2-17
貴方は後の王となる方です。
国の再建にも、これからもっと様々なことをしなくてはなりません。
そこには貴族、平民全ての人が力を合わせなくては実現しないのです。
してもらうのが当たり前なのではありません。
指示だけすれば良いのでもありません。
貴方は皇太子が、王が何をすべきなのか、今一度考えた方がいいのではないでしょうか。
ラヴィニアは真剣な眼差しでラティスにそう言った。
ラティスは真っ赤な顔をして怒りに振るえていたのだが、外でラヴィニアに汚い言葉で怒鳴りつけるわけにもいかない。
小さく何かを呟いたラティスはサーシャを追い抜いて歩いていった。
「……言いすぎましたでしょうか」
「いいや、君が言った通りだと思う。」
ラヴィニアは仕事をするラティスをはじめてみた。
そして二人でいる時に外出などほぼした事がないラヴィニアはラティスのその平民に対しての感情を容認できなかった。
ギスギスしたままの遅すぎる昼食を終わらせたラヴィニアは、あんなに楽しみにしていた屋台を満喫することは出来なかった。
残念に思いながら窓から外を眺めていると、すぐ隣に座るラティスはまだ苛立ちがおさまらないのか足をタンタンと何度も鳴らしている。
これは昔からの癖であり、ラヴィニアへの謝罪の促しでもあった。
しかし、ラヴィニアにとって容認できない内容の話に謝罪など出来ない。
無視を決め込んでいる。
そして居心地の悪い馬車の中、サーシャは別の資料を見ていた為2人を放置した状態で城へと到着する。
「おかえりなさいませ」
1列に並び綺麗に頭を下げる侍女たち。
その隣には執事のクリスがいる。
「特別変わりはなかった。花祭りも欠品なく準備出来るだろう」
「ようございました」
手渡された書類をクリスは丁寧に持ち、優しく笑った。
まだ30代後半くらいだろう、グレーの髪を後ろに撫で付けクリスはサーシャの指示でそのまま書斎に資料を置きに行った。
「ラヴィニア嬢……大丈夫か?」
すでにラティスは城に着いた瞬間どこかに行ってしまった。
その背中を見送った後、ラヴィニアはサーシャを待っていた。
「大切な視察の後ではありますが、私達の言い争いに巻き込んでしまいサーシャ殿下、そして護衛騎士の方々、大変申し訳ありませんでした」
「いいや、むしろ君に全てを言わせてしまって悪かったと思っていたところだ」
「え……?」
「悪いがまた後で部屋に訪問させてもらう。話したいことがあるんだ」
「……はい、かしこまりました」
サーシャの疲れたような、困ったような笑みを見てから頷くラヴィニアは、侍女に促され部屋へと戻ったのだった。
「おかえりなさいませ」
「はい、ただいま帰りました」
部屋に戻ると3人の侍女が綺麗に頭を下げている。
ラヴィニアはアンジェリーナがいれてくれた紅茶を飲み息を吐く。
すると、鋭い視線が飛んできた。
「ラヴィニア様は視察に同行されて言い争いをなさったのですか?随分ご迷惑をかけますのね」
「……オパール様、それは侍女としての言葉でしょうか?私は今客人としての立場なのですが、そうなら随分と物言いが良くありませんね?こんな大国の、上下関係には厳しいはずの侍女教育はいったいどうなっているのでしょうか。サーシャ殿下に申し付け致しますね」
「なっ!!」
ラヴィニアは今回のラティスの態度に苛立ちを隠しきれなかった。
そんな状態のラヴィニアにオパールは突っかかってきて、言葉遊びに付き合う気分になれず視線を向けることもないまま言い放った。
「……オパール様、今は休みたいので貴方は退室してくださって結構です」
チラッとオパールを見てから紅茶を飲むと、顔を赤くしたオパールはそのまま部屋から出ていった。
「……珍しいですね、あんなキツい言い方なさるの」
「ちょっと、いらだっています」
いつも穏やかなラヴィニアが自ら口に出すくらいの珍しさにアンジェリーナは首を傾げた。
「視察で何かありましたか?」
「特に。視察はとても有意義でした」
「……視察は」
「……視察は、です」
「……なるほど」
ふむ、と考えたアンジェリーナは失礼しますと礼をしてから退室した。
残されたのはラヴィニアともう1人の侍女。
その人は長い金髪を綺麗に編み込み青いリボンで結んでいる。
立ち振る舞いが綺麗で、器用に何でもこなしていた。
「……ヴァイオレットさん、雰囲気を悪くしてごめんなさい」
「いいえ、ラヴィニア様が悪いのではありませんもの~」
そのキリッとした見た目に反しおっとりとした話し方に思わず苦笑した。
しかしおっとりしてるのは口調だけで、このヴァイオレットの仕事ぶりはスーパー乳母、マーサを見ているようだった。
すなわち、凄いの一言だ。
「お待た致しました」
ノックの音が聞こえ入室許可を出すとアンジェリーナがワゴンを持って帰ってきた。
「アンジェリーナ?これは……」
「シェフが作ったちょこれーとけーき、というものです」
「ちょこれーと…これが」
エスメリア帝国、アビゲイルの実家の辺境の森に昔からある巨大な木に出来る木の実。
この木にだけは魔物は集まらない不思議な木だった。
その木の実、かかーおはどうやら苦味の強い茶色い食用だとわかる。
もちろんそのままでは食べれなくかなりの時間と資金をかけて開発して出来たのがこのちょこれーと。
甘みのある美味しいお菓子が出来上がった。
甘さや形などを変えられる変わった木の実で、その加工も人経費も高額になり現在貴族社会での贅沢品となっていた。
輸出もしていない為、ラヴィニアは名前だけ知っている実物のちょこれーとをマジマジと見る。
「……黒いです」
「黒いですね……」
小さめの白いお皿に乗せられた丸く黒いケーキ。
初めて見るその不思議なケーキをラヴィニアは様々な角度から見て、行儀悪いが鼻先を近づけた。
「……ん?甘い匂いではありますが、暖かい……」
ケーキの熱を感じたのか、ラヴィニアは顔を離すと、ヴァイオレットが隣に来てフォークを持たせてくれる。
「どうぞ割ってみてくださいー」
促され、小さめのフォークをケーキにあてる。
少し硬いのか、ただ触れただけではフォークは沈まなかった。
ちょっとだけ力を入れると少しの抵抗感の後直ぐにフォークは皿まで到達した。
湯気と共に濃厚なちょこれーとの匂いが溢れる。
「え……」
そして白いお皿に流れるちょこれーとは、ケーキにまとわりつく様に広がった。
「ふぉんだんしょこら、という名前です〜。どうぞお召し上がりください」
衝撃的なちょこれーとの出会いは、ここが始まりだった。




