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おぼろげではあるが今の状況というものが現実だと受け入れ始めたのだろう。
焦点を合わせていなかった瞳に光が宿りだした。
ため息を深く吐いて、冷めてしまったお茶を飲み干す。
「あんなにも簡単に司教の宣誓をいただけるとは思ってもみませんでしたわ」
「そうか」
「そうですわ。婚約者でなくなっただけではなくルシャエント様の側妃になることもなくなりました。これはとても驚きましたのよ」
ヒュードリックは話すことに夢中になっているイヴェンヌを微笑ましく見ながら空になったカップに新しいお茶を注ぐ。
普段の冷静なイヴェンヌなら焦って謝罪をしていただろうが今は気づかない。
「王と王妃はわたくしをどのような立場でも嫁がせるおつもりでしたもの。わたくしのもつ帝国の血が必要なのでしたらオーキュッド様やフィリョン様でも良かったのでしょうけれども王と王妃が欲しかったのはルシャエント様への後見人としての役目のみですわ」
「それは謁見の間でも同じようなことを言っていたな」
「そんなにも後ろ盾としてのわたくしが欲しいのでしたら婚約者などという立場を与えずに側妃としてしまえば良かったのです」
謁見の間で言っていたかどうかは深く考えずにイヴェンヌの話の流れを遮らないような言葉を選ぶ。
「側妃ならば生まれてすぐの令嬢でも可能ですわ。そして子どもが生まれたら王妃に召し上げたらよかったのです」
「考えなかったのだろうな」
「あくまでも王妃という立場にこだわってしまったことと王の妻が王妃ひとりと思い込んだことが全ての始まりですわね」
あとで嫁いで来たドラノラーマは王が見初めたわけではないから王妃も目くじらを立てたことはない。
帝国の姫に相応の立場を与えておくための政治的処置というの理解していた。
王と王妃はイヴェンヌを甥たちに嫁がせることだけは絶対にしないだろうから実質的にはイヴェンヌが王家に嫁ぐことはなくなった。
「わたくしは王国から自由になりました。なりましたけど何をすれば良いのか分からないのです」
「なら方法がひとつある」
「方法でございますか?」
「明日にでもマセフィーヌ叔母上に助言を求めてみると良い。何か妙案があるかもしれない」
「妙案・・・」
そう呟いたままイヴェンヌは何かを考え込んでヒュードリックの存在を忘れた。
ヒュードリックはマセフィーヌから必ずイヴェンヌ嬢とのお茶会を開くようにと指示されていた。
イヴェンヌが落ち着いてからの方が良いのではないかと意見をしたところ木の材質の扇が音を立てて折れたのを見た。
次に何か言えば確実に扇と同じ末路を歩むことは避けられない。
黙って頷く以外になかった。
「妙案というか。これからのことは聞けるだろう」
「これからでございますか?」
「マナーを知るというためだけに他国へ短期滞在を繰り返したくらいだ。他の国を見たいと言えば行けない国はないだろうな」
帝国でも学ぶことはできるが王国の人間が押し入って来たときに国力の差から無下にできない。
あまりにも弱小であるがゆえに拒絶しづらい状況にあった。
中途半端に忘れられている同盟も原因のひとつだ。
「ですが敵対する国というものもございますでしょう?」
「ある。だがマセフィーヌ叔母上は一言で解決させた」
あとで聞いたときにはなるほどと納得してしまった。
『貴国の兵はナイフやフォークで戦われるのかしら?』
嫌味だがカトラリーの使い方で戦争は決まるわけではない。
その通りだとして受け入れられた。
法律に関しても同様だ。
『法という者は自国の民が平和に暮らすためのもの。それを戦争にお使いになるのかしら?』
反論ができないところを突いてマセフィーヌは各国を渡り歩いた。
「法というのは自国のためのもの。王国では法は王族のためのものですわね」




