94.激闘リトルボア
えへへー。やっぱり教えてくれました。本当は試験官に頼っちゃいけないんだけど、師匠とカンナさんは甘甘だから教えてくれると思ってました。
これは子どもの特権なので問題なしです。……たぶん。
位置が分かったのでそちらに向きを変えます。ふんす、今日は真っ直ぐには向かいませんよ。私は学習する生き物ですからね。
通り易そうな所を見つけながら、お高い採取もします。15夜草発見! お花が咲いている奴だけ採取して師匠にあげます。
「師匠、はい。あげます」
「ん、うん」
荷物になるので即渡しです。これはどうせポーションの材料になるので売らないから師匠行きなのでいつもの事です。ご飯に寝床、お風呂の確保のためですから問題なしです。
おっと。ん? 初めて見る素材も発見です。採蜜花? Cランク判定です。黒の助言ちゃんナイスです。
大きなつつじの花に似ています。花の根元がまあるく膨らんでおり、そこに蜜が貯えられている模様です。
タグ情報なのでそれ以上は分かりません。おお、小瓶で50リンもします。はて、瓶を持っていたかな?
「ネイちゃん、これ採取したいんだけど、瓶持ってる?」
「ううん」
案の定、首を横に振りました。ですよね。わたしが持ってないのにネイちゃんが持っている訳ないよね。さてさてどうしましょう。
そかそか。搾らないで花のまま持ち帰ろう。雑納袋で回収してアイテムボックスに入れておけば劣化しないでしょう。
花の額ごと切り離して上の花の部分は毟ってしまいます。額を取ると蜜が溢れてくるのでそこは取ってはダメです。
そこそこ咲いているので結構な量が採れました。この蜜は美味しいのでしょうか?
「師匠、これ美味しいですか?」
「……薬の材料にもなる。錬金術大全4巻だぞ」
「!!!」
やばい。藪蛇でした。ネイちゃんフォロー。……あらぬ方向を見てました。期待薄です。
「え、えーと。うふ?」
拳を胸元で握ってかわいく小首を傾げてみました。誤魔化そうと思います。
「……ちゃんと勉強しておく様に。魔力を込めて搾れば薄桃色の蜜になる。そのまま搾ると無色の蜜だ。どちらが高いかは言わなくても分かるな?」
コクコクと頷いておきますよ。で、おいしさは?
「勿論薄桃色の方が美味しいさ。薬に使わないなら食べてもいいぞ」
おお。ならこれも師匠行きですね。あげますよ。……搾ったあとですよね。はい。知っていました。アイテムボックスに収納しておきますとも。
そんな感じで近づいて来たんですけど、とうとう私の索敵範囲にもリトルボアが入ってきました。数は15です。ちょっと大きめの群れです。
「ネイちゃん。魔力を先に練っておいてから弓と飛斬で数を減らそう」
「……その後秘技だね?」
「うん。出し惜しみしないよ。一気に片を付けよう」
群れ全体を視界に収めて弓を構えます。さあ、ネイちゃん行こうか。伝説の始まりだよ。
「お、弓で1頭ずつ、飛斬ではまだ無理か。秘技とか言ってるぞ。あ~、なんか懐かしくないか? 誰ぞも必殺他属性乱舞とか言ってたな」
「うるさい。誰もが通る道なんだよ。属性が違うと魔法が次々に撃てるのに気付くと自分だけだと思うんだよ」
「あ~、初級魔法1発じゃ仕留めきれてないな~。お、お。粘るじゃんか今回」
「ふぅ~。1発ずつじゃなくて待機させながら9発撃てる事までは気付かなかった様だな」
「あ~、吹き飛んだぞ。タエか? でも10匹は仕留めてる。あと少しだ」
あ~、初級魔法じゃ仕留めきれないのか~、大変な誤算です。もう目の前にリトルボアがいます。こいつにドンとやられちゃえばあとはいつも通りの展開です。
くっそ~。ネイちゃんも危ない。ならどちらかだけでも残れば……ネイちゃんの目の前に居るリトルボアに小太刀を構えて突きを放ちます。無防備に側面を晒しますがネイちゃんあとは頼む……。
「タエ!!」
体の側面に頭突きを食らって吹き飛んで行く私を驚愕の表情で見つめるネイちゃん。ぐはぁ、残り4頭です。
私に追い打ちをかけようと残りの4頭が殺到しますが、ネイちゃんの呪文が炸裂。上半身を起こした私の飛斬が止めとなって残り3頭。
ネイちゃんが小太刀を構えて迎撃するつもりの様です。飛斬を放ったあと直ぐ様、魔力を練り上げ、うつ伏せのままファイヤーアローを放ちます。右手に小太刀、左手に神木の杖を持っています。
ネイちゃんの飛斬が先頭の1頭に直撃しました。残り2頭。しかしネイちゃんが吹き飛びました。2頭分の頭突きです。
既に私は立ち上がっています。さらに魔力を練ってアイスニードル、サンダーアローと続けざまに短縮詠唱で呪文を放ちます。
吹き飛びながらもネイちゃんが、小太刀を振り回して1頭を屠りました。残り1頭。最後の1頭は他に比べて大きいです。群れのボスでしょうか。
私かネイちゃんかどちらを狙う気でしょう? ネイちゃんはゴロゴロと転がって行きました。立っているのは私だけです。ここは女を見せます!
「ああああぁぁぁぁ~~~」
ワイルドファング戦を思い出します。あの時も突っ込んで行っちゃいましたもんね。さんざん練習した唐竹です。あの時のちゃちなナイフじゃありません。
今までで一番綺麗な唐竹です。リトルボアの首筋に吸い込まれる様に……。吹き飛びました。私の力じゃ切り裂くのは無理でした。
そうですよ、突きですよ。村の鍛冶屋のおんじに言われたじゃないか~。
でもまあ、リトルボアですから。1頭ですし冷静になれば2人で仕留めきるのはそれほど困難じゃありません。冷静になるまで転がされましたけどね。