第29話 花粉症薬・チート
Side:タイセイ
勇者神に日本で買った牛丼とカップ麺と、コンビニスイーツ、ハンバーカーショップの食べ物などを奉げた。
サービスしたんだから、幸運をもたらしてくれ。
夕方の日本の街角。
今は花粉症の季節。
異世界でスキルで買ったあの花粉症の薬を売ることにした。
花粉症ゴーグルをしている人に声を掛ける。
「あなた、花粉症ですよね。そこで相談です」
「セールスお断り」
「まあまあ、聞いて下さい。私は帰りたい場所があるんですよ。帰るのにはお金が必要なんです。騙されたと思って、この薬を一粒1万円で買いませんか。人助けだと思って」
転移を繰り返すには異世界で桃を買う必要がある。
花粉症の季節に桃は通常は売ってないが、そこはスキルだから年中売っているみたいだ。
だから、スマイル100円さえ手に入れば。
スマイル100円をスキルではなくて、実際のお金で買った商品で貰う方が効率が良い。
そのためには日本で稼がないと。
「しつこいよ。警察を呼ぶぞ」
「すいませんでした」
1人目で上手く行くとは思わない。
「買っても良いですよ。手に持っているその薬は私がいつも飲んでる薬です。パッケージを見る限り偽物だとは思えない」
「一粒1万円なのに、良いんですか?」
「学生の頃ね。親父が倒れて、帰る金がなかった。居酒屋で連絡を受け取ったんだけど、知らない人が隣で話を聞いててね。なんと新幹線代を立て替えてくれたんだよ。俺もそういう人になりたいと思ったさ」
「ありがとうございます。きっとあなたに幸運が訪れると思います」
良い人だ。
30人ほど声を掛けてやっとだよ。
だが、あの薬を飲めば、一瞬で治る。
恩に報いることはできたはずだ。
さあ、頑張ろう。
1時間ほどしたが、さっぱり売れない。
だよね。
怪しいのは俺も知っている。
団体が凄い形相で走って来るのが見えた。
先頭はあの買ってくれた人だ。
やべっ、健康被害でも出たか。
それにしては警察がいない。
捕まったら、隙を突いて桃を食って逃げよう。
「はぁはぁ、まだいた。良かったぁ! あの薬を全部買う!」
「えっ?! 良いの?」
「あの後に占い師に呼び止められてね。その薬は神の薬だよと言われた。目を離したら占い師は消えててね。薬を飲んだら、花粉症が治った。君は何なんだい?」
「言えません」
「そうか。だいたい分かったよ。みんな、これで花粉症とはおさらばだ!」
誤解されたが、まあ良いか。
来た集団は、薬を飲んで、ゴーグルやマスクを外した。
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スマイル100円、頂きました。
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日本人からも入るんだな。
花粉症の薬を完売して、スキルでなく日本円で28万円の儲け。
警察にばれるまで、花粉症の薬で荒稼ぎするぞ。
占い師は先代勇者が助けてくれたのかな。
そうだと思いたい。
花粉症薬を補充しに、お土産をたくさん買って異世界に戻る。
街で、ただで配ったお土産のコンビニスイーツの威力は凄かった。
スマイル100円が大量に瞬く間に入った。
さあ、薬をたくさん売ろう。
Side:花粉症のサラリーマン
毎年のこの季節が憂鬱だ。
薬を飲んでも、鼻水と目のかゆみが止まらない。
夜、鼻づまりで、ぐっすり眠れない。
強い薬は体に合わない。
仕方ないので、体に合う市販薬を飲んでいる。
ある日、街角で、呼び止められた。
花粉症の薬が一粒1万円。
行きたい場所に行くために金がいるらしい。
俺の父親が倒れた時のことを思いだした。
俺もひとつぐらい親切をしてみるか。
酒を少し飲んでて、いい気分だったし、良いかと思った。
「待ちな!」
そして、占い師に呼び止められた。
「占いなら要らない」
「その薬は神の薬だよ」
えっ、ティシュに包んでポケットに入れておいた薬を見てみた。
占い師に、詳しく聞こうと思ったら、占い師が消えている。
酔いが回ったか。
でも、何だか信じていいような気もした。
持ってたミネラルウォーターで薬を飲む。
目のかゆみが止まった。
ゴーグルを外すが、たしかに痒くない。
奇跡だな。
会社の花粉症の同僚にメール。
20人近く集まった。
あの薬を売ってた青年がいることを祈る。
走ってあの場所にいったらまだいた。
みんなで薬を飲む。
「症状が軽いからかもだけど、治った気がする」
「私は重いので、実感してる。確かに治ってる」
「明日の朝が楽しみ。試しに今夜は薬を飲まない」
喜びの声と効果が分かるのは明日という意見が半々だ。
ふと見ると、あの青年が消えてるのに気づいた。
神様だったのかな。
どういう意図なのか分からないけど、俺は幸運を掴んだってことだ。
親切にするのも良いもんだ。
これほどの見返りが毎回あるとは期待しないが、小さな親切はこれからも心がけよう。
誰かに話を聞いて欲しくて、帰って寝てた妻と子供達を起こして聞かせた。
「神様に会えたの。びっくりね」
「お父さん、SNSで自慢して良い」
「おう、構わないだろう。親切が増えればきっと神様も喜ぶ」
数時間後、娘が興奮した様子でもう寝てる時間なのに、俺にスマホを突き出した。
「これ見て」
娘のこの話は結構反響があった。
それどころかその場所に行ったら俺も買えたよとの書き込みも。
神様の旅費って高いんだな。
「もう、寝なさい」
天界に帰るのかな。
少し、そんなことを思った。
朝になり、朝食。
「見て! 見て!」
娘のはしゃぐ声。
花粉症薬の神様がトレンド入りしたらしい。
「大事件だな」
娘のSNSの買って治ったとの書き込み数が凄い。
そして、数日後に書き込みは落ち着いた。
書き込みはほとんどなくなった。
旅費が貯まったのだろう。
俺は神様の旅の幸運を祈った。




