに、見殺しにしてたはずでしょ?ゲイルの中に人間としての心があったから、助けようって思ってくれたわけだし。」
「そうだよ!それ言ったら、私は一体何?私の中には半分だけど、エンゼリオンっていう化け物の血が流れてるんだよ?改造人間とは違うけど、人間じゃないっていう点では私も同じなんだから!」
アンジェも自分は人間ではないことを伝え、ゲイルを慰める。
「お前もアンジェちゃんも、れっきとした人間だよ。俺がそう認めてるんだから、間違いねぇって!」
狩谷はゲイルの肩をバンバンと叩き、無理矢理励まそうとしていた。
「お前達…」
ゲイルは、今まであったことを思い返してみる。彼は幾度となく訪れる窮地から、仲間達を守ってきた。助けたい、守りたいと思ったからだ。空子が言う通り、ゲイルが本当の化け物だったら、そんなことは全く思わなかっただろう。また、ゲイル自身も狩谷達に救われ、支えられた。それは、ゲイルのことを人間だと思い、信頼してくれたからだ。ゲイルが化け物なら、こんな具合に信頼してはくれなかったろう。それを考えると、やっぱり自分は人間だ。人間でいいんだと、思えてくる。
やっと気持ちが落ち着いてきたゲイルだが、そこへ、
「ずいぶんと下らないことで悩んでいるようですね。」
エリックが来た。
「ったくお前は…いいんだか悪いんだかわかんねぇタイミングで現れるんだな。」
「別に私はあなた達に合わせようなどと思っていませんから。」
ものすごい侮蔑の目で狩谷を見下すエリック。うぐぐと歯を食い縛りながら、狩谷は我慢する。元々強いエリックが改造人間の力を得たのだから、無改造でそこまで強くない狩谷では敵わない。
「それより…」
そんな狩谷を無視して、エリックはゲイルを見た。
「あなたのそのすぐに揺らいでしまう心の弱さは、何とかならないんですか?」
「…すまない。」
「…はぁ…未だに信じられませんよ。私はこんなにメンタルの弱い男に負けたんですか」
「ちょっとエリック!ゲイルは真剣に悩んでるのよ!?そんな風に言うことないじゃない!」
「そうだよ!ゲイルはエリックみたいに能天気じゃないんだから!」
ゲイルのことをボロクソに言うエリックに反論する空子とアンジェ。
「言っておきますが夏原空子。私は悩むことが馬鹿らしいから言っているんです。それとアンジェ・ティーリ、あなたにだけは言われたくありません。死にたいんですか?いえ殺します。」
「ごめん言いすぎた!」
「まったく…」
エリックは一度ホワイトスイーパーを出し、しまう。
「言いたい者には言わせておけばいいんです。(私ならその場で殺しますが)あなたは力を欲していたんでしょう?望んだ形とは違うかもしれませんが、力を与えられたのなら周囲のことなど気にせずに使えばいいではないですか。あなたはあなたなんですから」
エリックはやる(殺る)べきことをあらかじめ決めているため、迷いがない。方向性は間違っているが、全てを踏み潰して突き進める。そんな精神力の持ち主だった。これも、ゲイルがエリックを目標にした理由だ。
「…そうだな。どうかしていた」
「しっかりして下さいよ?精神的に弱っている相手を殺したところで、何の達成感も得られませんからね。あなたを殺すのは私だということを、忘れないで頂きたい。」
「殺されるつもりはないが、善処はする。この件については終わりだ」
「よろしい。それでこそ殺し甲斐があるというものです」
立ち直ったらしいゲイルを見て、エリックは満足げに頷いた。
「…これってよく言う殺し文句ってやつ?」
「いや、違うだろ。」
「絶対違う。」
アンジェの質問を、狩谷と空子は全力で否定した。
その時、
『緊急連絡を行います。ゲイル・プライド、エリック・アンダーソン、狩谷信介、夏原空子、アンジェ・ティーリ。以上の五名は、至急理事長室に行って下さい。繰り返します…』
放送で連絡が入った。
「理事長から?ついさっき理事長命令で任務に行ってきたってのに…」
「ぼやいている場合か。さっさと行って、さっさと終わらせるぞ。」
ぼやく狩谷に、本当は自分だって行きたくないという意思表示をするゲイル。こうして五人は、理事長室へ。
*
「いやぁ悪いね。ちょっと厄介な問題が起きたんだ」
呼び出したことを謝りながら、エドガーは笑顔で説明する。
「私の友人にマーティンという男がいてね。明日君達を連れて自分の研究所に来るよう、連絡を入れてきたんだ。」
「マーティン!?マーティンって、あのマーティン・ブレイメン教授ですか!?」
空子は驚く。マーティン・ブレイメンは世界的に有名な機械技術の権威で、生活用品からアンドロイドまでの様々な機械の研究に携わっている科学者だ。
「世界中のいろんな科学者と友達だってことは知ってたけど、すごいやつとも知り合いだったんだな…」
狩谷も驚いている。マーティンが開発した機械は世界中に広まっており、それだけ有名なのだ。
「実際に彼と仕事をしていたのは僅かな間だったんだが、少しばかり関係を結んでね。」
「どんな人なんですか?」
アンジェが質問した。すると、エドガーは少し目線をそらしながら答える。
「偏屈な男だよ。私が知り合った科学者の中では、一、二を争う偏屈さだね。」
「そんなにか。」
ゲイルは少し意外に思った。話している限り、エドガーはマーティンについて話すことを嫌がっている。こんな理事長を見るのは初めてで、それからどうしても、マーティンがどう偏屈なのか気になった。が、
「どう偏屈なんですか?」
その質問は、先にエリックがしてしまう。
「…彼は人間不信なんだよ。」
エドガーは、マーティンという男について語った。
これはエドガーが仲間の科学者から聞いた話なのだが、マーティンはとても人が良い人物だったらしい。いつも自分の研究が人の役に立てばいい、自分の発明で世界中の人々を助けたい、そう言っていたそうだ。まさに研究者として、理想的だったと言えるだろう。
しかし、ある時彼は自分の研究データを勝手に持ち出され、さらに勝手に発表されてしまった。そしてその手柄を、発表した科学者に横取りされたのだ。だが、マーティンはそれだけならまだ許せた。問題は後だ。その研究は本来、人々の日常生活のために使われるはずだった。しかし裏切り者の科学者は、あろうことか戦争の兵器として利用してしまったのである(ちなみにその時マーティンが開発したのは、火、水、風、光などを少し使うだけで大量の電気を生産することができる、自家発電機だ)。平和利用に役立てるはずの発明を、争い事に利用されてしまった。しかも勝手に。
このことをきっかけとして人間不信に陥ってしまったマーティンは、ひたすら高スペックなアンドロイドと、高性能なAIの開発に勤しむようになった。機械はいつでも素直だ。機械は絶対に自分を裏切らない。そう思っていたから。
「だから彼は人との付き合いを避けている。私も交友関係にあるとは言ったが、実際にはそんな綺麗なものじゃない。かなり、険悪だよ。」
どうやらマーティンはかなり面倒な人物らしい。
「あらかじめ言っておくが、彼は君達のことを良く思っていない。人間だからね。ゆえに、何が起きても対処できるようにしておいてくれ。」
エドガーは、自分が勝手なことを言っているとわかっていた。だが、仕方ないことなのだ。
明日会うことになるマーティンという人物は、そういう男なのだから。
*
クルセイドキャッスル。
「ウルズ、いますか?」
「はっ!ここに!」
ミレイヌは一人のボーグソルジャーを呼び出した。
「ブレイメン教授の研究所に行って、彼のデータをもらってきて下さい。」
「かしこまりました!」
ウルズと呼ばれたボーグソルジャーは素直に従い、部屋から出て行った。
「ブレイメン教授、ですか…」
ミレイヌに頭を撫でられながら休んでいたフィスは、首をもたげてミレイヌを見た。
「あそこはかなり厄介な場所だと聞いていますが?」
続いて、ネイゼンが姿を現す。
「ええ、確かに厄介です。」
マーティンのテクノロジーは凄まじいものがあり、それによって構成された警備プログラムも、並みのプログラムとは比較にならなかった。
「ですが、だからこそ手に入れておきたいのです。」
「拒否された場合は?」
「それを想定して、ウルズを行かせたのです。」
ミレイヌはネイゼンの質問に答え、
「彼の能力を以てすればいかに強力なテクノロジーであろうと…いいえ、強力であればあるほど、危険な反逆者になるのです。」
笑っていた。
*
ブレイメン研究所。
その外観は、一言で表現するなら、機械仕掛けの要塞。ゲイル達はいくつもの検査を受けたのち、そこに入ることが許可された。
「つーかよぉ、何でこのメンバーなんだろうな?」
「さあ?」
狩谷と空子が自分達が選ばれた理由を考えていると、一行はとある部屋の前に来る。間もなくして部屋のドアが開き、彼らは中に通された。部屋の真ん中には大きなテーブルがあり、ソファーもあった。どこもかしこも機械だらけなのでわかりづらいが、どうやら応接室らしい。そして、その応接室には既に先客がいた。ゲイル達を正面から見るようにして、ソファーの中央でふんぞり返っているこの男こそ、マーティン・ブレイメンその人である。
「久しぶりだね、マーティン教授。」
「よく来たな、エドガー。掛けろ」
偉そうな態度で、エドガー達を座らせる。
(うっわ…マジでエラソー…)
(シッ!)
小声で呟いた狩谷を、空子は黙らせた。
「さて…噂は聞いているぞ。お前の教え子達は、ずいぶん活躍しているそうじゃないか。」
「おかげ様でね。まぁ、活躍できるように教育しているんだから、当然と言えば当然だが。」
「そうだな。自分の駒を使いものになるよう教育するのは、使い手にとって当たり前の義務だ。」
話を始めるエドガーとマーティン。
(なんか…いちいち引っ掛かる物言いの人だね)
(黙っていろ)
テレパシーでゲイルに話しかけたアンジェ。ゲイルはそれを黙らせる。
「さて、単刀直入に言わせてもらうが…」
どうやら本題に入るらしい。
「私はお前が大嫌いだ。」
いきなりの嫌い発言。険悪な関係だというのは間違いないようだ。しかし、
「ほう…」
エドガーの反応は、冷ややかなものだった。もう慣れているんだろう。社会というものは、策略と負の感情が渦巻く世界。科学者といえどそれは例外ではなく、エドガーはそんな世界を勝ち抜いて、今の地位にいる。マーティンのような、自分の存在を快く思っていない者は山ほど見てきたし、相手もしてきた。今さら大嫌いなどと言われたところで、微塵も揺らぎはしない。
「だが、お前が優れた科学者であることは事実だ。それは私も認めざるを得ない」
エドガーが保有する技術はマーティンと同等か、それ以上。マーティンも、世界も、既に認めていたことだった。
「だが私はどうしてもお前という男を好きになれない。」
「好きになって欲しいなんて頼んでいないし、思ってもいないよ。ただ周りの人間が勝手に付いてきているだけさ」
本気でエドガーに付いてきている人物は、恐らくいない。彼がマーティンに負けず劣らずの、癖のある性格の持ち主であることも知られている。もしいるなら、それは相当な物好きだ。だから現在エドガーに付いてきているのは、彼が持つ優れた技術のおこぼれに預かりたいと思っている者がほとんどなのである。
「そこで私は、お前が教育した傭兵と私の機械技術、どちらが優れているかを決めたいと思う。」
「お、おいおいちょっと待てよ!」
マーティンの申し出に、狩谷待ったをかけた。
「俺達は人間だぜ!?あんたの機械と、一緒になるはずねぇだろうが!!」
「ところがそうでもない。」
そう言ってから、マーティンはゲイルとエリックを見る。
「そこの二人に機械技術が使われている以上、黙って見てはいられないんでね。」
「マーティンは君達がメタルデビルズであることを校外で知っている数少ない人物の一人だ。」
エドガーは、マーティンがゲイルとエリックがメタルデビルズであることを知っていると説明した。
「実に気に食わない。人間に機械を組み込むなど、愚の骨頂だ!こうなると私が作ったアンドロイドとどっちが強いか勝負したくてね…」
「それで私達を呼んだというわけですか。」
納得するエリック。どうもこのマーティンは人間不信なだけでなく、負けず嫌いでもあるようだ。
「俺とエリックを呼んだ理由はわかりました。だが、なぜアンジェ達まで?」
「これも勝負の一環だよ。人間よりも機械の方が優れているということを、証明するためのな。」
「…なるほど」
本当に負けず嫌いだ。
「これ絶対教える人間違えたろ。」
狩谷は呟いた。
*
一同は、研究所の地下に案内された。ここにもヘブンズエデンと同じように、訓練フィールドがある。現在ゲイル達五人はフィールドの中で対戦相手の登場を待っており、エドガーとマーティンは強化ガラスで仕切られた窓から、それを傍観しているという形だ。
「今回相手をしてもらうのは、開発ナンバー607、グレーナイトだ。」
マーティンが近くのパネルを操作すると、全身を灰色の装甲に包んだアンドロイドが五体、入場してくる。
「私が開発した中では最新にして最強の戦闘用アンドロイドだ。制限時間二十分以内に、これを破壊してみせろ!できればの話だがな。」
マーティンが訓練の内容を説明すると、アンドロイド、グレーナイト達が構えた。そして、グレーナイト達の両手から剣が伸びる。
「最新最強のアンドロイド、か…面白そうじゃねぇのよ!」
狩谷はダークハンターを構えた。
「あたしは全然面白くないんだけど…」
グレーナイト達の姿にボーグソルジャーを幻視してしまい、げんなりする空子。
「大丈夫大丈夫!絶対勝てるよ!」
アンジェは覚醒し、アークスをカギ爪に変化させて両手に装備する。
「意気込むのは勝手ですが、私の足を引っ張らないことと、自分の身は自分で守ることを忘れないで下さいね。」
「心配するな。俺が一人で片付ける」
最後にエリックとゲイルがビャクオウとアデルに変身した。
「ではこれより、戦闘を開始する!」
マーティンの合図で、一斉に飛び掛かってくるグレーナイト達。狙いは、空子。
「そう来ると思っていたぞ!」
アデルはグレーナイトのうち二体をプライドソウルで跳ね返し、ビャクオウは一体をホワイトスイーパーの射撃で牽制。残った二体を、狩谷とアンジェが防いだ。グレーナイトが空子を狙ったのは、狙撃手だからだ。狙撃担当であるため、接近戦に弱い。強力なギガトラッシュの一撃を撃たせる前にに近づいて、片付けてしまおうというわけだ。もっともわかりきっていた戦法だったので、防がれてしまったが。
「ごめんみんな!」
自分がウィークポイントになってしまったことを詫びながら、空子はギガトラッシュを連射する。アーミースキルを発動して撃ったので、空子の攻撃は全弾命中した。しかし、
「…」
これだけの攻撃を受けたにも関わらず、グレーナイト達は少し小破した程度。
「ふん、さすがは機械技術の権威と言ったところか…!!」
アデルとしても、これぐらいで終わってもらってはつまらないと思っていたところだ。でなければ、正直言って来た意味がない。
「はあっ!!」
アデルはグレーナイト達に斬りかかる。しかし、グレーナイト達は驚くべき速度で回避して散開。アデルを包囲して、攻撃を始めた。それも一斉に雪崩れ込むのではなく、一体ずつ順番に挑んでいる。こうすることで集団の隙をなくし、相手が反撃するタイミングまでも奪ってしまえるのだ。一人目の攻撃をかわせば、二人目が攻撃を仕掛け、それを受け止めれば三人目が背後からアデルを斬る。
「ぐあっ!!くっ!!」
三人目を斬ろうとすれば四人目とが割り込んで防ぎ、三人目が離脱している間に五人目がまた背後から斬った。
「何をしているのですか!」
その状況を見るに見かねたビャクオウが射撃を行うことにより、グレーナイト達はアデルから離れる。すると、グレーナイトの一体の両手の剣が引っ込み、代わりにマシンガンに変形して攻撃してきた。ビャクオウは横に走ってかわしながら反撃し、グレーナイトも同じく横に走りながらビャクオウと撃ち合う。
「オラァッ!!」
狩谷はもう一体のグレーナイトに斬り込んだ。しかし、グレーナイトは狩谷の一撃をかわす。
「ちっ!」
再度放つ一撃。だが、またかわされる。狩谷の攻撃は大振りなので、高性能な戦闘プログラムを移植されているグレーナイトには、簡単に見切られてしまうのだ。
「うおっ!!」
加えてグレーナイトの武器は双剣。狩谷よりもスピーディーな攻撃ができる。グレーナイトが無言のまま放ってくる突きを、そのあまりの速さに驚きながらかわす狩谷。
「狩谷!!」
アデルは狩谷を心配するが、目の前のグレーナイトに手一杯だ。
「シャイニングフェザーストーム!!!」
アンジェはシャイニングフェザーストームで弾幕を張り、空子を残った二体から守ろうと必死で防いでいた。
「全然当たらない…!!」
グレーナイトはアンジェの攻撃を全てかわしている。接近戦に出れば確実に勝てるのだが、それだと空子の守りが手薄になってしまう。
「どうだエドガー!私の最高傑作達は、お前の手駒達を翻弄しているぞ!」
勝ち誇るマーティン。
「だから人間の育成に力を費やすなど、無意味だと言ったのだ!」
それは、彼がエドガーと知り合った時に言った言葉だ。
人間はいくら自分を鍛えても、体内が弱いことは変わらない。爆弾でも放り込まれようものなら、一発で絶命してしまう。また、速すぎるスピード、激しすぎる動きにも耐えられない。しかも、人間には心というものがあり、それによって行動に支障が出る場合もある。その点、アンドロイドは体内から破壊されても造り直せ、人間にはできない動きもできる。そして、人間よりも従順だ。一度行動をプログラムしてしまえば、余計な行動をすることもない。それこそ、マーティンが機械を選んだ根本的な理由でもある。
「確かに、なかなかの性能だ。」
エドガーも、マーティンが開発するアンドロイドのスペックは認めていた。ボーグソルジャーと比べてみても、ひけを取らないレベルである。
「こうなれば改造人間など必要ない。私のアンドロイド達の手でヴァルハラを滅ぼしてやろう!」
最高峰の科学者すら認めたグレーナイトの性能。マーティンはもう有頂天だ。
しかし、
「それは無理だね。」
エドガーは一言、そう言った。
「…何?今、何と言った?」
聞き返すマーティン。
「君のアンドロイドでは、ヴァルハラを滅ぼせないと言ったんだ。君はヴァルハラという組織を、何も理解していない。」
「馬鹿な!私のアンドロイドに敵う者など…!!」
「あれこれ言う前に、結果を認めた方がいい。」
「…?」
エドガーは、訓練場を指差した。
「…どうやら、これを使う時が来たみたいね。」
言いながら、空子はギガトラッシュに、ある弾をリロードする。
「アンジェ。ここはもういいから、遠慮なく接近戦を仕掛けて。」
「えっ!?でも…」
「あたしは大丈夫。秘策があるの」
「…わかった。」
空子の自信たっぷりな顔を見て、アンジェは弾幕の展開をやめ、飛び込んでいった。グレーナイト二体はたちどころに空子へと襲い掛かる。
「あなたは行かせない!!」
一体に狙いを定めたアンジェは両手のアークスにエネルギーを込め、
「ビーストクラッシュ!!!」
引き裂いた。これは空間そのものを攻撃することで、相手の肉体の強度や特性を無視して破壊する技。ミレイヌのエンドオブディメンジョンからヒントを得た技だ。そもそもアンジェもミレイヌと似たような能力が使えるのだから、同じことができないはずはない。だが、アンジェが仕留めたのは一体だけだ。もう一体は、空子に向かってまっしぐら。
しかし次の瞬間、その残った一体が突然爆発した。
アンジェが見た時、確かグレーナイトが胸の中央に風穴を空けられた気がしたのだが…。
「ドリルバレット。弾丸に螺旋状の溝を付けることで回転を加えて、貫通力を上げたのよ。」
空子は先ほど、その特殊弾頭をギガトラッシュに装填していたのだ。実戦で使ったのは今が初めてだが、結果は上々。これならレールガンアタッチメントを使わなくても、頑丈な相手を撃ち抜ける。彼女がより強力な射撃を行うために、必死に考えた輝かしい結果だ。
「あたしの技がいつまでもハウリングシュートだけなわけないでしょ?」
「空子すごい!」
空子が自信満々だった理由を知って、アンジェは思わず拍手した。
「あいつもちゃんと努力してたんだな…」
狩谷はグレーナイトの攻撃をかわしながら、空子のもたらした努力の結果を見届ける。
「なら俺も、新技を見せるとしましょうか…!!」
一度距離を取った狩谷。その狩谷に向かって、グレーナイトは背中にバーニアを展開させて飛行、急接近する。
「ラアッ!!」
狩谷とグレーナイトが攻撃するのは、同時だった。双剣と鎌、二つの武器がぶつかる。
その刹那、グレーナイトは弾き飛ばされ、ものすごい速度で飛んでいき、背後の壁にぶつかって砕け散った。
狩谷は打ち合う前、ダークハンターに極限まで圧縮した暴風を纏わせていたのだ。それに触れてしまったことで圧縮されていた風が爆発し、グレーナイトは吹き飛ばされた。
「名付けてサイクロンエフェクトだ!!見たか人形野郎!!」
ビャクオウと撃ち合うグレーナイト。と、いきなりビャクオウが攻撃をやめた。原因は不明だが、その隙を突いて、グレーナイトは左手だけに剣を出現させ、ビャクオウを斬る。しかし、ビャクオウの姿は霞のように消えてしまった。直後、
「エンドオブファンタズマ!!」
グレーナイトは背後から現れたビャクオウに斬られ、爆発する。倒したと思ったのは、ビャクオウがイリュージョンナイトメアを使って見せていた幻だ。
「私の能力は、機械すらも騙せるんですよ。」
グレーナイトの剣を受け止めるアデル。
「…俺は小細工が苦手でな。」
しかし、この瞬間を待っていた。
「決めさせてもらうぞ!!」
今の体勢を崩さないよう、うまく力加減を調整しながら、プライドソウルにエネルギーを込めていく。強く踏み込めばその力を利用して逃げられてしまうし、こちらが弱くても逆に斬られてしまう。そして、グレーナイトを破壊するのに十分なエネルギーを獲得したアデルは、
「エンドオブソウル!!」
剣ごとグレーナイトを真っ二つにした。
「な…何だこれは…」
マーティンは愕然としている。ついさっきまでヘブンズエデンの訓練生達を圧倒していたはずのグレーナイト達が、一瞬にして逆転されたのだ。最高傑作がいとも容易く破られたことに、ショックを隠せない。
「確かに機械は強い。人間にはできないことでも、簡単にできる。」
エドガーはグレーナイト達の敗因を説明する。
「だが、人間は成長できるんだ。機械を遥かに上回る速度でね」
「成長、だと?それくらい私のアンドロイドにも…!!」
「人間の成長速度は、それ以上だと言っているんだよ。」
彼らはミレイヌという強敵との戦いで、大きな敗北を経験した。だから、次こそは勝つという執念を持つことができたのだ。執念は成長を生む。執念がなければ、強い相手に食らいつくことはできない。
「わかったかい?なら、私達はもう帰らせてもらうよ。何せ新しいサンプルの研究が忙しいものでね」
エドガーが言うサンプルとは、先日訓練生達が仕留めた星の精のことだ。あの後エドガーは星の精の死体を持ち帰り、独自に調べている。
「うぐぐ…」
どうしても負けを認められないマーティンは、タイマーを見る。
「まだだ!!」
時間は、あと十二分。
「まだ終わっていない!!」
マーティンは再びグレーナイトを入場させる。今度は、三倍の十五体。
「おい!話が違うぜ!」
「黙れ!!こんなことがあってたまるか!!お前達の方が優れているなど!!」
マーティンは狩谷の抗議を無視した。
その時、
「教授。お客様が参られました」
通信が入った。ちなみにこの研究所に人間はマーティンしかおらず、あとは全て機械任せだ。
「我々以外にも呼んでいるのか?」
エドガーが尋ねる。
「…いや、お前達以外は呼んでいない。」
アポなしの、突然の訪問者。それが何者かと思い、マーティンは通信を繋いだ。
「すいません。私は政府のウルズという者ですが、急遽データを受け取りに来ました。」
モニターが現れ、そこに男性の姿が映る。
「誰だお前は?私はそんな話を聞いていない。」
マーティンが見たことのない男性で、政府の役人が来るなどという話も聞いてはいない。
「ですから、急遽決まったことなんです。」
「だとしても、私は政府にデータを提供するつもりなどない。」
マーティンは気分がのった時にしか、発明品を提供しないのだ。現にこのグレーナイトも、どこにも情報を開示していない。
「…どうしても渡しては頂けないと?」
「渡せんな。」
即答である。
「…では仕方ありません。」
ウルズは穏便な話し合いを諦め、
「腕ずくでも渡してもらうぞ!」
パソコンを擬人化したような怪物へと姿を変えた。
「なっ、何!?」
「ほう、ボーグソルジャーか。」
エドガーは怪物の正体を見抜く。ボーグソルジャーウルズは、頭からアンテナを出した。すると、突然警報が鳴り出し、隔壁が勝手に閉まる。
「これが俺の能力だ。俺はこのアンテナから出る電波で、あらゆる機械を操ることができるんだよ!」
研究所のシステムを掌握したウルズは、研究所に侵入してメインコンピュータールームを目指す。
「ば、馬鹿な!!」
すぐに対処しようとするマーティンだが、何をどうしても、ウルズに奪われたシステムを取り戻すことができない。グレーナイトを操るシステムも掌握されたようで、十五体のグレーナイトは暴走し、研究所の破壊を始める。
「なに!?どうしたの!?」
自分達を無視して辺り構わず攻撃を始めたグレーナイト達を見て、わけがわからず混乱する空子。そこへ、エドガーが無線機で連絡を入れた。
「研究所内にボーグソルジャーが侵入し、システムを掌握された。防衛システムを無力化しつつ、ボーグソルジャーを撃破して欲しい。」
「了解した。行くぞエリック」
「私に命令しないで下さい。」
快く引き受けたアデルと、渋々ながらも続くビャクオウ。
「エドガー!!何を勝手に命令している!?」
「君の兵士が命令を聞かない以上仕方ないだろう?それに、私が命令した相手は私の兵士だ。逆に言うが、君が私の兵士に対して命令する権利はない。」
「くっ…!!」
反論できない。
「ゲイル!!エリック!!あいつらは俺達に任せて、お前らはボーグソルジャーを倒せ!!」
「ボーグソルジャーを倒せば、グレーナイトは止まるんでしょ?ならそっちの方が手っ取り早いわ!」
「私達は心配しなくていいから、行って!」
「すまない!」
狩谷達にグレーナイトの相手を任せ、アデルとビャクオウはウルズを倒しに行く。
「さて、我々も行こうか。」
エドガーは懐から拳銃を出し、目の前の隔壁を撃った。すると、銃口から光球が飛び出して隔壁に命中、爆発し、大きな穴を開けた。これはプラズマピストルという銃で、鉛弾ではなくプラズマを圧縮した弾を撃つ銃だ。破壊力が一点に集中するよう調整してあり、一発一発がプラスチック爆弾の二十倍の威力を誇る。
「ぜひとも見せたいものがあるんでね。」
*
「これがメインコンピューターか。」
ウルズはコンピューターに触れる。すると、ウルズの腕から何本ものコードが伸びてコンピューター内に侵入し、複数存在するプロテクトを突破。中のデータを吸い上げ始めた。ウルズは機械を操る電波を出せるだけでなく、直接ハッキングすることもできるのである。
「へへっ、ちょろいもんだ。」
間もなく、全てのデータを吸い終える。
「よし、これでもうここに用はない。せっかくだから、自爆プログラムでも起動しておくか!」
もうやりたい放題だ。優れた機械が相手であるほど、ウルズは力を発揮できる。あらゆることを機械任せにしているこの研究所ほど、彼が思い通りにできる場所はないのだ。だが、そんな天下もすぐ終わる。
「そこまでだ!!ボーグソルジャー!!」
「降伏しろとは言いません。何も言わず何もせず、ただ私に殺されて下さい。」
アデルとビャクオウが間に合った。
「メタルデビルズ!もう来やがったか。お前らにも用はないんだよ!!」
仕方なく相手になるウルズ。
「おお、ちょうどいいところに出くわしたね。」
エドガーとマーティンは部屋の外から、中の様子を伺っている。
「エドガー、私に見せたいものとは何だ?」
「焦らない焦らない。黙って見ていたまえ」
「…」
言われた通り、黙って見ているマーティン。
「覚悟しろ!!」
「お前らがな!!」
ウルズはメインコンピューターに刺していたコードを抜き、さらにもう片方の手からもコードを出して、飛び掛かってきたアデルとビャクオウを絡め取った。
「改造人間に俺の電波は効かないが、このコードを使って直接操ることはできるんだよ。」
コードから高圧電流が流れてくる。この電流は機械に直接働きかけ、対象となる機械をウルズの支配下に置いてしまうのだ。
「ぐあああああ!!!」
「うぐ…おおおおおお…!!!」
苦しむ二人。
「こいつを破れるのはミレイヌ様と三将軍、トップソルジャーの五人だけだ!!俺の下僕になるがいい!!」
改造人間すらも操れるウルズ。このままでは、アデルとビャクオウも操られてしまう。
しかし、
「…おおおおおおおおおおおお…!!!」
アデルはコードを引きちぎった。
「何!?」
驚くウルズ。
「こんな…ものでっ…!!!」
ビャクオウもコードを引きちぎる。
「こ、これは…!!」
マーティンはエドガーを見た。
「これなのか!?お前が私に見せたかったものというのは!!」
「ああ。」
機械を支配するボーグソルジャー。その支配を破ってみせた二人のメタルデビルズ。ウルズは今まで自分の技が通じなかった相手の情報を照らし合わせ、効かなかった理由を察する。
「まさかお前達は…脳改造を受けていないのか!?」
「その通り。」
エドガーは身を乗り出し、ウルズの質問に答えた。アデル、、ビャクオウ、ウルズの三人はエドガーの登場に驚くが、エドガーは回答をやめない。
「レーダーやら通信回路やらいろいろ埋め込みはしたが、脳自体は手付かずなままだ。君達ボーグソルジャーのように、機械化させたりはしていない。」
ほぼ全てのボーグソルジャーが、自身の性能を向上させるために、脳の一部か全体を機械化改造している。ウルズはその機械化した部分に干渉することで、改造人間を操れるのだ。しかし、ミレイヌや三将軍、フィスなどは脳の改造を受けていないため、ウルズの技が効かない。それと同じことが、アデルとビャクオウにも起きているのだ。
「…どうやらそういうことらしい。」
「残念でしたね、目論見が外れて。」
「くそっ!!ハッキングなんてしなくても、お前らなんかに負けるか!!」
やけを起こしたウルズは顔から光線を出し、戦いを再開する。
「馬鹿な!!脳を機械化させずにあんな性能が出せるなど…」
「私にはできるんだよ。何せ私は…」
ボーグソルジャーを超える改造人間を生み出せた理由、それが遂に、マーティンに語られる。
「イースの偉大なる種族とコンタクトを取ったことがあるのだからね。」
イースの偉大なる種族とはクトゥルフ神話に登場する、人類よりも遥か昔に地球で文明を築いていたという種族だ。イス人とも呼ばれているこの種族は自分の精神を時空を越えて転移させる能力を持っており、この能力を用いて対象となる生物と意識を交換してしまう。その後は意識を交換した生物に成り代わり、その時空の知識を収集する。
「そんな生物が存在したというのか!?お前ともあろう者が、そのような非科学的な話を…!!」
「非科学的も何も、私自身がこの身で体感したんだから、認めるしかないだろう。」
認めようとしないマーティンをなだめるエドガー。
「あれはまだ私が科学者になって、一流と呼ばれ始めた頃のことだった。」
エドガーは、孤児だった。孤児院で育った彼は、世間で騒がれている著名な識者達の姿を見て、こう思ったのだ。
いつか自分も、そこまで成り上がってやる、と。
それから猛勉強を始めたエドガーは、孤児でありながら一流の科学者になるという大快挙を遂げた。だが彼はその地位で満足せず、さらなる知識を求めて研究を続けたのである。
そんなある日、イス人に目を付けられたエドガーは精神を交換され、自分が持つ知識の提供を求められた。しかし、それだけで終わらないのがエドガー。なんと、巧みな話術でイス人の持つ数多くの知識を交換条件で開示してもらい、元の身体に戻されたのだ。こうしてエドガーは、世界最高峰の頭脳を得たのである。ちなみにクトゥルフ神話が好きになったのは、この体験がきっかけだ。
「私はイス人の知識を得ることによって、君よりも早く、君が出した答えにたどり着いた。」
ヴァルハラをアンドロイドで滅ぼせばいい。その考えに、エドガーはずっと前からたどり着いていた。そして、それがヴァルハラには通じないという答えにも、だ。盟主ミレイヌは次元操作を使ってあらゆる世界に行き、その技術を手に入れている。いくらエドガーの頭脳が優れているとはいえ、地球の技術だけでは太刀打ちできない。
そこでエドガーが行き着いたのが、改造人間を使うという考えである。
「マーティン。なぜ私が君にメタルデビルズの情報を教えたか、わかるかね?」
「…いや。」
癪に障りながらも答えがわからず、マーティンは首を横に振った。まぁ、今のマーティンには理解できないだろう。そう思い、エドガーは教える。
「ちょうどいいと思ったからさ。」
「…何がだ?」
「人間にはできないこともある。だが、機械にもできないことはある。それを教えるには、だよ。」
片方だけでは、どうしても成し遂げられないことがある。だからこそ、二つを合わせる必要があるのだ。いくら人間が嫌いだから、信じられないからだといって、いつまでも目を背けていてはいけない。エドガーは、それを教えていたのだ。
「…どうして…お前はそこまで…」
自分があれほどまでに嫌っていたエドガー。しかし、エドガーはマーティンの人間不信を治そうとしてくれていた。その理由がわからず、問いかける。
「確かに私は、他人に好かれるつもりはない。だが…」
エドガーは振り向いて笑いかけた。
「嫌われたままというのも後味が悪いからね。」
「エンドオブソウル!!!」
「エンドオブファンタズマ!!!」
「ぐあああああああああああ!!!!」
アデルとビャクオウは、必殺技でウルズを斬りつけた。
「ぐうぅ…!!」
立ち上がるウルズ。だが、もう戦う力は残されていない。
「俺を倒しても遅いぞ!!データはヴァルハラ本部に転送した!!今に強化されたボーグソルジャー達が、お前達を殺しに来るぞ!!楽しみに待っていろ!!」
どうやら、戦っている間にデータをヴァルハラに送られてしまったらしい。
「ミレイヌ様!!バンザァァァァァァイ!!!」
ウルズは親愛なる盟主の名を叫びながら、爆発して果てた。
*
「…ウルズが敗れたようです。」
マヴァルは送られてきたデータを見て言った。データにはマーティンの研究の他に、研究所にメタルデビルズがいたことが記されていたのだ。
「まったく、間の悪い連中だ。どうしてわしらが作戦行動を行う先にばかりいるのか…」
あまりにも偶然が重なるため、ネイゼンは世界そのものがヴァルハラの邪魔をしているような錯覚をしていた。
「ウルズの死は無駄ではありません。このデータを使えば、デザイアの手を借りずともボーグソルジャーの強化が可能になります。」
有能な部下を失いはしたが、ミレイヌは止まらない。ウルズが遺してくれた功績のおかげで、もうデザイアから恩を買う必要がなくなった。
「クロノ・クライシス計画を完遂するために、ヴァルハラはもっと強くならなければいけないのです。」
全ては、最終計画のために。
*
ウルズが倒れたので電波がなくなり、研究所の全てのシステムを取り戻すことができた。もっともそれより早く、狩谷達がグレーナイトを全滅させてしまったが。
「すまない。データは奪われてしまった」
エドガーはマーティンに詫びる。
「いや、データはいくらでも替えがきく。だが、人間の命はきかない。」
マーティンの言動に少し変化があった。これまで人間の命などどうでもいいと思っていたマーティンが、人間の命を気遣ったのだ。機械はどこまで行っても道具だが、人間はそうはいかない。使い手である人間がいなくては、道具だけあっても意味がないということに気付いたのである。
「私はやはり、お前が嫌いだ。他の人間を好きになるつもりも、ない。」
一度傷付いた心を癒すのは、容易ではない。だが、
「だが、努力はしよう。」
マーティンは傷を癒す意思を見せた。それだけで今回の戦いは、意味があったと言える。
「…なんかあったのか?」
狩谷はゲイルに小声で尋ねた。
「…さあな。科学者の話は、科学者にしかわからない。」
しかし、ゲイルは肩をすくめるばかり。と、
「ゲイルっ!」
空子がゲイルに話しかけた。
「何だ。」
「あ、あの…」
顔を赤くしてしどろもどろな空子。
(落ち着け!勇気を出すのよあたし!)
必死に自分を鼓舞して、ゲイルに言う。
「今日、あたしのこと、真っ先に守ってくれたでしょ…?」
「ん?ああ、グレーナイトとの戦いのことか。」
「うん。あの…その…」
耳までトマトのように赤くなり、頭からは湯気が出る。
「あ、ありがと…」
精一杯の勇気を振り絞った空子は、ゲイルに助けてもらった礼を言った。
「あ、ああ…」
妙な圧力に圧され、ゲイルは頷く。
「今日はよく頑張ったんだし、空子を褒めてあげてよ!偉い偉いって!ついでに私も!」
「あっ!ずりい!俺も褒めてくれよ!」
「お、お前らどうしたんだ今日は!」
「…本当に騒がしい連中ですね。」
未だに赤い空子、茶化すアンジェ、便乗する狩谷、慌てるゲイルを見て、エリックはやれやれと首を振っていた。
はい、今回はエドガーの友人マーティンと、エドガーの過去が明らかになりました。
エドガーが人間を改造できるなんて技術を持っていたのは、イス人と接触していたからなんです。しかしイス人の知識を持ち帰るとは、我ながらとんでもない設定を考えてしまいました。
次回は設定の追加を挟んで新たな強敵、ハイブリッドウォーリアーの襲来を描きます。
では、お楽しみに!




