幸せのかたち3
「ジュドー様はエレノアお姉さまに好意を持っているのですわ。とっても不謹慎なことに。」
オフィーリアはむすっとしながら、そう言った。
私は思ってもみなかったことに一瞬、何を言われたのかわからずボーッとジュドー皇太子殿下のことをみつめてしまう。
「ははっ。それは言わない約束じゃないか。オフィーリア。」
「ジュドー様がしつこいんですもの。」
「そんなにしつこかったかな?エレノア嬢とは、もうずっと会っていなかったと思うけれど。」
「私に会わせろって何度も言ってきましたよね?で、私がはぐらかし続けたらとうとう家までやってきて……。ストーカーですよ。」
「ははっ。エレノア嬢に対する愛が深いと言ってくれ。」
「……ジュドー様はエレノアお姉さまじゃない方を皇太子妃として迎え入れるのでしょう?そんな人がエレノアお姉さまの周りを飛び回るのを許せると思いますか?」
オフィーリアはそう言ってプイッと視線を逸らした。ジュドー様は「まいったな……。」と言いながら、こめかみを指で何度もなぞっている。
私はなんと言ったらいいかわからずただ二人の成り行きを見守っていることしかできない。ここで、変に私が会話に入ったとしてもとばっちりを受けるような気がするし、二人が話題にしているのは私のことだ。とてもではないけれど、会話に入りづらい。
「オフィーリア嬢は手厳しいなぁ。」
「当たり前です!エレノアお姉さまには幸せになってほしいのだもの。」
「私だって、エレノア嬢には幸せになってほしいと思っているよ。誰よりもね。」
「あら。私の方がエレノアお姉さまに幸せになってほしいと思っていますわ。」
「いや。私の方だ。」
「いいえ、私の方ですわ。」
「私だ。」
「いえ、私ですわ。」
「……皇太子でなくなったと言ってもか?」
オフィーリアと言い合っていたジュドー皇太子殿下は突然爆弾発言をかましてくれた。
当然、私もオフィーリアも一瞬口を開けてなにも言えなくなってしまった。自分の聞いた言葉が正しいものなのか、すぐには判別ができないでいる。
「な、なにを言っているの……。」
「ど、どういうことですか……?」
ジュドー皇太子殿下の発言が理解できなくて、オフィーリアも私もしどろもどろに問いかける。
皇太子を辞めてきたとか、そんな簡単に皇太子でなくなることが可能だというのだろうか。
いや、無理だろう。
皇太子は皇太子だ。
ジュドー皇太子殿下が皇太子でなくなったらいったい誰が皇太子になるというのだろうか。
「ジェライに皇太子の座を渡してきた。やっと父上が承認してくれてな。ずいぶん時間がかかってしまった。」
感慨深くジュドー様は言うが、その内容は信じられないものだった。
それに、ジェライとは誰なのか。初めて聞く名前だ。
「あの……私、ジェライ様を存じ上げないのですが……。」
「私も知らないわよ。」
オフィーリアにとっても初めて聞く名前だったようだ。
お互いに戸惑いを隠せずにいる。
「あー……ジェライというのは腹違いの弟なんだ。まあ、弟と言ってもひと月も離れていないがな。」
「「……っ!!?」」
なんでもないようにジュドー様は告げるが、ジュドー様に腹違いの弟がいたなんて初耳だ。ゴシップものではないか。
「私も知ったのはオールフォーワン侯爵家が取り壊されてからだ。エレノア嬢じゃない令嬢を皇太子妃にする道を選んだが、本当によかったのかと悩んでいたところに、ジェライが弟であるということを明かしてくれたのだ。」
「……まことにジュドー様の弟君でいらっしゃるのですか?」
自己申告をそのまま信じてもいいのだろうか。
不安に思ってジュドー様に問いかけるとジュドー様はにこやかに笑った。
「ああ。父上も母上もみとめていたな。母上の侍女だった方がジェライの母親だそうだ。」
あっけらかんと告げるジュドー様だが、あまりの衝撃にオフィーリアと私は開いた口がふさがらない。
「そ、それって……。」
「オフィーリア……。」
現王妃様も、ずいぶんと気を揉まれたことだろう。
それにしても、現王妃様もよくジェライ様のことを皇太子にと選ばれたものだ。
「安心するといい。ジェライはとても優秀だ。幼いころから私の影武者として育ったのでな。皇太子教育も私の側でずっと受けていた。もしかしたら、ジェライはどこかでこうなることを予測していたのかもしれないなぁ。」
「それは……成り代わる気満々だったのではないのですか?大丈夫なんですか?」
思わず不安になってしまう。
あまりにも都合が良すぎる存在に。
「大丈夫だ。ジェライのことは小さい頃からよく知っている。ジェライは人を陥れるような性格じゃない。広い心を持っている。私よりも将来の王に相応しい。なんたって、私は愛する女性ただ一人すら守れず、侯爵家を解体させてしまったしな。」
「……そうですか。」
なんだかとても複雑だ。
本当にそれでいいのだろうかという疑問が頭をよぎるが、私はもうただの平民なのだ。王家に対して意見をすることなどできない。
「だから、晴れて私は自由だ。会いたかったよ。エレノア嬢。どうか、私と一緒にセンビュキーアのフルーツタルトを食べに行きませんか?もちろん、エレノア嬢のお隣にいるオフィーリア嬢も一緒に。」
ジュドー様はそう言って私たちの前に跪き右手を差し出してきた。
私とオフィーリアは顔を見合わせて笑った。
「「ジュドー様のおごりなら行くわ。」」
オフィーリアと私の声がハモる。
オフィーリアと心が通じたようで嬉しくなって私はオフィーリアに向かって満面の笑みを浮かべた。
☆☆☆ おわり ☆☆☆
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
何回目かのループのあと、エレノアもオフィーリアも幸せになっているといいなと思い書かせていただきました。
ジェライはもちろんエレノアの信者です(笑)。
こっそりジュドーのワインに細工をしたのも実は……。
なんて裏話がありますが、それはまたの機会に。




