成長
サンドディキシマに対し、高等冥術発動を試みるレイル。
ケーナ達の陽動で、詠唱中のスキもカバーできた。
「解き放て、空気凍てつく絶対零度! <エクサムライズ>!」
魔物サンドディキシマの、周囲がキラキラと輝きだす!
そして、軋むような音と共に魔物の体を一瞬にして氷で包んだ!
「よしっ! 成功だ!」レイルの言葉に力が入る。
「それじゃあ、トドメは私が刺すよ!」
ケーナは、魔物に向って走り出すとその頭部に飛び乗り剣をぐさりと突き刺した。
サンドディキシマは、その瞬間に塵となって砂漠の砂に紛れて消える。
「やった!」槍を持つ兵士の1人が、思わず声を上げ、レイルに近づく。
「君、今の冥術すごいね! どうやって、覚えたんだい?」
「ええと……故郷で習いました。使ったのは今のが初めてなんです」
「へぇー。サンドディキシマをああも簡単に氷漬けにするなんて本当に大したもんだ! どうだい? ウチの城で働かないか? 君の力だったら、きっとデルアラスに貢献できるはずだよ。」
「ええと……それは……その……」
レイルが、突然のお誘いに戸惑っていると、ケーナが戻ってきて、彼にかぶさるように立って兵士の方を怒ったような顔で見た。
「ダメダメ! レイルは今、冥術士の試練の最中なの」
「はっ、そうでありましたか。ケーナ様、これは失礼いたしました」
「まあ、今後も何かあったら手伝ってくれるから安心してよ。ね、レイル?」
「あ、うん……」
ケーナに庇われたものの、勝手に今後も仕事を手伝う事を約束されてしまって、レイルは複雑な気分だったが、断る事はしなかった。小さく頷くと、ケーナと共に再び砂漠馬に飛び乗る。
「ありがとうございました。ケーナ様、それからレイル殿! これで、また暫くは砂漠の安全が守られます!」
兵士たちは2人に対して雨の中敬礼した。まるで、英雄を見送るように。
ケーナの馬は、そんな光景を背にして砂漠を再び走りだす。
たび重なる試練で、レイルもケーナも大きく成長していた。大きな魔物を容易く倒せるほどに。
そして、2人の絆はとても強く、深いものになっていたのだった。
砂漠の空は、そんな彼等のこれからを照らすように、雲間から一筋の光を地上に下ろした。
この先にある悲しい運命を、知らぬかのように。