50.お師匠様5
「生わさぶはどうだいアンタ?」
「うーん。美味い事は美味いんだが、どう出すかが問題だろ?」
「……一応案、ありますけど聞きます?」
もちろん前世の記憶ですよ。生わさぶを1本と小さなサメ皮の下ろしを出して客に摺らせるんだよ。香りも摺りたてで良いし、自分で摺るのも面白いから受けること間違いなしだよ。
小さな下ろしにちょっと初期費用がかかるけど、わさぶ1本丸々売れるから売り上げは上がると思うよ。
「なるほどな。ちょいと高くても受けると思うぞ。問題は生わさぶの入手経路か」
「それなら見習い冒険者を雇っちゃえばいいんだよ。大量に採ってきてくれると思う」
トントン拍子で決まって行きました。でもこれって私達の取り分が無いんだよね。特許料なんてこの世界には無いから仕方ないか。
「ちょい待ちな。ジュリ。アイディアは全部この子達だ。なにもなしは無いだろう。それならすべての調味料を止めるよ」
「ああ、そこは分かってるよ。何も脅しをかけなくたって考えてるさ。そうだね~、料理1つに付き10リンってところでどうだい?」
「もう少し出しな。あんたの所かなり儲けてるだろう。他の調味料もまさか安く買い叩いてるんじゃないだろうね。私が弟子にしたからには早々ボッタクらせないよ」
「チッ。言ってくれるじゃないか。うちらがボッタクル様な事なんかするもんかい。結構な値段で買ってるんだからね。わさぶだって10リン以上出したらその分料理に値段が跳ねっ返るだろう? そうしたら数が減るから結局儲けも減っちまうのさ。そこん所のバランスが大事なんだよ」
女将さんとお姉さん師匠が侃々諤々やり始めちゃったよ。まあ、そっちは放っておいても良いか。
「嬢ちゃん。このガリックの魚醤漬けはいつ持って来れそうだい?」
「えーと。これは結構漬け込むので時間かかりますよ。この1瓶しか作ってませんから直ぐにと言う訳にはいきません」
「そうかい。じゃあ、樽で仕込んでくれないか? ……いや、うちで仕込めばいいのか。そうすりゃうちでバランスもとれるか」
「そうですね。私は結構ガリック多めにしてますから」
「わかった。こっちで仕込む事にしよう。じゃあ、これもあとで1料理で幾らか決めんとな。じゃあ、行くか」
「??? どこへですか?」
「もちろん厨房だ。砂糖を使って炒めるんだろ?」
ああ、そっちもわたしがやるんだ。薄切りにしたオーク肉に砂糖と魚醤を絡めながら炒めていく。まあ、焼肉定食のイメージかな。
もう一品と言う感じで煮豚も作ってみた。ガリックの香りが前世のイメージを壊してるけど美味しい事は美味しい。
そうするとチャーシューも作りたくなってくる~。でもラーメンが無いから我慢だよね。その内麺も考えよう。まずはパスタだよ。
おっといけない。まあ、値段はお姉さん師匠が決めてくれるからいいか。食費も宿代もかからなくなったから安泰だしね。
わさぶと魚醤は宿屋で仕込む事になってやっぱり10リンに落ち着きました。数量下限20食まで決めてそれ以下は認めず最低でも200リン貰えるんだって。
凄い交渉してるよお姉さん師匠。それ以上売れればもっと儲かるしね。マリーさんの所も同じにしたんだよ。つまり400リンだよ。それも毎日。
不労所得が400リン。夢のようです。これを見習い錬金術師の間ずっと貰えるんだって。一人前になったら終了です。
不労所得なので半分お姉さん師匠に食費として入れようとしたけど見くびるなって怒られました。
錬金術師は儲かるらしいです。夢が広がるな~。騒がしい食事になっちゃったけどおうちに向かって帰ってるところ。
この後魔境のお片づけです。あれって片付くのか心配です。家に着いて早速、魔法一発で客室を洗浄しました。お姉さん師匠が、ですけど。私達にはまだそこまで範囲を広げるのは無理です。
その後はひたすら荷物を運び出しましたよ。延々終らない気がしてきました。ベッドもあるらしいのですがまだ見えません。
「お、有った、有った。これこれ。見習いの時の杖。ほら好きなの使いな」
色とりどりの杖がたくさんあります。杖って言ってもハ○ーポッ○ーが使っていたような小さなやつです。お姉さん師匠の杖はもっと凄いのですよ。
お姉さん師匠の身長くらい長い奴で先端には大きな魔石が嵌っていて金属台座が支えています。胴体部分にも小さな魔石がいくつも付いている上、呪文の様な物や魔法陣みたいなものが刻まれてます。
それに較べるとちゃちいですが、一応先端に魔石が付いていて呪文も刻んであります。物によってねじくれていたりグネグネしているものもあります。材質も木だったり金属だったり色々あります。
「お姉さん師匠、たくさん有りますね」
「ああ、いろんなのがあって楽しいだろ? 趣味で集めてたことが有ってね。まあ、今となっちゃ使い道も無いんだけどな」
若気の至りと言うやつですね。分かります。集めたくなりますよね。きれいですもん。
「じゃあ、ネイちゃんどれにしよっか~」
ネイちゃんはあっさり金属でできた銀色のシンプルな奴を選んじゃいました。私はどれにしようかな~。う~んとこのピンクの奴。おっと……。
その隣の木でできた渋好みの杖が私の手にくっつきました。これじゃないって言うのに。こんな渋いの嫌だよ。