第5話 マジヤバ!ぶち切れ仁科父! ③
ニートの魔法少女 仁科明美は、エリート中学生の妹、雅と魔法少女の契約を結ぶ。しかし、安心したのも束の間、それが原因で、父親の逆鱗に触れてしまう。
ニートなのに家すらも失った明美に未来はあるのか?
あといつになったら就活をするのか!?
頑張れ!明美!!
夜の10時、子綺麗なマンションの前に高級車が止まった。
運転手はスーツ姿の女性で、遠目でも分かるよく手入れされたロングヘアが印象的だ。彼女は後部座席を向いて話しかける。
「はい、着いたよ〜。遅くまでお疲れ様。早妃、最近風邪流行っているみたいだから、気をつけてね?明日は8:30には迎えに来るから」
後部座席に乗っていた円城寺早妃は、車のドアを開けながら運転手の女性にミラー越しで目線を合わせる。
「はい。今日もお疲れ様でした。麗奈さんも晩酌は控えめにね」
「フフッ、それ嫌味?私この後、事務所帰ってまだ事務仕事あるのよ?」
「えっ!?まだ働くの?朝も早かったのに……。ぽんぽんマネージャークビにするから、自分でなんでもやる羽目になるんだよ」
「大事なタレントに手ぇ出そうとする奴なんて、会社に置いとけないでしょ?じゃあ、また明日ね」
「うん。無理しないでよ。送迎ありがとう。明日もよろしくお願いします」
早妃はそう言って、出来るだけ大きな音を出さないように、後部座席のドアを閉めた。
鞄の中のオートロックの鍵を探そうとして、さっきからスマホの通知が鳴っていたのを思い出す。麗奈は早妃がスマホをいじっていると、内容が気にかかるみたいなので、早妃は彼女の前では必要以上にスマホを触らないようにしていた。
鍵と一緒にスマホを取り出して、画面を見た。
「うわ……」
5件、電話がかかってきていたみたいだ。
とりあえず、オートロックを開けて自分の部屋に向かう。この時間にアイツから電話が来るなんて、絶対にめんどくさいヤツだ……。
自分の部屋のドアを開ける。
「ただいま」
クラシカルなメイド姿の女がそれを迎えた。
「お帰りなさいませ」
メイドの女は荷物を受け取り、羽織っていたコートを受け取る。早妃は電話を折り返した。
「はい……」
「明美、電話した?」
◇
明美は家を追い出され、行くあてもなく、とりあえず駅前の大きな商業施設にあるファミリーレストランに入っていた。
母からは1〜2時間で帰って来いとは言われたが、ブチ切れクソ親父が居るので、帰るに帰れない。
「なんなんだよ……あのクソ親父……」
そう言うと涙が出た。父が自分の考えに納得してくれないからではない。父の想いを蔑ろにしている自分が、酷く幼く感じたからだ。どんなに魔法少女として結果を残そうと、自分は家族にとってはお荷物でしかない。その事実が、明美の心を締め付けた。明美は突っ伏して、周りから自分の泣き顔を隠す。
父の気持ちは分かる。自分はさておき、雅をあの化け物たちと戦わせるなんて、姉失格だ。だけれども、雅がこれから先、ダークマターに襲われないとは言い切れない。襲われた時に、明美が確実に守ってやれるとも限らない。そう考えると、素質のある雅には、魔法少女になってもらった方が良いかも知れないとも思っていた。
父親への不満と、自分のこの先の不安、雅のことでモヤモヤしているうちに、時間だけが過ぎていった。
もう10時を過ぎている。明美のスマホが鳴った。
画面を見る。早妃からだ。
涙をパーカーの袖で拭いて、テーブルの上にある、ペーパーナプキンで鼻水をかんだ。泣いていたとバレると恥ずかしいので、一呼吸して電話に出る。
「はい……」
「明美、電話した?」
「うん。ごめん、ちょっと相談があって」
「もしかして、泣いてた?」
こ、この女は!!
「あ……別に。ほら、あれじゃない?花粉症とか」
「まぁ、別に良いけど。あっ、そういえば明美!契約する時は事前に連絡してよね!!私、危うくクライアントの前で“契約を結ぶ“とか言うところだったんだよ!?いや、何様だよって思われちゃうよ!」
「プッ……ごめんね。連絡忘れてた」
「もう、本当そういうところだからね!?」
早妃の声を聞いて、少し心が晴れた気がした。
彼女がかつて明美と共に戦い、今は魔法少女達を影ながら支える “二代目 女神アールマティ” 円城寺早妃である。
「それで、結局何の相談の電話だったわけ?」
「いや……あの……私、ちょっと今家出しちゃって……」
「はぁ!?子どもか!!」
「それで……今日行くところが無くて……」
「いや、絶対無理!私、明日も仕事だし!ネカフェにでも泊まりなよ!」
やはりそうくるか。このパターンなら……。
明美の脳内で、瞬時に早妃の攻略シナリオが組み立てられる。
「今……全財産2600円しか無くて……」
明美の早妃攻略作戦 その1 “可哀想な奴に弱い”
「…………えぇ〜……」
「お願い!早妃!!」
「そうは言っても、私の家、もう既にハルが居るし……」
「ハルちゃんだって、私に久しぶりに会いたいと思うよ!」
明美の早妃攻略作戦 その2 “ハルちゃんを使う”
早妃はメイドの方をチラリと見た。目が合う。
「どうなされました?」
早妃のコートをしまい終えたハルが、早妃に尋ねる。
「明美が今日ウチに泊まりたいんだって……」
それを聞いて、ぱぁっとハルの顔が明るくなった。
「まぁ、明美様が!それではお布団の準備をしないと」
なんで泊まらせる気満々なんだよ。家主は私だぞ。
ハルは既にクローゼットの中から布団を取り出して、小型の布団乾燥機にかけようとしている。
電話口から明美の声が聞こえてくる。
「お願い!!こんな事言えるの、私には早妃しか居ないの!」
「むぅ〜っ」
「早妃……。お願い……!」
「いや、でも……」
「早妃……!」
明美の早妃攻略作戦 その3 “押して押して押しまくる”
「…………んん〜〜ッ!もう!明日にはちゃんと家に帰るって約束する!?」
「もちろん!!」
ふっ……。やはりこの女、チョロいぜ!!明美はギュッと拳を握りしめた。
「早妃!!大好き!!」
◇
雅が風呂からあがると、晃一郎はリビングには居らず、咲苗はテレビで録画したドラマを観ていた。
雅はドラマには興味がなかったが、少し咲苗と話がしたかった。咲苗の隣に座る。
「お母さん……」
「ん……?何?」
「明美からは何か連絡来た?」
「来てないよ。もう今日は帰って来ないかもね」
そう話す咲苗には、どこか余裕を感じる。過去にもこういうことがあったのかも知れないと、雅は思った。
「お母さんは……明美が魔法少女って知ってたんだよね」
「そりゃあ、あんたがこの家に来る前から知ってたよ」
「そうなんだ……」
自分以外の家族の中で、共通の秘め事があったという事に、雅は少し疎外感を感じた。多分、自分のことを思っての事だったんだろう。
「だから、明美が魔法少女だろうが何だろうが、明美は明美。ただの私の娘」
「お母さんは、明美が魔法少女をすることは心配じゃないの?」
「そりゃあ、はじめのうちは心配で夜も眠れなかったわよ。休みの日に部屋に閉じ込めた事だってあったよ。でも、変身して出てっちゃうのよ!勝手に。それで、あぁ、もうこの子を止める事は出来ないんだって思った」
そんな事があったのか。なんとなく、明美ならやりそうだ。
「それでもう諦めた。好きにやらせる事にした。子どもはいつか、親の手を離れていくんだし、ちょっと人より早かっただけ。元気に家に帰ってきたらいいやって、思うことにしたの。実際のところ、元気なニートになっちゃったんだけどね」
「ニートなのに元気って、なんかダメだよね」
「いや、そんな事ないわよ。元気なんてあれば有るだけ良いんだから。私だって、今はパートしてないし、ある意味元気なニートよ?」
やっぱりお母さんは、明美に似ている。と雅は思う。
「ふふっ、お母さんは違うよ。そんなこと言ったら、世の中の専業主婦に怒られるよ?」
「いいのよ、別に。お金貰ってないけど、それより大事な事を私はしてるんだから」
咲苗は屈託なく笑ってみせる。確かにそうかも知れない。咲苗が居るから、仁科家は家族で居られるんだと、雅は思う。
「だから明美も、お金より大事なものがあるなら、それを優先していいって、私は思うよ?」
「でも……私は明美に普通の大人になって欲しいな……」
「明美はもう、普通の大人よ」
「そうかなぁ」
「そうよ。仕事じゃなくて、魔法少女やってるだけ。それだけよ」
働いてないだけの、普通の大人。じゃあ普通ってなんだろう。
「お母さんは、明美にどうなって欲しいの?」
「そんなの。さっきも言ったけど、毎日元気で居て欲しい。ただそれだけよ」
そう言う母の顔は、少し寂しげだった。やっぱり明美の事は、心の奥では心配してるのかも知れない。
テレビでは、最近人気のイケメン俳優が『お前は俺が守る』なんて、クサイ台詞を吐いている。雅は似た様な事を言ったのを思い出して、少し恥ずかしくなった。
「あとは、出来れば深沢悠斗みたいなイケメンの旦那を作って欲しいけど」
「なにそれ!」
「いいじゃない!『お義母さん、ボク、洗い物やっときますよ』とかさ!言われたくない?『あら、そう?じゃあ、お任せしちゃおうかしら』とか言っちゃってさ〜!うわ〜、最高〜!!」
「全然わかんない!」
「まったく〜、雅もまだまだ、お子ちゃまだなぁ〜」
そう言って咲苗は雅のほっぺたをツンとつついた。
本当にお母さんはイケメンが好きだな。なんであんなゴリラと結婚したのか。
「そういえば、親父はどこに行ったの?」
ふふっと咲苗が笑った。
「明美探し。心配なら電話すればいいのにね」
◇
早妃の家は、三軒茶屋の近くにあった。
明美が早妃の家の最寄駅に着く頃には、もう夜の11時になろうとしていた。一応、咲苗に今日は友達の家に泊まるとメッセージを送っておく。
ポメラニアンのスタンプで『OK!』と返ってきた。『明日はちゃんと帰ってきなよ』『お父さん、あの後明美のこと探しに行って、しょんぼりしながら帰ってきたんだから』とメッセージが届く。
少し申し訳なくなったが、何と返したらよいか分からず、明美は『Good Night』と書かれた生足の生えたエリンギのスタンプだけ送っておいた。
「お待ちしておりました。明美様」
早妃の家の玄関を開けると、ハルが出迎えてくれた。
「ハルちゃん!久しぶり〜!」
思わず、ハルに抱きついてしまう。あぁ、何て良い匂いなんだ……。それと相変わらず、おっぱいがでかい!!
「明美様、どうぞ中に。外は寒かったでしょうし」
そう言うハルの後ろから、パジャマ姿の早妃がじっとりと見つめてくる。
「し、失礼します……」
早妃の家に来るのは久しぶりだった。
なんだかんだ至れり尽くせりで、シャワーを貸してもらえた上に、着替えに早妃の部屋着まで貸してくれた。
「いやぁ〜、ほんと申し訳ないわ〜」
明美はドライヤーで髪を乾かしながら、ベッドに座っている早妃に言う。
「本当、明日には帰ってよね?」
「分かってるって〜」
はぁ、とため息をついて早妃は明美に話しかける。
「どうして家出なんてしたの?雅ちゃんのこと?」
長い付き合いでもあるからか、早妃は相変わらず鋭い考察をしてくる。
「うん……。やっぱりお父さんに反対されちゃって」
「まぁ、そうだよね。魔法少女なんて、親が許す訳ないんだから。普通、親に隠れてコソコソやるもんだし」
「ウチの親にはもうバレちゃってるんだもん、仕方ないじゃん。ちゃんと説明しようかな〜って思ったら、『出てけ!お前は俺の娘じゃねぇ!』だよ!」
早妃は少し考えごとをしてから、口を開く。
「……分かった。もし雅ちゃんがまだ、魔法少女やる気がありそうなら、私もご両親に挨拶にいくよ」
早妃は明美に微笑む。早妃が協力してくれるのはありがたかったが、明美はなんだか家族の問題に巻き込んだ気がして、後ろめたかった。
「えぇ!!やめときなよ!私がなんとかするよ〜」
つい、口癖で『私がなんとかする』と言ってしまう。明美の悪い癖だ。
「それでどうにも出来なくて、今コレじゃない。それに大切な娘さんの命を預かるんだから、私もちゃんと義理を通さないとね」
「なんだよ義理って〜、ヤクザかよ」
なんだか早妃に気を遣われるのは、心がくすぐったい。
「ははっ、確かに!ヤクザみたいなもんだよね、指定暴力団 明美組!」
「そこは円城寺組だろ!!」
「語呂わるいじゃん」
「最近、覚醒するダークマターの数、増えてきてるよね。みんな頑張ってくれてるから、大きな事件にはなってないけど」
早妃は何か思い出したように、机に向かって、ノートパソコンを起動する。
「まぁ、確かに増えてるとは思うけど、まだ言うほどじゃない?昔はそこら中にうじゃうじゃ湧いて出たし」
明美はもう完全に自宅かの様にくつろいでいて、ソファに横になっていた。
「一応、みんなが報告してくれるダークマターの発生件数、まとめてるの。今年に入ってから都内で覚醒して虚影体になったダークマターの件数、かなり伸びてる。去年までは月当たり多くて20件くらいだったけど、今年に入ってからは毎月平均30件以上。先月は46件も報告が出てる」
「そろそろって事?」
「うん……」
明美は天井を見つめた。
また昔のような日々が始まったら、果たして今の魔法少女の数で足りるだろうか。やはり、雅には魔法少女になってもらうしかないのか……。
そして“彼女“との約束を、今の私で果たせるだろうか。
寝る支度も終わって、明美は「じゃあ私はソファで寝ればいい?」と早妃に聞く。
「とんでもございません!明美様にはお布団を用意してますので、こちらでお休み下さい!」
ハルがきちんと整えられた布団に手を向ける。
服装はさっきまでのメイドの服から、早妃が買ってあげたのであろう、紺色のパジャマに着替えていた。
「いや、でもハルちゃんどうするの?」
「私は早妃様の守護霊ですので、眠らずとも問題はありません。隣の部屋で今夜は過ごしますので、どうかお気になさらず」
「早妃、ハルちゃんていっつもそうなの?ポメ太郎は寝る時、布団に入ってくるけど」
「いや、いつもはその布団で寝てるけど。ハルが良いって言うんだし、甘えたら?」そう答える早妃は、少し眠そうだ。
「そんな、なんだかハルちゃんの布団とったみたいで悪いよ〜。そうだ!」
明美は布団に潜り込む。家の布団と違って、ふかふかで太陽の良い匂いがした。
「私と一緒に布団で寝よ!ほら、ギリギリ2人入るよ!」
掛け布団をめくって、ハルに入って来なよと誘う。
「えっ!あ、明美様と!!」
それまでは凛としていたハルの表情が崩れる。透き通った白い肌が、赤みを帯びて桃色になっている。
「な!!なにィ!」早妃は眠気が吹き飛んだように、カッと目を見開いた。
「ほらほら、2人で一緒に寝ましょうよぉ」
明美はスケベな顔をしてハルを見てくる。
「よ、宜しいのですか?私の様なものが……」
「よいではないかぁ〜、ほらほらぁ〜」
「では……お言葉に甘えて……」
明美とハルが寝る布団は、いかにも狭そうだったが、2人は楽しそうだ。早妃は自分の守護霊が取られたようで気に食わなかったが、はやく寝たかったので電気を消す。
ベッドに潜り込んで、目を閉じるが、なんだか明美達がうるさい。「ハルちゃんあったか〜い♡」「ひゃっ、明美様の足、冷たいですわ」「ハルちゃ〜ん♡ウチの子になってよ〜♡」「んもう、明美様ったら♡」
早妃はガバッと起きて、布団と枕を鷲掴みにすると、雑にハルの隣に敷く。
「私もコッチで寝る!明美、ハルは私の守護霊なんだからね!!」
「まぁ!早妃様まで!!!」暗くて顔は見えなかったが、ハルは驚きながらも、とても嬉しそうだ。
「えぇ〜、折角だし私の隣にきなよ〜。美女2人に挟まれて寝たいし」
「嫌!あんた寝相悪いんだもん」
明美と早妃、2人の体温を感じながらハルは目を閉じた。思わず笑みが溢れてしまう。
「ふふっ、今夜はとっても素敵な夜です」
最近、『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』という映画を観ました。正直、途中で観るのがしんどくなったところもあったのですが、最後は卓球してる人を見てガン泣きしてしまいました。おすすめです。




