厳しく育てられたお姉様の顛末3
「オフィーリア。可愛い可愛い私の娘。」
「お母さま。」
エレノアお姉さまが部屋から退出するのと入れ替えにお母さまが私の部屋に訪れた。
きっと、エレノアお姉さまのお勉強を邪魔したことを咎めに来たのだろう。
いいえ、お母さまのことだもの。私を咎めることはないだろう。
きっと優しく私を諭しに来ただけ。
「エレノアをお茶に誘ったと聞いたわ。」
「ええ。お母さまがいらっしゃるのと入れ違いにエレノアお姉さまは部屋に戻りましたわ。」
「……そう。」
「エレノアお姉さまは私とのお茶会の時間をあまりとってくださいませんの。私がお願いしているのに。今も無理やり誘ったのですけれど、結局は勉強があるからと、家庭教師を待たせているからとすぐに帰ってしまいましたわ。」
「……オフィーリア。エレノアは皇太子妃にならなければならないの。だから、可愛い可愛いオフィーリア。エレノアの邪魔をしてはダメよ。エレノアの代わりに私がオフィーリアとお茶をするのではダメかしら?」
「私は、エレノアお姉さまともっと交流を深めたいのですわ。」
「そうね。でも、エレノアは今が一番大事な時期なのよ。皇太子妃になるためには誰よりも勉強をして、誰よりも優れた女性にならなければいけないわ。そのためにエレノアは今、必死に勉強をしているのよ。」
「わかっていますわ。お母さま。」
お母さまは困った表情を浮かべながら私の期限を必死にとる。
とても滑稽な図だ。
本来、お母さまは私のことを叱ってもいいはずなのだ。けれど、お母さまは私を叱ることをいつも躊躇する。
エレノアお姉さまのことはちょっとしたことでも叱っているというのに。
お母さまは私のことを絶対に叱ったりはしない。
「理解しているのね。とてもいい子よ。オフィーリア。」
そう言って、嫋やかな手で私の頭を優しく撫でるお母さま。
でも、その手が少しだけ震えているのを私は知っている。
お母さまはいつも何かに怯えている。
そして、お母さまはいつもエレノアお姉さまが皇太子妃になることに縋って生きている。
なにに怯えているのかは知らないけれど、私は可愛いだけのお人形じゃないのに。
「私の我が儘をきいてくださいませんか?お母さま。」
「まあ、なにかしら?可愛い可愛いオフィーリアの言うことだったらなんだって叶えてみせるわ。」
お母さまはにっこりと笑いながらそう答えた。
「私もエレノアお姉さまと一緒に勉強してみたいわ。」
だから、きっとお母さまが受け入れてくれないだろうお願いごとを口にしてみる。
途端にお母さまの表情が曇る。
「オフィーリア。エレノアの勉強は、皇太子妃になるためのとても厳しい授業なのよ。可愛い可愛いオフィーリアがそんな厳しく辛い勉強をすることはないわ。」
「……わかったわ。お母さま。」
「そうよ。オフィーリア。あなたには誰よりも幸せになってほしいの。エレノアの分までも幸せになってちょうだい、オフィーリア。」
「ふふ。私、誰よりも幸せになりますわ。」
「ええ。ぜひ、そうしてちょうだい。そうだわ。可愛い可愛いオフィーリア。あなたの新しいドレスを仕立てましょうか。」
「そうね。お母さまお願いしますわ。」
お母さまは時折寂し気な表情で私を見る。それは決まって、エレノアお姉さまのことを話す時。
本当はお母さまはエレノアお姉さまの方が私よりも大事なんだって、その時に気づかされる。お母さまはエレノアお姉さまのことを大事に思っている。きっと、エレノアお姉さまがお母さまの希望なのだろう。
じゃあ、私はなんなんだろう。
そう考える。
きっと、私はお母さまにとってペットやお気に入りのお人形なのだろう。着せ替えを楽しむためだけのお人形。それがお母さまにとっての私。
だから、私はお母さまに我が儘を言う。
お母さまが困るような我が儘だって平気で言う。だって、お母さまに私自身をみてもらいたいから。
「オフィーリアはいつも可愛いわね。素敵よ。私の可愛い娘、オフィーリア。大好きよ。」
お母さまのその言葉は私の心に鋭い棘を残していることに、お母さまは全く気が付かない。
「私もお母さまのことが誰よりも大好きです。」
無邪気な笑みを浮かべながらそう言えば、お母さまは満足そうに微笑んだ。
ほぅら。やっぱり、お母さまは私のことを見てはいない。
そして、それはお父さまも同じ。
だから私にはエレノアお姉さましかいないの。
私にはエレノアお姉さましかいないのよ。




