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革新期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
ガイウス・ユリウス・カエサル初の執政官へ

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ひとときの休息

執政官として動き出したカエサルは、いくつかの改革に着手し成功する。

1月目を終えて、少しだけくつろぐ時間を手に入れる。

明かりの少ない少し暗い部屋で向かい合って葡萄酒を口にしながら、2人の男が話をしている。

「どうだった?」

がっしりとした身体の男のその一言にすべての疑問が入っていた。

「1月目にだいたいやりたいことはできたかな。」

「元老院議事録は痛快だったな。俺も情報を仕入れに駆けずり回らなくても済むようになったよ。」

「いろんな意見を抑えこむにはいいだろう。やはり話し合いはオープンじゃないとね。」

「ああ、目端の聞く口のうまいやつが憚っていたのを防ぐことができるようになったな。」

「まだやりたいことの入り口にたったようなものだけどね。何とか公務員法も成立させることができたし財務官に指示して財政支出の整理を行っていたんだ。まだおわってはないけど。」

「そんなこともしていたのか。しかし、本丸はやっぱりあの法案かい?」

「一つの目標だけどゴールじゃないね。」

「へえ?」

「私が描く夢は壮大なんだよ。そして壮大な夢を実現するために動いているのも私だけで、実現できるのも私だけだと思っている。色々な人と話をして、改めてそう思った。」

「はいはい、相変わらずだな。色々ってのは、ポンペイスやクラッススたちかい?」

苦笑をまじえて体格の良い男が言った。

「当然彼らも含まれるが、元老院にいる他の優秀な者たちもだし、私の支援者たちもそうだね。」

「じゃあ、お前の力で俺たちを壮大な夢の世界に連れて行ってくれよ。子供の頃から言っていてそろそろ待ちくたびれたぜ。」

「ああ、そろそろ招待できるだろう。ローマのすべての民を私の思い描く夢の世界に連れて行くよ。」

そういって、瘦身の男はがっしりとした男を見て自信満々に笑う。

2人はお互いを見て笑いあって、あらためて乾杯した。


「法案は門閥派の反対、いや、元老院全体が反対に回るんじゃないかい?」

「門閥派を叩くとか、元老院の権限を抑えるとかってのはそもそも結果としてそうなっただけ。門閥派は、公務員法を成立させるのを妨害しようと必死になっていたけど、門閥派を敵視とか、そういった視点ではないんだよね。属州も、ローマと同じく法治を行きわたらせることが目標なんだ。だけど特に門閥派に属州で好き放題利益を得ているやつらがいるから門閥派の敵のように扱われているだけなんだ。自分たちを顧みてほしいもんだね。」

「お前はそう思っていても既得権益を受けているもの達から見たら敵にしか見えないだろ。それで今まで血を見てきたわけだからな。あの法案は特に注意が必要だぞ。」

「そうだね。できるだけ敵にならないように振る舞うよ。」

ガタイの良い男が、イヤらしい顔になって

「いっそのこと全面的に敵にまわした方が早いかもしれないぜ。ポンペイオスも仲間になったんだろ。軍事力は握っているようなもんじゃないか。反乱を起こさせて撃退するというのはどうだい。」

「それは一つの手段だな。しかし内戦になるのは駄目だ。まだマリウスとスッラの争いから傷は癒えていない。」

「おまえの心の傷が?」

「ローマ市民の心の傷さ。」

「わかった。そういうことにしておくよ。さて、あまり長居するわけにもいかないから俺はそろそろいくぜ。活躍を楽しみにしている。俺は裏でいろいろうごいておくからな。」

そういってガッチリとした体格の男は秘密基地を後にした。

カエサルは自分に本音でズケズケ言ってくれる親友を頼もしく思いながら、その背中を見て、得難い友よ、と小さく呟いた。


それから一人で考え事をしてからダインとジジ、バルブスを呼んだ。

執政官になって1月が経ち、主になる執政官が後退した。警士がついて回り堅苦しくて叶わなかったが、付き添い警備をしてくれていた警士がいなくなり、羽根を伸ばせる時間になった。

「夜も遅くなったが、せっかくだし、どこか居酒屋に寄って帰ろう。」

そうカエサルが笑って言うとバルブスが口を挟んだ。

「わかりました。イカのカラスミ亭という新しい店ができたそうです。店長はカエサルあなたの支援者のエノブスです。最近店の調子もよいみたいで、新しい店を出すので寄ってほしいと話がありました。」

この新しく従者になったヒスバニア人は昔からカエサルに忠実な2人と比較して、新しもの好きで陽気で野心的であり、今までにない視点をカエサルにもたらした。

「貴族なのに美食への意識が弱い。」

それは以前から言われていたところだが、バルブスによると、もっと自分でも脚を伸ばし、人々の興味を知るべきだ、という。

カエサル自身は出されたものを美味しく頂き、その料理やふるまってくれた人との交流は得意だったのだが、美食へのこだわりが強いわけではなかった。普通の日に準備して特別に美味しいものを頂かなくても、あるものでも良いというスタンスなのだ。

若い頃ならそれで良かった。王や総督など身分の高い人たちのもてなしを上手く受けること、その場を楽しむことにおいて天才的だったから。

しかし、執政官になった今、質素なばかりでも問題で、世界の美味を知り、人をもっともてなす必要を説かれているのだ。

苦笑いをしながら、ヒスバニア人の説得に応じて新しい店に向かうことにした。

平時でのローマ最高の権力者、執政官になったカエサルは多くのやりたいこと、やっておくべきことを抱えていた。カエサルの改革はこれからさらに続くことになる。

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