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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ガイウス・ユリウス・カエサル初の執政官へ
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元老院の困惑

執政官になった女ったらしの借金王は当初何もできないのではないかと目されていたが蓋を開けてみると大きな取組を次々と開始しだした。

元老院、特に門閥派はその対策を練ることになった。

「あなたが、カエサルの肩を持っているから、我々がまとまって反論することができないのです。」

叫ぶような声でカトーがキケロに文句を言う。

冷静に、相手を見下すようにキケロは

「そんなことはない。私は私の政治信条に則って発言しているだけだ。君もそうすれば良い。」

「ふん、民衆の顔色を伺う偽善者め。」悪態がキケロの表情を一変させた。

「カトー、君は清廉潔白を旨としている。そして今回のカエサルの公務員法はそれを実現するのに良い法案だ。なのに反対とはどういうことだろう。カエサル憎しが過ぎて、なんでも反対になってしまっているとすれば、それは矛盾ではないかな。」

カトーがいいわけをしようとするところへキケロは追い打ちをかけた。

「ああ、そうか、君の愛しい従姉君がカエサルの女であることが許せなかったのか。カテリーナ事件の時も君はそれで恥をかいたはずだったね。」

周りにも響く声で、昔の恥を思い出させる。カトーとくらべてキケロのほうが役者は上だった。


何年も前の話だが、カトーの従姉で美しく聡明な女性として有名だったセルビリアは、カエサルを好きになって二人は付き合うようになっていた。もちろん、カエサルには他にも愛人がいたのだが。それが許せないカトーは反カエサルに走っていた。清廉潔白を旨とする彼にとって爛れた女関係を常に続けているカエサルは許せなかったのだ。

そして、反逆者カテリーナの対応に元老院が一丸となるべきと議論しているとき、カエサルはカテリーナに一定の理解を示すことで元老院全体からカテリーナとともに反逆を企てているのではないか、との疑惑を向けられた。

そして、元老院の会議中にカエサルが使用人から手紙を受け取った時に、狙いすましたようにカトーが、

「カエサルとカテリーナをつなぐ手紙だ。」と叫ぶ。

議場が大騒ぎになったが、その手紙はセルビリアからカエサル宛ての恋文だったのだ。

議場は大爆笑に包まれて、カエサルは肩をすくめながら笑顔で皆に公的な場所で手紙を受け取ったことを謝罪した。

そのあとはカトーを裏でバカにする声も多く、清廉潔白だけではだめだな、と笑われ続けた事件だった。


「そんな昔のことは関係ない。」ふりきるようにキケロに文句を言う。

「だが、感情的になってしまっては法の民ローマ人を束ねる元老院議員としてよろしくないな。」とキケロ。

結局、門閥派の中でも有力なキケロとカトーの意見が対立することで、カエサルへの対応が後手になった。



キケロは議事録に反民衆の言動が載ることを恐れている。

門閥派の長老であるカピトリヌスはそう思い、門閥派で最も優秀な弁論家を苦々しく見た。

それから諦めたように首をふって門閥派の重鎮であるルクルス、カルビエンヌに小声で話しかけた。

3人は目をあわせて議場の隅にいき、話をする。

「お二方、何とかカエサルの暴走を抑える手だてを打てないものか?」

「わしはあの若僧が嫌いだ。しかし議事録を楯にして正論を振りかざしている。隠れていた民衆派が暗躍しているに違いない。裏稼業の者達に襲わせてみるのも一つの方法かも知れない。所詮女ったらしよ借金王。肝っ玉を冷やすに違いない。」

あまり、議員を襲うという乱暴なやり方を好まないルクルスは

「同じ議員を襲うなど恥じであろう。しかも本人の資質は女性に持て、金に寛容と、貴族的振る舞いがマイナスに働いているだけのこと。古来よりの貴族階級の最高神祇官を襲うなどありえない。堂々と対峙して意見を言うべきである。」

「では、ルクルス、あなたならとうするのだ?」

「私は彼を直接的に糾弾しよう。貴族の中の貴族であるカエサル家の長として、元老院を蔑ろにしていないか、を、問うのです。議会の途中で厳しく責めることで、我々以外の仲間を見つけることもできる。門閥派以外も不快に思っている議員も多いでしょう。」

カピトリヌスはルクルスの理屈に納得した。

カルビエンヌはルクルスに反発して言う。

「そもそも、女ったらしが民衆の意向を受けて進めている取り組みだが、そろそろタネはなくなってくるのではないかな?そんなに我らと対立したいとも思えない。」

「侮ってはいけませんぞ。彼はいつも独自路線を貫いてきたじゃないですか。ポンペイオスを支持したり、反逆者カテリーナを処刑ではなく終身刑にするように提案したりと。常に自分のスタンスを曲げないところは筋金入りです。」

「だからこそ、執政官になってローマを引っ張る身になり、元老院の意見の大切さを知ってもらうのです。」とルクルス。

結局、話はこちらも平行線になる。

結局3人でも方向性をまとめられず、ルクルスが当初の予定どおり、元老院の議会においてルクルス中心に真向からカエサルと対峙することで承認される。

このとき、門閥派はまだカエサルの勢いはこの1月を乗り切れば、弱くなり、ビブルスが主執政官になるため、平穏に戻るだろう、と考えていた。


三者同盟を知るものはなく、三者同盟によって起こされることをすべて理解していたのは一人だけだった。


動き出した執政官カエサルの活動。

共和制ローマは、元老院はどうなっていくのであろうか?

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