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自分へ向ける気持ちが無くても必死で王妃として王国に仕えようとしたイヴェンヌに対してあまりにも不誠実な対応だった。

 

それは第一王子だけではなく、王も王妃も家臣たちもだ。

 

「それではイヴェンヌは第一王子を愛していましたか?」

 

「愛して?いいえ、愛してはいませんでしたわ」

 

「愛とは色々な形がありますよ。親愛、友愛、共愛、恋愛と数多くあります。第一王子に当てはまる愛の形はありますか?」

 

「当てはまるもの。ありませんわ。どれも当てはまりませんわ」

 

少なくとも情というものは抱いていただろうが義務的なものだ。

 

いくら王族であっても全てを受け入れて慈しむのは無理だ。

 

それならば価値のあるものを見分ける力を持つこと方が良かった。

 

「では捨て置きなさい。貴女の人生に何も与えることのできないものです。これからは貴女が愛おしいと思うものだけを見つめていくと良いですよ」

 

「愛おしい・・・」

 

「人でも物でも愛おしいと思えば望んでも良いのですよ」

 

子どものときに玩具が欲しいと思うように。

 

綺麗なものを見て心躍らせるように。

 

本心ということを隠して生きてきたのなら表に出せば良いだけのことだ。

 

それを周りの大人が引き出してやれば良い。

 

立場上は隠すことを教えられるが子どものときには年相応のことをしてきた。

 

人形のように過ごした幼少期ならば何かを愛おしいと思うことすら許されなかったのではないだろうか。

 

ドラノラーマが最大限に配慮したのは分かるが子どもらしさが前面に出ては王と王妃に怪しまれる。

 

「わたくしは各国のマナーを学ぶことが楽しく無理を言って留学をしたこともあります」

 

「留学でございますか?」

 

「そうですよ。いくら他国へ嫁ぐからと言って嫁ぎ先以外のマナーまで本格的に学ぶ必要はありません。ましてや交流のない国のマナーなど披露する場もありません」

 

最初は反面教師にした母親のようになりたくないという思いだけで始まりマナーの面白さに気づいた。

 

それからはただ好きだからというだけで学び続けた。

 

そんなものに出会って欲しいと心から願うばかりだった。

 

「時間はあるのですからゆっくりとお考えなさい」

 

「はい」

 

「誰も咎めませんよ」

 

自分で考えるということを望まれない生活をしてきたイヴェンヌにとって意思を持つということは難しいことだ。

 

好きなもの嫌いなものということすら考えたことがないだろう。

 

結論を急がせるつもりはない。

 

まだ王国の手は完全に切れたわけではない。

 

「今回の王国一行の訪問ですが貴女に何も確認せずに話を進めた理由を話さなければなりませんね」

 

「マセフィーヌ様?」

 

イヴェンヌが今の状況を心から受け入れるには時間がかかるだろう。

 

時間がかかるだけで時間が解決してくれるというものでもある。

 

それなら今まで知らなかったことを教えるのも悪くはない。

 

「わたくしたちウィシャマルク王国が急ぎ帝国入りしたのはロカルーノ王国に問い質したいことがあったからです」

 

「問い質したいことでございますか?」

 

「そうです。でもロカルーノ王国は小国と侮っているウィシャマルク王国の申し出など一蹴してしまうことでしょう」

 

手紙を送っても読むこともしないで捨てることが目に見えている。

 

本当に問い質したければドラノラーマを通じることもできた。

 

それでもはぐらかされただろうが。


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