260512 学ラン
高く青い秋空の元、黒い服装の一団がフレッ! フレッ! と手を振る。体育祭の応援合戦で、白組応援団は全員が学ランを装備した硬派な演技を魅せていた。随分と練習したのだろう。全員の動きに乱れはなく、見事な連携が披露される。ただ僕の目はその他大勢をほとんど映さず、凛々しく声を上げるひとりの少女だけをずっと追っていた。
今年の体育祭は僅差で紅組の勝ちだった。まあ運動音痴の僕はまったく貢献できていないし、勝敗にもたいしてこだわりはない。
空が赤みを帯び始めたころに閉会式も終わり、全生徒で一斉に片づけを済ませてから、僕たちはそのまま教室へと引き上げた。これであとはもう、ホームルームをやって帰るだけ。なんだけど
「これ、ありがとう」
一度教室に戻った僕は、すぐに外に出て、待っていた塚本から丁寧に畳まれた学ランを受け取る。体格が近いから貸してほしい、と頼まれて応援団の衣装として渡したものだ。「うん」と曖昧な返事をして、着替えのために教室に戻る。もうちょっといい返事はなかっただろうか、とドアを開けながら後悔。けど塚本はもう更衣室に向かってしまった。
自分の席に戻って体操着を脱ぐ。がやがやと周りではクラスメイト達が騒いでいる。けど、その音はどこか遠くでしているように耳を通り抜ける。
さっきまで、これ着ていたんだよな。塚本が。
心の中でそんなことを思った。さらに言えば、今朝は僕が着てきたやつだ。それを塚本が着て、今は僕の手の中。
どきどきとした。指先だって触れていないのに。
塚本はどんなことを思ったんだろう。何とも思わなかったのか。だとしたらそれはそれでちょっとショック。意識しすぎだろうか。そんなことを思いつつ、シャツを着て、ズボンを履き、上着を羽織る。何というか、背徳的だ。
しばらくはクリーニングに出さないでおこうと思った。
◆
「どうかしたの?」
視線の不自然さに気づかれたのか。友人の怪訝な声に、私は何でもないと返した。見ていたのは下校するひとりの男子の背中。さっきまであれを着てたのだよな、と思い出すと顔がほてる。きっと今の私は顔が赤い。窓から入る西日に感謝しないと。




