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「知っていて役職名のみで呼ぶのは不敬である」

 

「王様ひいては王妃様がお呼びにならない高貴な名を私のような下々の者が軽々しく、口にすることができないと思いました。何卒、御寛大な恩赦を賜りたく存じます」

 

「う、うむ。なら仕方あるまい」

 

「感謝いたします。お呼び止め致しましたのは王妃様より手紙を預かってございます。これを帝国に未だ留まるイヴェンヌ嬢へ届けたいとのことでございました」

 

持っているだけで趣味の悪い香りが漂ってくるのに眉を顰めずにはいられない。

 

それでも王妃の書いた手紙というだけで手荒な扱いはできなかった。

 

「よろしくお願いいたします」

 

「王妃様には外務大臣であるカーライト=アーヘンハイムが届けたと伝えなさい」

 

「かしこまりました」

 

本当に届ける気があるのかは分からないが、手紙はベリセーの手を離れた。

 

これで手紙が紛失したとしても帝国がもみ消したとでも言い訳するのだろう。

 

王妃はイヴェンヌの嫁ぎ先としてアーヘンハイム侯爵家の三男を指名していた。

 

本人に許可を取っていないから婚約成立となるかは怪しいが、三男ともなれば継げるのは領地のどこかになる。

 

そうなれば侯爵家では無くなり家格も一つ下ならまだ良いが、男爵家ということも往々にしてあった。

 

カーライトを見えなくなるまで見送ってからベリセーは溜め息を吐いた。

 

「王と王妃が名前を呼ばないから、へそ曲げてるじゃない」

 

王は名前を覚えるのが大層苦手だった。

 

そのせいで家臣を役職でしか呼ばない。

 

王妃に至っては最初から役職すら覚えていないから目の前の人物が外務大臣であっても外務大臣はどこにいるかと問いかけることがあった。

 

「そうだ。仕立屋を呼ばないと王妃は王妃でへそ曲げることになるわ」

 

昼寝は美容に必要だと言って毎日のように昼寝をしていた。

 

そのせいで体形が変わってドレスが入らなくなっているのに本人だけが気づいていなかった。

 

ドレスが小さくなったのだと本気で思っている。

 

「・・・しかも仕立屋が伯爵家令嬢時代の商会を贔屓にするものだから高位商会からは苦情が出てるしね」

 

お茶会で高位商会の令嬢を呼ぶことはあるが、注文の数が圧倒的に違う。

 

さらに自分の実家の領地にある商会を贔屓にしているから父親が納めている税金以上に王妃のドレスによる支払い額の方が多くなっていた。

 

それも他の貴族から反発がある理由だった。

 

「仕立屋が来るまでに王妃様はお風呂と化粧をされるからそろそろ起こさないといけないか」

 

寝起きの機嫌が最悪だから起こすとなると気が重くなる。

 

今までの侍女は王妃が起きるに任せていたが、それでは一人で世話をしているベリセーの休む時間が無くなってしまう。

 

お風呂には香油と花びらを浮かべて準備をする。

 

ドレスは黒だが生地を覆い隠すようにビーズと宝石が縫い付けられていた。

 

伯爵家令嬢という身分で公爵家や侯爵家より豪華なドレスを着ることが許されなかったから王妃となり全ての令嬢より上位になったことで盛大に楽しんでいた。

 

「こんな趣味の悪いドレスを好んで着るなんて、帝国のあの人とそっくりですね」

 

ベラが着た着物の元の持ち主のことだが、王妃にとっては自分より目立つドレスを着ていたことが問題で、あの着物をどうにかして自分の手元に置いておこうと機会を伺っているのをベリセーは気づいていた。

 

ドレスの生地だけでも高級であるのに普段着に宝石をあしらうことで国庫が目減りしているのに家臣たちが戦々恐々としていた。

 

「着れなくなったドレスから宝石を外しておかないといけないの忘れてたわ」

 

ドレスも全面に針を通した跡があったから作り直すこともできない。

 

ただ、ビーズと宝石はベリセーが密かに宝物庫にしまっている。

 

増えている理由も考えずに少なくなっている国庫を満たすために宝石を売り払い金銭に変えていたのは財務大臣だった。

 

そして、宝石はまた王妃のドレスの装飾として売られている。


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