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遺灰が芽吹く世界で──クロガネの綺麗事  作者: ヒトミ


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9/9

ユウシの呟き

森の中を低空飛行し、行き合う腐怪を浄化する。


刀身を目前の腐怪に突き刺したまま、地面に降り立つ。


夜光の浄化に包まれていた腐怪が、ゆっくりと世界に還っていく。


腐怪の重みが刀身から消えて、無造作に血ぶりをしながら、周囲を見回す。


危険そうな腐怪はいない。いるのは、多少大きな腐怪ぐらいだ。セツナ嬢が神木の葉を交換したからだろう。


村に向かう動きを見せる腐怪を、考える間もなく撫で斬りにして、片手で胸元を握り締めた。


さっきの鼓動はなんだったんだ。てっきり手強い腐怪が近くにいるのかと、身構えたんだが。


空を見上げて、首を傾げる。


灰色の雪が視界で踊り、舞い落ちていく。


あと少し見回ったら、今日は天幕で寝るか……。


◆◆◆


村の外周を低空飛行で飛び回り、気になる腐怪を浄化した後、しめ縄の近くで降り立ち半獣化を解く。


村に足を踏み入れながら、鼻先まで覆っている布を首元までずり下げた。


静かだな。


みんなが寝静まった村には、風と雪と、どこからか聞こえてくる腐怪の鳴き声だけが、微かに響いている。


天幕が並んでいる場所まで歩くと、前方に小さな人影が見えた。


雪に濡れた深紫の髪。空を見上げて、片手を伸ばしている少年の口から、白い呼吸が立ち上っている。


ユウシだな。こんな夜中にどうしたんだ?


ゆっくり少年に近付くと、雪を踏む足音が聞こえたのか、彼がびくりと肩を揺らしてこちらを向いた。


「あ、クロガネ兄さっ……クロガネ、さん」


ぱっと口元を覆ったユウシが、視線を彷徨わせて俯く。


兄と呼んでくれてもいいんだが、無理強いはできないな。


「雪を見てたのか?」


俯いていたユウシがこちらを見上げてくる。


前髪の隙間から覗く目が、暗く陰っていた。


「……死を、見てました。冬は、俺から、弟妹たちを奪ってく……。俺も、いつまで生きられるか……」


独り言のような呟き。こちらを見てるようで見てない眼差し。


雪に向かって伸ばされている手を掴んで、とっさにユウシを抱え上げていた。


「うわっ! は、離っ……降りる!」


いつから外にいたんだ。厚手の服なのに、体が冷たい。


暴れるユウシをゆっくり降ろす。


みんなが冬を超えるには、何が必要だ? 首巻きや手足を覆う物か。それだけだと足りないな。運動か? 子どもでもできるような修練をさせると良さそうだ。


「俺、もう寝るっ」


天幕に走って行こうとするユウシの肩に手を置く。


「少し待て」


戸惑ったような目で見上げてくるユウシをよそに、己の首元に視線を落とす。


ひとまず、この布でも巻いとくか。


片手で胞子避けの布を外して、ユウシの首に緩く巻き付ける。


「これで少しは暖かいだろ。今度、首巻きでも買ってくるから、それまで預かっててくれるか?」


ユウシが布で隠れた口元をもごもごと動かした。


片手でぎゅっと布を握り締めて、無言で頷いてきた。


「お、おやすみなさいっ」


ぱっと背を向けたユウシの頬が、少しだけ赤みを帯びていた。


「ああ。おやすみ」


あの布はそこまで分厚くないが、俺の体温でも残ってたか? まあ、すぐに暖まったなら良かった。師匠に感謝だな。


ユウシの姿が天幕に消えるのを見届けて、頷きながら自分の天幕に向かった。

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