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「王妃様、新しい布がこちらになります」

 

「光沢がないのですね」

 

「こちらは最高級の糸を高級染料で何度も染め上げたものです。光沢が上手くあると良いのですが、光の加減では安っぽく見えますからな」

 

「別の商会の娘たちにもドレスを作らせて上げているのですが、良い布を手に入れられないようで困ります」

 

「さようでございますか。王家の方のお召し物となれば最高級品を用意するのは当然ですが手に入れる力量は商会によりますからな」

 

ドレスに縫い付ける宝石を選んでいる。

 

扇で示すと箱に移すのがベリセーの役目だ。

 

手袋をして丁寧に扱う。

 

「質が劣るものですから普段着にしか出来ませんが買ってやらねば生活がままならないでしょうから仕方ありません」

 

「ご寛大なご慈悲には脱帽いたします」

 

「一度着て洗濯すると布が縮み、着ることができなくなるような粗悪品を取り扱うような商会ですので本当に困ります」

 

満足のいく宝石を選べたことで王妃は黙って席を立った。

 

自分の領地の仕立て屋であるから贔屓にしているが対等に見ているわけではない。

 

王妃である自分のドレスを作らせてやっているという立場は崩していない。

 

「ありがとうございました」

 

黙ってベリセーは王妃に従い一緒に部屋を出た。

 

今回選ばなかった宝石は持って帰るために箱に戻す。

 

「ベリセー」

 

「はい、何でございましょうか?」

 

「粗悪な布を使っている商会は全て出入りを禁じるように財務大臣に伝えなさい」

 

「はい、かしこまりました」

 

王妃がお茶会に呼びつけている商会だが最高級の布を取り扱っているところばかりだ。

 

布が縮んでいるのではなく、王妃が太ってドレスが着られなくなっているだけだった。

 

小さいころはドレスが着られなくなったときの答えは成長したとなるが、大人になれば成長というものはない。

 

王妃にとって太るという概念はないから布が縮んだという発想になる。

 

令嬢たちに太るという概念がないのはコルセットで締め上げているせいで必然的に食事量が減り、痩せているというだけだ。

 

苦しいからという理由でコルセットを止めて好きなようにお菓子を食べれば確実に太る。

 

「今日はもう疲れましたので、湯に浸かり休みます」

 

「かしこまりました」

 

「明日には宝石商を呼んでおきなさい」

 

「はい、王妃様。お休みなさいませ」

 

風呂の世話だけは専属の侍女がいるからベリセーの役目はここまでになる。

 

ベッドを整えておけば今日は休んでも咎められることはない。

 

財務大臣への伝言は手紙にして、久しぶりの早上がりに心躍らせていた。

 

侍女の個室というのは無いがベリセーは王妃の休憩室のひとつを自室として使っていた。

 

他の侍女は王妃に関わって共倒れになることを恐れて近づいてこないし、わざわざ王妃の世話を積極的に引き受けているベリセーを蹴落とそうと考える侍女はいなかった。

 

「あれだけ毎日お菓子を好きなだけ食べて太ってないと思えるのは幸せかもしれないわね」

 

侍女のお仕着せから部屋着に着替えるとベリセーはソファに体を沈めた。

 

少しだけ休んでから便箋を取り出して王の愛人事情について書き記す。

 

王と王妃が帝国で問題を起こしたときに辞めて帝国に帰ろうと考えていたが、残って欲しいというビルシーからの手紙で思い留まった。

 

今となっては良かったと思っている。

 

王と王妃の失脚によって家臣たちを含めて不満や不平がそこかしこで聞くことができるからだ。

 

「そういえば今夜、王に呼ばれてるんだった」

 

今まで愛人の話が出てこないのは権力に物言わせて一夜限りという関係が多かったからだろう。

 

そして、王の性癖から十代でなければ女として価値がないということで長くは続かなかったということだ。

 

「本当の年齢は二十一じゃないんだけど良いよね」


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