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第5話 マジヤバ!ぶち切れ仁科父! ①

前回までのあらすじ

中学2年生の仁科雅は、ニートの姉 明美から魔法少女になってくれと相談される。

雅は明美の就活を条件に、一度は魔法少女になる事を承諾する。

先輩魔法少女の片桐桃華と敵との戦闘を見て、魔法少女になる事を悩む雅。しかし、明美が雅の逆鱗に触れたことにより、雅はノリで契約してしまい、魔法少女となったのであった。

「仁科!!お前の番だぞ!!」

 コーチの声に驚いて、雅は我に返った。

「あっ…すみません!」

 雅のバトミントン部のコーチ、菊地 遼 通称「鬼の菊地」は雅の異変に気づいていた。選手たちを見つめる姿は、戦場を見渡す戦国武将の様だ。

「お願いします」

 菊地のノックで前後左右、コートの空いているスペースに、容赦なくシャトルが投げ込まれる。

 羽根に触れた瞬間に、次の動きをする為のポジションを作る。足は一瞬も止めてはいけない。

 打ち込まれるシャトルの軌道に集中する。

 一歩目を早く、羽根の真下を意識する。

 速く、誰よりも速く。

 

 脳裏に、桃華とダークマターの戦闘の記憶が過ぎる。敵の猛攻を、彼女は目に追えないスピードで避け続けた。

 

 あっ……。

 反応が遅れた。

 

 バックハンドで遠くに落ちるシャトルを拾おうとして、大きく体勢が崩れた。ギリギリのところでシャトルは拾えたものの、ネットを超える事はなかった。

 その後はぐだぐだで、いつもならば簡単に拾えるようなノックを、何度も落としてしまった。

 

「今日の仁科、なんだか集中力に欠けますね」

 休憩の合間、菊地は、パイプ椅子にちょこんと座る老人に話しかける。

彼は体育館の窓から差し込む日差しに当たっているせいか、ひなたぼっこをしている様にも見える。

「そうですか?まぁ、多感な時期ですからね。色々あるんでしょう」

 この老人が、雅の中学 聖ミスラ女学院 中等部をかつて全国優勝まで導いた知将 島田 明である。

「何かトラブルでもあったんですかね。今日は珍しく、来るのが遅かったようですし……」

「ふふ……」

「何か変な事でも言いましたか?」

「まぁ、生徒自身に任せましょう。思い悩む事も大切ですよ。思いがけない壁に出会った時、どうしたら乗り越えられるのかを考える事が、選手を強くしますから」

「それは……そうかも知れないですが……」

「それに、セクハラだと言われるのも怖いですからねぇ」

 はっはっは!と笑う島田とは対照的に、菊地は悲観的だった。

 あの仁科が練習中に集中を欠くなんて、きっと何かあったのだろう。

 

 雅は菊地の友人がコーチを務めるバトミントンスクールの出身だった。

 「是非一度、その目で見てくれ」と紹介された彼女は、コート中を駆け巡る瞬発力とスタミナ、どんなに鋭いスマッシュも打ち返すレシーブ力が印象的で、菊地は間違いなく、この子は我らが聖ミスラ女学院を背負う存在になると確信した。


 菊地の熱心な推薦で、仁科雅は無名のバトミントンスクールから、バトミントン全中常連校の聖ミスラ女学院に入る事が出来た。

 菊地は、自身が推薦した事もあって、雅に対しては人一倍敏感になっていた。


 ◇


雅はその後の練習では、途中何度か集中が切れた場面があったが、なんとか持ち直した。だが、一番得意なノック練習が不完全燃焼だったのには悔いが残っていた。


 「仁科……!」

 練習が終わり、後片付けをしている所を、雅は菊地に話しかけられた。

「えっ、はい!」

「ちょっといいか?」

 ちょいちょいと、菊地が手招きする。急いで菊地の元に走り寄った。


 練習場の隅、腕組みする菊地の前に立つと、なにやら今にも怒られそうで、雅は萎縮していた。

「なんというか、その……。今日の仁科はなんだか練習に身が入らないでいたように感じてな……」

 雅はギョッとした。見抜かれている!!

 とはいえ、今日から姉の勧誘に乗って魔法少女になる事が決まりました。なんて言えるはずもない。

「そ、そうですか〜?」

「どこか具合が悪いんだったら、ちゃんと休んだ方がいい」

「大丈夫です!体調は万全です!!」

 近々、強豪との練習試合があるのに、体調なんて崩す訳がない。怪我を疑われては、試合に出られないかも知れないと、強く否定してしまった。

「なら……、何か悩みでも?」

「えっ、ま、まぁ……」

「誰かに相談はしたか?俺に話しづらかったら、友人や家族の方だっていい。誰かに話すと、ヒントが得られたり、気持ちが楽になったりするものだ」

 明らかに菊地が心配してきている。菊地は見た目は怖く、練習も厳しいが、選手ひとりひとりに向き合う真面目な男で、雅も含めて選手たちはそういう彼を信頼していた。彼の誠実さを知っているだけに、心配されるとなんだか後ろめたい気持ちになる。


「あ……、あ〜、え〜っと、あの……」

「姉……?お姉さんに何かあったのか?」

 『姉』というのは、完全に菊地の聞き間違いだったが、図らずとも大正解であった。雅はますます動揺した。

「あ、姉が……、急遽入院する事になりまして……」

 思い付きで適当な嘘を言ってしまう。やばい、やばい、やばい!!何も思いつかない!!考えろ!何か、それっぽい嘘を!!

「な、なんだって!大丈夫なのか!?」

 そういえば、昔、親父が入院した事があるって言ってたな。何だっけ、確か病名は……。


「だ、大丈夫です!!イボ痔!!イボ痔で入院なんで!!」


 辺りが静まり返る。

 菊地の思考が止まっているのを雅も感じた。


「いや、大丈夫じゃないだろ!!悪化すると大変な事になると聞くぞ!」

「大丈夫です!一命はとりとめたので!!あっ、はやく明美の見舞いに行かないと!!」

「お、おう……。ごめんな、プライベートな事を聞いて悪かった……」

「いえ!心配してくれてありがとうございます!では!!」

 持ち前の瞬発力を活かして、雅は風の様に菊地の元を去っていった。

 

 菊地の中で、明美はイボ痔で入院している事になった。

 

 ◇


 部活が終わると、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

「ねぇ、雅!今日のあのバイクの人、一体誰??もしかして、彼氏!?」

 辺りに後輩が居ないことを確認して、バトミントン部の主将 林田 葉月が食い気味に話しかけてくる。

「えっ、いや、あの人女だよ?明美の友達で、遅れそうだからって、送ってもらっただけ」

 この日、魔法少女としての契約を終えた雅は、茜に学校まで送迎してもらっていた。

 明美は、雅との契約後、公園を更地にしてしまった事を茜に詫びた。明美がパチンと指を鳴らすと、明美を中心に光の波紋が公園に広がり、瞬く間に公園は元通りになった。茜は手持ち無沙汰になったのか、代わりにと雅を学校まで送ってくれたのだった。


 いつもは電車で学校に来る雅が、いきなり大型バイクで送り迎えされてくるものだから、ミーハーな葉月は、ずっとその事を聞きたかったみたいだ。

「本当に〜?なんだよ〜、つまんないな〜。年上イケメンの彼氏とかだと思ったのに〜」


 葉月はバトミントン部のムードメーカーで、いつも楽しそうにバトミントンをする。部活中の彼女は、主将としてしっかり者を演じているが、同級生の前では普通の女子中学生の姿を見せる。

 先輩、後輩、誰とでも仲良くなれる社交性や、ポジティブな性格が、彼女が聖ミスラ女学院の主将に選ばれた理由なのかも知れない。


「いやいや〜、雅はバトミントンが恋人だもんね!」

 ニヤニヤとしながら、雅を見下ろすのは、宮口 久美子だ。

 すらっと長い手足をしていて、高い身長から放たれるスマッシュは中学のレベルを大きく上回る。雅とは対照的に、攻撃型のプレースタイルの選手だ。

 雅も彼女の実力を認めていて、自主練やレシーブ練習でよく久美子に練習相手になってもらっている。中学に入ってからの雅の成長は、彼女と出会えたことが大きな理由のひとつだった。

「久美子だってそうでしょ?男どもの相手してる暇あったら、少しでも練習した方がマシじゃん!」

「うわ〜、ストイックだねぇ〜!雅様は違うわ〜!」

 雅の練習に対する姿勢は真面目そのもので、葉月は何故雅ではなく、自分が主将になったんだろうと言っていた。雅には、練習に取り組む姿を尊敬して、雅様というあだ名が付けられている。勿論、つけたのは葉月だ。

「まぁ、確かに葉月は、もうちょっと主将らしくした方がいいよね。もっと雅のこと見習いな!」

「いや!本音を言うなし!」

 前を歩く葉月が、振り返って久美子に嫌そうな顔を作ってみせた。

「そうだよ!もっと私を見習いな!」

 えっへん!と雅は腰に手をあてて葉月を見下ろす仕草をする。

「えっ!それ自分で言う!?」

 葉月はもうツッコミどころでなくなって、笑ってしまっていた。雅と久美子もつられて笑う。

 

 思えば、今日は朝からめちゃくちゃだった。

 魔法少女という、世界の裏側を知って、自分も気がつけばそれに巻き込まれていた。

 でも大丈夫だ。私の日常は、確かにここにある。


 ◇

 

 人気のない大きな橋の下、カッという光が点いては消える。

「よし……次で99回目……!!」

 桃華は明美たちと解散したあと、変身の自主練習をしていた。連続100回、変身に成功するまで家には帰れない。

「変身!」

 難なく、99回目の変身も成功した。

 念のため、自分の着ている衣装に、足りないものがないかを確認する。


 髪留め、イヤリング、チョーカー、手袋にキャット・ガーター、パンプスも完璧だ。リボンなどの装飾も、足りないものはない。

 ふわりと一周回ってみて、川の水面に映る姿で、背中も大丈夫!と確認する。


 私も遂に、変身を完璧にマスターしたなと、自信が溢れてきた。ボフンと煙を出して、変身を解除する。もう変身のコツは掴んだ。


「よし、ラスト!変身!!」


 周囲に虹のベールを形成。今着る服を亜空間に転送。魔力を集中、固定化する。この時に、固定化が不十分なまま、ベールを解除すると、途端に魔力が発散して、全裸になってしまう。

 きちんと、焦らず、魔力を固定化すれば、何も難しい事はない。

 ここまでちゃんと出来るようになれば、雅ちゃんにも教えてあげられるかも知れない。

 『桃華さんの変身、すっごく上手だから、お手本にしてます!』

 そう言う雅ちゃんの姿が目に浮かぶ。

 ふふふ!私も遂に、先輩魔法少女だ!!

 

 マナがぶれた。魔力が乱れる。

 それに気付いて焦ってしまい、固定化する魔力にムラが出来た。

 虹のベールが解除された時には、桃華は全裸で立ち尽くしていた。

 

「………………ちくしょう!!!」

 まだ寒い夜の風が、桃華の尻を撫でた。

 

 ◇


 雅が家に着いた頃には、夜の8時をまわっていた。

 大きな団地の5階に仁科家はある。

 エレベーターを降りて、我が家のあるドアまでの通路を歩く。途中で、ドカドカとものすごい音がした。

 自分の家の方からだ。

 バァンと音を立てて、仁科家のドアが開く。

 ゴロゴロゴロ、どすん!!!

 家の中から明美が転げながら飛び出してきて、通路の柵にぶつかって止まった。

「えっ!!明美!?」

 明美はでんぐり返しの途中で止まったような姿勢で、壁にもたれかかり、放心状態になっている。


「てめぇはもう!俺の娘じゃねえ!!出ていきやがれ!!!」

 

 家の中から怒鳴り声が聞こえた。

 親父だ!!親父が……、ブチ切れている!!

 

 ギィと、軋む音を出してから、バタンとドアが閉まった。ガチャリ。ドアに鍵がかけられた。

 それは明美にとって、死刑宣告と言ってもいいものだった。


 ◇


 しくしく……。しくしく……。

 雅は、本当にシクシク泣く人が居るんだ〜。と思った。

 明美は家の前で体育座りをして泣いている。雅はしゃがんで寄り添っていた。

 雅は、明美が落ち着くまでそばに居てやろうと思った。ブチ切れた親父は、鬼よりも怖い。

 

「うぅ……もうちょっとさぁ〜、わたしのはなしをさぁ……、きいてくれてもよくない?……ぐすん……」

「どうしたの?親父と喧嘩して……。ほら、鼻水でちゃってるよ」

 雅はカバンからポケットティッシュを取り出して、明美に2〜3枚取り出して、渡してあげた。

 明美がち〜ん!と鼻をかむ。またぼろぼろ涙を流し始める。

「うっ、うっ、わた……わたしもぉ〜、わるいんだけどぉ〜!うっ、うっ……」

 あぁ、可哀想な明美…。ニートなのに家を追い出されちゃったら、どうやって生きてけっていうんだ。

 裸足で体を縮め、泣く明美。

「よしよし……」

 雅はそっと明美の背中を撫でてあげた。ひんやりと体が冷たい。

「寒くない?まだ3月だし、上着取ってきてあげようか?」

「だいじょうぶ……」

「でも風邪ひいちゃうよ?取ってくるよ」

 家のドアに向かおうと立ち上がるが、明美が雅の袖を引っ張った。

「なに?大丈夫、すぐ戻るよ」

「うっ……うっ……、いま……いまいくと、おやじ、めんどくさいから〜!!みやびもおこられるよ………」

 明美は、普段は父親を「お父さん」と呼ぶが、喧嘩をした時なんかには、昔の様に父親を「親父」と呼ぶ。

「私が?なんで??」

「わっ……わたしが……うぅ……、ふぇえぇ!!」

「……よしよし」

 なんだか私も関係してるらしい。とはいえ、親父に怒られる様な事なんてしただろうか。雅には思い当たる節は無かった。

 雅は自分のマフラーを明美に巻いてあげた。

 涙やよだれ、鼻水がつくのが少し気になったが、まぁ今日は許してやろう。

「わたし……、いえでする……」

 えっ、今なんて?

「きょうは、いえにかえらないから……」

「えっ、行く所なんてあるの?」

「なくはない……」

「茜さんのところとか…?」

「あのひとは、きこんしゃだから、わたしがつらい……むり……」

 あの人、結婚してるんだ……。もはや雅の中で魔法少女という概念が崩れつつある。

「むかしの……まほうしょうじょなかまのいえにいく……」

「こんな夜中にいきなり押しかけたら、迷惑になっちゃうよ」

「うぅ……だって……しかたないでしょ〜〜〜!!!うわぁあん!!」


 そんなふうに思うなら、素直に親父に謝れば良いのに。って言っても、あっちもあっちで頑固だから、なかなか難しいか……。


 ガチャンと、仁科家のドアの鍵が開く音がした。

 キイィとゆっくりドアは開き、ひょっこり母親が顔を出した。

「お母さん……」

「あら、雅。帰ってたんだ」

 ゴソゴソと明美の上着やら何やらを抱えて出てくる。

「ほら、明美。ダウン持ってきたから着なさい。風邪引くわよ」

 母は両手で明美を抱えて立たせる。明美は口をとんがらせ、顔を真っ赤にして、涙を貯めている。母親に言われるがまま、ダウンを着させられる明美。

 母は今度は明美を階段に座らせて、靴を履かせはじめる。

「まったく、もう子どもじゃないんだから。雅を心配させるんじゃないよ。お姉ちゃんでしょ?」

 むぅう……と小さく唸って、明美は涙を流す。

 母は手際良くハンカチで明美の涙と鼻水を拭いた。明美の財布に2000円を入れて、それを握らせる。ぎゅっと抱きしめて背中をポンポンと叩いた。

「母さんが、お父さんと話しておくから、明美は1〜2時間どこか外で時間潰してきなさい。今戻っても、また喧嘩になるだけだからね。お母さんに任せときな」

「わかった……。みやび……ごめんね……」

「いいよ、気にしてないよ」

「ありがと……。お母さんも、ごめんなさい……」

「しっかりしなさい。11時には戻りなさいね。困ったら私の携帯に電話しなさい」

「うん……」

 そう言って明美は俯きながら、とぼとぼどこかに歩いていった。


「ほら、雅もはやくおうちに入りなさい。外寒かったでしょうに。ご飯の前に、お風呂入る?」

 母は家のドアを開けて、雅の荷物をあずかった。

 雅は母の言葉よりも先に、明美の事が聞きたかった。

「お母さん、明美、なんで親父と喧嘩してるの?」

 はぁ……とため息をつく母。

 肩を落として、悲しげな表情をする。

 

「明美があんたを、魔法少女にしたからよ」

 

初代プリキュアの推しキャラはメップルです。

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