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SIX RULES  作者: 黒陽 光
第三条:依頼内容と逸脱する仕事はしない。
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「あの男、生きていたのか!?」

 眼を見開いてハリーが驚くのも、無理なかった。何せ、高速で走るNSRを制御するので手一杯なはずの和葉でさえ、驚いているのだから。

 ハリーが確かに殺したはずの、5.56mm弾を三十発喰らわせた末に旧校舎三階から落下して死んだはずのウォードッグが、今まさに目の前に立ちはだかっているのだ。信じられない光景だった、とても現実とは思えないほどに……。

 小口径といえども、奴に喰らわせたのは紛れもないライフル弾だ。それを三十発喰らって死なない人間なんて、聞いたことが無い。百歩譲って防弾ベストとかその類で助かったとしても、三階の高さからあんな無防備に落ちたにも関わらずこんなにピンピンしているなんて、今のハリーの心境は、まるでターミネーターを相手にしているかのような気分だった。

「へヘッ……!」

 二人が驚愕している隙に、ウォードッグは犬歯剥き出しの獰猛な笑みを浮かべながら片手に担いでいた軽機関銃を二人目掛けて構えた。それは韓国製のデーウー・K3軽機関銃。いわばFNハースタルのミニミM249軽機関銃の韓国版といった具合の代物。奴に喰らわせたのと同じ5.56mm×45のライフル弾をベルトリンクで帯状に繋いで撃ちまくる、二人にとってはまさに殺戮機械(デス・マシーン)に等しい機関銃だ。

「和葉っ!!」

「分かってるわよ!」

 ウォードッグがそのK3軽機関銃を構えた瞬間、ハリーが叫ぶよりも早く和葉はブレーキを掛けていた。途端に目の前の黒いベンツとの距離が開くが、しかしそれでも近すぎる。

 途端、ウォードッグの構えたK3軽機関銃が火を噴いた。そこら中に空薬莢と外れたベルトリンカーを撒き散らしながら、銃口で瞬く火花と共にウォードッグの腕の中から死の洗礼がバラ撒かれる。

「っ……!」

 和葉はそれを、NSRをヒラリヒラリと右に左に操って回避行動を取り、何とか避ける。着弾した5.56mm弾に路面が抉られるのをバイザー越しにすぐ間近で見て、ヘルメットの下で和葉は顔を蒼くする。

「ハリー、これヤバい!」

「分かってるさ、俺が何とかする!」

 和葉の回避行動に身を任せながら、ハリーは右腕のUSPコンパクトを凄まじい勢いで撃ちまくった。目掛けるはリアガラス、それ越しに運転手を仕留める魂胆だ。

 しかし、ハリーの撃ち放った9mmパラベラム弾はその全てがリアガラスを滑るようにして跳ねてしまう。少しのヒビこそ入れたものの、ジャケッテッド・ホロー・ポイント弾頭があのベンツのリアガラスを貫通することは無い。

「畜生、防弾ガラスかよッ!?」

 明らかに、あのベンツは防弾改造が施してあった。ガラスでアレだけ弾かれるということは、ボディを狙っても同じことだろう。燃料タンクを撃ち抜いて燃料漏れからの誘爆を狙うのも不可能だとハリーは判断した。

 仕方なしにウォードッグに向けて残りの残弾全てをブッ放すが、これも当たりはしない。それもこれも、ベンツの運転手が小刻みな回避運動を取っているからだった。

 前方を取り、完全な優位を取りながらも油断せず。そして無駄の無い最低限の動きで回避するそのベンツの動きに、ハリーは思わず舌を巻く。敵の乗り手も、かなりの腕利きらしいことは明らかだ。敵ながら、素直に褒めたくってしまうぐらいに。

「ガラスも駄目、犬っころも駄目となると……!」

 ハリーはスライドを引き切った状態が停止している弾切れのUSPコンパクトから空弾倉を放り捨てると、何故かスライドを閉鎖し一度腰のホルスターに戻してしまう。すると右手で器用に左側の弾倉ポーチから予備弾倉を引っ張り出し、それをホルスターに差さったままの銃把へと上手い具合に差し込んだ。

 もう一度抜き、今度は和葉の腰にしがみつく左手の方に持って行ってやる。器用な手つきでスライドを引いて放し、再装填。これで再び、撃てる状況となった。

「これ以上は、流石にキツい……!」

 ともすれば、遂に和葉が苦い顔で苦言を漏らす。それにハリーは「もう少しだ!」と気休めにもならない言葉を掛けながら、再びUSPコンパクトを片腕で構える。

(弾倉はコイツでラスト。ガラスもボディも駄目で、犬っころにも当たらないとなれば……!)

 ――――狙う先は、アシしかない。

 ハリーはベンツの後輪タイヤに眼を付け、そこに向かってUSPコンパクトの照準を合わせる。そして躊躇無く引鉄を絞り、後輪タイヤ目掛けて撃ちまくった。

 だが、それもベンツの回避行動で避けられてしまう。残弾がどんどん減り、遂にハリーが駄目かと思った、その時だった。此処に来て、運が彼に味方をしたのは。

 落ちていたゴミ袋という、偶然の落下物。それをベンツがサッと避けた瞬間――――ほんの一瞬だが、そこに隙を見出した。

「当たれぇぇぇぇっ!!!」

 雄叫びと共に、ハリーが引鉄を絞る。短い銃身から撃ち放たれた9mmパラベラムのジャケッテッド・ホロー・ポイント弾頭が音速で飛翔し、目の前を走る黒いベンツ目掛けて突き進み、そして……。

 ――――ハリーの撃ち放った弾頭はその後輪タイヤを捉え、確実にブチ抜いた。

「っしゃあっ!!」

「やったぁっ!」

 歓喜の雄叫びを上げるハリーと、喜びを露わにする和葉。二人の目の前ではタイヤを砕かれ、パンクを通り越してバーストを始めたベンツが、急速にそのコントロールを失い、勢いを緩めていく。

 やがて、和葉の駆るNSRは失速したベンツを軽々と追い越し。彼女の見るバック・ミラーの中では、ベンツが正面から思い切り電柱にめり込む光景が映っていた……。

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