第3話 不穏なる平穏
ここに来て、四日が過ぎた。
なんとかウィステリアの力になろうと、襲撃者用に色々と対策を考えてみていたが、どれも村人の反応はイマイチだった。
襲撃者の存在を早めに知れるよう鳴子を提案してみたが、既に俺が思っていたよりもかなりしっかりと村を囲むように張り巡らされていた。
罠を仕掛けるのも、鳴子を意図的に薄くしてある辺りに既に設置されていた。
夜間の松明の火が、敵にとっての目印になるのでは?と、村人に聞いてみたところ、亜人の中には夜目の効くのもいるのだと言われてしまった。
唯一、「なるほど」と言ってもらえたのは、無人の小屋に灯りを置いて囮にするという案だけだった。まぁ、それもあまりいい反応だったとは言えないけど……。
「うーん……どうしたもんか……」
今日も、ウィステリアを連れて村を周りながら対策を考える。
……小屋でジッとしていられないというのもあった。
この四日間、村を見ていて思ったのが、かなり人数が少ないということだ。
既にかなりの人数を連れ去られ、殺されてしまっているのがわかった。
若い女性、青年と言える人がかなり少なく、子供も数人。
全体でも数十人程度なのに、老人ばかりが目につく。
「どうにも、頼りないのぅ」
「やはり、混ざりモノの巫女では完全な神を降ろせなかったのじゃろう」
「うーむ……アレの母親は、もう少し丁寧に扱うべきであったか……今更言うても詮無き事ではあるが」
……老人達の口さがない言葉が聞こえてくる。
この村のウィステリアに対する差別は、根が深いようだった……。
村長のおっさんに、それとなく口を出してみたのだが…
『はっはっは!神様はお優しいですな!ですがアレは人擬きとの混ざりモノ、人間ではありません。それにアレは神様に差し上げたのですし、何をしても良いのですよ?』
などと言われてしまった。
頭にきて一言言ってやろうとして……その時のおっさんの顔、笑っているようで目が全く笑っておらず、俺は何も言えなかった。背筋に冷たいものが流れるような気分だった。
「……ちっ!」
……しっかりと舌打ちされてるのが聞こえる。
こちらを睨みつけるように見ているのは、数少ないこの村の若い戦士で、村長の息子のランタだ。
どうも彼から良く思われて無い、というか怪しまれているみたいだ。
まぁ、それはいい。当然だ。
この村では珍しく、ウィステリアを気にかけて、心配しているような事を言いに来ていたのが印象に残っている。
当のウィステリアは、ランタの事が苦手そうではあったが……。
あ、近づいてきた。
「今日もお散歩デスか?いいご身分だな?それとも、襲撃の下見か?」
「いや、違えよ。怪しむのはわかるけどさ……」
「はっ!この偽神が!ウィステリア、すぐに解放してやるからな」
それだけ言うと、どこかへ行ってしまった。
ウィステリアはずっと俺の影に隠れるようにして服の裾を握ってきていた。
◇
五日目となる、まだ日も昇らない早朝にそれは来た。
鳴り響く警鐘と共にウィステリアに起こされる。
「神様!起きてください!」
「あ、ああ……来たのか…?」
ウィステリアに手を引かれ、小屋を出て村人が集まる広場へ急ぐ。
村長をはじめとした男達が、剣や槍や斧などを手に集まっていた。
「おお、神様!来てくださいましたか!!」
「遅くなってすまない。今どうなってる?」
「今、ランタの奴が様子を見に行っております。どうやらいつもより規模が大きいようで、鳴子があちこちで鳴っております」
聞いていたのは、数人程度での拐かしだったはずだ。
だが、あちこちで鳴るという事は数人なんて規模ではないだろう。
何より、鳴子を鳴らしても構わないというのが透けて見える。それほどの規模の集団で来ているということか……。
しかし、俺が来てから初めての襲撃がいつもより大規模というのは、偶然か?
「神様、神剣でございます」
村長がそう言いながら、片膝をついて鞘に収められた、古い剣を両手で渡してきた。
「ああ…」と、短く答えて受け取り、鞘から抜いてみる。
鍔や鞘の部分に装飾のある、よくある西洋剣のロングソードだ。
古めかしいが、しっかり手入れはされているみたいで、磨かれた剣身が松明の灯りを妖しく写している。
今からこれを持って、亜人の襲撃者と戦わないといけないのか……。
───剣が、いやに重く感じられる。
この期に及んで、殺さなくても無力化すれば良いとか、最悪追い払えれば十分だろ、なんて考えが湧いてくる自分に嫌気がさす。
そんな甘い相手なら、この村が神様に縋る程追い詰められはしない……。
───覚悟を、決めろ。ウィステリアの力になるんだろ……!
ガサリッと草をかき分ける音がした。




