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予定より早く来た二人を別々の来賓室に通すと、一緒の部屋が良いと案の定、文句を言った。
短期間の留学ではあるが、また妊娠となると、対応も変わってくるため、別々の部屋にした。
この二人が留学の意味を分かっているとは思えなかった。
「申し訳ございません。来賓室はお一人用でございます」
「別に構わない。王国でもそうだからな」
ルシャエントは、そう言ったが、ベラの方は一人部屋の方が本当は良いという顔だった。
謁見の間で会ったヒュードリックと夜に会えるようにだろう。
昼も夜も関係なく、出歩くことはできないが、自分たちの行動が制限されるとは考えていない。
「帝国の人が困っているわ。ここは素直に聞くのも良いと思うわ」
「ふん」
ベラが他の男に色目を使ったことに根を持っているルシャエントはベラを無視した。
特に悪いことをしたという意識はなく、貴族は愛人を持っているから自分も持っても許される立場になったと思っている。
「ルーシャ様」
「お前は男なら誰でもいいんだろう?」
「そんなことないわ。ルーシャ様は素敵な方だから」
「だが、あの男には色目を使っただろうが」
「それは、ただの挨拶よ! 私が愛しているのは貴方だけだわ」
疑心暗鬼になりながらも将来を誓い合った仲ではある。
ベラの言葉を信じてルーシャは怒りを鎮めた。
「私にはルーシャ様しかいないのよ」
「すまない。ベラ、君の愛を疑ってしまった」
「いいえ、疑われることをしたのは私よ。貴方のために立派な王妃になってみせるわ」
「あぁ」
別々の部屋であることを了承させるのに時間はかかったが、何とか引き離すことに成功した。
すでに帝国に来てしまったのなら学校に通わせてしまえと、ルシャエントとベラは昼食後に連れられる。
商会の娘であり、学校といっても各地を転々としていたため通ったことはないベラは目を輝かせていた。
「案内役を務めさせていただきますクラス委員のキクマルと申します」
「変な名前だな。まぁそれで案内役と言ったな。どうして王族の案内役が平民ごときのお前なんだ?帝国は我らを侮っているのか?」
「ここでは身分に関わらず、学んでおります。さらに学校には現在、どの皇族も在籍しておりませんので、ご案内できかねる状況であります」
「なら、貴族がいるだろう。いくら身分に関わらないと言っても不敬だろう」
キクマルは少数部族の長老の息子だ。
かつて帝国と争い、負けはしたが、その類まれなる戦闘力を絶賛されて帝国領でありながら自治領でもあるという地位ある者だ。
「同じクラスに公爵家の方がおりますので、その方に引き継がせていただきます。それまで何卒、ご慈悲を賜りますようお願い申し上げます」
「よかろう。初めからそうしておけ」
「御意に」
王国から留学生が来ると言うことで生徒は残っていた。
王族という身分だからということではなく、一年前に問題を起こした二人を間近で見ようという野次馬的な思考からだ。
「ようこそおいでくださいました。ガンディアルニア帝国へ。わたくし、シシリィと申します。この学校で困ったことがございましたらお声がけください」
「そなたのような美しい令嬢とお近づきになれたことは留学した最大の僥倖と言えるな」
「まぁ王族の方からお褒めの言葉を賜れるとは末代まで語り継がれることでございます」
立場が逆転しており、今度はルシャエントがベラではない別の女性を口説いていた。
それを面白くないと思いながらも自分よりきれいな令嬢が多いため表立っては言えない。
「ささやかながら歓待の意を示すために宴を用意しておりますの。お近づきの印に参加していただけませんでしょうか?」
「もちろんだ」
「王族の方にエスコートされるなど令嬢の夢でございます。どなたか選んではいただけません?そちらの令嬢には同じクラスの公爵家の者を用意しております」
ベラは差し出された手の先の男性を見て頬を染めた。
謁見の間であったヒュードリックほどではないが、美男子だったからだ。
ただルシャエントよりは格好良かった。




