7.冬支度(3) ハーブチンキ作り・後編
手を洗って、エプロンをつけると、ふたりは並んでキッチンに立った。その間にはブロンがちょこんと座っている。
「それじゃあ始めるね。ハーブチンキは、ドライハーブをアルコールに浸けて、ドライハーブの成分を抽出したものなんだ。だから、一番大事になるのが、アルコール度数の高いお酒。うちにはウォッカがあるから、これを使おう」
「アルコールに浸けてあるのか。じゃあ、子どもは使えないってことか?」
「アルコール度数が高いから、火を通して、アルコール分をしっかり飛ばせば使えるよ」
他に用意するものは、お好みのドライハーブと、煮沸消毒した瓶だ。
「まずはドライハーブを瓶に入れて、その上にアルコールを注いでいきます」
「このハーブは?」
「ヒソップだよ。風邪の初期の症状とか、予防に効果があるハーブなんだ」
エリクは乾燥させたヒソップを瓶の中に手早く入れた。その上からシュゼットがウォッカを注いでいく。
「ハーブがアルコールから出ないように、ひたひたになるまで入れるのが大事なんだ」
「結構量が必要になるんだな」
「うん。でもこの前フランセットさんたちがお礼にたくさん下さったから、ウォッカはまだまだあるよ」
ハーブがアルコールに浸かったら、瓶に蓋をし、ゆっくりと上下に振っていく。エリクは真剣な顔で、慎重に瓶を振った。緊張をほぐそうと、ブロンが足元にフワフワとすり寄るが、表情が変わらない。そのこわばった顔に、シュゼットはクスッと笑った。
「なんでそんなに緊張してるの?」
「俺握力が強いらしくて、こういう瓶とかコップとか、結構割っちゃうんだよ。だから、心配で」
「えっ!」
「キャウッ!」
シュゼットとブロンがあんぐりと口を開けると、エリクは手を動かしながら苦笑いをした。
「自分でもそういう顔になるよ」
「す、すごいね。リンゴも片手でつぶせるんじゃない?」
「やったことはねえけど、確かにできそうだな」
ふたりと一匹はクスクスと笑いあった。
「よく混ざったね」
「もうこれで完成か?」
「ううん。直射日光を避けて、一、二か月の間、冷暗所に保存するんだ。あとは、ハーブを濾してチンキ液だけを清潔な瓶に保存すれば完成だよ」
「結構簡単だな」
「作業時間よりも待つ時間の方が長いんだよね」
シュゼットはエリクから瓶を受け取ると、両手で握りしめ、「ちゃんとできますように」と唱えた。
「まじないか?」
「うん。作ったらやるようにしてるんだ」
「エリクも」と言って瓶を渡すと、エリクはシュゼットと同じように瓶を両手で持ち、「うまくできてますように」と唱えた。
「これで良いか?」
「バッチリ!」
ふたりは様々な種類のハーブで、次々にハーブチンキを作っていった。今日はエリクも仕事が休みで、午後の間ずっとシュゼットに付き合うことができたのだ。
十本も作った頃には、エリクも瓶を振るのに慣れてきた。
そうして出来上がったのは、全部で五十本のハーブチンキだ。家の中にあるありとあらゆる瓶を使って作ったため、大きさや形はバラバラだ。
作業台を埋め尽くすほど瓶が並ぶ壮観な光景に、シュゼットとエリクは長い溜息をついた。
「これだけ作れば、風邪予防はバッチリだな」
「うんっ。今年使い切れなくても、ハーブチンキは一年から二年保存できるからね」
「そうなのか。じゃあ、なおさら安心だな」
「手伝ってくれてありがとう、エリク。おしゃべりしながらやったから、楽しくてはかどっちゃった」
「力になれたならよかったよ」
ふたりは協力して瓶を地下室に運び込んだ。ふたりが階段を上り下りするのを、ブロンは飽きもせずについていった。
「一か月後か二か月後だっけ?」
「うん。楽しみだね。エリクと一緒に作ったハーブチンキ」
シュゼットがにっこりと微笑むと、エリクもニッと笑って、「だな」と答えた。
「――ニノンが冬風邪にかからないで、この冬を乗り切れるように、わたしにも協力させて。風邪の予防に効くヒソップのチンキなんだけど、これで毎日うがいをしてるからか、わたしもおばあちゃんもここ二年は冬風邪にかかってないんだ」
ニノンは口の端にケーキのカスをつけたまま、ガバッとシュゼットに抱き着いた。
「ありがとー、シュゼット! わたし、がんばるね!」
「うんっ。応援してる!」




