事件発生?
ぼくたちは本部に向かっていた。そこの保護センターにいけば、子供だけのフロアがあり、そこで春までの三か月を過ごすことになる。勉強したり、遊んだりでそれはそれで楽しいんだけど。
ケイはやっぱり妹のリアナと同じ六歳だった。リアナと同じリアクションをするから、リアナの好きな歌をうたった。指を使ったあそび歌、ジェスチャーでも笑わせる。
「あ、あぶない」
スノーボードカーが急に止った。
シートベルトが前に傾きかけた体をぎゅっとしめつけて受け止めていた。
すぐ目の前を少年が横ぎったのだ。しかも薄着のスリープスーツのままだ。マイナス十度の世界にそんな薄着、異常だ。凍え死んでしまう。
「ちょっとケイちゃんを見てて、ここにいてね」
すぐさま、メラニーが予備のウィンタースーツを持って、雪の中へ飛び出した。
あの少年を追っていた。相手は裸足みたいだ。すべらないブーツをはいているメラニーはすぐに追いついた。その少年の頭からウィンタースーツをかぶせた。
「なにしてんのっ。こんなに寒いのに、そんなかっこうで」
メラニーの声がはっきり聞こえてくる。ヘルメットのボタンが入っているらしい。外の様子がわかるようにしてくれているとわかった。
少年は泣いていた。何かをわめいている。しかし、何を言っているのかわからない。
ぼくは少年が飛び出してきた家をみた。ドアが開けっ放しだった。そこへ赤い光を放ち、冬眠レンジャーの緊急車が横付けで止まった。
「メラニー、緊急車がきた。なにかあったみたいだよ」
メラニーはぼくの報告で、家の方を振り向いた。
「ねえ、なにかあったの? 教えて、もう大丈夫。助けがきたの」
しかし、少年は泣いていた。でも逃げる様子はない。もうメラニーの持ってきたウィンタースーツを素直に頭からかぶっていた。
「おじいさんが、おじいさんが、しんじゃった」
それをきいて、ぼくはギョッとした。メラニーも凍り付いていた。
「おじいさん? あなたのおじいさん、具合悪かったの?」
少年はかぶりを振った。
「気づいたら亡くなっていた。さようならも、ありがとうもちゃんと言ってなかったのに」
緊急車から数人の看護の人が家の中に入っていった。メラニーはその少年をかかえるようにして、家の中へ向かう。
「ティジェイもケイちゃんを連れて、家の中へ入りましょう。ちょっと事情を聞きたいから」
「わかった。了解」
もうすでにぼくはレンジャーアシスタントのつもりだった。




