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カーテン

夜になると、ユキは必ずカーテンを閉める。

右から。左から。中央を指でなぞるように、隙間がないか確かめて。

少しでも開いていれば、やり直す。

それはもう、癖だった。

誰に言われたわけでもない。

誰かに覗かれたわけでもない。

――それでも、閉めずにはいられない。


(ほんと、馬鹿みたい)


そう思いながら、やめられない。

この行為そのものが、

もう誰かに支配されている証拠みたいで、少し怖かった。


それなのに。

その夜、ユキは、最後まで閉めなかった。

ほんの指一本分。

気にしなければ、見逃してしまうほどの隙間。


「……ま、いっか」


独り言みたいに呟いて、ベッドに腰を下ろす。

怖いなら、閉め直せばいい。

今からでもできる。分かっている。

でも、しない。


(どうせ、いるし)


窓の向こう。

ナカジマの気配がする。

見ているのか、見ていないのか、分からない。

……でも、分かっている。

ユキはスマホを眺めながら、わざと足を組み替えた。

ゆっくりと、自然なふりをして。

太ももに布が張りつく。

少しだけ、ラインが浮かぶ。


(見てるよね)


胸の奥が、じんわり熱を帯びる。

怖くない。嫌でもない。

むしろ――。


(……気持ち悪)


生理的な嫌悪感がさっきから止まらない。

そう思いながらも、やめない。

背もたれにもたれ、首を傾ける。

喉元が、わずかに露わになる。

ただ楽な姿勢をとった、はずなのに。

今、自分が、窓の向こうにいる男にどう映ってるのか気になってしまう。


(私…最低)


でも。


(嫌なら、見なきゃいいじゃん)

(勝手に見てるだけでしょ)


そんな言い訳が、頭の中に浮かぶ。

少しだけ、楽になる。

ナカジマは、外で立ち尽くしていた。

カーテンの隙間。

微かな光。

――開いている。

ありえない。

いつもなら、絶対に閉まっている。

偶然か。

それとも。

考える前に、目が吸い寄せられた。

見てはいけない。

分かっている。

でも、見てしまう。

ベッドの上のユキ。

足を組み替える仕草。

無防備な横顔。

ただ、それだけ。

なのに。

胸が詰まる。

息が浅くなる。

嬉しい。

苦しい。

怖い。

興奮する。

全部、混ざる。


(……なんで……)


そのとき。

ユキが、ちらりと隙間の方を見る。

ほんの一瞬。

視線が、重なった。

……気がした。

心臓が跳ねる。

ばれた?

違う。

たまたま?

分からない。

でも。

次の瞬間。

ユキは、ふっと微笑んだ。

誰に向けたわけでもない。

独り言みたいな、小さな笑み。

それで、全部終わった。


(あ…)


分かってる。

全部。

見られてることも。

苦しんでることも。

依存してることも。

分かってて、やってる。

ユキは、視線を逸らしながら思う。


(ほんと、クズ)


でも。

ナカジマの息が乱れる気配が、心地いい。

惨めで。

情けなくて。

必死で。

――最高に、気持ち悪くて。

――最高に、気持ちいい。


(やめられない)


ゆっくりと足を戻す。

何事もなかったみたいに。

カーテンの隙間も、そのままに。

その夜。

二人とも、ほとんど眠れなかった。

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