違和感【みっふぃ視点】
セーフティゾーンの隅にある噴水のそばで、みっふぃは座っていた。
足元では、小さな光の粒子がゆっくりと弾けている。
イベント報酬でもらったエフェクトらしいけど、正直どうでもよかった。
「……ユキ、まだかなぁ」
時計を見る。
約束の時間は、とっくに過ぎている。
最近、こういうことが増えた。
遅刻とか、ドタキャンとかじゃない。
ちゃんと来る。
でも、いつも“誰かと一緒”で来る。
今日もそうだった。
遠くから歩いてくる三人の影。
ユキと、agjtmと、ナカジマ。
……また、この並びだ。
(最近、ずっとこれだなぁ)
三人でいるのは前からだけど、今はちょっと違う。
距離が、変だ。
ユキとagjtmが近い。
ナカジマは、少し離れている。
それが、妙に固定されている。
「みっふぃー」
ユキが手を振る。
笑顔。
いつもと同じはずの顔。
でも。
なぜか、胸がざわついた。
「おつかれー。遅かったね?」
「ごめん。ちょっと話してて」
そう言いながら、ユキは自然にagjtmの横に座る。
ぴったり。
ほとんど隙間がない。
(……近……)
いや、前から近い時もあった。
でも、今は。
“当たり前みたいに近い”。
「今日さ、イベントどうする?」
agjtmが聞く。
「んー……後ででいいかな」
ユキの声は柔らかい。
前より、ずっと。
みっふぃは、二人を横目で見ながら、水を飲んだ。
(……なんだろ)
(なんか……違う)
昔のユキは、もっとこう。
距離があった。
近づくと、一歩引くタイプだった。
無口で。
無表情で。
あんまり感情を表に出さなくて。
“男の人だなぁ”って感じだった。
今は。
違う。
表情が、よく動く。
声が、やわらかい。
視線が、近い。
仕草も、どこか。
……丸くなった。
(あれ?)
(私、なに考えてるんだろ)
みっふぃは、内心で首をかしげる。
変なことを思ってる自覚はある。
でも。
どうしても、引っかかる。
(最近のユキ……)
(前より、“男”って感じしなくなってきた気がする)
言葉にすると、失礼すぎる。
だから、心の中だけ。
(今は……)
(なんか……)
(私たちのほうに、近い……)
そんな気がした。
「みっふぃ?」
ナカジマが、声をかけてくる。
「え?あ、なに?」
「さっきから、ぼーっとしてる」
「あ、うん。ちょっとね」
誤魔化して笑う。
ナカジマの顔は、相変わらず優しい。
でも、その目は。
少し疲れている。
(……ナカジマも、元気ないなぁ)
三人とも。
どこか、前と違う。
楽しいはずなのに。
一緒にいるはずなのに。
空気が、重い。
「ねえ、ユキ」
みっふぃは、思わず聞いた。
「最近さ、忙しい?」
「ん?まあ……ちょっと」
曖昧な返事。
目を合わせない。
(……やっぱり)
何かある。
でも、踏み込めない。
踏み込んだら、壊れそうで。
「……そっか」
それ以上、聞けなかった。
そのあとも、四人で少し話した。
イベントのこと。
装備のこと。
くだらない雑談。
笑っていた。
たぶん、普通に見えた。
でも。
みっふぃには分かってしまった。
これは、前と同じ“普通”じゃない。
ユキは、ときどき。
ふとした瞬間に、後ろを見る。
ナカジマのほうを。
確かめるみたいに。
そして、すぐ戻る。
何事もなかった顔で。
(……なに、それ……)
胸が、ちくっと痛む。
理由は分からない。
ただ、嫌な予感だけがあった。
帰り道。
一人になってから。
みっふぃは、空を見上げた。
データで作られた、綺麗すぎる夜空。
(……私……)
(気づいちゃったのかな……)
(気づかないほうが……)
(楽だったのに……)
最近のユキは、優しい。
近い。
柔らかい。
でも、そのぶん。
どこか、遠い。
輪郭が、ぼやけてきているみたいで。
掴めない。
「……大丈夫かな」
誰にともなく、呟いた。
答えは、返ってこなかった。
噴水の音だけが、静かに響いていた。




