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「ねぇイリーダ」

 

「何かしら?」

 

「リウニス帝国語って何?」

 

リウニス帝国という国はない。

 

帝国の母国語は王国と同じであるから問題はなかった。

 

古代語のひとつである可能性もあるが読んだり書いたりすることはあっても話すことはない。

 

「リウニス帝国語というのはカンディアルニア帝国の第二母国語よ」

 

「第二母国語?」

 

「そう。と言っても使うことはほとんどないから伝統みたいなものね。カンディアルニア帝国ができる前に統治していた国で使われていた言語だそうだから」

 

次第に忘れられていった言語であるから話せるけど書けるという人も少ない。

 

「それをお嬢様は話されるということね」

 

「ドラノラーマ様が教えたのではないかしら?王国でリウニス帝国語を知っている教育係がいるとは思えないもの」

 

「そうね。それで知らない歌を歌っていたのね」

 

「歌?」

 

「とても綺麗な歌だったわ。王妃に咎められて止めてしまわれたけど」

 

リウニス帝国語で伝えられている歌はひとつしかない。

 

願いと祈りを込めた歌だ。

 

その歌をイヴェンヌは知っているということだった。

 

ドラノラーマが教えたのだろうが王国の人間の目を盗んで教えるとなると大変だったのだろうと分かる。

 

「どのような意味か訊ねても教えてくれなかったわ」

 

「曲名もないのとリウニス帝国語の中でも歌のためだけの言葉だから訳すこともできないのよ」

 

「そうだったのね」

 

「ただ願いと祈りを込めた歌とだけ伝わっているわ」

 

今となってはリウニス帝国語であるかすらも怪しいが親から子へ必ず伝えられる。

 

リウニス帝国語はカンディアルニア帝国が忘れてはならない罪でもあった。

 

国と国が争えば滅びることもある。

 

リウニス帝国語はすでに教科書ですら教えなくなったことを伝える唯一の手段でもあった。

 

過去の研究者の中には鎮魂のための歌だという者もいたが書物などが残っていないから正確なところは分からない。

 

それでも過去への思いを忘れないために歌うことには変わりがない。

 

「シミひとつない国なんてないわよ」

 

「マリー」

 

「王国もそう。それに今はあの愚王だしね」

 

「それもそうね」

 

資料庫から必要な教材を選ぶ。

 

ボルボドキア語となれば何が良いのか分からない。

 

とりあえず運びやすそうなものを選ぶ。

 

ボルボドキアと書かれている本をメモを見ながら選び出した。

 

「でもどうしてボルボドキア語なのかしら?帝国と同盟でも結んでるの?イリーダ」

 

「ここから行くには馬車と船を乗り継いで半年はかかる国と同盟を結んでいるって聞いたことないけど」

 

「いくら何でも遠方すぎる気がするわね」

 

遠方すぎる国を選んだのも理由があった。

 

帝国から遠い国であれば干渉するのも難しくなる。

 

今の老中たちが引退するまでヒュードリックは自分の右腕になる異母弟妹たちを外に出すつもりでいた。

 

そのことを何人かの子どもたちは理解して時が来るまで待つことを分かっていた。

 

「でも他国の言葉を覚えるのは損ではないわね」

 

「そうね。でもこれで合ってるのかしら?」

 

「さぁ?」

 

読みやすいものとか教材として相応しいものを選ぶのは鉄則だが難しい。

 

ボルボドキアと書かれているだけで選んでいては本棚すべて運び出さなくてはいけなかった。

 

明日に直接確認してもらうことにして皇太后の部屋の模様替えのための準備に合流する。

 

こちらのほうが重要な仕事だ。

 

出所が分からないように噂を流す必要があったからだ。

 

「あくまで独り言のようにね」

 

「怪しまれることなく」


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