21話
本来は不可視であり必中の圧縮魔法ですが、どうも避けられてしまう傾向にあるようなので少し変えてみましょう。やりかたを。
先ほどの戦闘によって蔵の中が少し散乱してしまったのですが、おあつらえ向きにただの石が足元に転がっています。これを活用させてもらいましょう。
「おや、これは……」
「石なんて拾っちゃってどぉ~したん? あ、もしかして珍しいヤツだったとかぁ~?!」
「よくおわかりで。ご覧になってみてください」
わたしが軽く放り投げた石は奇麗な放物線を描き、魔教徒の両手に納まりました。
──ジュッ!! という焼ける音を響かせて。
「ぁっづぁ?!?!」
「そちらは聖なる光の石です。魔教徒には触れることができません」
「んなのきーたことないしぃ……!」
「存在しませんからね。そんな石」
真っ赤に火傷した手の平を見て、歯を食い縛るように痛みを堪えています。
いつもひらりひらりと質問も攻撃も躱されていたので、ようやく通用する行動を取れて清々しい気持ちです。
「なにしたん?!」
「教えるとでも? 懇切丁寧に? わざわざ?」
耳障りな金切り声を上げる魔教徒を挑発するように顔を覗き込んでやります。いつも余裕そうだった表情が苦痛に歪み、けばけばしい化粧も相まってまるで化け物です。
いつも相手をおちょくる立場だと思っているのなら、それは大間違いですよ。因果応報を知りなさい。ちなみに悪い意味で使われがちですが、善行でも因果応報と言うそうです。コイツには縁のない話ですが。
「こんなことできるなんて聞ーてないしぃ!」
「言ってませんからね」
毒使いの魔教徒が珍しく毒づいてます。ハンカチでもあったら噛み千切ろうとするんじゃないでしょうか。
わたしは魔法をもう一つ持っているので、それで焼け石にしただけのこと。簡単な答えです。
「ったくさぁ〜……これ貴重なのにぃ〜」
痛みで震える指先が摘んでいるのはガラス管。腰のベルトに連結されている内の一つから中身を手の平にかけると、じゅくじゅくと溶けるような音と煙を出し始めました。
毒使いであることを考えると、煙にはどうしても警戒心を抱かざるを得ませんでした。身構えつつ、少し距離を取ります。
「っふ〜……ジャッジャーン! 元通りぃ〜☆彡」
煙で肝心なところは良く見えませんでしたが、真っ赤に火傷したはずの手の平が瞬く間に治ってしまいました。
魔法……ならばわたしがそれを感知できないはずがない。
「……毒は薬にもなる、ですか」
「ピンポンピンポーン! せいかぁ〜い☆」
元通りになった奇麗な手でピースしてウインクというポーズまで決めて、先ほどとは打って変わって余裕な態度を取り戻しています。
毒と薬は表裏一体。毒のスペシャリストということは、薬のスペシャリストでもあるということ。認めたくはありませんが、やはりコイツは本物です。そこらの魔教徒とは一味も二味も違う。
「さてさて、いよいよ殺されちゃいそうだからぁ〜──」
魔教徒は黒コートを広げると、内側にも大量のガラス管が括りつけられていて、紐に繋がれた蓋が一斉に外されて中から大量の煙幕が噴き出しました。
「──ウチは戦略的撤退させてもらおっかなっと☆」
「待ち──!」
制止も間に合わず少し距離を取っていたのが仇となり、毒の可能性を考えると煙幕は非常に危険で、その場から離れるしかありませんでした。
もちろん圧縮魔法を魔教徒がいた位置に発動させましたが、手応えはなし。
──またしても逃げられてしまいました。なんて逃げ足の早いこと。




