一刻 婚約破棄は突然に
他の作品の息抜きに書いたものです。
思い付きと、近頃のささくれた心で書いてますので、大分穿った話です。
タグにあるように、王子的にはハッピーエンドですが別の人から見るとバットエンドです。
「⎯⎯はっ、もしかしてわたしは乙女ゲームの悪役令嬢に転生しちゃったっ!!?」
とある屋敷の一室で少女の叫びが響いた。
まるで夢から覚めたように、まるで物語の世界へと入り込んでしまったかのように。
少女の顔は驚愕に彩られながらも、どこかその表情は楽しそうでもあった。
「こうしちゃいられないわっ! そうと分かれば、早く婚約破棄しないとっ!! そして2度目の人生を、大好きな乙女ゲーの世界を満喫しよう!!」
もし周囲に少女を知るものがいたら、間違いなく医者を呼んだだろう。
そのくらい少女のとった言動は、以前とかけ離れている。
しかし少女に起きた異変に、未だ気付くものはいない。
他に誰もいない部屋で起こった出来事。
けれど、これが全ての始まりだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私はこの国の第一王子として生まれ、幼い頃から王となるべく教育を施されてきた。
勿論、婚約者も幼き時からあてがわれている。
けれど厳しい教育や限られた人間関係しか結べないことも窮屈ではあったが、彼女が居たから耐えられた。
親が決めた結婚だが、私達はお互いに愛し合っていた。
彼女がいない人生なんて、私には考えられない。
彼女も同じ気持ちの筈だ。
私達はこの時までは確かに通じあっていた。
「レオナルド王子!!」
ある日の午後。
王宮の廊下を歩いていると、背後から愛しい声に呼び止められた。
……?
どうして彼女がここに?
先日体調を崩したそうで、午後から私が御見舞いに行く手筈だったのに。
それに、どうして彼女はいつものように愛称で私の事を呼ばないのだろうか?
彼女に会えたのは嬉しいが、次々に疑問が沸き上がる。
「サーシャ? 何故君がここに居るんだ?」
そのせいか、私の声は意図せず固いものになってしまったのは仕方がないだろう。
聞きたい事は山程あるが、病み上がりの体で動き回るのは良くないだろう。
「あ、その……」
すると彼女は私が怒っていると勘違いしたのか、怖がって数歩下がった。
しまった……怖がらせるつもりはなかったのに。
彼女は病み上がりなんだ。
様子がおかしいのも、きっとそのせいだろう。
だからこそ、私は彼女に謝罪して誤解を解こうとした。
キツい言い方になってしまってすまない、君が心配なだけなんだと。
けれど⎯⎯⎯⎯⎯
「レオナルド王子! わたしと婚約破棄してください!!!」
彼女からかけられたのは、私を絶望の底へと叩き落とす言葉であった。
「……は?」