厳しく育てられたお姉様の顛末5
「エレノアお姉さま。私、お父さまに高価なアクセサリーを買ってもらいましたの。」
「まあ、オフィーリア。それはとてもよかったわね。」
私は、お父さまに購入してもらったイヤリングをエレノアお姉さまに見せた。
私の好みとは異なるブルーをベースとしたイヤリング。
とても高価なものだけれども、私には似合わない。本当はピンクをベースとした首飾りが欲しかったというのに。お父さまは私の好みをまるでわかってはいない。
ただ、欲しがったものを与えて置けばよいとでも思っているようだ。
「似合いますか?エレノアお姉さま?」
お父さまへの不満は口に出さずに、エレノアお姉さまに高価なアクセサリーを買ってもらったということを自慢する。
少しでも優越感に浸るためだ。
「そうねぇ。オフィーリアにはなんでも似合うけれど、その色はオフィーリアの趣味ではないのではなくて?オフィーリアには愛らしいピンクをベースとしたアクセサリーが一番似合うのだと私は思うのだけれども。」
エレノアお姉さまの言葉に私の心臓がドキリと脈を打った。
そう!そうなのよ!エレノアお姉さま。
私、本当はピンクをベースとしたアクセサリーが欲しかったの。
エレノアお姉さまだけよ。私のことをわかってくださるのは。
「エレノアお姉さまは私のことを本当によく見てくださっているのね。私、とっても嬉しいわ。そうなの、私、本当はピンクをベースとしたアクセサリーが欲しかったの。それなのに、お父さまったら私の趣味をわかっていないのだから。困ってしまって。」
「……お父さまもお忙しい方だから。」
「でもね、お父さまに約束したのよ。今度はピンクをベースとしたアクセサリーを買ってくださるって。だからね、このブルーをベースとしたイヤリングはいらないわ。エレノアお姉さまにあげる。」
私はそう言って、耳元を飾っているイヤリングを取り外してエレノアお姉さまの手のひらに乗せた。
「えっ……。でも、これはオフィーリアがお父様からいただいたものじゃあないの。私はもらえないわ。」
「大丈夫よ。お父さまは私に何を買い与えたか覚えていないもの。まったく同じアクセサリーを二回も買ってきたこともあったのよ。それに、このアクセサリーは気に入らないから、今度新しいアクセサリーを買ってもらえることになったのよ。だから、エレノアお姉さまが気になさることなどないわ。」
エレノアお姉さまは遠慮をして私にイヤリングを返そうとしてくるが私はそれを突っぱねた。
だって、このイヤリングは私よりもエレノアお姉さまの方が似合いそうだもの。
私には後日お父さまが私好みのアクセサリーを買ってくださるはずだし。
このイヤリングは私には不要なもの。
そう思って、遠慮をするエレノアお姉さまに無理やりイヤリングを渡した。
「……ありがとう。オフィーリア。大事に使わせてもらうわね。」
エレノアお姉さまはそう言って少し寂し気に微笑んだ。
☆☆☆☆☆
後日、エレノアお姉さまは私があげたイヤリングでその耳元を飾った。
ブルーをベースとした華奢なイヤリングは光を反射してキラキラとエレノアお姉さまの耳元で存在感を主張していた。まるで、月の女神様がそこに降臨されたかのように綺麗だった。
いつも質素なアクセサリーしかつけていないエレノアお姉さまは、イヤリング一つで華麗に変身したかのように見えた。
「エレノアお姉さまにあげてよかったわ。」
いつもいらないものは、侍女に下げ渡しているが、このイヤリングはエレノアお姉さまにあげたいと思ったのだ。そう思った自分に拍手したいほどだ。
「ありがとう。オフィーリア。」
エレノアお姉さまは満更でもないようにはにかんだ笑顔を見せてくれた。
そんなエレノアお姉さまの笑顔を見て、私の心に温かいものがこみあげてきた。
「まあ。エレノア。そのような高価なイヤリングどうしたのかしら?」
と、そこにお母さまがやってきた。
エレノアお姉さまはビクッと肩を震わせてお母さまのことを見る。
そして、おずおずとエレノアお姉さまは、
「……オフィーリアにもらいました。」
と、事実を述べた。
けれど、お母さまは無理やりエレノアお姉さまの耳からイヤリングを引きちぎるようにむしりとった。
「いたっ……。」
エレノアお姉さまは痛む耳を両手で押さえる。
お母さまはそんなエレノアお姉さまを冷えた目つきで見つめていた。
「エレノア。あなたには最高の教育を施していると言うのに、オフィーリアの物を強請るだなんて、なんて浅ましいことをするのかしら。妹のものだったら自分がもらってもいいとでも思っているの?あなた、それでも皇太子妃になる心構えがあるというの?妹からイヤリングを取り上げるだなんて、なんて酷いことを……。」
「ち、違います。お母様っ……。」
お母さまは今まで私が見たこともないほどに怒っている。
目を吊り上げてエレノアお姉さまを睨みつけるその形相があまりに怖くて私は震えながらその場にしゃがみこんでしまった。
「ほらっ!オフィーリアが泣いているではないの!あなたは姉失格ね。もっと、皇太子妃として相応しい心構えを徹底的にあなたに刻み込まなければならないようね。早速今日から、あなたを鍛え直します。先生にはもっとあなたを厳しく躾けてもらうように言っておくわ。」
違う。
そうじゃない……。
本当に、そのイヤリングは私がエレノアお姉さまにあげたものなの。
けれど、お母さまが怒り狂う姿を見たことがなかった私はお母さまに対して何も言えなかった。ただ、震えながらこの場が過ぎさることだけを願っていた。
「……申し訳ございません。私が過ちをおかしました。オフィーリアにも謝罪いたします。ごめんなさい、オフィーリア。あなたの大切なイヤリングを欲しがってごめんなさい。」
エレノアお姉さまは沈んだ表情で私にそう言った。
私は、それを聞いて何も言えなくなってしまった。
「オフィーリア。あなたの大切なイヤリングは、あなただけのものよ。いくらエレノアに強いられたからと言って渡す必要なんてないわ。今後このようなことがあったら、必ず私に言いなさい。」
「は、はい。お母さま。申し訳ありません……。」
悪いのはエレノアお姉さまではなくて、私なの。
エレノアお姉さまは何も悪くないわ。
「まあ、オフィーリアが謝る必要はないわ。悪いのはエレノアなのだから。」
お母さまはそう言って私の肩をそっと抱いた。
私はなにも言えずにそのままうつむいた。
ここで、本当は私がエレノアお姉さまにイヤリングをあげたのだと言ったら、あのお母さまのお怒りが私に向くのではないかと怖くなったのだ。
私は誰からも叱られたことがない。優しくされたことしかないのだから。
だから私は卑怯にも逃げだしてしまったのだ。すべての責任をエレノアお姉さまに押し付けて。
エレノアお姉さまが私のことをどんな目で見ていたのか、私には確認する余裕なんてなかった。




