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28.戦い、勝ち取ったもの

 私は恵まれているのだな、と最近思うようになった。


 あんなことは起きたけれど、上司は理解があり、なぜか庇護対象にすらなっている。

 なんせ王太子夫妻の後ろ盾有りな状況だ。お陰様で私の日常はガッツリと守られている。


 そして、加害者の父である宰相閣下の理解。そこからの加害者の末路。

 これに喜ばない被害者はいないだろう。多少ドン引きしたとしても。

 そしてその後も何かと気遣ってくださるので、宰相閣下が素敵過ぎて困る。そして、ある意味後ろ盾その2だ。


 両親の理解もあり、この年になっても働くことを許してくれていて、今の所、縁談や何だと騒ぐこともない。


 プライベートではヒルダ様というこれまた素敵な方との出会い。辛い過去との向き合い方を教えてくれて、悩みも聞いてくださる。

 いつか恩返しを、と思いつつも未だできることはなく、お酒を御奉納する日々だ。


 それからノア先輩。たぶん、バレているんじゃないかなと思いつつも、欠片もそんな話はしない。ラザフォード家のラの字もない。

 ただ、いつも穏やかに私の側にいてくれる不思議な人。

 あまりにも心地良いからワガママになってしまうのかしら?


「恵まれてる人はそもそも事件に巻き込まれないわ」


 フリーダ様に一刀両断された。


「それはあなたの努力が引き寄せたものでしょう。いつから運命論者になったの?

 私、運命とか必然とか嫌いなのだけど」

「……申し訳ございません」


 まさかの叱責だ。確かに私も運命とかは信じないけれど。


「私達の喜びも悲しみも努力も、すべてが定められたこと? ふざけるなって感じよね。そのくせ運命は変えられるとか言うでしょう。それならそんなものはそもそも定まってなどいないのよ。

 あなたの今は、全て自分で戦って勝ち取ったものよ。

 逃げるのではなく、守られるのでもない。

 シャノンは自分の力で戦える人よ。だから私はあなたが好きなの。そんなあなたを侮らないでくれる?」


 ……何と嬉しい言葉だろう……


 私は戦えていたのか。妃殿下に認められるほどに?


「なぁに? 涙目になって可愛いわね」

「……だって、こんなの嬉し過ぎます…!」


 今までの日々が報われた気がする。傷付き逃げ回ったのではなく、戦い続け勝利したのだと、そう言われた気がした。


「セルヴィッジのことが気になるのは、心に余裕が出てきたからでしょう。果たして自分は身代わりなのかどうか。それが、あなたにとっての一番の傷だから」


 そうね。ラザフォード伯爵と話していて気が付いた。

 あの時、私を一番に傷付けたのは、体の傷ではなく、身代わりに犯されたという事実だ。

 そして、その後の婚約者問題。あれも私はあの夜の女の身代わりにされた気がした。


 だから伯爵との未来はなかった。だって彼は私にトレイシー様を重ねていた。そして、彼の中の一番は妹君への贖罪だったから。


 それなら、ノア先輩は?


 同じ私を助けてくれた人で、私の事情に理解のある人。

 先を考えた時、一番に問題になることはクリアできている。

 だから気になるのだ。トレイシー様のことが。


「でも、伯爵のお母様は意味不明ね。そんな方が御母堂では、伯爵の妻は見付け難いかもしれないわ」


 セイディ様か。少しお話ししただけだけど、明るくて飾っていなくて、良い方だと思えた。でも……


「猫の親子の話を聞いていて、ふと思ったのです。セイディ様も同じなのかなって」

「セルヴィッジの猫?」

「というより、動物の本能の話です。より良い血を残すため、そして生存率を上げるため、強い子どもから大切に育てるそうです」

「……だから弱い妹は捨てられたと?」

「愛はあったと思います。でも、一番大切で守るべきなのはユージーン様だったのかなと」


 だからトレイシー様は事件にあったときに守られなかったのかもしれない。それよりも先に、家と、家を継ぐユージーン様の世間体を守るために動く方が大切だったから。


「……勝手な憶測です。トレイシー様がいない今、何を言っても答えなんて出ませんから」

「出るでしょう? すべてを聞いてきた男がいるじゃない」


 ……ノア先輩か。でも、ヒルダ様にも相談しなかったことを誰かに話すとは思えないし。


「気になるなら聞いてあげたら? 笑顔の裏に何が隠れているかは分からないものよ。知っているでしょう?」

「……ですが、ただの友人としては踏み込み過ぎかと」


 気になれば何でも聞いていいわけではないわ。立場を弁えることは大切だもの。


「ねえ。あなたが今、望むものは何?」


 ……妃殿下の問いはとても力があると思う。


 私が望むこと。


 ノア先輩のことが知りたい。

 トレイシー様のことが知りたい。


 私は───


「幸せになりたい……」

「そう。それならば頑張りなさい。黙って立ち止まっていては、今以上のものは得られないわよ」


 本当にフリーダ様は格好いい。

 いつか、こんなにも強く美しい女性になれるだろうか。


「ありがとうございます。頑張ってみます」

「あら、いい顔。今のあなた、とても綺麗よ?」

「妃殿下のおかげですよ」

「フリーダよ!」

「はい。フリーダ様」


 フリーダ様。やっぱり私は恵まれていると思いますよ。



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