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「お待たせいたしました。応接室でお待ちいただくようにと仰せつかりました」
「わたくしは立ったまま待つことになり疲れました。お茶を用意しなさい」
「かしこまりました」
扉を開けて応接室があり、そこから色々な扉の向こうに寝室や衣裳部屋、浴場などがある。
側妃の部屋なので広さは十分だ。
「夜分遅くになりますが簡単なお菓子を用意してございます。夜食にお召し上がりください」
「側妃付き侍女にしては気が利きますね。ですが、わたくしの侍女たちに茶の一杯も出さないとはどういう了見です?貴女より格が上である以上もてなすのが礼儀です。こんな簡単なことも側妃は躾けていないのですか?まったく嘆かわしい」
「何分、急なご訪問でしたので、王妃様のお茶しか用意できませんでした。お菓子をお召し上がりの間に王妃様付き侍女の方のお茶も用意いたします。夜分で人が手薄でありますことでご容赦いただけませんでしょうか?」
「仕方ありませんね、すぐに用意なさい」
「ありがとうございます」
いくら格上の者の侍女だからと言ってもてなすことはしない。
使用人はあくまで使用人であり、その一線を越えることは主人の品格をも貶めることだからだ。
使用人は等しく使用人だ、ただし、自分より家格が上の使用人に命令することはできない。
さらには家格が上の使用人からの申し出を断ることができない。
断れば使用人の主人の意向に背いたと判断されるからだ。
その教えを王妃となる前の伯爵令嬢時代に耳にたこができるほどに教育係から教えられた。
それは自身が伯爵令嬢であることから侯爵家のパーティに呼ばれることがあったからだ。
娘に口が酸っぱくなるくらいに教えていたのは間違っていない。
その考えから王妃とは王に次ぐ権力の持ち主で、側妃より上位だと理解しての行動だ。
それは通常なら間違っていないが、嫁ぐ前の家格が違いすぎることを忘れている。
国力の差から同じ王族関連でも権力の違いというのは火を見るよりも明らかだった。
「お茶をご用意いたしました。簡易ではございますが椅子も用意できましたのでおかけくださいませ」
「良く気がついたわね。用意しないときは叱責も考えていましてよ」
「・・・王妃様は同じ女性とは言え、無礼な恰好でお迎えするには失礼に当たるお方でございますので、側妃様の身なりを整えるお時間を頂戴したく存じます」
「よろしくてよ。それよりもお菓子が無くなりそうだわ」
「新しいお菓子を用意いたします。今度の王妃様のお茶会に出す予定の試作品となりますが宜しゅうございますでしょうか?」
王妃の眉がわずかに動いた。
どういう返しが妥当かを考えているのだろう。
「わたくしのお茶会のお菓子を先に側妃が食べたというのですか?」
「当日お出しするお菓子は料理長が前日にお持ちする予定でございますが、新しいお菓子には試作が付き物でございます。しかし、王妃様や貴族の方が召し上がる物を使用人が先に食べることはできません。そこで王妃様に完成品をお出しする前に側妃様が確認することになっております」
「なるほど、完成品を食べるのは、わたくしなのですね。この時間では料理人も眠っているでしょうから試作品で構いません。出しなさい」
「ご寛容なお言葉、ありがとうございます」
お茶会のための試作品など存在しない。
ただ、いつも出しているお菓子をさも新しい物であると騙しただけだ。
料理をしない令嬢なら違いというものに気づかないことを逆手に取ったものだ。




