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第3話 変身するときゃ、気をつけろ!

前回までのあらすじ

 中学2年生の仁科雅は、ある日、ニートで姉の明美から「私と契約して魔法少女になって」と相談を受ける。

 明美の就活を条件に、魔法少女になる事を引き受ける事にした雅は、明美の後輩 片桐桃華とも合流し、魔法少女の敵 ダークマターと遭遇する。

「変身」と言って光に包まれた桃華は、次の瞬間には全裸になっていた。

 異様な光景だった。

 

 体長が3メートルはあろうという、漆黒の毛皮に包まれた巨大な獣が、その体を震わせる様にして唸り声をあげている。牙や爪、黒い毛並みの下でも分かる、大きく隆起した筋肉、吐く吐息が放つ熱量。どれもがその存在を、凶暴で危険なものである事を示している。

 その前に立つのは、すっぽんぽんの桃華。仁王立ちが勇ましい。それと、なかなか綺麗なお尻をしている。よく見ると、さっきまでは無かった、リボン付きの髪留めが、こめかみの辺りにちょこんと着いている。


「明美……!」

 これは一体、何が起きているんだと、雅は明美の顔を見た。

 何も言わず、明美はただ目の前の状況を見つめている。しかし、よく見ると明美の瞳から光は失われ、死んだ目をしていた。


 フッ……と桃華が笑ったのが分かった。

「変身!!」

「あっ、やり直した」

 流石に雅も状況を理解した。

 

 ドッと光の欠片を放って虹の玉に包まれる桃華。さっき見たものと大体同じ様な感じで、虹の球の中での桃華の変身が進み、ぱあっと球体になっていた虹のリボンが解けた。キラキラと光の粒が舞って、今度はちゃんとフリフリの衣装を身に付けた桃華が現れる。


「…………桃華は」

 明美が口を開く。

「変身がめちゃめちゃ下手なの」


 グォオォオオ!!!

 ダークマターが吠え、ビリビリと周囲の空気が震えた。その叫びは、明美たちを敵として認知した事を示したかの様だった。

「ねぇ、なんかこっち見てるよ!!ヤバいんじゃない?逃げた方が良いんじゃ……」

「ねぇ、ミヤビ」明美が雅の方を向いた。

「ちゃんと見てる??魔法少女の戦闘なんて、一般人が狙って見れるようなもんじゃないんだからね!?」

「何?!逃げないの!?」明美のパーカーを引っ張る。

「もう……。まぁ、ダークマ初めて見るんだもんね……無理もないか」

 

 漆黒の獣は、その巨体を感じさせぬ俊敏さで、桃華に飛び掛かった。それと同時に桃華の姿が消え、バリバリッと電気が流れた様な音がした。

 丸太よりも太い腕が、ドォンと地面を殴りつける。その衝撃が、雅の足裏からも伝わってきた。

 桃華は気がつくとダークマターの背後を取っていた。

 ダークマターが素早く動く桃華を捉えようとして暴れ回り、木や公園の設備を簡単に破壊していく。

 

「はぁああ!!」桃華の声が響き、次の瞬間、3メートル近くあるダークマターが吹き飛んだ。

 ダークマターは、公園の遊具に突っ込み、遊具はぐちゃぐちゃに壊れる。それでも勢いが止まらず、ダークマターの巨体は何度も回転して進み続け、公園の隅の植え込みの段差でドンと跳ねて、丁度、公園と歩道の間で、まるで透明な壁に打ちつけられたように、不自然に止まった。

 

 ジジジッと音が鳴り、桃華の体が淡く光る。彼女の体を電流が伝っているように見えた。

 次の瞬間、桃華の姿が消えて、どかんと音が鳴った。

 桃華が獣を殴った音だった。

 彼女は一瞬、それこそ目視する事が出来ないスピードで移動し、ダークマターを殴りつけていた。

「グオぉォ!!」ダークマターが叫び、桃華に反撃する。巨大な腕から繰り出されたパンチも、空を切るばかりで、桃華にはかすりもしない。

 ダークマターの懐に潜り込んだ桃華が何度も正拳突きを喰らわせた。ドンドンと音が響き、その衝撃が伝わってくる。

 「ハァッ!!」と桃華の声がするのと同時に、黒い獣はまた吹き飛ばされた。

 獣は公園のトイレがある建物に突っ込み、その勢いで建物の半分は崩れ落ちた。グググと、獣の弱ったような声が聞こえる。


 桃華の体が光を放つ。

 また、バリバリと電流が流れる音がする。

 次の瞬間、辺りが強い光に包まれ、ダークマターに向かって、雷が放たれた。雅は一瞬だが、雷の閃光の中で、桃華がダークマターに殴りかかる姿が見えたような気がした。

 

 ドォンという落雷のような轟音が響き渡った。

 その衝撃波が、雅を押し倒し、尻餅をつく。


 バリバリッ!と電流が空気中に放たれた音が残った。

 土煙の中、電気を纏う桃華が立っている。

 

 黒い獣がいた場所を見ると、ボロボロと化物の身体が崩れ、その中にあった紫に光る宝石が砕けたのが見えた。

 桃華がそれを眺めた後に、こちらを向いてニッコリと笑った。

 

 ◇

 

「どうでした〜?私の戦闘!」

 いかにも褒めて欲しそうに、ぴょんぴょん跳ねながら桃華は戻ってきた。

「戦闘は良かったよ。一発も攻撃もらってないし、無駄な攻撃もしてなかった」

 ふふん!と桃華は満足そうな顔をする。褒められて嬉しいのか、頬もほんのり赤みを帯びている。

「でも、相変わらず変身が下手すぎ。この前、5回連続で全裸になって、すっぽんぽんで戦ったの忘れたの?あれからちゃんと練習した??」

 淡々と桃華のミスを指摘する明美。表情は変わらないが、桃華の顔色がすうっと白くなっていくのが分かった。

「今日はこの後、変身の練習をすること。変身が100回連続で成功するまで、帰っちゃダメだから」

「…………はい」笑顔のまま、桃華は答えた。

 ぼふん!!と桃華の体から煙が吹き出した。煙が消えると、桃華は公園に来た時の姿に戻っていた。

「なんか……雅ちゃんに見られてると思うと、緊張しちゃって……」桃華が恥ずかしそうにヘラヘラ笑う。

「だからって、普通、全裸にはならん」

 明美が桃華の頭を軽くチョップで叩いた。

 

 にゃあんと子猫の鳴き声が聞こえた。

 ダークマターの灰になった体の中から、まだ体が小さな子猫が現れ、顔を拭っている。

「おっ、戻ったな〜!」桃華が駆け寄って、子猫を優しく撫でた。

 子猫は嫌そうにして、にゃんと言って草むらに走っていった。その先には、母親と思われる猫が居て、こちらをじっと見つめていた。

「また取り憑かれるなよ〜!」

 桃華が小さくその家族に手を振る。猫の家族は公園の外に出て、どこかへ消えて行った。

「あれが……ダークマターの正体……??」

「まぁ、野良猫が正体っていうか、今回がたまたまそうだっただけで、色んなもの、それこそ人間にだってダークマは取り憑くの。それが力を蓄えて、覚醒した時にさっきみたいな化物になる。覚醒前に見つけられることも多いけど、覚醒しちゃったら、さっきみたいにコッチの世界に現れたダークマを浄化するしかない」

 雅の視線を感じたのか、雅の方を見て明美が微笑む。

「その時は、私たち浄化部隊の出番ってわけ!」


 ◇


「これ……どうするの……?」

 まるで戦争でもあったかの様に、ぐちゃぐちゃに壊れた公園を見渡して雅は言った。

「あ〜、大丈夫、大丈夫。結界作ってくれた魔法少女が、これも直してくれるから」

 そういえば、そんな魔法少女がいるような話をしていたな。

 背後からブロロロとエンジンの音がして、「おっ、来た来た」と明美が言った。大型のバイクが雅の後ろで止まる。小柄な運転手と、後ろには小学生の様な可愛い格好の女の子が乗っていた。

「お疲れ様〜!いや〜、公園に閉じ込めれて良かったよ。あとは私らで直しとくんで、明美達は解散で大丈夫。あと、忘れずに上への戦闘報告はお願いね!」

 フルフェイスのヘルメットを脱いだ運転手は、女性だった。

「おっ、明美の妹さんですね!明美から噂は聞いてますよ!」

 小柄な彼女は、雅と同じくらいの身長だったが、大人びた顔つきをしていた。明美と同じくらいか、少し歳下だろうと雅は思った。

「は、はじめまして……仁科雅です……」

「私はここら辺一帯の修復を担当してる、澤田茜です。コッチは私と同じチームの田中理恵ちゃん。明美さんと一緒のチームなら、私と会う事も多いと思うし、出来るだけサポートするから、宜しくね」

 あっ!と明美が声を出した。

「ごめん、アカネ、もう少し認識阻害と物理結界維持出来る?」

「まぁ、大丈夫だけど?リエちゃん、まだ保てそう?」

「はい……大丈夫……です」

 茜とバイクでやってきた少女が、もじもじしながら答えた。こんな小さい子まで魔法少女なのかと、雅は思った。

 

「雅!」明美に呼ばれる。

「渡しときたい物があるの」

 明美はバッグをゴソゴソと漁る。

 「あれ、どっかいった。あれ〜?家に忘れちゃったかな??」

 いや、バッグの中ちゃんと整理しとけよと雅は呆れた。人前で、恥ずかしい。

「あった!じゃ〜〜〜ん!!」

 明美が取り出したのは、アニメでよく見る様な、装飾がついたコンパクトだった。

「はい。これがあなたの聖霊鏡コンパクト

 明美から渡されると、ずっしりと重い。繊細な作りなのに、手に持った質感から、どこか頑丈そうな感じもする。

 パールのように虹色に淡く光る装飾は、おもちゃとは違う神秘的な美しさがあった。

 真ん中に付いているルビーの様な緋色の宝石は、透き通った奥にちらちらと火花の様なものが見える。

「なにこれ?高そう……」

「高いとかじゃないよ!買えないものなの。女神様じゃないとそれは作れないんだから」

 明美はパーカーのポケットからもう一つ、聖霊鏡を取り出した。

「ほら、これが私のやつ。少し見た目が違うでしょ」

「ほんとだ……なんかちょっと汚い……」

「いや、10年使ってんだから当たり前でしょ!?毎日持ち歩いてんだから、そりゃ手垢もつくわ!!」

 手垢って……。だがよく見ると真ん中の宝石の色は淡いピンク色で、その奥にはきらきらと小さな光がまたたいている。

「魔法少女として契約することで、この聖霊鏡と自分の魂をリンクさせるの。そうすることで、自分の中にあるマナを魔力に変換できる様になる」

 まな?まりょく?ゲームの設定みたいな事を真面目に言われて、雅は困惑したが、手に持っている聖霊鏡の美しさが、明美の言葉に何か信憑性を持たせていた。

 

「ちょっと最終形態まで変身するから」

 明美がそう言うと、周りのみんながピリっとしたのが分かった。

「えっ、あれに変身するの!?」

 茜が驚いて、明美に言う。

「契約の魔法、最終形態まで変身しとかないと使えないらしいんだよね。申し訳ない……。物理結界、強化しといて貰えない?」

「まぁ、大丈夫だけど……。契約に必要なら仕方ないか……」

 雅は桃華の時と同じ事をするんだろうと2、3歩下がったが、茜は理恵の手を引いて、公園の外まで出て行っていた。桃華が駆け寄ってくる。

「ミヤビちゃん、もっと離れた方が良いよ。最終形態は爆発するから。私達も公園の外に出よう」

 爆発??気がつくと明美は公園の中心まで移動していて、雅も桃華に言われた様に公園の外まで出た。

 キョロキョロと周囲を見渡して、桃華は「大丈夫で〜す!」と明美に言った。

「いきま〜〜す!」

 明美が手を上げてこちらに合図する。

 

 まず、明美の身体を中心に幾つかの魔法陣の様なものが現れ、パッと消えた。キィンと耳を劈く音が周囲に響き渡る。明美の周囲に巨大な光の玉が幾つも現れ、明美の持つ聖霊鏡の中に集まった。

 明美の持つ聖霊鏡から虹のリボンがどっと現れ、明美を包む。ただ、その数は何重にも重なって、桃華の時よりも大きな球体を形成した。

 また魔法陣がその球体を中心に現れる。カッと魔法陣が光った。

 その時、空から流星が流れ落ち、球体に飲み込まれた。

 

 次の瞬間、世界が真っ白になった。

 明美の変身で溢れ出た光が周囲の一帯を飲み込んだ。

 

 公園の中心から爆発が巻き起こり、公園を囲う防御結界が、ミシミシと音を立てた。バリンと大きな硝子が割れた様な音がしたが、その外にも結界が形成されていた様で、またギギギと軋む音がする。

 茜が防御結界を維持する為に、両手で魔力の供給をしながら、多重に掛けた結界に更に追加で結界を形成していっている。歯を食いしばって耐えているのが、雅にも分かった。理恵という少女も、目を瞑っているが、結界の維持に力を込めているみたいだ。

 公園内の建物は全て破壊され、結界の壁と衝撃波に押し潰されて粉々になる。

 光の渦が公園の上空に巻き起こり、雲を突き破った。


 衝撃が収まると、公園の中心には光を纏い、魔法少女の姿をした明美が立っていた。桃華とは少し違う、白いウェディングドレスの様な姿に身を包んでいる。

 

「終わったよ〜!」

 呑気に手を振る明美。

 

 明美の変身は、公園内の全てを破壊した。

 

 

十二国記を読み始めました。非常に乙女心がくすぐられます。

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