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前脚を鳴らす行動は不満を示すのだがルシャエントには通じない。


そればかりか、まだ近づいてコーデリアに触れようとした。


「これから遠乗りに出かけよう」


どこまでも見当違いのことを言うルシャエントに痺れを切らして後脚だけで立ち上がると、そのまま前脚で押し潰そうとした。


コーデリアに襲われるとは思っていなかったルシャエントは受け身も取れずに地面に倒れ込んだ。


運悪く頭を打ち付けて気を失ってしまった。


兵はいたが、前に高貴な身分である自分に汚れた手で触れるなと命じられたことで咄嗟に動くことができなかった。


「ルシャエント様!?」


「おい、医者を呼べ」


「レルフランド様ではダメか?」


「ダメだろう、多分」


気を失ったルシャエントは担架で医務室に運ばれて行った。


コーデリアは小屋に戻り満足そうに鼻を鳴らした。


「・・・何があったんじゃ?」


「レルフランド様、ご足労いただきありがとうございます。じつは・・・」


ルシャエントが厩に来て起こした騒動の一部始終を話した。


コーデリアの体調には問題なく健康そのもので、ルシャエントがいなければ興奮することもなかった。


「お前さんも災難じゃったな」


「・・・ぶるる」


人の言葉をある程度は理解して毎日のように世話をしてくれる兵やレルフランドのことを気に入っているコーデリアは大人しくなる。


自分が何かをすれば兵が怒られて処罰されるのを知っているからルシャエントのことも嫌々従っているにすぎない。


「しかし頭を打ったとなると王妃様が騒ぎ立てそうじゃな」


「ここ数年、厩に近づきすらされなかったのに、どんな心境の変化があったのでしょうか」


「何でも、継承権回復のためにスンガル山岳へ侵攻するそうじゃ。そのために乗馬の練習に来たのではないかのう?」


「一人で馬に乗れないのに無謀なことですね」


兵の一人が呟くと周りが同調した。


ルシャエントがまともに練習したのは十歳のころの話で、兵が後ろから支えて城内を一周しただけだ。


その一回だけで王妃から危険だということで中止された。


「スンガル山岳への侵攻など犬死も良いところじゃ。兵を無駄死にさせるつもりかの?」


「レルフランド様、滅多なことを申されますな」


「こんな老いぼれ、処罰されたところで構わんよ。それよりも前途ある若者が死んでいくと分かるのは辛い」


「それが軍人としての務めでもありますから」


馬の世話の任務に当たっている軍人も前線に駆り出されることになる。


比較的後方での活動になるだろうが、戦場には変わりなかった。


「コーデリアも連れて行くことになるのでしょうね」


「戦利品としてなら命を奪われることはないが、そうでなければ」


「我らにはどうすることもできません。せめて、その日まで世話をするだけです」


獣医師のレルフランドを呼んだ張本人が気絶している以上は城に留まる必要もないため再び家畜の診察へと戻った。


兵たちも各々の持ち場に戻る。


「レルフランド様、城下までお送りします」


「すまんねぇ」


診察用の器具は重さもあるため老体のレルフランドには持ち運ぶのに苦労していた。


先に簡易な診察をしてから追加で詳しく調べるのが通例だったが、昔にルシャエントが急変した馬に対応できるように装備を持ち運べと命じたことから重い鞄を持つようになった。


命じた本人は忘れているだろうが、命令違反をすれば罰せられるから勝手に変える訳にもいかなかった。


「どうして牡馬にコーデリアと名付けたのか未だに不思議だね」


「自分も噂ですが、お読みになられた絵本に出てきた馬が白く、コーデリアという名前だったから名付けたと先輩兵から聞きました」


「それならペガルサと付ければ、もう少し仲良くできたかもしれないのにね」


「そうですね」


コーデリアという牝馬が出てくる同じ絵本にペガルサという白い牡馬がいる。


この名前なら納得してくれたかもしれないのに、どこまでも自分本位な王子だった。


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