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第4話 ミラクル!?雅との契約成立!

前回までのあらすじ

 ニートの姉 明美と魔法少女になる約束をした雅。

 他の魔法少女たちも見守る中、最強の魔法少女である明美が変身をする。その瞬間、大爆発が巻き起こり、明美の居た公園は灰燼に帰した。

『やだ!!あけみ!!もういっかい!もういっかいやろう!?』

 変身の最中、光の渦の中。明美の脳内に、幼かった雅との思い出が過ぎる。

 まだ小さかった雅は、バトミントンのシャトルを拾ってきては、ラリーの続きをしてくれと強請(ねだ)った。

 雅と遊ぶとき、明美はいつも魔法少女の活動で疲れきっていたが、あまり笑わない雅が喜んでいる様子が見たくて、明美は雅の誘いを断らなかった。

『また私の勝ち〜!!へっへ〜〜ん!!ガキンチョが私に勝とうなんて、10年早いのよ!!』

 確か私はそんな事を言っていた。10年前のこの場所で。

 

 変身を終えた瞬間は、いつも世界が煌めいて見える。

 身体中から満ち溢れた光の欠片が、虹色の星屑になってから消えていった。

 その様子は何度見ても美しい。色褪せない。

 その代わりに、思い出の残る公園の姿は跡形も無く消えて無くなっていた。

『思い出に浸っている場合じゃない。あとで魔法で治せばいいんだから』そう考えてしまう自分に、心がじわりと傷んだ。


 外で自分の変身を見守っていた、仲間たちに手を振る。

「お〜い!終わったよ〜!」

 手を振った先に、目を見開いて唖然とする雅が居る。

 自分が魔法少女である事は、雅には隠してきた。

 嘘をついて、誤魔化して、遠ざけてきた。

 雅が大きくなるにつれて、自分との距離は離れていった。

「…………なんだよ、アホ面(ヅラ)しやがって」

 そう言うと明美は、自分の目に涙が溜まっている事に気付き、ゆっくり目を瞑った。

 この変身は、今まで私が守ってきた雅の人生を狂わせてしまうかも知れない。

 それでも、私は……。

 目を開くと、涙はどこかに行ってしまった。

 

 ◇


 雅には何が起きたのか、理解が出来なかった。

 目の前で、地盤やら瓦礫やらが、物理結界とかいう透明な壁に押し付けられて、粉々になった。まるで大きなミキサーを外から見ているみたいだった。

 光と、音と、振動が全部ごちゃごちゃになって、一通り雅の頭の中を掻き乱したあとで、消えてしまった。

 公園だった場所の中心に、真っ白な姿をした明美だけが残った。

 明美は白いヴェールを被り、純白のドレスから伸びた長い6枚のリボンがはためいている。雅にはそれが天使の羽根のように見えた。

 明美が最強の魔法少女だという事は、この時までは信じていなかった。

 だが、今は違う。いつもソファで寝転んでお腹を出しながら昼寝をしているニートの姉は、神様か何かの類いだったらしい。

 キラキラと光る虹の破片が舞い散る中、ゆっくりと目を開けた明美が微笑んだ。

 なにか悪い夢の様な気がして、目眩がする。


「雅ちゃん」

 隣に居た桃華が、雅の背中にそっと手を添えた。

「明美さんが待ってる。行こう」

 はい。と言ったつもりだったが、声は出ていなかったかも知れない。

 明美がふっと手を払うと、雅達の前に積もっていた砂と瓦礫の山がはけて、道が出来た。

「大丈夫だよ、もう安全だから!」

 桃華は先に公園だった場所に入って、それを証明してくれた。「ほら!ね!!」桃華の笑顔に、雅の心も少し楽になった気がした。

 

 公園だった場所に、足を踏み入れる。一歩目は、少し緊張した。

 結界とかいうモノをすり抜ける時、光の波紋の様なものが生まれて、透明な壁を伝った様に見えた。

 踏み込むと地面は、砂浜にでも居るかの様にさらさらと崩れる。

 公園の中は、キラキラ光の粒が舞っていて、もうすぐ正午になろうというのに、その光は太陽の光に負けず、輝いている。

 まるで星空が落ちてきたみたいだった。

 今居る公園は、駅を使う時に何度も通ったことがある。見慣れた景色は、明美の変身で様変わりしてしまった。

 ゆっくりと、一歩一歩踏みしめる。

 明美の元に、近づいていく。

 空気中に舞ったキラキラは、何故か危険なものの様には感じなくて、雅に触れるとふっと消えていった。

 ある程度明美に近づくと、「明美さんの所まで、行ってあげて」と言って、桃華は足を止めた。

 自分は後ろで見ているという事なんだろう。

 明美の元に辿り着く。

 これは、本当に明美なんだろうか。

 

「ふっふっふ〜!驚いたでしょ!」

 明美が両手を腰に当てて、得意げな顔をする。

 見た目はいつもより随分と華やかだけど、中身はいつもの明美みたいだ。

 フッという声が雅の口から溢れたが、心は笑っていなかった。

「驚くとか、そういうレベルじゃないよ……」

 雅はそう言う自分が、思ったよりもこの現実を受け止めている様な、妙な感じがした。

「こんな戦争みたいな事がそこら中で起きてるって知ったら、怖くて普通の生活できないって」

「そうだよね……」

 気まずそうに明美がはにかみ、話し始める。

 

「私は……。正直今でも、雅に本当に魔法少女になって欲しいのかどうか、自分の気持ちが分からない」

 明美が雅の元に歩み寄り、そっと雅の頭を撫でた。

 雅は少し赤みを帯びた綺麗な色の髪をしている。

「雅を私の戦いに巻き込むのは、嫌だったし。だから雅にだけは隠してきた。実はお父さんも、お母さんも、私が魔法少女だってことは、ずっと前から知ってるんだ」

 明美が雅に触れるのは、本当に久しぶりだった。

 魔法少女になると、人に触れることで、その魂を感じられる様になる。人の魂は、マナというエネルギーを発していて、それを魔法少女は魔力という力に還元して魔法を使っている。

 やっぱり……と明美は確信した。

 雅の魂は、太陽の光の様に際限なくマナを発している。

 この子は、確実に強い魔法少女になる素質がある。

「どう……?本物の魔法少女を見て。魔法少女になりたい……?」

「…………なりたいかって聞かれると、なりたくはない」

「そっか」

「でも、なるって言ったのは私だから」

 明美の手が一瞬止まる。雅ならそう言うと思った。

 雅が魔法少女になれば、もしかしたら自分と同じか、それ以上に強い魔法少女になるかも知れない。

 

 でも……それがなんだというのだ。

 雅には、雅の人生がある。

 自分が心から魔法少女になりたいと願っていないのであれば、魔法少女に、私の人生に、無理に巻き込む事なんてしたくない。

 雅には、幸せになって欲しい。

 

「魔法少女は、私がやりたくてやっている事だから、雅は無理に魔法少女にならなくてもいい。就活だって、ちゃんとやるよ。約束する」

「それじゃあ……フェアじゃないじゃん……」

 雅は俯いて、明美からは顔が見えない。

「フェアかどうかなんて、どうだっていい」

 明美は雅を撫でる事をやめて、両手で雅の肩を抱いた。

「やっぱり、やめよう。雅」

 少し屈んで、俯く雅に目線を合わせる。

「雅なら、ちゃんとした大人になって幸せになれるだろうし。私みたいに、魔法少女になる必要なんてないよ。普通に生きていこう。自分から誘っておいて、アレだけどさ!魔法少女の契約は、やっばやめよう!そうしよう」

 雅は何も答えなかった。申し訳ないとでも思ってるんだろうか。

「魔法少女のことは大丈夫!任せて!私、最強の魔法少女だから!!」


 その言葉を聞いて、雅の中でずっと違和感を感じてきていたものの答えが、分かった気がした。

「…………なにそれ。それって、私が魔法少女にならなきゃ、明美はずっと魔法少女をするって事?」

 少し雅の語気が強くなった。声が震えている。

「…………いっ、いやいや、そういう訳じゃないよ!?これ見れば分かるでしょ!私、最強の魔法少女だからさ、すぐに辞めま〜す!って、辞めれるもんじゃないのよ!ちゃんと準備して、今年辞めるって言ってるじゃん!もぅ、嫌だなぁ〜!」

「いや、でも!!今までだって、何度も辞めるべきタイミングなんて何度もあったでしょ?」

 言葉と一緒に不安だった気持ちがどっと溢れてしまって、涙になって雅の頬を伝った。

「でもそれでも辞めなかった。何か問題があって、辞められなかったんでしょ。それが1年後には全て解決して、明美が辞められる保証なんて無いんじゃないの!?」

 明美は何も言えなかった。

「ははは……ばれたか」

 雅は掌をぎゅっと握り締めた。

「明美って、いつもそうだよね!どうせ魔法少女でも、他の子たちが辞めていく中、自分を犠牲にして、大丈夫って薄っぺらい嘘ついて!!自分のこと誤魔化して!!人生棒に振って来たんでしょ!!」

 拭っても拭っても、溢れ出した涙を雅は止められなかった。人前で泣くのは、子供の頃以来だ。恥ずかしい気持ちはどこかに飛んでいってしまった。

 今はただ、明美が許せない。

「そんなこと、どうだっていいよ。私の事なんて」

「良くない!!!」

 雅が真っ赤な目をして、明美を睨みつけた。

 気押されて、明美は思わず退く。

 肩から離れた明美の手を、雅は掴んだ。

「魔法少女になったら、私も桃華さんみたいに戦えるんでしょ!?強くなれば、私が明美の代わりになれるかも知れないじゃん!!」

 明美は掴まれた雅の手から、燃え上がる様な怒りを感じた。

 

「明美、私を魔法少女にして!!私が明美より強い魔法少女になってやる!!」

 

 ◇


「ほ、本当に良いんですか……?いや、魔法少女になってくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり危険だったりするし、部活とか色々……」

 明美はめちゃくちゃビビっていた。

「ねぇ……はやくして!この後、その部活があるの!!」

「そうですか……?本当にやっちゃって良いんですか……?」

「何度も同じ事聞かないで!!いいから!!」

 こういう時の雅は、絶対に折れないのは明美も知っていた。

 うぅ、でもやっぱやだなぁ……。雅を横目で見た。ほんと、流石ですよ。雅さん。

 無意識に自分が笑っていることに、明美は気付いた。

 …………私も覚悟を決めよう。自分で言い出した事だ。

 体内で魔力を練り上げる。

 強く、強く。この魔法が雅を守るようにと、願いを込めて。明美の胸元ある、宝石が煌めいた。

「じゃあ、始めるね」

 ドレスから伸びるリボンが、翼を広げたかの様に広がり、雅を包んだ。

 辺りが暗くなり、ポツポツと浮き上がった光が、夜光虫の様に雅の周りを飛ぶ。明美と雅の足元には、大きな魔法陣が現れた。

 

「さっき渡した聖霊鏡を私にかざして」

 雅はブレザーのポケットに入れていた、聖霊鏡と呼ばれていたものを取り出す。中心の宝石が淡く光っていた。言われるがまま、明美の方に聖霊鏡をかざす。

 

 ――仁科雅、汝の魂の灯火を聖霊鏡に写せ。さすれば、大いなる善神の一柱、女神アールマティの加護を与えん。


 明美の声が雅の頭に直接入り込んできた様だった。

 コンパクトの様なそれを開き、自分の方に向ける。

 すると身体の内側に、何か温かい感覚が流れるのを感じた。いや、流れるというより、渦巻いている。鏡に映った自分から、光が溢れてくるのが見えた。

 

「私の後に続けて。“religare”」

「れ、レリガーレ……」


 足元の魔法陣が強く光った。

 雅から溢れた光が、聖霊鏡の鏡の中に入っていく。

 カッと、鏡から光が放たれた。

 その眩しさに、雅は目を瞑ってしまう。


 ――汝との契約をここに結ぶ。


 明美とは違う、誰かの声がする。

 一瞬、心臓を誰かに掴まれたような感覚がした。痛みや、苦しさはない。

 手に持つ聖霊鏡が、まるで自分の身体の一部であるかの様に感じる。不思議と恐怖は無かった。

 まるで、はじめからそうであったかの様だ。


 明美の声がする。

 

「魔法少女、仁科雅 闇を祓う炎となりて、その魂を燃やせ」

昨日、本屋でなんとなく伊坂幸太郎さんの「オーデュボンの祈り」を手に取りました。


「胸の谷間にライターを挟んだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていた。」


なんて素晴らしい書き出しなんだと、気がつけば購入してました。

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― 新着の感想 ―
姉妹の本音のぶつかり合いに、うるっときました。 諦めさせようとする明美に対し、涙を流して激昂する雅の叫びが切なく、そして力強いですね。 決意を込めて結ばれた契約の儀式シーンの幻想的なところは素敵です…
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