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後宮へと向かう王妃の心は焦っているが、行動はただただ歩いている。
貴族令嬢はどんなときも走らないように教育されている。
時間をかけて後宮の中の側妃の部屋に辿り着くと扉を叩いた。
すぐに夜番の侍女が出てきたが不審な顔をして扉を閉めようとした。
「お待ちなさい。わたくしを誰と間違えているのです」
「間違えておりません。王妃様」
「では黙って扉を閉めるのは無礼ではありませんか。貴女は後宮の侍女でしょう。わたくしの意を汲む者です」
「失礼ながら後宮の侍女という者はおりません。王妃様付きか側妃様付きに分かれます。私は側妃様付き侍女でございますので、側妃様の意を汲んで動きます。ただいま側妃様は帝国へ向かうという大役のために体を休めておいでです」
「そのことについて一言申したいことがあります」
「ご伝言でございましたら承ります」
「侍女如きが耳にして良い話ではありません。そこを通しなさい」
廊下で言い争いが繰り広げられるが、侍女に焦った様子は全くなかった。
今、側妃は部屋にいない。
王妃が乗り込んで来ることを予測して別の部屋で休んでいる。
王妃対応用の侍女には明日の朝まで引き留めるようにと指示されていた。
「一度、側妃様に確認して参ります」
「早くなさいな」
扉を閉めて、鍵をかける。
勝手に入って来られても困るからだ。
案の定、王妃が引き連れていた侍女が扉を開けようとした。
「ダメです。鍵がかかっています」
「何と、わたくしたちが押し入ると思っているのですね。無礼な侍女は即刻クビにしなければなりません」
「そうでございますね」
「王が心を痛めているときに問題しか起こさぬ側妃など離縁してしまえば良いのです」
「そうでございますね」
王妃付きの侍女たちは側妃付きの侍女より位が上だと思っている。
実際は侍女であるから優劣は無いのだが、王妃と側妃という立場で比較しても側妃の方が上だ。
伯爵令嬢と皇妹を比較しても雲泥の差だ。
これに気付いていないところに王妃として問題があるということだ。
王妃付きの侍女は王妃の言うことに従い、王妃の言葉を肯定すれば安泰なのだから位の低い家の者が家格を上げるためにこぞってなりたがる。
人数がたくさんいて、ちやほやしてくれる者を好むので、希望すれば大抵は受け入れられる。
「王妃の威厳というものを見せましょう。この程度のこと寛容な心を持って受け流しましょう」
「流石は王妃様でございます。王妃様のお考えに私は思い至りませんでした」
「貴女のように殊勝な態度で学ぶ心があの娘にもあれば良かったのですが、こればかりは養育を放棄し、王家に娘を預けるような親の子でありますから仕方のないことです」
結婚が出来る年になったらすぐに婚約発表をするつもりで王城に軟禁していたことは棚に上げてしまっている。
自分がしたことでも都合の良いように解釈してしまうのが王妃だった。