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第35話 宝くじの名前のつるぎ・チート

Side:タイセイ


 村の朝。

 いつものようにクロエ一家と朝食を囲んで、庭に出るとハトが飛んで来た。

 ていうか、2メートルぐらいの大きさがあるんだが。

 モンスターにしては、村人が騒いでいる様子はない。


 ハトが降りた場所は村長宅の庭。


「ぽっぽー!」


 やっぱりハトだ。

 サクラとカエデとアヤメが出て来た。

 でかいハトの首に着けられた鞄の中から、サクラが手紙を取り出す。


「サクラ、こいつは何だ」

「ポッポーだ。伝令を務めてる。これでも頭は良いんだぞ。馬鹿にしたりすると突っつかれる」


 ポッポーがサクラを突く。


「すまん。これでもじゃなくて。実に頭が良さそうに見える。こら、やめろ! やめい!」


 カエデが豆を投げて、それを食ってポッポーは落ち着いた。

 どこから見てもハトだろう。


「難攻不落要塞で戦争の気配だ。ガルーの奴らが攻めて来た」


 ガール国との国境の砦もだが、難攻不落要塞にもシチューのルーは毎日、差し入れしていた。

 かなりステータスは上がっているだろう。


 下準備は既にできてる。

 色々な場所で必要な物を背嚢に入れた。


 転移の桃を食って、難攻不落要塞に転移したかったが、行ったことのない場所には行けない。

 しかしだ、俺にはピンクのドアがある。

 難攻不落要塞と念じて、ドアを開ける。

 石造りの要塞が見えた。


 そして、転移の桃を食う。

 上手く転移できた。

 アイテムも使いようだな。


 『カクゲイン』のネクタイを締める。

 これで24時間戦える。


 入口に立つ。


「頼まれた物を持って来たぞ」


 背後から声が掛かる。

 振り返ると拡声器を持ったサクラがいた。

 王城から、拡声器を持ってきてもらったのだ。


 バッテリーをセット。

 これでもう負けはない。


「勇者様の到着だ! 開門せよ!」


 サクラが怒鳴る。

 要塞の鉄の扉が、ゆっくりと開き始めた。


 戦いは既に終わってる。

 俺はそう思ってる。


「これはこれは勇者様、遠い所までご苦労様ですなぁ」


 馬鹿にした口調。

 難攻不落要塞のトップではないと思いたい。

 サクラが剣に手を掛けた。

 こいつを斬ったら、収拾がつかない。


「何か不満でもあるのか? 十分、差し入れはしてやったと思ったんだが。お前の役職は?」

「守備隊長です。ここは戦場でしてな。商人勇者様は引っ込んでいてもらいたい。素人は邪魔なんですよ」


 そういう話か。

 なら、解決策は簡単だ。


「サクラ、剣から手を放せ。俺に対して、売られた喧嘩だ。俺が買わないと、筋が通らない。腕利きとの試合を望む。勇者が胸を貸してやろう。勇者がどれだけチートなのか教えてやる」


 取り出したのは宝くじと同じ名前の勇者の剣。

 3790円のプラスチックの玩具だ。


 でもチートアイテム。


 中に案内され、修練場で兵士と向き合う。


「始め!」


 先手必勝。

 掛け声みたいな眠りの呪文で、兵士は眠った。


「勇者タイセイの勝ち!」


「嘆かわしい。勇者様と言えば剣。魔法でなど、邪道も良い所ですぞ」

「今のはこんなこともできますよって、見せただけだ。さあ、兵士を起こせ」


 兵士が起こされ、対戦が始まった。


「兵士Aが現れた! タイセイの攻撃。兵士Aを倒した」


 殺してはいない。

 玩具だからね。

 気絶しただけだ。


 このチートアイテムは、攻撃がターン制なんだよ。

 もちろん素早さで勝ってなきゃいけない。

 でも俺はチートアイテムでステータスを上げまくっている。

 一撃で倒せるんだよ。


「くっ、何で反撃しない?! 素人の剣筋だぞ!」

「納得いかないようだな。何人とでも相手してやる」


 20人ほどと相手して、相手は諦めた。


「勇者の剣は理不尽なんだよ」

「くっ、玩具みたいなのに聖剣ということか」

「まあな」


 歓迎の宴が始まった。

 チートアイテムではないが、日本のビールとおつまみを出してやる。


「勇者殿、これから戦争が始まるのに不用心ではないのですか?」


 守備隊長が俺に聞いてきた。


「策のひとつだよ。どうせスパイがいるんだろ。全員じゃないが、酒に酔っていると思ったら、攻撃してくるだろう」

「そうですね」


「早くケリをつけたいだけだ」

「自信がおありで?」


「まあな」


「報告します! 敵に動きあり! 全軍で突撃する模様です!」


 ちょろいな。

 こんな策に引っ掛かるとは。


 小出しに来るとめんどくさいんだよ。

 小出しでも負けたりはしないが、簡単に済ませたい。


Side:守備隊長


 この勇者、見た目は詐欺師。

 何年も剣を握っている者の手は判る。

 こんなきれいな手をした兵士など、この要塞にはひとりもいない。


 これが勇者だとしたら、冒涜だ。

 だが、腕に覚えのある兵士が誰も勝てない。


 聖剣には勝てんということか。

 神が授けた剣に勝てるとうぬぼれていたわけではないが、これはあんまりだ。


 どうやっても最初の一撃は勇者からの攻撃になる。

 しかも防御できない。

 精神操作系の魔法に掛かったみたいだ。


 今でも納得がいかない。

 そういう聖剣なんだろうなとは思うが、反則だろう。


 敵もこの勇者にやられたら、詐欺だと喚くに違いない。

 勇者にも色々なタイプがいるってことだな。

 兵士にも色々なタイプがいるのと同じで。


 だが、納得できるかぁ。

 ちくしょう。

 今までの努力と訓練を否定された気分だ。


 認めたくはない。

 だが、あっさり勝ってしまうのだろうな。

 そんな予感がする。


 昔、教官が言ってた。

 怖いのは素人だ。

 殺気のない子供に背中からぐさっとやられて死んだ歴戦の猛者がいた。

 対処不可能ってのが怖い。


 この勇者はまさにそれだ。

 さっきの試合など、対処不可能って言葉しか出て来ない。


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