260602 明るい 表現
宮殿の中庭は、麗らかな春の日差しに彩られていた。様々な緑色の世界で赤や白の花びらが控えめに存在を主張し、朝露がキラキラと輝く。澄んだ空気は肌寒くも心地いい。静けさが、この世界が自分だけのものであるような万能感を与えてくれる。たいして広くないはずの中庭が、今だけはどこまでも広がっているように思えた。
数えられないほどの光がちかちかと瞬き、不規則に動く。わずかな光。けれど暗闇に慣れた私の目には草木の輪郭がくっきりと見える。だけどそれがほんの狭い範囲だけだからだろうか。見慣れたはずの景色はどこか浮世離れしていて、まるで知らない異世界に迷い込んでしまったかのような不安が胸の内にわずかにわだかまるのだ。
さみしいな、と思った。失われる途中だからこそ、なくなっていくことによく気づけてしまう。枯葉があずまやの中にまで入り込み、茜色に染まっても誤魔化せない寂寥を醸す。乾燥した葉は踏みつけられ、砕ける。赤々とした世界には気づくほどの速度で闇が迫ってきて、彼方から差し込む眩しさは終焉に対する最後の抵抗のように感じられた。
草木に変わるように盛り上がった白色が、本来の形を覆い隠す。静かで、澄んでいて、少し痛い。閉ざされた世界。私が歩んできた痕跡が、外と中とをつなぐ。きっと触れてはならないのだろうと、あずまやから見た景色を勝手に思って、でもそれは、日が上るころには消えてしまうのだ。私だけの時間。たとえ親友でもここには来てほしくない。誰もいないからこそ、ここには価値があるのだと思う。




