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王妃は医務室にて寝かされていた。
あとで騒がれても困るという配慮から部屋には男性が一人もいなかった。
「王妃よ」
「申し訳ありません。あまりのことに気が遠くなってしまいました」
「無理もない。ルシャエントが皇帝の前で婚約破棄を申し出ただけでも耳が痛いのに花を勝手に手折ったとなれば気も遠くなる」
帝国への反省の色はなく息子が勝手にしたことだから王国として責はないという考えだ。
他国で勝手な振る舞いを平気でできてしまうような教育をしてきたことには思い至らない。
「これではルシャエントを次期王とするのは難しいですわね」
「そうだな。何か戦果でもあれば話は違ってこようが」
「王国に戻りましたらルシャエントを軍に入れましょう」
顔色を悪くしていながらも気丈に振る舞う王妃に王は再度惚れ直していた。
この分だとルシャエントの弟が生まれるのでは無いかと思われた。
「良いのか?命を落とすやもしれんぞ」
「このままでは次期王の座を奪われるだけではなく輝かしい未来まで奪われてしまいます。あの子には命がけで戦果をあげてもらうしか手立てがないのです」
「それくらいの気概があれば民も納得しようぞ。帰ったら手始めにスンガル山岳への侵攻を許可しよう」
スンガル山岳は国に属さずに生活をする少数民族がいる地域だった。
不可侵条約を結ぶことで表向きの平和を保っていた。
「スンガル山岳の民は武術に長けていると聞いておりますが大丈夫でございますか?」
「数は我ら王国が多い。すぐに勝利できよう」
スンガル山岳の民は全員が武術の心得があり一騎当千の使い手と言われている。
それゆえに表向きの平和を各国は長い間貫いてきたのだが何も理解していなかった。
「ルシャエントは叱ったが花を手折ったと目くじらを立てるようでは帝国の底が知れたというのもだ」
「子どものしたことと笑って済ませなければ為政者としては失格ですものね」
「事実、不問にするという言葉を発しておる」
王も都合のいいように改変する癖がある。
あのときに皇帝は、子どものしたことはと条件を付けていた。
「良かったですわね。イヴェンヌのことは残念ですけれども安心しましたわ」
「そうだな。一時は攻め入られると恐怖したものだが丸く収まって良かった」
「側妃が説得をされていたのでしょうけれど成果は思わしくなかったようですからパレードは正解だったのですわ」
「うむ。王国に帰れば役立たずの側妃と離縁することにしよう」
「よろしいのですか?」
王がドラノラーマに愛情のかけらも持っていないことは確信しているが離縁となれば話は別だ。
帝国が受け取ってくれるかが鍵になる。
「王妃だけを愛するという約束には嘘偽りはないが側妃というものが私にはいた」
「王というお立場からすれば仕方のないことですわ」
「王妃のように理解を示してくれる者であったことを喜びこそすれ苦しめてきたことには変わりない」
「いいえ、わたくしを愛してくださいましたわ」
「いや、私は嘘を吐きたくないのだ。帝国に攻め入られようとも側妃と即刻離縁する。今まで立場を与えてやったのだから感謝して欲しいくらいではあるがな」
「もし攻め入って来ましたら勝ってくださいませ。戦勝国となればイヴェンヌを王家に迎え入れることができます。成果を上げたルシャエントの側妃とすることも特例としてできますわ」
イヴェンヌは身分だけで言えば王国の公爵家令嬢だ。
戦勝国となったところで帝国から貰うことは不可能だった。
そこに気づかずに話を作るのは王と王妃の得意技だった。




