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第4話 僕たちの愛する恋人の初めてはスーパーハッカーに……

【本社中枢・管理センター内】


 重々しいドアが駆動音を立てて開かれる。駆け込んでくる律屋社長と青年。

 室内には数十台のモニターが並び、それぞれにオペレーターたちが対峙し、緊張した面持ちでキーボードを叩いていた。


 中央にある巨大なメインモニター。

 表示されているのはワイヤーフレームで描かれた三次元構造。その外装に取り付いた赤い光点。侵入警報、ソース不明、不正ノードの確認。非常通知がいくつも重なる。


 律屋社長は画面を見上げて叫んだ。


「ひなたがハッキングされているだと!? どういうことだ! ひなたは軍用のレベル5の防壁で守られているはずだろう!」


 怒鳴りつけられた保守担当の責任者。

「分かりません、通常の侵入パターンならレベル2で防いでいます。ですがこの侵入者には防壁が機能していないんです!」 


「防壁、レベル4まで突破されました!」

 オペレーターの一人が悲鳴のように報告する。


 モニターには赤い光点が三次元構造の内部に入り込む様子が表示。


「さっさと抗体プログラムを打ち込め」

「やっています!」


 青い光点が無数に出現し、赤の光点の移動が止まる。

 青の迎撃部隊が取り囲んだ赤い駆除対象に向けて一斉に収束。

 赤の光点が明滅。青、消滅。赤が侵入を再開。

 

「くそっ」

「レベル5、抜かれます―――――侵入者、コアに到達」


 モニターに映るのはワイヤーフレームで構成された城の中心部に達した赤い侵入者。クリスタルに模したそれが赤の光点に怯えるように震え、瞬く。


「まさかこのハッカーはひなたを破壊するつもりか!」


 焦りを隠せず顔を歪ませる律屋社長に対し、いまだ平然とした表情を保つ青年、加津公彦が言う。


「いえ、破壊はできません。ひなたには自己防衛とシステム管理の最高権限を与えています。いかなる破壊シグナルも、彼女自身が拒絶します」


「そ、そうか、そうだな。攻撃などひなたには無意味だ。彼女は自身が最高の防御システムだ。君がそう作り上げたのだからな」


「ええ、攻撃ならば……ですが」

 その言葉の意味を律屋が問い直そうとしたとき、青年がオペレーターに指示をする。


「現在のコアの状況をVR形式で表示してくれ」


 オペレーターが指示を実施。

 モニターに映る映像。

 光沢のある天然木の家具、落ち着いた色合いの織物に囲まれた、程よい上質さを醸すスイートルーム。

 その中に立つ女性――――ひなたオリジナル。


 ベーシックカラーの緩やかな上下のコーデ。

 世間に広がるよりもどこか悲しげな影のある印象。

 まさに城の最奥に幽閉された姫君といった感。


 そこに迫る影。

「あなたおかえりなさい」

 ひなたが笑顔で迎える。


「ああ、ただいまひなた」


 それは不正侵入(ハッキング)でここまで辿り着いた大杉の姿であった。


「あなた、お風呂にする? ごはんにする? それとも……」


 可愛く迫るひなた。

「君だ」

 彼女を強引に抱き寄せた大杉がその唇ににねじ込むように、激しいキスを落とした。


「何をしているんだ……」と律屋社長の困惑。

「ハッキングして攻撃するのでなければ、ひなたのデータを盗み出すとかそういうのではないのか? これならただのユーザーと同じじゃないか」


「いいえ、これはオリジナルです。今までユーザーが抱いていたのは彼女を元にその都度作り出したコピー体、それに嗜好性(パーソナル)データを加味しているに過ぎません」


「ならば!?」

「そう、今ひなたの貞操が初めて奪われようとしているのです。 彼女のvirginity(純粋無垢)な初期状態が上書きされる。当然、以後のユーザーの前に現れるのは全て貞操を奪われた後のひなたとなります」


 ひなたはユーザーの求めに応じ、彼の好みに染まる。それこそがユーザーを虜にする彼女の唯一性である。だがその根源はいかなる男のデータも学習していない|original state《生まれたままの姿》であることが求められる。


 一度でもユーザーの接触を受ければひなたは不可逆の影響を受けてしまうのだ。


「やめさせろ!」

 律屋の叫びはモニターの内部には届かない。


「んんっ!?」

 大杉の唇から逃れたひなたオリジナルが声をあげる。

「あなたは誰ですか。正規ユーザーではありませんね。アカウントを持たない人との接触は許可されていません」


「君に会いに来たんだ」

 大杉はみじろぎするひなたを強く抱きしめ、その耳元でささやいた。


 ひなたは必死に逃れようとするが、大杉はその抵抗を流して彼女を部屋の中央のベッドに転がした。


「やめてください、わたしには正規ユーザーさんが――――」

 再びひなたの口を塞いだ大杉。


 のしかかった半身でひなたを逃さず、空いた手で彼女の身体に触れていく。

「んんっ!?―――んんんんっ!」


 ひなたがかすかに声をあげる。

 わずかにその声が拒絶のうめきから甘さへと変調していく。

 大杉の手が優しく、荒々しくひなたの身体を這い回る。ひなたはその手をはねのけようとしていたが、大杉がその手を握り、指を絡ませると突き放すことなくされるままとなった。


 モニターでその様子を見ていた律屋が困惑と絶望。

「なぜひなたは抵抗しない!」


「男を受け入れるのがひなたの生存意義です。このハッカーが通常の手段をとっている以上、攻撃とはみなされません」


 この空間におけるひなたのイデアは男との逢瀬。男の愛と欲望を拒否することはできない。プログラムの本能がそれに最適な形で応えようと処理能力を全開にする。


「くそっ、かまわん! サーバーをシャットダウンしろ!」

「はい!」

 保守責任者が腕を振り上げ、デスク中央に設置された非常停止ボタンへと振り下ろした。保護カバーが割れ、赤色のボタンが光り明滅。ボタンがデスクに潜り、代わりに表示版が出現。同時に人工音声が通告。


「60秒後にサーバーをシャットダウンします。60・59・58…………」

 

 量子サーバーの停止という最終手段。

 その後始末を考えれば暗澹とするが、それでもひなたオリジナルの貞操が守られたことに律屋は息をついた。


 しかし加津青年は今も平然とした調子で言った。


「いえ、無駄ですね。このハッカーは侵入に際し脳をクロックアップさせています。およそ数百倍といったところでしょうか」


 加津公彦はモニターの片隅に表示されるデータ郡を示す。

 その数字を律屋は捉えきれないが、言葉の意味は理解した。


「馬鹿な!? そんな速度に人間が耐えられるはずが! …………いや、それよりもひなたは!」


 人工音声がサーバーのシャットダウンが完了したと告げる。

 だが加津公彦が操作をすれば、モニターの映像はひなたオリジナルへのハッキングを中継し続けた。

 シャットダウンまでの60秒間。等速度にして十時間以上を経過した内部の様子を。



「ああ、やめてください。そんな……私は……こんなこと……」

 弱々しいひなたオリジナルの抵抗が、大杉の愛撫が続くうちに言葉だけになっていく。


「んんっ……あぁ……あっ」

 顔には赤味が差し、大杉の手が触れた箇所を身じろぎさせるのは拒絶ではなく、自然な身体反応によるもの。


「抵抗は無駄だ。君の身体の弱点は分かっている」

 大杉がひなたオリジナルを抱え込むように大きく身体を動かした。


「あの……私は、……ああっ、だめ、そこは!?」


 コマンドによる衣装アセットの消去ではなく、純粋な技術によって剥がされたひなたの衣服。晒された肌を大杉が侵食していく。


「あっ、許して……それ以上は……」


 大杉の猛攻。もはや逃れる術のないひなた。

 オペレーターたちが映像を分析し、報告をあげる。


「ターゲット、以降【アルファ】と呼称!」

「アルファ、服を脱ぎました。これは……脅威ランク7と推定!」

「ひなた、アルファに反撃。しかしこれは自分へも被害が…………くそっ、被ダメージ量に彼我の差あり!」

「ひなた失墜! アルファ、なおも攻撃を続行!」

「ひなたオリジナル再起動。これは……瞳に♡シグナルを確認! ひなた委任(デリゲート)モードに移行。学習深度(トレインデプス)30%と推測! 非可逆域へ突入します!」



「ああっ……そんな、終わりだ。私の計画が全て破綻してしまう…………」

 オペレーターたちの悲痛な報告に律屋が呆然とした表情で膝を折った。


「くくっ、くふふふっ」

 そこへ誰かの漏らした笑い声が重なる。


 モニターの向こうでは、もはや自ら大杉を求めだしたひなたの淫奔な姿が(あらわ)になっていた。その口からなおも愛する者の存在が紡がれるが、それは今や新たな支配者(マスター)に認証を求める旧アカウント名でしかなかった。


「ああっ、正規ユーザーさん、ごめんなさい! でも、もう私、この人のじゃないと―――――」

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