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待つ、じゃない

Laylaは、自分が「重たい人間」だと知っていた。

昔からそうだった。

誰かと仲良くなると、その人のことしか考えられなくなる。

連絡が来ないと不安になる。

返事が遅いと、胸が苦しくなる。

少し距離を感じただけで、頭が真っ白になる。

それでも、これまでは誤魔化して生きてきた。

嫌われるくらいなら、自分が我慢すればいい。

重さを見せなければ、離れていかない。

――でも。

ここは誤魔化せない世界だった。

異世界に転移してから、Laylaの世界は「ユキ」を中心に回り始めた。

ユキは優しかった。

話を遮らない。否定しない。

短くても返事をくれる。

夜中に泣きそうになって送った個チャにも、「大丈夫?」と返してくれた。

たったそれだけで、Laylaは救われた。

(……ユキくんだけ)

自分をちゃんと見てくれるのは。

そう思い始めたのは、自然だった。

でも、その“自然”が危険だということも、Laylaは知っていた。

だから口にしないようにしていた。

胸の内に隠して、良い子のふりをした。

それなのに、世界が揺れる。

広場の端で、Laylaはユキを見ていた。

モユルと並んでいる。

距離が近い。

視線が合う。

短く笑い合う。

胸の奥が、きゅっと縮む。

(……また)

最近ずっとこうだ。

ユキは誰かと一緒にいる。

みっふぃと笑っている。

アル中と話している。

ナカジマとも普通に言葉を交わしている。

自分の居場所が、どこにもない。

(……私の方が、分かってるのに)

ユキがどれだけ優しいか。

どれだけ無理してるか。

どれだけ“嫌なもの”を飲み込んでるか。

みんなは知らない。

私だけが見てる。

私だけが分かってる。

――だから、本当は。

私が一番近くにいるべきなのに。

Laylaは無意識にスマホを探す仕草をして、はっとした。

もう現実じゃない。逃げ場はない。

個チャを開く。

最後のやり取りは、昨日の夜。

《Layla:今日はありがと……》

《ユキ:うん。無理しないでね》

それだけ。

それだけなのに、何度も読み返してしまう。

(……忙しいのかな……)

自分に言い聞かせる。

ユキは優しい。だから誰にでも優しい。

特別じゃない。期待しちゃダメ。

分かっている。

分かっているはずなのに。

視界の端で、みっふぃがユキの腕に軽く触れた。

冗談めかして笑う。

ユキも、逃げるように笑う。

Laylaの呼吸が一瞬止まった。

(……触らないで)

思考が黒く染まる。

なんで。

なんでみんなユキに触れるの。

なんで私は遠くから見てるだけなの。

私の方がずっと前から――。

その夜。Laylaは眠れなかった。

安全エリアの簡易ベッドに横になっても、目を閉じるとユキの姿が浮かぶ。

モユルと並ぶ姿。

みっふぃと笑う姿。

頭を振っても消えない。

(……私だけ……置いていかれる)

震える指で個チャを開く。

送るかどうか、長い時間迷った。

迷って、迷って。

それでも送った。

《Layla:ユキくん……起きてる?》

既読はつかない。

数分後。

《Layla:……最近、私のこと嫌いになった?》

送った瞬間、後悔する。

(やば……重い……)

消したくなる。でも、もう遅い。

返事は来ない。

十分。二十分。三十分。

時間が経つほど、不安は膨らむ。

(……やっぱり)

頭の中で最悪の想像が始まる。

モユルと仲良くしてる。

みっふぃと付き合ってる。

私は邪魔。

胸が苦しい。

息が浅くなる。

指が止まらない。

《Layla:ごめん……変なこと言って……》

《Layla:でも……私……ユキくんいないと……》

《Layla:もう……私なんていなくてもいいよね……》

その瞬間。

《ユキ:ごめん、今見た》

画面が光った。

Laylaの心臓が跳ねる。

《ユキ:どうしたの? 何かあった?》

優しい。

いつも通りだ。

それが、逆に怖い。

(……私だけ、必死)

《Layla:何でもない……》

《Layla:ただ……最近、遠い気がして……》

少し遅れて返事。

《ユキ:そんなことないよ》

《ユキ:ちゃんと話せてるし》

“ちゃんと”が何を指すのか分からない。

安心していいのか、不安になるべきなのか。

分からない。

分からないから、踏み込むしかない。

《Layla:……私って、ユキくんにとって特別?》

送った瞬間、全身が冷たくなった。

言ってしまった。

絶対に聞いちゃいけない質問。

既読がつく。

数秒。

十秒。

二十秒。

長すぎる。

《ユキ:……大事な仲間だよ》

その言葉は正解で、同時に最悪だった。

仲間。

仲間。

仲間。

(……違う)

Laylaの中で、何かが音もなく折れた。

仲間じゃない。

私はもっと――。

視界が滲む。

《Layla:……そっか》

《Layla:ごめんね》

そのまま、Laylaは天井を見つめた。

涙が止まらない。

(……取られる)

誰かに。全部。

私の居場所。私の安心。私の希望。

――だから。

次の日。Laylaは全チャに書き込んだ。

《Layla:……もう無理……》

《Layla:ユキくん、ごめんね……》

《Layla:私、生きてる意味ないかも……》

広場がざわつく。

「え、どうした?」

「Layla病んでね?」

「ユキ関係?」

視線が一斉にユキへ向く。

ユキは固まる。

アル中は頭を抱える。

みっふぃは眉をひそめる。

モユルの目が冷たく光る。

そして、少し離れた場所でナカジマが――静かに、それを見ていた。

口元も、眉も、何ひとつ動かさない。

ただ、視線だけが“よくないもの”を見ている。

Laylaはその反応を見て、胸の奥に歪んだ安堵が広がった。

(……見て)

(……私を)

やっと。

やっと気づいてくれた。

この瞬間、Laylaは理解した。

自分の居場所は、ユキの隣じゃない。

ユキの“心臓の中”に、無理やり入り込むことだ。

その代償がどれほど大きいかも知らずに。

静かに、最悪の夜は始まった。

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