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ガンディアルニア帝国にいると思っていたルシャエントとベラの処遇について、ウィシャマルク王国から来たことに王は焦った。
しかも内容が身分を偽って入国したことによるスパイ疑惑だった。
そんなつもりが二人にあるわけもなく、おそらくはウィシャマルク王国側からの話の誇張も含まれているが、否定できるほど猶予もなかった。
「宣戦布告だと!?」
国益を損ねたこととガンディアルニア帝国からは帝国に留学生として受け入れたのに勝手にある令嬢の招待状を奪って出国した。
「しかも連合軍だと!?パレードをして、こちらに他意がないことを示したというのに」
他意がないことを示したと思っているのはロカルーノ王国だけだ。
ガンディアルニア帝国とウィシャマルク王国では虎視眈々と戦争を仕掛ける機会を狙っていた。
「カレンデュラ公爵を呼べ、たしかガンディアルニア帝国の令嬢を妻にしていただろう?」
急遽呼ばれたカレンデュラ公爵は王の思っている人物ではなかった。
記憶の中にある人物より随分、若かった。
「お前は誰だ?」
「カレンデュラ公爵家当主のリシャールにございます」
「ん?もっと年寄りであっただろう」
「先日、代替わりをいたしました。それで何かございましたでしょうか?」
自分が知らない間に代替わりをしていると思っているが、きちんと挨拶をされている。
「まぁいい。ガンディアルニア帝国から宣戦布告された。何とか回避したいからな。お前、ちょっと帝国に行き弁明をしてこい」
「・・・かしこまりました」
これで戦争が回避できると本気で思っているところが王だった。
ルシャエントが帝国に留学し帰ってくれば問題なく次期王になれると思っている王妃は後宮から一度も出ていない。
宣戦布告をされてから老中たちからは開戦準備をしようとする声が何度も上がったが、王は全てを無視した。
それが命運を左右することになるとは思ってもいなかった。
「まったくカレンデュラ公爵には碌なやつがおらんな」
何もしないまま時間は過ぎた。
朝、寝ているところを叩き起こされた王は機嫌が悪いまま謁見の間に案内された。
「いったいなんだ?」
「先日、命を受けてガンディアルニア帝国に行って、報告を持って参りました」
「そうか!それで首尾は?」
「報告させていただきます」
リシャールは謁見の間の扉を開けた。
入って来たのはガンディアルニア帝国の皇帝にウィシャマルク王国の国王だった。
「どういうことだ!?」
「見たままですよ」
「宣戦布告したが、聞いていなかったか?」
他国の人間がここまで咎められることなく入っていることに疑問を持つべきだった。
「どういうことだ!?」
「帝国に向かいましたところ宣戦布告を撤回することはできない。期限が来れば攻め入る。そこで、どうにかできないか動きましたところ、国民へは武力装備をしなければ何もしないというお言葉を賜りましたので、国民へは周知徹底をしておきました」
一体、何が起きているのか分からないまま王は椅子に深く腰掛けた。
そこに老中がやって来て、王に耳打ちをする。
「何!?」
「北の砦か?それとも西か?砦が落ちたのだろう?」
「いったい何をした!?」
「何をしたと言われても攻め入っただけだ。攻め入ると宣戦布告をしただろう?」
当たり前のことであるが、王はまだ理解していなかった。
「だとしても連合軍である必要はないだろう!」
「必要があるから連合軍なんだ。まぁ説明はウィシャマルク王国の王からしてもらおう」
今まで何も言っていなかったウィシャマルク王国の国王であるレオハルクは被っていたベールを脱いだ。