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閑話1 温かい食事が食べたい

沢山の方に読んでいただきましてありがとうございます。

お礼の閑話です。

 

「ここで何をしているんだ?」


 私は食べようと大きく口を開けたところで、固まってしまった。背後から聞こえる声に、ギギギギと軋んだ歯車のように後ろを振り返る。


 黒い外套を羽織り、フードを深く被った背の高い怪しい人物が立っていた。私は手に持っている串にささった肉と怪しいフードの人物を交互に見る。そうだよね。


 大きく開けた口でそのまま肉にかぶりつき、肉を頬張る。


「気が付いていて、何故肉を食べることを選択するんだ?」


 怪しいフードの人物から最もな質問をされた。しかし、このままだと一番おいしいときをのがしてしまう。肉は肉汁が垂れている熱々を食べるのがおいしいのだ。


「もぐもぐ……肉が……もぐもぐ……おいs」

「はぁ、食べ終わってからでいい」


 ため息を吐きながら、怪しいフードの人物は私が腰を下ろしている瓦礫に同じように腰をおろしてきた。いや、座るところがないから、瓦礫に座っているけど、ここは座るところじゃないからね。


 私は肉を飲み込んで、隣に座った人物に遠火で焼いている串に刺さった肉を取って、手渡してあげる。


「おいしいよ。レオン」


 怪しい人物は勿論レオンだ。私がいなくなったので、探しに来たものの人目があるため、フードを被って顔をさらさないようにしているのだろう。


「その前に俺の質問に答えろ」


 いや、見ればわかるじゃない。


「お肉を食べている」

「それは見ればわかる。なぜ、この貧民街で焚火をしてまで食べているのかと聞いているのだ」


 そう、私がいるところは貧民街の一角にあるスペースに腰を下ろして、火を()してお肉を焼いているのだ。辺りにはいい肉の匂いが漂っているものの、私の結界で人は入ってこれず、私の周りには貧民街の奴らの壁ができているのだ。


「それに何故、卿もいるのだ?」


 私の肉を焼いている火を挟んだ向かい側には、金髪のイケオジが煙草を吹かして、私と同じように瓦礫に腰を下ろしている。

 レオンに声を掛けられたボスはビクッと肩を揺らしたものの、困ったような笑みを浮かべてレオンに答えた。


「俺……私はただの用心棒みたいなものですよ。ここいらの連中は俺……私に歯向かう者はいないですから」


 ボスはレオンの手前、慣れない丁寧な言葉を使おうとしている努力は見られるが、やはり、ボスはボスだ。


「こいつに良いように使われているだけだ」


 最後はいつも通りになっていた。慣れない言葉は使うものじゃないってことだ。


「今日の昼過ぎに突撃訪問されて、あれやこれやと言ってきたのは、こいつなんで、尋問するなら、リリィにしてくれ」


 え? なんか私が全て悪いことになってない?

 隣からビシビシと痛いほどの視線が突き刺さってくる。いや、無言の圧力だ。


「温かいごはんが食べたかった」


 だってさぁ。以前から思っていたけど、皇城の食事って冷めているんだよね。いや、子供の時は皇族に仕える側だったから、こっそりと早めに使用人の食堂に行って、まだ温かいご飯を食べれていたんだよ。それにサルバシオンの食事は基本的に裏方の女性たちが作って、出来上がったら、交代で食べていた。だから、そこまで冷めた物を食べるってことはなかった。

 だけど、今は食事が冷め切っている。スープも冷たいのだ。私は温かいものが食べたい。


 たとえ頭の上に雪が積もって、肉を焼いている火で暖をとりながらだとしても、温かい食べ物が食べたかった。


 それで、豊富な食材の流通を牛耳っているボスのところに行って、ここで何か料理させて欲しいとお願いしたら、窓から放り投げられて帰れと言われた。しかし、これ如きで諦める私じゃない。ジューシーな肉汁が滴る肉を食べたいことを切々と語った。今すぐにと。


 すると、ここに連れてこられた。何かあって被害が出てもしれていると。酷い言い方ではないだろうか。これは私が暴れると思われているということだ。そんなことでは、私は暴れたりはしない。


「リィ。だからと言って、雪が降っている中で食べなくてもいいだろう?」

「カルアに温かいスープが飲みたいと言ったらダメって言われたし、肉汁滴るお肉をはふはふ食べたいって言っても駄目だって言われたから、外で焼肉するしかないよね!」


 そう! 串に刺した肉を焼いて食べる。町や村では大人数で食べる食堂なんてないので、外で野営をすることはよくあったことだ。


 私はいい具合に焼けた肉の串を手にとり、ふーふーと息をかけて少し冷ましてから、肉にかぶりつく。肉の香ばしい匂いとあふれる肉汁が、口の中を満たす。そして噛みしめる程に肉の甘味と旨味が口の中に広がっていくのだ。これは熱々のまま食べるから味わえる旨味であって、冷めてしまったら脂が固まっておいしくない。いや、皇城で作られている料理は洗練されていてどれもおいしいのだけど、こういう素材の旨味というものは味わえないのだ。


「これは何の肉だ」


 未だに私が渡した串に刺さった肉を不審げに見ているレオン。なんの肉と言われても……私とボスの視線が合う。

 何? 私が言えと? 仕方がない。


「今日、空を飛んでいたヤツの肉だ」


 するとレオンは雪雲に塞がれた空を見上げる。見た目では何も空には飛んでいない。ただ、白い雪が舞い落ちてくるのみ。



「まさか、渡りの飛竜を落としたとか言わないよな?」


 渡りの飛竜。北から南に向かって移動する飛竜種がいる。それは南に冬場に過ごす地があると言われているけど、誰も確認したことはないので、不明だ。だけど、雪が降り始めたぐらいから、南に向かって移動する複数の集団が毎年みられる。

 今日はその集団からはぐれている個体を上空に転移して仕留めて、地上に落としたのだ。

 因みに叩き落すと色々苦情が入るから、転移で地上に落とした。私はスラム街を破壊するようなことはしないよ。


「おいしそうなお肉が飛んでいるのなら、仕留めてもいいよね。この世は弱肉強食だよ」

「毎回言っているが、言葉の使い方間違っているからな。普通は竜の方がつえぇーからな」


 ボスが私の言葉の選択を間違っていると言ってきたけど、私に食べられるのであれば、弱肉強食でいいと思う。


「毎回?」


 何がレオンの癪に障ったようだ。何か不機嫌な気配をまといだした。何かおかしなことを言ったかな?


「毎回ということは、そんなに卿と一緒に食事をしているのか?」


 レオンがボスに向かって言った瞬間、二人の間にあった火が一瞬で消え去った。まだ、焼いていないお肉があったのに火が消えてしまった! それに一気に冷えてきたじゃないか!


「語弊がありました。こいつ……リリィの母親を優遇するという対価に竜を素材としていただいたのと、サルバシオンの手伝いの駄賃として、いただいたぐらいですよ。実際、俺は今は何も食ってないですよ」


 ボスは両手を上げて、何も持っていないアピールをしている。確かにボスは現場監督のように、私の目の前で居座っていただけだ。何もしていない。


「そもそも、そんな毒があるものを毒抜きしないで平気で食えるのは、リリィだけですよ」

「え? これ毒あるの? 何回か食べたけど、どうもなかったよ?」


 私は食べ終わって木の串だけになったものをガン見する。へんな味はしなかったよ。どうりで、レオンが食べないわけだ。


「てめぇの並外れた聖気で毒素が浄化されてぇんだよ! じゃなかったら、そんなものあっという間にあの世行きだ!」


 毒の浄化? そんなことしているつもりはなかったけど、されているのか? わからないなぁ。

 私は未だにレオンの手にある肉付きの串を奪いとる。


「リィ!」

「食べれないなら、もったいないから私が食べるよ」


 大きく口を開けて冷めてしまったお肉にかぶり……なぜレオン。私の手から肉を奪い取るのだ。


「あああああああ! おにくがぁぁぁぁぁ!」


 レオンは奪い取った肉を串ごと手から出した火の魔法で、燃やしてしまった。それも跡形もなく全てを灰にしてしまったのだ。


「リィ。毒の肉を食べるぐらいなら、俺に言え」

「え?」


 何をレオンに言うのだろう? 飛竜の肉を食べていいのかと? 飛竜の肉はジューシーな鶏肉みたいな感じでおいしいんだよね。


 私が飛竜の肉の余韻に浸っていると。レオンに抱えられてしまった。


「街に連れて行ってやるから、毒は食べるな」

「え? 帝都の中で買い食いしていいってこと?」

「買い食……そうだ」


 買い食いってところで戸惑った感じだったけれど、レオンは言った手前、買い食いを許してくれるようだ。


「よし、屋台を端から制覇だ!」

「制覇はしませんよ。一時間だけ自由時間を許してあげます」


 どこからかカルアが出てきた。いや、私が張っていた結界の外にいつの間にか出てしまっていた。結界を張りっぱなしは邪魔だよねっと振り返れば、ボスが虫を払うように右手を振っていた。そこまで邪険にしなくてもいいと思う。確かに皇帝がこんな場所にきたらいけないよね。

 それからカルア。制覇はすべきだと思う。


「カルア君。君も食べるんだからね。あったかいご飯のおいしさを君は知るべきだ」

「私は護衛なので、いただくことはありません」

「え? レオンは食べるよね。もちろん食べるよね」


 私は怪しい人物と化しているレオンに尋ねる。するとレオンはニヤリと人が悪そうな笑みを浮かべて言った。


「リィが食べさせてくれるのなら」

「おーけー! じゃ、カルア君も毒見役で食べるべきだよね。私は毒を浄化してしまうから意味がないらしいし」

「貴女が陛下に食べさす分には、毒見は必要ないですよね」



 はっ! 私によって毒が浄化されるのなら、私が触れた時点で毒が浄化されているってこと?


「それはいい。これから毎日リィが食べさせてくれるのであれば、温かい食事が出て来るな」


 ……いや、それはちょっとおかしくないだろうか。毎回レオンに食べさすなんて、非効率過ぎるし、私がご飯を食べるころには冷めているじゃないか!


「却下するね。それなら、私が配膳すれば……いい! そうだ! そうしよう!」


 私の聖気がふれればいいのなら、配膳をすればいい、昔はしていたのだ。それぐらいできるだろう。解決策が見えて来て、ふと厚い雲に覆われた空を見上げる……あっ!


「竜が飛んでいる! おいしそう!」

「竜を食べようと思うなんてリィぐらいだろうな」

「弱肉強食ですか……有害無益の方が合っていますよ」


 カルア君。私のやっていることのどこが無益だって? 今回の飛竜の素材もボスに場所代として支払っているんだからね。


「これから毎日、リィが食べさせてくれるのかぁ。楽しみだなぁ」


 いや、レオン。それはないから。



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