整理整頓
「フーンフ、フーンフ、フーン」
鼻歌交じりで軽快にマウスをカチカチ、キーボードをカタカタと叩いているあーや先輩。講義の課題で何やらノートパソコンを使って作業をしているらしい。
ふと、先輩のパソコンの画面を見たタイミングがウィンドウを閉じてデスクトップ画面が映った瞬間だった。だったのだが……。
「先輩のデスクトップ、騒がしいですね」
「おう、子猫がいっぱいいて可愛いだろ!」
デスクトップ上にはフォルダやファイルのアイコンが大量にばら撒かれていて壁紙が何なのかすら判別不可能だった。そっかー、壁紙子猫なのかー。
フォルダがたくさんあるなら分からなくもないが、テキストファイルや画像ファイルなど細かいものまで放置された様はデスクトップというよりゴミ箱に近い。
「それ、目当てのデータの場所分かるんですか?」
「お前あれだろ、『部屋が散らかってる=汚い』論の持ち主だろ!」
「散らかってたら汚れてるでしょう」
「散らかっているから必ずしも不衛生なわけではない!ちゃんと計画的な散らかり方もあるわけだ、枕元にリモコン類を置いておくとか、ゲーム機本体の隣にソフトのパッケージを積んでおくとか。それに、ゴチャゴチャしているように見えてちゃんとショートカットは作ってあるからな」
「して、そのショートカットはどこに?」
「デスクトップ」
「意味ないでしょうが!?」
データを見つけるためのショートカットを見つける必要がある時点で本末転倒すぎる。
「そういえば、ナナのデスクトップは結構スッキリしてたよな」
「私の?まぁそうだね」
ノートパソコンをクルっと回してこちらに向ける。
そこに映ったデスクトップにあるのはただ一つ『新しいフォルダー』のみ。
「シンプルすぎるでしょ!?」
「しかし、おかげでダイオウグソクムシがよく見えるよ」
壁紙に設定された大きいダンゴムシのような生物、ダイオウグソクムシが何にも邪魔されることなくくっきりと画面に映っていた。
「それで、このフォルダの中身は何なんです?」
「概ね、あーやと同じ」
「全然整理できてねぇ!」
問題の箇所が一階層下にズレてるだけで根本的解決には至っていない。七瀬先輩は部屋の隅に物を追いやって片付けが終わったと思うタイプだろう。
「そんなお前はどうなんだよ」
「俺は普通に必要最低限だけですが」
用途毎に名前付けしたフォルダが、必要最低限の数で規則的に並べられたデスクトップを見せる。うんうん、これが美しいデスクトップというものだ。
「か~っ、面白くもない。沙羅を見習え」
「ん」
先ほどまでボーっと外を眺めていたように見えたが、唐突に話題を振られつつもノートパソコンを開く。
「あ、ある意味すごい……」
沙羅先輩のデスクトップに壁紙で設定されたバトル系アニメのキャラが、手からビームを出すように並べられたフォルダ群を放出していた。
確かにアーティスティックなデスクトップだが、先輩達全員が整理整頓できない人だというのは理解できた。