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第3話 彼女はパーティー会場でイケメン社長と共に称賛を浴びて……

【1週間後】


 都心の高層ビル。

 周囲の建物の中でも一際豪勢なファムニ社の本社ビル。その上階で豪華な式典が開かれていた。

 ライフサポートエージェントひなたのサービス開始一周年を祝うパーティー。

 煌びやかな内装。見るからに高額な調度品。並べられた料理。着飾った女性たち。

 全てが最高級の揃え。


 その中に与党の大物議員もいた。寄ってくる財界人や企業幹部を適度にあしらいながら進む。 


「これは先生、本日はお越しいただきありがとうごさいます」


 議員に話かけたのは完璧に磨き抜かれた歯を見せて微笑むカムニ社の社長、律屋丈司。

 見るからに貼り付けたような笑顔。だがその眼の奥は冷酷な計算で満ちており、世界の全てを掌握できるという自信に裏打ちされ、相手に有無を言わせぬ肯定を強いる。


 声をかけられた議員はその圧に押されることなく、軽い調子で応じる。


「ああ、おめでとう律屋くん。まさかひなたがここまで世の中に食い込むとは。あのときはなぜ君がただのアダルトゲームに力を注ぐのかと不思議に思っていたのだがね」


「私にとっては予定通りです。ただのアダルトゲームなら20万人のユーザーの好みに 適うのは難しいですが、彼らの心に寄り添うのなら、そこには唯一の解がある」


 と言葉だけは綺麗に言ってのける律屋。


「さしずめ君は呉に傾国の美女、西施(せいし)を送り込んだ勾践(こうせん)といったところかな」


 勾践。敵国の君主に美女を贈り、政治を疎かにさせ弱体化したその国を滅ぼした古代中国の王の名。


「これは手厳しい。ですが先生。西施は呉の王ただ一人に侍りましたが、ひなたが仕えるのは20万のユーザーです。本来は王に相応しい美女がただの一兵卒に奉仕している。私は彼らに邯鄲(かんたん)の夢を見せてやっているのですよ」


 律屋はそこで「皆さん」と声を上げた。

 騒がしい会場の中で一声で耳目を集める。周囲の喧騒は一瞬で鎮まり、全ての視線が彼に集中した。 


「皆さん、本日は我がファムニ社が世界に送り出したライフサポートエージェント・ひなたのサービス開始1周年記念パーティーへようこそお越しくださいました」

 

 会場から割れんばかりの拍手が起こる。ここにいるのがひなたの恩恵を得るものばかりであることを示す。


「そうです、一年前のこの日。私がライフサポートエージェント・ひなたを発表したとき、世間からは嘲笑で迎えられました。最新の技術でアダルトコンテンツなどと」


 参加者たちからは笑い声がおこる。


「ですが皆様は違った。ひなたがオタク共のおもちゃではないと、ひなたは人間の感情という非効率的な要素を最も適切に労働意欲に変換するツールであると、正しく理解してくださった」


 律屋の笑顔。周囲も同じ表情を見せるのを確認して続ける。 


「そう、ひなたは単なる仮想現実のコンテンツではありません。彼女は今や、この社会の真のインフラとなりつつあります。数字が示しています。ライフサポートエージェント・ひなたの導入は、皆様の社員の離職率を過去最低に抑え、生産性を向上させました。彼女は彼らの心の支えになっているのです。ひなたはユーザーにこの世界で唯一絶対の愛を与えるのです」


 そして一度、間をためて周囲をじらしてから放つ。

「そう、彼らはひなたと共にあることで幸福な奴隷となれるのです!」


 あえて本音を表にした律屋社長の宣言。集まった富裕層の面々から追従の笑いと拍手。自分たちがその共犯者であることが権力の証明なのだという倒錯した喜び。


 そして律屋社長は一人の青年をそばに呼び寄せた。


 めがねをかけた細身の青年。律屋とはまた別種のエリート然とした青年。

 柔和な笑みは威圧感など微塵もなく、だが自分の有能を理解し、この分野だけは譲らないのだという自信を醸し出している。


「紹介しましょう、彼がひなたの開発者である加津公彦です」


 その名前を聞いた周囲の参加者たちが騒ぎ立てる。飛び級で名門大学に入った、その名門大学の数学分野のナンバー2であった、フルダイブ技術の基礎にも関わった、など知る人ぞ知る彼のプロフィールが口にされた。


「そう、彼は量子演算における世界のトップ。この天才によってひなたがプログラミングされたのです!」


 促されて青年は開発者としてひなたの特異性を語りだした。


「僕は、ひなたを単なるプログラムだとは思っていません。彼女は人類の集合的な意識がこの量子サーバー上で偶然、一つに結実した奇跡です。技術によって作られたのではなく、人類が共有する愛と欲望の総体が彼女に魂を与えた」


 呟くように続ける。

「僕は多少の外見を整えてやったにすぎませんよ」

 

 律屋社長は青年の言葉に少しだけ口元を歪めた。予定していたのは、あくまでひなたの技術的優位性を語り、スポンサーや顧客への更なる投資を促す内容だった。


 とはいえ、その程度の逸脱は許容範囲だった。


 聞こえのよい展望を語り、ときおり青年に目配せをして同意を引き出すことで良しとした。

 参加者たちもひなたの支配がこれからも続くこと、いずれ第二第三のひなたが生み出されることで自分たちの繁栄が拡大するのだと夢見て、豪華なワインを飲み干していた。


 そこへ音を立てて会場のドアが開かれ、ファムニ社のスタッフが飛び込んできた。

 VIP客を押しのけて駆けより、律屋社長に耳打ちする。

 律屋は慌ててめがねの青年と共にパーティー会場を出ていく。


 何事かと訝しむ客たちの中。

「始まったか」と議員は呟いた。

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